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第四章
45、動き出す
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翌日は朝食後、直ぐにブリューノが到着した。
「生憎の雨だね」
明け方から細雨が続いていた。出迎えたエリペールが「一日を通して降りそうだ」と挨拶を交わす。
昨日から泊まっていたパトリスも呼び、会議棟へと移動した。
「リリアン、使用人の一人も一切ここへ近付いてはならないと伝達を頼むよ」
「畏まりました、ゴーティエ様」
リリアンは全員分のハーブティーを出し終えると一礼をし、会議棟を後にする。
「では、早速だが、奴隷商のこの書類について話しても宜しいでしょうか」
早速ブリューノが切り出した。
ゴーティエとブランディーヌが頷き、全員が注目した。
「やはり、マリユス君は貴族奴隷相当額で売買されていました。とはいえ、オメガ相当とは言えません。奴隷商が出し渋ったのでしょう。働けないオメガが売れるとは到底思えないですからね。それで身元人については、やはり代理人がいたと考えるのが妥当だと判断させてもらいました。ブランディーヌ様、奴隷商から渡された書類はこの一枚だけですか?」
持ち帰った書類をブランディーヌに返しながら、ブリューノは訊ねる。
「えぇ、そうよ。この一枚だけだったわ」
「なるほど、やはりマリユス君を奴隷商に連れて行った際、貴族か……何処かの富豪かが同席していたのでしょう。もしも代理人だけで出向いていたなら、代理人の個人情報及び、貴族等の身内であると証明出来る書類が作られるそうですから」
ブリューノが、父であるクライン公爵に相談したところ、金額の交渉は貴族自身が行ったのではないか……との見解だった。
「最下級の奴隷商で、この金額は先ず無いそうです。相当粘っての売買だったはずです。奴隷商はマリユス君を買いたくない。しかし貴族はどうしても売りたくて、押し通したと考えられます」
クライン公爵からこの奴隷商に掛け合ってくれたが、当時の管理者は現在は在籍しておらず、確証は得られなかったことを付け加えた。
「その貴族なり富豪なりがイレーネさんではないのも、確定して良さそうだ」
ゴーティエが付け加えるように話すと、ブリューノは頷き「余程、金が必要だったのでしょうか……」と頭を傾げた。
そこで口を割ったのはパトリスだった。
「ブリューノ様、もう一つ不可解な謎が浮上しました。昨日バルテルシー街へ出向いた時、バルテルシー伯爵様にはマリユス君とは別に、本妻との間にも一人の男児を授かっていたようなのです」
「……子供?」
ブリューノは喫驚の色を見せた。
ゴーティエやクラインともなれど、余程懇意にしていない限り、詳しい情報は調べないことには知りようもない。
それにしても後継者が生まれていて、しかも幼き頃に亡くなったにも関わらず噂にもならなかったことに驚きを隠せない。
僕も黙って聞いていたが、自分自身がバルテルシー街を肌で感じたことを述べた。
「バルテルシー街の領民は、皆、バルテルシー伯爵様を信頼されている印象を受けました。後継者がいないことも心配しているほどに……子供が亡くなっても、伯爵様を気遣って話題にしないのではないでしょうか」
バルテルシー伯爵が領民から慕われていて、その結果、街があれだけ繁栄している。
伯爵が悲しむことは、本人や余所者の耳に入らないよう配慮しているのは店主の口振りからも見てとれた。
それだけ真摯に扱われている伯爵が、金目当てで僕を無理矢理売ったとはどうしても考えられない。
本人とは会えなかったが、もしも僕が本当にバルテルシーの子供であるなら、生まれてきて良かったのかと訊ねたい。
「やはり、バルテルシー伯爵に直接会いに行くしかないな。卓上の空論では真実には近づけない」
エリペールの一言で話はまとまった。
バルテルシー伯爵には近日中に会いに行くと伝達を送る。
こちからいきなり大勢で押しかけるわけにはいかないので、とりあえずゴーティエとエリペールだけで出向くことになった。
「パトリス先生、それでも構いませんか?」
エリペールが確認する。
失踪した姉の真意を一番知りたいのはパトリスだ。
「私が同席して、姉の状況によっては冷静ではいられないかも知れません。お二人に一任いたします」
立ち上がり、深々と頭を下げる。
その後、バルテルシー伯爵から最短で返事が届いた。
突然の公爵家からの通達に驚いた様子であるが、急ぎの用事だと理解してくれたらしい。早速二日後に時間を設けるとの旨が記されていた。
達筆で、几帳面さが伺える文面。この人に、隠された闇があるとは到底思えなかった。
「生憎の雨だね」
明け方から細雨が続いていた。出迎えたエリペールが「一日を通して降りそうだ」と挨拶を交わす。
昨日から泊まっていたパトリスも呼び、会議棟へと移動した。
「リリアン、使用人の一人も一切ここへ近付いてはならないと伝達を頼むよ」
「畏まりました、ゴーティエ様」
リリアンは全員分のハーブティーを出し終えると一礼をし、会議棟を後にする。
「では、早速だが、奴隷商のこの書類について話しても宜しいでしょうか」
早速ブリューノが切り出した。
ゴーティエとブランディーヌが頷き、全員が注目した。
「やはり、マリユス君は貴族奴隷相当額で売買されていました。とはいえ、オメガ相当とは言えません。奴隷商が出し渋ったのでしょう。働けないオメガが売れるとは到底思えないですからね。それで身元人については、やはり代理人がいたと考えるのが妥当だと判断させてもらいました。ブランディーヌ様、奴隷商から渡された書類はこの一枚だけですか?」
持ち帰った書類をブランディーヌに返しながら、ブリューノは訊ねる。
「えぇ、そうよ。この一枚だけだったわ」
「なるほど、やはりマリユス君を奴隷商に連れて行った際、貴族か……何処かの富豪かが同席していたのでしょう。もしも代理人だけで出向いていたなら、代理人の個人情報及び、貴族等の身内であると証明出来る書類が作られるそうですから」
ブリューノが、父であるクライン公爵に相談したところ、金額の交渉は貴族自身が行ったのではないか……との見解だった。
「最下級の奴隷商で、この金額は先ず無いそうです。相当粘っての売買だったはずです。奴隷商はマリユス君を買いたくない。しかし貴族はどうしても売りたくて、押し通したと考えられます」
クライン公爵からこの奴隷商に掛け合ってくれたが、当時の管理者は現在は在籍しておらず、確証は得られなかったことを付け加えた。
「その貴族なり富豪なりがイレーネさんではないのも、確定して良さそうだ」
ゴーティエが付け加えるように話すと、ブリューノは頷き「余程、金が必要だったのでしょうか……」と頭を傾げた。
そこで口を割ったのはパトリスだった。
「ブリューノ様、もう一つ不可解な謎が浮上しました。昨日バルテルシー街へ出向いた時、バルテルシー伯爵様にはマリユス君とは別に、本妻との間にも一人の男児を授かっていたようなのです」
「……子供?」
ブリューノは喫驚の色を見せた。
ゴーティエやクラインともなれど、余程懇意にしていない限り、詳しい情報は調べないことには知りようもない。
それにしても後継者が生まれていて、しかも幼き頃に亡くなったにも関わらず噂にもならなかったことに驚きを隠せない。
僕も黙って聞いていたが、自分自身がバルテルシー街を肌で感じたことを述べた。
「バルテルシー街の領民は、皆、バルテルシー伯爵様を信頼されている印象を受けました。後継者がいないことも心配しているほどに……子供が亡くなっても、伯爵様を気遣って話題にしないのではないでしょうか」
バルテルシー伯爵が領民から慕われていて、その結果、街があれだけ繁栄している。
伯爵が悲しむことは、本人や余所者の耳に入らないよう配慮しているのは店主の口振りからも見てとれた。
それだけ真摯に扱われている伯爵が、金目当てで僕を無理矢理売ったとはどうしても考えられない。
本人とは会えなかったが、もしも僕が本当にバルテルシーの子供であるなら、生まれてきて良かったのかと訊ねたい。
「やはり、バルテルシー伯爵に直接会いに行くしかないな。卓上の空論では真実には近づけない」
エリペールの一言で話はまとまった。
バルテルシー伯爵には近日中に会いに行くと伝達を送る。
こちからいきなり大勢で押しかけるわけにはいかないので、とりあえずゴーティエとエリペールだけで出向くことになった。
「パトリス先生、それでも構いませんか?」
エリペールが確認する。
失踪した姉の真意を一番知りたいのはパトリスだ。
「私が同席して、姉の状況によっては冷静ではいられないかも知れません。お二人に一任いたします」
立ち上がり、深々と頭を下げる。
その後、バルテルシー伯爵から最短で返事が届いた。
突然の公爵家からの通達に驚いた様子であるが、急ぎの用事だと理解してくれたらしい。早速二日後に時間を設けるとの旨が記されていた。
達筆で、几帳面さが伺える文面。この人に、隠された闇があるとは到底思えなかった。
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