婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム

文字の大きさ
42 / 54

41 古屋の恐怖

しおりを挟む
 馬車でゆっくりと十日間。メーテルも見たことのないラメタル王国領に入った。レムリカント王国の南の果てになるに連れて村が消え誰もいない家屋が増えた。その家屋を点々としながら僕らは馬車を走らせている。

 ラメタル王国には離宮の使用人全てと、ジェスと僕、それからターク先生だ。レムリカント王国領までは近衛兵が護衛をしてくれたけれど、王国領最後の村で別れを告げた。ここからはもうラメタル王国なんだと、荒廃した領地を見渡した。

「レガリア王国に侵略を受けたんだったな」

 メーテルは給仕をしながら

「ええ、そう聞いています」

と告げる。アルベルトが薪を抱えて古びた部屋に入って来ると、暖炉に薪をくべる。

「殿下、お寒くありませんか?」

 湖の横にある一番ましな石造りの古屋は、居間と二つの寝室と食堂に分かれていて、僕らはしばらくこちらに滞在することに決めていた。

「少し寒いかな。キュロットをやめ……」

「キュロットがよくお似合いです!膝掛けをお持ちします!」

 言い切ったテレサが膝掛けを僕の膝に掛けてくれ、僕とジェスとメーテルが食事を取る。ターク先生は部屋を調べてくれていて、アルベルトとテレサと残りを食べると話していた。

「ターク先生大丈夫かな」

「婆様は誰よりも強い」

 正餐には程遠いパンとスープの食事を摂りながら、僕は少しだけ出た下腹がむずむずしているのを感じていた。なんだろう、皮膚を謎ラウンジ感じだ。

 すると奥の寝室から、

「みぎゃーーーーーっ!」

猫のような悲鳴が聞こえた。僕とジェスが顔を見合わせていると、アルベルトが飛び出していき、僕らもメーテルと部屋に飛び込んだ。

「ターク先生っ?」

 ターク先生は床に尻餅を突いていた。鏡の隅からはみ出て、ゆらゆらと揺れる白い布に悲鳴を上げていたみたいで、アルベルトに抱き抱えられたターク先生は茶銀の巻毛をくしゃくしゃにしていた。

「婆様、なんつー声を出すんだよ!」

「ぼ、ぼ、僕は前世も今も、お化けとか大っ嫌いなんです!ふうっと生温かい風が吹いて……」

 鏡がバタンと開いた。

「みぎゃあああああーーっ!!」

 また悲鳴を上げたターク先生の顔に白い布が被さり、ターク先生はアルベルトの腕の中から首から頭にかけてよじ登り、白い布から逃げ切った。

「服、ですか?変わった服だな」

 アルベルトが両手で掴んで広げた服は薄汚れた白い前合わせの服で、見たことのない形だ。

「それは、白衣ですね」

 ターク先生がアルベルトから飛び降りて、白衣と言った服を見上げている。

「ターク様、鏡は隠し扉のようですね。下に階段があります」

 メーテルがマナを指先に集めて光を作り出した。この家は全て調べたはずなのに、隠し扉があるだなんて。

「殿下はお待ちください」

 メーテルが僕を入らせまいとするが、僕はターク先生とジェスについていきたかった。

「大丈夫だよ。ジェスが守ってくれるよ」

 テレサとアルベルトに部屋の警護を任せると、生温かい風が流れてくる地下への階段を歩いて降りていく。壁も階段も岩を掘り出したような剥き出しの感じで、不思議な臭いががした。

「鉄の臭いがしますね……過去に血が流れたのです」

 ターク先生は辺りを見回しながら一番前で話している。階段下で急に広がる広間には机と寝台、それから植物紙の束が散らばり、その上に……ゆらりと椅子から落ちた。

「ぴぃーーーーーっ!!」

 え、悲鳴?ターク先生が鳥の鳴き声みたいな声をあげて、直立に硬直していた。

「ターク様、お化けなんて非現実な物は存在しません。白骨死体が椅子から崩れただけです。風は反対の扉から流れ込んでいますね」

 全く動じないメーテルが、冷静にターク先生に告げている。ジェスが白骨死体の下から紙を拾い上げて見せてくれたが、何が書いてあるか全く分からない。絵はすごく精密だ。

「これ、腹実?」

 お腹の中の赤ちゃんが、四肢を縮めて丸くなっている。どうやら腹実の親は男性のようだ。

「何ですって」

 メーテルに揺らされてターク先生がやっと硬直から解けると、白骨死体を嫌そうに見つめながら一枚紙を拾った。驚いてから、更に数枚の紙を見て、うつ伏せの白骨死体を丁寧に仰向けにした。髪の毛は周りに散らばる灰色で、服は見たことのない形をしている。

「……死んでいたんですね、あなたは」

 ターク先生はすごく低い声で呟いた。

「婆様?」

「この大陸に降ろされた知恵の実です。プラスチックカードに外科医の土屋優作と書いてあります。こちらではグランと名乗っていたようですね。彼は医師でありながら、腹実の研究に励んでいたようです。こちらの数枚は、多分、ヒトを仮死状態にして裂いて、腹実の成長を確かめています」

 僕が手にしている絵はそんな状態……?

「うっ……」

「サリオン!」

 吐き気がして僕は堪えきれず、ジェスの小さな手の中に少しばかり吐き出してしまった。

「身体に悪いですね。一度出ましょう」

 ターク先生がそう言うと、僕はハンカチで手を拭ったジェスと地下から出て行った。


ーーー

ここに来て、タークさんの苦手なものが。
ターク先生は『巨人族の1/3の花嫁』の主人公さんです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

処理中です...