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本編
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気合いだけは人一倍入ってるものの、やはり上品な接客は俺には向いてない。
今日もあちこちから冷ややかな視線が飛んできている。
「マヒロ、なるべく俺が喋るから」
「おぅ。頼んだ」
客の相手はジェイクに任せ、俺は今日も料理を運び、皿を下げる。これに集中するのみだ。
「すみません」などと声をかけてこられても、どこからともなくジェイクが飛んでくる。
「何かお困りですか?」なんて、あの笑顔で言われれば、大抵の女は目をハートにしてジェイクに食いつく。
その隙に俺は逃げる。
素晴らしい!! 素晴らしい連携プレイだ!!
これなら今日という日を難なく終わらせられる気がする!!
それに、リアム様は今日も参加するって言っていたが、そんな様子は僅かにも感じられない。
パーティーが始まって、そろそろダンスに移る頃だが……。
ホテルに着いた感じもしない。
王族の警護をしてるって言ってたから、急な仕事でも入ったのかもしれないな。
(ま、俺的にはそのほうが都合がいいんだけど……)
優雅な音楽が流れ始めると、女性客の何人かは『今日はリアム様はお見えにならない』と言いながら帰り始めていた。
あとの女は適当に声をかけられた騎士団員で手を打つなりしている。
「リアム様、今日は来ないみたいだね」
「そうだな……。キャンセルなんてされたことないんだけど……」
ジェイクは少し困惑している様子だった。
「何か都合の悪いことでもあるのか?」
「いや、リアム様は気前の良い方だから、パーティーの後、残り者の騎士団員にバーで奢ってあげたりしてるんだよ。それがあるのとないのでは売上が……」
「……ぷっ!」
ジェイクがこんな爽やかな顔で、損得勘定丸出しのセリフを言うのはギャップがあって面白い。
本人は至って気づいていないみたいだけど。
「何か変なこと言ったかな?」
「だって、ジェイクってたまに経営者みたいなこと言うよな」
「あっ……。ごめん、気をつけるよ」
「いや、俺は面白いからいいけどな。他の人には言わない方がいいぞ」
ジェイクの気恥ずかしそうな表情は珍しい。
こんなに何もかも完璧そうなやつでも、こういう一面を見せられると親近感が湧く。
「ねえ、マヒロ。少し踊らないかい?」
「はぁ? 俺、踊ったことなんてないよ!! それにこんな所で踊るのなんて恥ずかしすぎる」
「そんなの、慣れれば気にならなくなるよ」
ジェイクは俺の手を引いてホールの真ん中へと誘導していく。
「っていうか、俺たち従業員なのに踊ってる場合じゃないだろ?」
「ホールがスカスカなんて楽しくないじゃないか! そういう時は、従業員も一緒に踊って盛り上げるんだよ!」
「う、ぅわ~!!」
向かい合わせになり、ジェイクが俺の腰に手をやる。
「俺の肩に手を置いて」
「う……。本当に踊るのかよ」
ジェイクはニコニコして手を取った。
周りの騎士団員からも声援が飛ぶ。
「俺にもその子と一緒に踊らせろ」と言ってる人もいる。
こんな辿々しい足取りの俺と、なんで踊りたいなんて言うんだ。
「わっ! 転びそう!! ぅわっ!! うっ!」
足が絡まりそうになる度、悲鳴をあげる。そんな俺の様子が面白いのか、客たちも大笑いしていた。
「ほら、次の人と踊っておいで!」
突然ジェイクが隣の騎士団員に俺を手渡す。
「やったぜ! 君、名前は?」
「マ、マヒロ……といいます? あわわ!」
「マヒロ! 変わった名前だな。ほら右、左、右……ターンだ!」
必死すぎて音楽も聞こえないが、こうしてみんなと同じことをして過ごすのも、楽しいと思い始めた。
俺が全く踊れなくても、楽しそうに教えてくれる。
「名残惜しいが、次の人にバトンタッチだ!」
その騎士団員の手を離れ、次の騎士団員元へと渡る。
ターンをしながら目に入った。ジェイクの顔が強張った気がした。
「……やっと見つけた……」
ふわりと胸に抱き寄せられた。
「あれ……急に、息が……」
今日もあちこちから冷ややかな視線が飛んできている。
「マヒロ、なるべく俺が喋るから」
「おぅ。頼んだ」
客の相手はジェイクに任せ、俺は今日も料理を運び、皿を下げる。これに集中するのみだ。
「すみません」などと声をかけてこられても、どこからともなくジェイクが飛んでくる。
「何かお困りですか?」なんて、あの笑顔で言われれば、大抵の女は目をハートにしてジェイクに食いつく。
その隙に俺は逃げる。
素晴らしい!! 素晴らしい連携プレイだ!!
これなら今日という日を難なく終わらせられる気がする!!
それに、リアム様は今日も参加するって言っていたが、そんな様子は僅かにも感じられない。
パーティーが始まって、そろそろダンスに移る頃だが……。
ホテルに着いた感じもしない。
王族の警護をしてるって言ってたから、急な仕事でも入ったのかもしれないな。
(ま、俺的にはそのほうが都合がいいんだけど……)
優雅な音楽が流れ始めると、女性客の何人かは『今日はリアム様はお見えにならない』と言いながら帰り始めていた。
あとの女は適当に声をかけられた騎士団員で手を打つなりしている。
「リアム様、今日は来ないみたいだね」
「そうだな……。キャンセルなんてされたことないんだけど……」
ジェイクは少し困惑している様子だった。
「何か都合の悪いことでもあるのか?」
「いや、リアム様は気前の良い方だから、パーティーの後、残り者の騎士団員にバーで奢ってあげたりしてるんだよ。それがあるのとないのでは売上が……」
「……ぷっ!」
ジェイクがこんな爽やかな顔で、損得勘定丸出しのセリフを言うのはギャップがあって面白い。
本人は至って気づいていないみたいだけど。
「何か変なこと言ったかな?」
「だって、ジェイクってたまに経営者みたいなこと言うよな」
「あっ……。ごめん、気をつけるよ」
「いや、俺は面白いからいいけどな。他の人には言わない方がいいぞ」
ジェイクの気恥ずかしそうな表情は珍しい。
こんなに何もかも完璧そうなやつでも、こういう一面を見せられると親近感が湧く。
「ねえ、マヒロ。少し踊らないかい?」
「はぁ? 俺、踊ったことなんてないよ!! それにこんな所で踊るのなんて恥ずかしすぎる」
「そんなの、慣れれば気にならなくなるよ」
ジェイクは俺の手を引いてホールの真ん中へと誘導していく。
「っていうか、俺たち従業員なのに踊ってる場合じゃないだろ?」
「ホールがスカスカなんて楽しくないじゃないか! そういう時は、従業員も一緒に踊って盛り上げるんだよ!」
「う、ぅわ~!!」
向かい合わせになり、ジェイクが俺の腰に手をやる。
「俺の肩に手を置いて」
「う……。本当に踊るのかよ」
ジェイクはニコニコして手を取った。
周りの騎士団員からも声援が飛ぶ。
「俺にもその子と一緒に踊らせろ」と言ってる人もいる。
こんな辿々しい足取りの俺と、なんで踊りたいなんて言うんだ。
「わっ! 転びそう!! ぅわっ!! うっ!」
足が絡まりそうになる度、悲鳴をあげる。そんな俺の様子が面白いのか、客たちも大笑いしていた。
「ほら、次の人と踊っておいで!」
突然ジェイクが隣の騎士団員に俺を手渡す。
「やったぜ! 君、名前は?」
「マ、マヒロ……といいます? あわわ!」
「マヒロ! 変わった名前だな。ほら右、左、右……ターンだ!」
必死すぎて音楽も聞こえないが、こうしてみんなと同じことをして過ごすのも、楽しいと思い始めた。
俺が全く踊れなくても、楽しそうに教えてくれる。
「名残惜しいが、次の人にバトンタッチだ!」
その騎士団員の手を離れ、次の騎士団員元へと渡る。
ターンをしながら目に入った。ジェイクの顔が強張った気がした。
「……やっと見つけた……」
ふわりと胸に抱き寄せられた。
「あれ……急に、息が……」
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