【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎

亜沙美多郎

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〜2学期編〜

新しい一歩を……

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自分の気持ちには気付けたものの、都華咲に伝える勇気は早々には出ませんでした。

12月に入ると、テレビの収録は落ち着いたようで、都華咲もまた普段通りに登校するようになりました。

2人きりになるのが気不味くて……B組に逃げたい……なんて思うのですが、相変わらず天翔君が磨理王のところに通っていて近付けません。

遼ちゃんや紫音君と話していると、教室の端に連れて行かれますし……。ここ、逃げ場がないんですよね。かと言って人目はあるので込み入った話は出来ませんし……。


なるべく、当たり障りのない会話に努めるしかありませんでした。


「椿、なんか体調でも悪い?」

「え?何でです?」

「顔色、良くねーぞ?医務室行くか?」

「やっ!大丈夫です!昨日、キリのいい所まで予習していたら遅くなってしまって……寝不足なだけですよ」

「そ?なら良いけど、無理せず言えよ?」

「ありがとうございます……」

普通に接するのがこんなにも難しいなんて……。

視線を校庭に向けると、2年生が集まってきました。どうやら次は体育のようです。

「あっ!ハルさん!!」
窓を開けて呼んでみると、直ぐに気付いてくれました。

「つーばーきー!!」
あまりに大きな声で叫んだので、周りの友達がビックリしていますよ!すかさずカイト先輩から注意されました。

ハルさん、今日も元気ですねぇ……。

僕も、あんな風に笑ってみたいな。思えばここ最近は悩んでばかりで、心の底から笑ってないように思います。



「椿、今日も放課後図書室行く?」

「はい。行こうと思ってます。課題ですか?」

「そうなんだよ!流石にほぼ1ヶ月休んだから量がヤバくて!!分かんないところ教えて?」

「勿論ですよ。じゃあ磨理王達にも言っておきます。多分、天翔君も行くって言いますよね?」

「どうせ磨理王んとこに居るっしょ?天翔は」

磨理王にメッセージを送ると、やはり天翔君も来ると返事がきました。


「都華咲?あの……今日の夜なんですけど……2人きりで話がしたいです」

「ん?勿論良いぜ?俺の部屋来る?」

「はい……」

「へへっ!久しぶり過ぎて直ぐ襲っちまいそー!」

「もう!誰かに聞かれたらどうするんですか!!」

「ごめんって!!小さい声だったから大丈夫だって!」

相変わらずですね。そこが良いところなんですけど。前は、こんな事を言ってくるのも恥ずかしながら嬉しかったんですよね。

好きな気持ちが無いだけで、こんなにも言葉に熱を感じないものなんですね。


今は、都華咲と一緒に居るのが心苦しいです。

都華咲にも失礼ですし……。今夜、頑張って伝えないと!!


予鈴が鳴り席に着くと、来夢君にメッセージを送りました。

『今夜、都華咲と話します』

『そっか。分かった。後悔しないくらい話し合ってこい』



来夢君とのキスから5日程経っていました。

あれ以来キスはしていませんし、今まで通りに接してくれています。

きっと、僕がハッキリと行動するまで来夢君からは何もしないと思います。だから、頑張らないと!!ちゃんと、都華咲に言わないと!分かってもらえるまで……。




放課後は僕と都華咲、来夢君と磨理王、天翔君の5人で図書室へ行きました。

来夢君、磨理王、天翔君が同じテーブルに座っています。僕は都華咲と2人きり。どうしようかと思っていましたが、流石の都華咲も真剣に課題と向き合っていました。

その横顔は、いまでもとてもカッコいいです。赤茶色の髪も、切長の吊り目に意外と長いまつ毛。自然と上がっている口角。夕日に照らされて、キラキラと輝いてます。

僕の大好きだった人。

僕をずっと守ってくれていた人。

本当に、好きでした。憧れでした。生き甲斐でした。


その時、涙が一筋。頬を伝いました。

「あれ?僕……」

思わず呟くと、都華咲が顔を上げます。
「椿?どうした?」

「あっ!あの!僕、やっぱり寮に帰ります!夕食の時間まで寝ますね!寝不足で欠伸が止まらなくて!!」

「椿?」
「都華咲、すみません。分からないところは来夢君と磨理王に聞いてください!」
話しかける都華咲を振り解くように、図書室を出ました。


このまま一緒に居ると、折角決めた心が、また揺らいでしまいそうです。

自分の気持ちと向き合うべく、自室まで急ぎました。


カバンを投げ捨てるように片付けると、ベッドに潜り思い切り泣きました。都華咲の前では泣きたくありません。

強くなる。僕は強くなって、都華咲の手から飛び立たなければいけません。もう、甘えちゃいけないんです。



夕食はとても食欲なんて出ず、殆ど残してしまいました。


「……都華咲、行きましょう」

「おう。椿、本当に大丈夫なの?体調悪いんじゃね?」

「だい……じょうぶですよ」

これが、最後になるかもしれない。1125号室。
ここで僕達は始まりました。そしてここで……。



「ねぇ、何で離れて座ってんの?こっち来いよ」

「…………あの……僕、都華咲に話さないといけなくて……」

「……良い話?悪い話?」

「………」

「悪い話……なら、聞きたくねえ」

「っ!!」

「なんてな……嘘だよ。ちゃんと聞くから」

もしかして、都華咲……気付いてます?

「僕……僕は、やっぱりこれ以上都華咲とは居られません。恋人じゃ……いられません……」

「………そっか……」

「気付いて……いましたか?」

「ん、なんとなく。悪い。気付かない振りしてて……椿を離したくなくて……」

「いえ!僕が、誤魔化していたから……ごめんなさい」

「なんで椿が謝んの?謝んのは俺だろ?
……ゴメンな。幸せにしてやれなくて」

「都華咲……」
あれだけ泣いたのに……都華咲の前で泣かないように……。

「最後まで、泣かせてばっかだったな。俺……」


首を横に振ると、都華咲がソッと手を添えました。

「その涙を止めてやれるのは、俺じゃねえんだよな……」

最後に、優しくしないで下さい……。もっと怒っていいですよ。こんなに自分本位な僕を。もっと怒鳴りつけて下さいよ。

「俺、この悔しさをバネにもっと頑張るから!今チャンスもらってるし、絶対チャンスを掴んでみせる!見ててよ?友達として……」


「ともだち……?良いんですか?」

「何が?」

「友達で、居てくれるんですか?」

「そんな!完全切られたら俺の方が立ち直れねえよ!皆んなと過ごす時間も好きなんだ。だから、椿さえ良ければ友達として、またスタートしてくんね?」

「………はい!………はいっ……」

「はは!良かった!これで断られたら流石に立ち直れないところだったわ!」

友達に、なって良いんですね。
安心すると、また涙が溢れてきました。

「都華咲、大好きでした」

「ん、俺も。ありがとうな、椿」

「僕こそ、ありがとうございます。今の僕があるのは、全部都華咲のおかげです」

「そんな事ねえよ」そう言うと、涙を拭ってくれました。


それから、就寝時間ギリギリまでたわいも無い話をしました。思い出話や、これからの夢。最近の仕事の話。僕の涙が乾くまで、色んな話をしてくれました。



「じゃあ、そろそろ部屋戻る?俺はまだ未練タラタラだけどな」

「ふふ……その方が都華咲らしいです」

久しぶりに2人が自然に笑えた気がしました。


エレベーターに乗り込み、生徒会寮へ向かいます。

「じゃな、また明日」

「また、明日……」

エレベーターの扉が閉まる瞬間、崩れるようにしゃがみ込んだ都華咲が見えました。

あっ……と小さく声を出しましたが、もう戻ることは出来ません。


談話室に誰も居なくて良かったです。

重い足を引きずって、部屋に入りました。

自分から別れを告げる事がこんなにも苦しいなんて、知りませんでした。


折角止まった涙がまた溢れ出します。

来夢君は何も聞かず、両手を広げて迎え入れてくれました。


「椿、思い切り泣いていいから」

苦しいほど強く抱きしめられると、張り詰めていた糸が切れ、来夢君の腕の中でいつまでも泣き続けました。





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