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3章

44 死に戻りのクロル様

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 僕はギガス国王様の馬車に乗って、セリアン国にほど近いギガス国王城に向かいます。わりと早い馬車で僕は舌を噛みそうになり、ギガス国王様が膝に抱っこしてくれました。

「小人様、あなたは複数の考え方をしている。まるで複数の人間が小人様の中にいるようだ」

 僕は顔を上げてギガス国王様を見ました。

「僕はタークと言います。複数の……と言いますと?」

「ターク殿、ギガス王族にはサトリの能力がある。あなたは常に複数の選択肢を持ちより良い行動を冷静に行っているようだ」

 サトリ……人の心を読んだり見透かしたりする能力です。

「ターク殿がどのような過去を持ち、どのようであれ構わないが、その叡智で私を助けてはもらえないだろうか。私は今日殺される。もう四度も今日を繰り返しているのだ」

 ちょっ……ちょっと待ってください。

「ギガス国王様、何を言っていますか?」

 ギガス国王様はふ……と笑いました。笑うと五つの目が全て細くなるのですね。

「私はクロルだ。たしかにあなたが考えるように、武術に優れた者を連れて行けば良かっただろう。だが、もうそれは過去にやってきた。それでも私は死ぬ。そして記憶を全て持った赤子として死に戻る。私は今日を越えたいのだ」

 死に戻り……しかもリセットは誕生。ガルド神は何かを求めているのです。何をそんなにお怒りなんだろう。

「宿り木だろう」

 思考を読まれました。仕方ないのですが、サトリという能力は怖いですね。

「一度目は髭の小人を連れて城に戻った。見届け人が二人いたことはなかったのだ。今回こそ今日を越えていきたい」

 クロル様の話されるには、いつもセリアン国でガルド神への正しい羊皮紙がないため、ピィと二人で城に戻って来たところでクロル様は殺されのです。ピィを連れて戻らない時も同じでした。

 一度目はピィと一緒に戻り、二度目はセフェムを連れて戻り、三度目は誰も連れて行かない。四度目は王様とセフェムを連れて行ったのだそうです。

「基本は宿り木の前だ。見届け人はどうなったか……分からない」

 つまりは僕もどうなるか分からないのですね。

「お城に入りますね。最初に会うのは、誰ですか?」

 クロル様は頷かれました。

「母だ」

 お母様に殺されて……?どうでしょうか。それよりも僕、危険ではありませんか。今、気付きました。しかし、とりあえずピィが死ななくて良かったです。でも僕は死ぬわけにはいかないのですよ。王様に僕の双子の魔法陣の話をしていないのです。

 ギガスのお城は二段構え城でした。前面に二階建ての王城、後ろに中庭を挟んで王宮があります。王宮に妃の部屋があるとのことで、僕らのように後宮が離れているわけではないようです。

 文官さん達の馬車が停まり、僕とクロル様が乗る馬車が停まりました。一つ目の巨人さんも多いですね。武具を片付けているところでした。

「おお。王、早い帰城だが……小人をお連れか」

「将軍、父のところに行く」

 ラフミさん将軍になったんですね、ゴリアテさんが亡くなったので。

「ではわしも参るとするか」

 あれ?最初に会うのはお母様ではなかったですか?

 クロル様が歩みの遅い僕を抱き上げて頷かれました。

「改変している。ここでラフミ叔父と会うことは初めてだ」

 王城は終戦の空気が感じられます。王城から王宮へ行くと王の私室があり、前王様が横になっています。僕はクロル様から飛び降りて前王様を視診しました。一つ目は閉じられていて、呼吸もしていません。肉体的には死んでいるのです。病死のようでした。

「父は心の臓の病で死んだ」

「……宿り木に行きましょう」

 まだクロル様のお母様には会っていません。宿り木は王宮の中庭にありました。僕は中庭に入ろうとして、一瞬躊躇いました。なんでしょう。二回目の僕が警戒しています。

「中庭でなにを止まってお……」

「将軍、入ってはいけませんっ!」

 僕はラフミ将軍さんを止めました。中庭が妙に静かなのです。まるで地雷でも埋まっているかのようです。残念ながら僕は索敵や探知の感知魔法陣は持ってないのです。

「何か生きている動物……いますか?」

 クロル様が文官さん達に声をかけて、食事用のカモを連れて来ました。ごめんなさい、君は実験に使われてしまいます。僕は空中魔法陣を展開しました。

「移動」

 カモを魔法陣で包み両手で開いてカモを移動させます。宿り木に近づけるとカモが鳴き声を上げて暴れ、手を離しカモを歩かせますと、カモがひと鳴きして倒れました。

「なんじゃ、これは」

 ラフミ将軍さんが唸ります。

「クロル様、これがあなた様の死の真相です」

 僕は小さくひそりと話します。

 カモはゆっくりと地中にめり込み、大きな宿り木に引き寄せられて消えました。

「まず、王宮で行方不明になった人を探してください。それから魔法陣を使える王族はいますか?」

 クロル様が

「私とラフミ叔父だけだ。私以外の兄弟はまだ小さくマナが使えていない」

と答えました。では今の感じではラフミ将軍さんではないし、クロル様でもありません。

「クロル様、王族の魔法陣の書物を見せてもらうことは出来ますか?」

 クロル様は文官に命じて中庭に囲いを指示しています。指揮はラフミ将軍さんが取るようです。

「私の部屋だ。案内をしよう。急ぎなので、すまんな」

と、僕を抱き上げました。




 王城の二階の政務室の横にクロル様の私室があります。書庫は隣にあります。小さな書庫ですが、王様の持っている書物とは違う書物がたくさんありました。

「いつ見ても構わないが、まずは魔法陣書だ」

 さとられました。悔しいです。

 書庫には窓際に机がありそこに本を開いて、僕は椅子に立ったままページを捲ります。精神支配系の魔法陣が多いですね。

「そうだ。人を惑わし、支配する。精神系の魔法陣を代々得意とする。また、お目にかけよう」

 はい、楽しみです。ふと、見ると手書きの魔法陣がありました。何度も構築し書き直した跡があります。

「この字に見覚えは?」

「父の字かも知れない」

「独自の魔法陣……捕食……」

 前王様が作った捕食魔法陣は、捕食したものの生体の生気を糧に生きるとあります。あれ……では、僕と同じですか?王様の精液には生気が宿ります。僕は王様の生気を含む精液を捕食して元気でいるようです。あ、こんなところで王様を思い出してはダメです。さとられてしまいます。

 宿り木に捕食の魔法陣を展開させ、宿り木を枯らさないようにしています。何故なのでしょうか。魔法陣の下に乱れた文字で書かれています。

「エウレリーダ……名前……ですか?」

 クロル様が僕のところに来ました。先程までラフミ将軍さんと話していたのです。

「私の母の名前だ」

「これは僕の憶測であり、願いです。前王様は宿り木を枯らさないようにしています。王妃様のために」

「何故だ」

「宿り木が枯れてしまえば王様が亡くなってしまうからです」

「とうに死んでいる。かれこれ半年近くこの状態だ」

「宿り木と王様は一心同体。王様が亡くなれば宿り木は朽ちる。逆はあまりないのですが、宿り木が朽ちれば、王様は衰弱してやがて死に至ります。では、宿り木が朽ちなければどうでしょうか?」

 ガルド神は王様空位のまま、宿り木を認めざる得ない。

「なにも意味を成さない」

「クロル様は妃を持たぬ故に失念しているのです。王様が亡くなれば王様と生涯を共にする妃は殉死します。前王様はまだ小さい子を育む王妃様のために、宿り木を生かしているのです」

 殉死……あってはないことです。僕はいずれソニン様の隷属陣も消してもらう予定です。今のままでは王様が亡くなればソニン様は魔法陣下で命が潰えるのです。

「母のために……」

「だからやめてしまいましょうよ。ガルド神は殉死なんて嬉しくはないですよ。別に強制していませんし」

 経典を隅から隅まで読みましたが、夫が死ぬと一緒に葬られるなんて王の家族だけです。

「あの宿り木を取り除いてしまいましょう」
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