婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム

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20 最終試験は子爵奪還

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 最終試験はドナムンドの子爵領奪取と聞かされた時は驚いた。

「ドナムンド・ミューラー子爵だよー、ドニーは。でー、取り返したらー、あたしとスターはお抱え魔法師になるのー」

 ミーメの言葉に僕は思い出す。ミューラー子爵は、この魔の森の裏に領土を持つ子爵で、子爵の取りまとめをしている力のある貴族だ。堅牢な要塞城を持ち、武勲に秀でた子爵だったが、夫婦が流行り病で亡くなり、家督預かりに家令が名乗りをあげていたはずだ。

「僕は愛妾の子供で、母と父の宿り実ではないんだ。商家の娘である母が出入りしていた子爵に恋されて乞われた結果。母も子爵家に入り、年配の義理母とは仲が良くて、僕は子爵家で育っていたんだけれど、急に家令のネムドが父に万が一の時は家督を譲るという覚書があると見せてきて」

 家令とはいえネムドは確か伯爵の血筋だったはずだ。四男などどうしても長子跡取りの場合、下に行くほど家屋敷には居られなくなるから、結婚により地位を委ねたり、他の貴族の家令や執事になったり、能力があればギルドに入り独り立ちする。

「馬車の事故は偶然だったと思う、多分」

 ドナムンドが呟いた。子爵夫妻と愛妾を乗せた馬車が崖から落ちた落石により潰された事実を、ドナムンドはどんな気持ちで受け止めたのだろうか。

「報告の衝撃と孤児院での扱いにマナが暴走し、クロルさんに保護されてターク先生の所に来られたんだよ」

「孤児院の院長もクロルの告発によって変わりましたし、そもそもあの孤児院はミューラー子爵家の財で成り立っているのですから。今期の最終試験はミューラー子爵家奪還です。どうすればいいか皆さんで考えて作戦を立ててくださいね。決行日時は明日ですよ」

 何日か前に言って欲しかったのだが、試験は急にやって来た。

「だって事件や事故は前もってお知らせはないでしょう?明日とお話ししただけましですよ。昨年度はその日でしたからね」

 どんな卒業試験なんだろう?それは。皆そんなことは気にしないらしく、僕らは食堂で作戦会議を始める。

「ジェスのマナでドカーン!」

 ミーメ節が炸裂するが、ザックが首を横に振る。

「ドニーの帰る家がなくなる」

 それには賛成だ。あまりことを荒立てると、もうじきやってくる社交界(シーズン)で困るだろう。

「そうだよ、お姉ちゃん。覚書を取り返すのはどうかな?」

 スターの言葉にドナムンドが首を横に振った。

「それを破って無きものにするのではダメだ」

「どうしてだよ、ドニー」

 スターが食い下がる。

「それは……僕が一度やったからだ。僕は孤児院に移された理由が知りたかった。忍び込んで見つけて破り捨てようとした時に、家令に取り押さえられた」

 僕たちは手詰まりのままで昼に持ち越した。

 ターク先生手作りの給食は、珍しく長テーブルに様々な食材が並んでいる。

「今日はシッティング・ビュッフェにしましょう。自由にビュッフェボードに料理を取り分けるのです」

「から揚げーっ!」

 ミーメが叫びながら突進すると、厨房室から出てきた男の人ーーセシル兄様とぶつかりそうになる。

「セシル兄様!」

「レディ、ブュッフェは逃げないよ」

 スープ用のカップとスープをテーブルに置いたセシル兄様は、笑いながらミーメから避けて僕を抱きしめに来る。

「どうしてここに?」

「ターク先生の手伝いだよ。クロルに代わってもらったんだ。少しハロと距離を開けたい。あんなの僕じゃない」

 セシル兄様は真っ赤になりながら僕を離して、厨房に戻ろうとする。

「サリオンのお兄さんなんですか?でしたら卒業生ですよね?」

 ドナムンドが身を乗り出すと、セシル兄様はにこやかに笑いながら、

「そうだよ。最終試験の助言をしてあげたいけれど、僕らの時は簡単で」

 と厨房に戻ってしまう。

「洗脳魔法陣を作り出して、悪人の溜まるギルドで発揮して真っ当なギルドにしてしまうなんて、セシル一人で卒業したようなものです」

 ターク先生的にはそれではだめなんだ。もっとなにか……プレートの中は色々の食材がある。

「ドナムンド、考えがあるんだ」




ーーーー
セシル兄様、なにがあった?
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