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本編

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 光の神・輝惺きせい様は構わず続ける。

「闇の神よ! その者と交換しても良いであろう?」

 (闇の神だって!?)

 驚きすぎて全身の毛が逆立つ。なぜ、亜玖瑠あくる様なのか……。

 闇の神である亜玖瑠様は、一人だけ真っ黒な装いで『異質』という言葉がぴったりだ。

 他の神様はみんな堂々と立っているが、亜玖瑠様は明るい場所が苦手なのか、猫背気味に立っている。

 濃い灰色の髪を長く伸ばし、それで顔が全て見えないように隠している。

 そして腰に刺してあるのは真っ黒な剣だ。

 亜玖瑠様がこちらをチラリと見ると、声は出さずただ頷いて返事をした。

(僕、亜玖瑠様に仕えることになっちゃった!!)

 顔色を失って行くのが自分でも分かる。項垂れた尻尾で、全員に僕の気持ちはバレてしまっただろう。

 僕とは反対に、亜玖瑠様に仕えるはずだった月詠の表情はみるみる明るくなっていった。

 昨日は僕から月詠に「頑張るしかない」と言った。

 これはもう、受け入れるしかないのだ。

 月詠と交代すると、ほとんど何も喋らない亜玖瑠様と共に、闇の神の神殿へと移動する。

 長い参道から大神殿の大鳥居を出て、闇の神の神殿はここからずっと北に進んだ所に建っていた。

「……あの、なぜ輝惺様は僕と月詠を交換したいと申したのでしょう?」

 無言で移動する亜玖瑠様に声をかけてみた。

「………………」

 しかし亜玖瑠様は何も答えてはくれない。僕を少しも見ようともしない。

(うぅ……無反応、怖い……)

 これからの生活を考えただけで、項垂れた尻尾は地面を引きずっていく。仕方なく無言のままついて歩いた。

 辿り着いた闇の神の神殿は、全てが黒い建物であった。

(ひぇーーー!! 僕、こんな暗いところで一年間も過ごすの? やっていける自信ないよう)

「大祓詞を唱えた後、君の部屋へ案内する」

「ひゃいっ!!」

 突然喋った亜玖瑠様に驚きすぎて声が裏返ってしまった。

 亜玖瑠様の声は耳を澄まさないと聞こえないほど小さい。消えそうな声を聞き取るのはこれからも苦労しそうだ。

 そのまま真っ黒な神殿の中に入り、亜玖瑠様の後ろに座った。

 見た目も何もかも怖い印象だ。

 でも大祓詞を唱えている亜玖瑠様は、やっぱり銀狼七柱大神おおかみしちはしらたいしんα様だなぁって思い、見入ってしまった。

 広い背中に脂肪は付いていない。華奢ではあるが頼り甲斐はありそうだ。

 長い髪はサラサラで、さっきは怖いと思っていたが、こうして見ていると黒い装いに長い髪が良く映えて綺麗だと思った。

 冷静に亜玖瑠様の姿を見てみれば、さほど怖さは感じない。

 大祓詞を唱え終えると、亜玖瑠様は無言で立ち上がり歩き始めた。

 慌てて荷物を手に取り後を追う。

 広い敷地内を一言も交わさず部屋まで歩いた。

(ふぅ……でもやっぱり気まずいな……)

 何か喋った方が良いのろうか……、でもどんな話題なら話していいのかさえ分からない。

 結局、一言も交わすことなく神殿から生活を送る棟に向かい、部屋まで案内された。

「ありがとうございます……」

 亜玖瑠様はまたしても無言のまま立ち去った。

 唖然とした表情で見送る。

 怖くないかもしれないと思ったのは撤回する。やはりちょっと怖い。


 ……こんなハズじゃなかったのに……。本当ならば、今頃は輝惺きせい様の神殿で煌めく神界生活が幕を上げているはずだった。

(月詠、今頃楽しんでいるかな……)

 窓を開け、空気を入れ替える。ここの空気は少しひんやりとしている。

 涼しい所が好きな僕には適温だ。

 ここに来て良かったのは……そのくらいかもしれない……。

 部屋で一人、呆然と立ち尽くした……。

 
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