【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。

亜沙美多郎

文字の大きさ
43 / 56

43

しおりを挟む
 オメガ専用病棟から外へ出ると、海星が一般病棟の前に立っているのが見えた。
 寒い中、伊央が出てきた時に直ぐに気付けるよう頃合いを見て出てきたのだろう。以前なら、海星の姿を見るだけで安堵していた伊央だが、今回はそうもいかなかった。

 何から話せばいいのか。
 先生に頼んで、直接、海星に説明してもらえないだろうか。

 ズルい考えが浮かんでしまう。

「伊央! 寒いから、そんな所で立ってないで」
「あ、うん……」
 海星が手を大きく振って伊央を呼ぶ。これで決心がつくような伊央ではないが、海星を寒い外で待たせてしまったのも申し訳なく、駆け寄った。

「ごめんね。先生との話が長引いちゃって」
「しっかり話ができたならいいじゃん。ごめんな。付き添ってあげられなくて」
「海星君は悪くないよ。それに、オメガ専門病棟にも慣れてきたし、先生も包み隠さず話してくれるから、何かと安心」

 海星は「そっか」とだけ返して伊央の背中を支え、帰ろうと促す。
 直ぐに話を聞きたいが、結構な時間を費やしていた。海星にとって良い知らせはないと、勘の鋭い海星なら感じているかもしれない。
 それでも結果を聞かないと言う選択肢など、海星の中には存在しない。一刻も早く、二人きりになれる場所を考えているだろう。

「あの……僕の家でもいい?」
「あぁ、良いよ。おやつでも買ってく?」
「ううん。やめておく」
 海星の家の方が若干近い。でも、少しでもリラックスできる場所じゃないければ話せないと思った。今までなら、自分の部屋よりも海星の部屋の方が居心地がいいと感じていたが、こうなってしまうと自分の部屋が恋しい。

 二人で一緒にいて沈黙は珍しい。映画を観ている時や、勉強をしている時など、集中している時間ならともかく、こうして並んで歩いているのに会話が弾まないのは、初めてかもしれない。
 初めて海星から話しかけられた時だって、もっと会話が弾んでいた。
 伊央の緊張が海星にも伝わっているのだろう。海星も目線を空に向け、伊央の顔を見ないようにしていた。

 どんよりと雲に覆われている空は、伊央の心を表しているようだ。
 太陽が隠れてしまい、北風がより冷たく感じる。
 これまでなら少しでも寒いと、海星が迷わず自分のほうに引き寄せていたが、今は気を遣っているのか、背中に添えた手を固定させている。

 帰宅までの道のりは、それぞれが自分なりに心構えをする時間となってしまった。

 とうとう一言も喋らず伊央の家に着いてしまう。
 両親は仕事でいなかった。
 自室へと入り、ベッドを背凭れにし、並んで座る。
 勢いで話し始めないと、どんどん話しにくくなってしまう。そうとは分かっていても、頭が混乱して言葉が出てこない。
 焦りは募るばかり。しかし喋ろうとするほど、泣きそうになってしまう。
 海星に申し訳なくて、胸が苦しい。

「待ってる間に、可能性を考えてたんだ」
 海星が静かに話し始めた。
 伊央は息を飲み、海星を見た。

「自分なりに、何で叶翔にまた伊央の匂いが届くようになったんだろうって、考えてた。俺でも感じなかった伊央の匂いを、何故か叶翔は発情期かと間違うほど濃く感じた」

 昨日の電話の内容を思い出しながら、伊央と知り合ってからのことを振り返っていたと海星は言う。

「———番えて、なかった? 俺たち」
 その顔があまりにも悲しそうで、堪えていた涙が伊央の頬を伝う。
 海星にとっては、それがYESと言っているも同然だった。
 悔しそうに眉根を寄せる海星のこんな表情を、伊央は初めて目の当たりにする。
 いつも冷静で、温厚で、機転が効いて、誰よりも伊央を支えてくれていた海星。
 その彼をこんな形で悲しませてしまうなんて、苦しくて悲しくて、自分が情けない。
 これまで誰よりも側にいてくれた海星に、刃物を突き立てたような気持ちになる。

 それでも、真実を告げなければならないのだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

そうだ課長、俺と結婚してください

藤吉めぐみ
BL
運命の番を信じるアルファ×運命なんか信じないアルファスペックのオメガ 社内、社外問わずモテるアルファの匡史は、一見遊んでいるように見えるが、運命の番を信じ、その相手に自分を見つけて欲しいという理由から、目立つように心がけ、色々な出会いの場にも顔を出している。 そんな匡史の働く職場に課長として赴任してきた池上。彼もアルファで、匡史よりもスペックが高いとすぐに噂になり、自分の存在が霞むことに不安を覚える匡史。 気に入らないという理由で池上に近づくが、なぜか池上から香りを感じて惹かれてしまい―― 運命の番を信じるアルファと運命なんか信じないアルファ嫌いのオメガのオフィスラブです。

「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます

grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】 オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。 以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。 しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。 予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。 すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。 彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。   ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。 夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…? 夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか? ※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います) ※3万8千字程度の短編です

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

処理中です...