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41 古屋の恐怖
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馬車でゆっくりと十日間。メーテルも見たことのないラメタル王国領に入った。レムリカント王国の南の果てになるに連れて村が消え誰もいない家屋が増えた。その家屋を点々としながら僕らは馬車を走らせている。
ラメタル王国には離宮の使用人全てと、ジェスと僕、それからターク先生だ。レムリカント王国領までは近衛兵が護衛をしてくれたけれど、王国領最後の村で別れを告げた。ここからはもうラメタル王国なんだと、荒廃した領地を見渡した。
「レガリア王国に侵略を受けたんだったな」
メーテルは給仕をしながら
「ええ、そう聞いています」
と告げる。アルベルトが薪を抱えて古びた部屋に入って来ると、暖炉に薪をくべる。
「殿下、お寒くありませんか?」
湖の横にある一番ましな石造りの古屋は、居間と二つの寝室と食堂に分かれていて、僕らはしばらくこちらに滞在することに決めていた。
「少し寒いかな。キュロットをやめ……」
「キュロットがよくお似合いです!膝掛けをお持ちします!」
言い切ったテレサが膝掛けを僕の膝に掛けてくれ、僕とジェスとメーテルが食事を取る。ターク先生は部屋を調べてくれていて、アルベルトとテレサと残りを食べると話していた。
「ターク先生大丈夫かな」
「婆様は誰よりも強い」
正餐には程遠いパンとスープの食事を摂りながら、僕は少しだけ出た下腹がむずむずしているのを感じていた。なんだろう、皮膚を謎ラウンジ感じだ。
すると奥の寝室から、
「みぎゃーーーーーっ!」
猫のような悲鳴が聞こえた。僕とジェスが顔を見合わせていると、アルベルトが飛び出していき、僕らもメーテルと部屋に飛び込んだ。
「ターク先生っ?」
ターク先生は床に尻餅を突いていた。鏡の隅からはみ出て、ゆらゆらと揺れる白い布に悲鳴を上げていたみたいで、アルベルトに抱き抱えられたターク先生は茶銀の巻毛をくしゃくしゃにしていた。
「婆様、なんつー声を出すんだよ!」
「ぼ、ぼ、僕は前世も今も、お化けとか大っ嫌いなんです!ふうっと生温かい風が吹いて……」
鏡がバタンと開いた。
「みぎゃあああああーーっ!!」
また悲鳴を上げたターク先生の顔に白い布が被さり、ターク先生はアルベルトの腕の中から首から頭にかけてよじ登り、白い布から逃げ切った。
「服、ですか?変わった服だな」
アルベルトが両手で掴んで広げた服は薄汚れた白い前合わせの服で、見たことのない形だ。
「それは、白衣ですね」
ターク先生がアルベルトから飛び降りて、白衣と言った服を見上げている。
「ターク様、鏡は隠し扉のようですね。下に階段があります」
メーテルがマナを指先に集めて光を作り出した。この家は全て調べたはずなのに、隠し扉があるだなんて。
「殿下はお待ちください」
メーテルが僕を入らせまいとするが、僕はターク先生とジェスについていきたかった。
「大丈夫だよ。ジェスが守ってくれるよ」
テレサとアルベルトに部屋の警護を任せると、生温かい風が流れてくる地下への階段を歩いて降りていく。壁も階段も岩を掘り出したような剥き出しの感じで、不思議な臭いががした。
「鉄の臭いがしますね……過去に血が流れたのです」
ターク先生は辺りを見回しながら一番前で話している。階段下で急に広がる広間には机と寝台、それから植物紙の束が散らばり、その上に……ゆらりと椅子から落ちた。
「ぴぃーーーーーっ!!」
え、悲鳴?ターク先生が鳥の鳴き声みたいな声をあげて、直立に硬直していた。
「ターク様、お化けなんて非現実な物は存在しません。白骨死体が椅子から崩れただけです。風は反対の扉から流れ込んでいますね」
全く動じないメーテルが、冷静にターク先生に告げている。ジェスが白骨死体の下から紙を拾い上げて見せてくれたが、何が書いてあるか全く分からない。絵はすごく精密だ。
「これ、腹実?」
お腹の中の赤ちゃんが、四肢を縮めて丸くなっている。どうやら腹実の親は男性のようだ。
「何ですって」
メーテルに揺らされてターク先生がやっと硬直から解けると、白骨死体を嫌そうに見つめながら一枚紙を拾った。驚いてから、更に数枚の紙を見て、うつ伏せの白骨死体を丁寧に仰向けにした。髪の毛は周りに散らばる灰色で、服は見たことのない形をしている。
「……死んでいたんですね、あなたは」
ターク先生はすごく低い声で呟いた。
「婆様?」
「この大陸に降ろされた知恵の実です。プラスチックカードに外科医の土屋優作と書いてあります。こちらではグランと名乗っていたようですね。彼は医師でありながら、腹実の研究に励んでいたようです。こちらの数枚は、多分、ヒトを仮死状態にして裂いて、腹実の成長を確かめています」
僕が手にしている絵はそんな状態……?
「うっ……」
「サリオン!」
吐き気がして僕は堪えきれず、ジェスの小さな手の中に少しばかり吐き出してしまった。
「身体に悪いですね。一度出ましょう」
ターク先生がそう言うと、僕はハンカチで手を拭ったジェスと地下から出て行った。
ーーー
ここに来て、タークさんの苦手なものが。
ターク先生は『巨人族の1/3の花嫁』の主人公さんです。
ラメタル王国には離宮の使用人全てと、ジェスと僕、それからターク先生だ。レムリカント王国領までは近衛兵が護衛をしてくれたけれど、王国領最後の村で別れを告げた。ここからはもうラメタル王国なんだと、荒廃した領地を見渡した。
「レガリア王国に侵略を受けたんだったな」
メーテルは給仕をしながら
「ええ、そう聞いています」
と告げる。アルベルトが薪を抱えて古びた部屋に入って来ると、暖炉に薪をくべる。
「殿下、お寒くありませんか?」
湖の横にある一番ましな石造りの古屋は、居間と二つの寝室と食堂に分かれていて、僕らはしばらくこちらに滞在することに決めていた。
「少し寒いかな。キュロットをやめ……」
「キュロットがよくお似合いです!膝掛けをお持ちします!」
言い切ったテレサが膝掛けを僕の膝に掛けてくれ、僕とジェスとメーテルが食事を取る。ターク先生は部屋を調べてくれていて、アルベルトとテレサと残りを食べると話していた。
「ターク先生大丈夫かな」
「婆様は誰よりも強い」
正餐には程遠いパンとスープの食事を摂りながら、僕は少しだけ出た下腹がむずむずしているのを感じていた。なんだろう、皮膚を謎ラウンジ感じだ。
すると奥の寝室から、
「みぎゃーーーーーっ!」
猫のような悲鳴が聞こえた。僕とジェスが顔を見合わせていると、アルベルトが飛び出していき、僕らもメーテルと部屋に飛び込んだ。
「ターク先生っ?」
ターク先生は床に尻餅を突いていた。鏡の隅からはみ出て、ゆらゆらと揺れる白い布に悲鳴を上げていたみたいで、アルベルトに抱き抱えられたターク先生は茶銀の巻毛をくしゃくしゃにしていた。
「婆様、なんつー声を出すんだよ!」
「ぼ、ぼ、僕は前世も今も、お化けとか大っ嫌いなんです!ふうっと生温かい風が吹いて……」
鏡がバタンと開いた。
「みぎゃあああああーーっ!!」
また悲鳴を上げたターク先生の顔に白い布が被さり、ターク先生はアルベルトの腕の中から首から頭にかけてよじ登り、白い布から逃げ切った。
「服、ですか?変わった服だな」
アルベルトが両手で掴んで広げた服は薄汚れた白い前合わせの服で、見たことのない形だ。
「それは、白衣ですね」
ターク先生がアルベルトから飛び降りて、白衣と言った服を見上げている。
「ターク様、鏡は隠し扉のようですね。下に階段があります」
メーテルがマナを指先に集めて光を作り出した。この家は全て調べたはずなのに、隠し扉があるだなんて。
「殿下はお待ちください」
メーテルが僕を入らせまいとするが、僕はターク先生とジェスについていきたかった。
「大丈夫だよ。ジェスが守ってくれるよ」
テレサとアルベルトに部屋の警護を任せると、生温かい風が流れてくる地下への階段を歩いて降りていく。壁も階段も岩を掘り出したような剥き出しの感じで、不思議な臭いががした。
「鉄の臭いがしますね……過去に血が流れたのです」
ターク先生は辺りを見回しながら一番前で話している。階段下で急に広がる広間には机と寝台、それから植物紙の束が散らばり、その上に……ゆらりと椅子から落ちた。
「ぴぃーーーーーっ!!」
え、悲鳴?ターク先生が鳥の鳴き声みたいな声をあげて、直立に硬直していた。
「ターク様、お化けなんて非現実な物は存在しません。白骨死体が椅子から崩れただけです。風は反対の扉から流れ込んでいますね」
全く動じないメーテルが、冷静にターク先生に告げている。ジェスが白骨死体の下から紙を拾い上げて見せてくれたが、何が書いてあるか全く分からない。絵はすごく精密だ。
「これ、腹実?」
お腹の中の赤ちゃんが、四肢を縮めて丸くなっている。どうやら腹実の親は男性のようだ。
「何ですって」
メーテルに揺らされてターク先生がやっと硬直から解けると、白骨死体を嫌そうに見つめながら一枚紙を拾った。驚いてから、更に数枚の紙を見て、うつ伏せの白骨死体を丁寧に仰向けにした。髪の毛は周りに散らばる灰色で、服は見たことのない形をしている。
「……死んでいたんですね、あなたは」
ターク先生はすごく低い声で呟いた。
「婆様?」
「この大陸に降ろされた知恵の実です。プラスチックカードに外科医の土屋優作と書いてあります。こちらではグランと名乗っていたようですね。彼は医師でありながら、腹実の研究に励んでいたようです。こちらの数枚は、多分、ヒトを仮死状態にして裂いて、腹実の成長を確かめています」
僕が手にしている絵はそんな状態……?
「うっ……」
「サリオン!」
吐き気がして僕は堪えきれず、ジェスの小さな手の中に少しばかり吐き出してしまった。
「身体に悪いですね。一度出ましょう」
ターク先生がそう言うと、僕はハンカチで手を拭ったジェスと地下から出て行った。
ーーー
ここに来て、タークさんの苦手なものが。
ターク先生は『巨人族の1/3の花嫁』の主人公さんです。
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