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42 新しい城も一夜城
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アルベルトとテレサが遺体と紙を拾い地下から戻って来るまで、僕はジェスと外にいた。ターク先生は紙を見ては唸っていて、アルベルトは布に包んだ遺体を下草に置く。
ターク先生はその遺体に白衣を掛けて、深く息を吐いた。
「土屋医師、あなたはこの異世界で何がしたかったのでしょうね。背後から刺されて、腰の骨が砕けて亡くなったあなたは。でも僕は感謝をしているのです。孫の子を、孫の伴侶を、僕の教え子を救う手立てを残してくれたのですから」
ターク先生は二本指を突き出して陣を引き出す。
「火炎陣展開、豪炎」
陣が遺体を包み込み瞬間烈火が上がり、遺体の骨も残らず消え去った。
「ガルド神様、ユグドガルドの異世界人の末路です」
ターク先生の横顔がなんだか悲痛で、僕は目を逸らしてしまう。ジェスはまっすぐにターク先生を見つめていて、僕の手を痛いくらい握りしめた。
「婆様、こっちに残る気だ」
僕はジェスの言葉に驚いた。ターク先生は毎日扉を通ってガルドバルド大陸に帰っている。それなのにユグドガルド大陸に残るなんて。
「知恵の実の遺物は全て手にしました。古屋敷そのものを消してしまいます」
地下はグラン医師の実験場だったのではと、ターク先生は苦い顔をしていた。何故ならば反対側の扉は森に繋がり、森には人骨が散らばっていたからだ。僕には見せなかったけれど、連れて行かれたジェスが青い顔をしていた。
「こちらの古屋は瓦解します。メーテル、城の位置は地図で分かりますね。瓦解して更地にしたのち移動しましょう」
「はい、ターク様」
紙類は全て馬車に乗せ、ターク先生はすごく苦い顔をしたまま瓦解を行った。それも影も形もないほどに。消滅陣ではないかと目を疑う僕に、ターク先生は苦笑した。
「ちょっと怒ってしまってね、分子レベルまで瓦解してしまいました。サリオン、あなたが気にやむことはありません」
打ち捨てられた骸骨も全て塵のように消えた、何もないがらんとした空間はひどく寒々しくて寂しく感じられた。なによりも僕よりもターク先生が傷ついた顔をしている。そんなターク先生と馬車に乗り込み、メーテルの案内で湖を見下ろす高台の瓦礫の山にたどり着いたのは夕方になっていた。
見下ろすと明かりがどこにもない世界が広がり、天上には巨大な月と星。それを見上げるジェスと手を繋ぐ。
「殿下、失礼します」
「サリオン、ちょっと僕森に行きますね」
テレサとメーテルが夕食を、アルベルトが周囲を見回りへ行ってしまうと、ターク先生が立ち上がって隣にある森に入って行った。ラメタルにも繋がり広がる魔の森。魔の森の端にあたるラメタル国は、森を通ればレムリカント王国に早く行けることに気づいた。
むしろ魔の森があるから、レガリア王国はレムリカント王国に攻め入ることができない。中立国パールバルト王国はどちらにも日和見な状況で、僕はレムリカント王国からこの防衛線を任せられたことに気づいていた。
「お食事の準備が整いました」
テレサの呼びかけにジェスが立ち上がり、僕も後について行く。
「婆様の機嫌が直ってるといいな」
「ターク先生、機嫌が悪いの?」
ジェスと手を繋ぎながら森へ入る。ジェスは頷いて、
「婆様は異世界人って自負があるんだ。知恵の実としての責任も感じてる」
そう話してくれる。ターク先生の気持ちは分かるが、僕には二つの気持ちがあった。森の入り口から少ししたところに不自然な桃色の扉があり、その横に切り倒したらしい木材がある。そして話し声がした。
「もう、聞いているのですか!んっ……んんっーーっ」
ターク先生のくぐもった声と共に、ひどく大きな影が見える。ターク先生はその影の手の中にいて、顔を数回叩いた後、唇をつけていた。それが長くてまるで食べられてしまいそうで、僕は悲鳴を上げかける。
「あ、大爺様」
「え、あ!ガリウス王?」
思わず大きな声になってしまい、ターク先生がゆっくりと振り向いた。その顔は夕刻の焼けよりも赤く、表情はぎこちなかった。
「こ、こ、これはですねっ、オドが足りずにガリウスからもらっていたのですよっ!サリオン、ジェス、分かりますね!!」
ターク先生を大切に手の中に入れているガリウス王は、夕暮れにも映える金髪に真っ青な優し気な瞳で僕を見下ろす。
「サリオン王子、ジェスの伴侶になってくれてありがとう。今宵は祝いの城を建てに参った」
低い深い声に、僕は立ち尽くしてしまう。ジェスは嬉しそうに飛び上がった。
「大爺様の力が有れば、城どころか王都が作られてしまうな」
「おお、その通りだ。望む王都を作ろう」
夕食に呼びに行った筈なのに、僕は瓦礫と山積みの木材の中で、ガリウス王に抱き上げられ頬擦りされたターク先生の本気の魔法陣を見ていた。
あり得ないほどの莫大な金色のマナの量が丘全体を包み込み、そして魔の森の入り口から丘の下までぐるりと囲い込む。
「王都を作ります。錬成陣展開!」
巨大な陣が下草に迸り天空に昇ると、天空に都市が見えた。メーテルやテレサを見ると、思わず唇開いてしまうくらい驚いている。
「定着!」
夜空の幻のような都市が大地に降り注ぐと僕たちを包み込み、地面を揺らしながら城から建った。それどころか二百くらいの家が現れ、誰もいない空の王都が出来上がった。
「あー、すっきりしました。サリオン、こちらの王都はユミル式を採用しました」
僕らは王城の庭に立ち尽くしている形となり、王城の裏から木の屑まみれのアルベルトが現れて、メーテルの横に来た。
「アルベルト、無事だったのですね」
「あ、はい。急に現れた家屋と木の間に挟まれました」
アルベルトはメーテルについてレムリカント王国に来てくれた、本来メーテルのための家令だ。
「お腹が空きました。メーテル、パンとスープを貰っていいですか?こちらはフェンナからサンドイッチのバスケットをお出しします」
大きなバスケットからタマゴサンドイッチがたくさん出てきて、僕らは野外でそれを頬張り、ターク先生自慢の王都の説明を受けることにした。
ターク先生はその遺体に白衣を掛けて、深く息を吐いた。
「土屋医師、あなたはこの異世界で何がしたかったのでしょうね。背後から刺されて、腰の骨が砕けて亡くなったあなたは。でも僕は感謝をしているのです。孫の子を、孫の伴侶を、僕の教え子を救う手立てを残してくれたのですから」
ターク先生は二本指を突き出して陣を引き出す。
「火炎陣展開、豪炎」
陣が遺体を包み込み瞬間烈火が上がり、遺体の骨も残らず消え去った。
「ガルド神様、ユグドガルドの異世界人の末路です」
ターク先生の横顔がなんだか悲痛で、僕は目を逸らしてしまう。ジェスはまっすぐにターク先生を見つめていて、僕の手を痛いくらい握りしめた。
「婆様、こっちに残る気だ」
僕はジェスの言葉に驚いた。ターク先生は毎日扉を通ってガルドバルド大陸に帰っている。それなのにユグドガルド大陸に残るなんて。
「知恵の実の遺物は全て手にしました。古屋敷そのものを消してしまいます」
地下はグラン医師の実験場だったのではと、ターク先生は苦い顔をしていた。何故ならば反対側の扉は森に繋がり、森には人骨が散らばっていたからだ。僕には見せなかったけれど、連れて行かれたジェスが青い顔をしていた。
「こちらの古屋は瓦解します。メーテル、城の位置は地図で分かりますね。瓦解して更地にしたのち移動しましょう」
「はい、ターク様」
紙類は全て馬車に乗せ、ターク先生はすごく苦い顔をしたまま瓦解を行った。それも影も形もないほどに。消滅陣ではないかと目を疑う僕に、ターク先生は苦笑した。
「ちょっと怒ってしまってね、分子レベルまで瓦解してしまいました。サリオン、あなたが気にやむことはありません」
打ち捨てられた骸骨も全て塵のように消えた、何もないがらんとした空間はひどく寒々しくて寂しく感じられた。なによりも僕よりもターク先生が傷ついた顔をしている。そんなターク先生と馬車に乗り込み、メーテルの案内で湖を見下ろす高台の瓦礫の山にたどり着いたのは夕方になっていた。
見下ろすと明かりがどこにもない世界が広がり、天上には巨大な月と星。それを見上げるジェスと手を繋ぐ。
「殿下、失礼します」
「サリオン、ちょっと僕森に行きますね」
テレサとメーテルが夕食を、アルベルトが周囲を見回りへ行ってしまうと、ターク先生が立ち上がって隣にある森に入って行った。ラメタルにも繋がり広がる魔の森。魔の森の端にあたるラメタル国は、森を通ればレムリカント王国に早く行けることに気づいた。
むしろ魔の森があるから、レガリア王国はレムリカント王国に攻め入ることができない。中立国パールバルト王国はどちらにも日和見な状況で、僕はレムリカント王国からこの防衛線を任せられたことに気づいていた。
「お食事の準備が整いました」
テレサの呼びかけにジェスが立ち上がり、僕も後について行く。
「婆様の機嫌が直ってるといいな」
「ターク先生、機嫌が悪いの?」
ジェスと手を繋ぎながら森へ入る。ジェスは頷いて、
「婆様は異世界人って自負があるんだ。知恵の実としての責任も感じてる」
そう話してくれる。ターク先生の気持ちは分かるが、僕には二つの気持ちがあった。森の入り口から少ししたところに不自然な桃色の扉があり、その横に切り倒したらしい木材がある。そして話し声がした。
「もう、聞いているのですか!んっ……んんっーーっ」
ターク先生のくぐもった声と共に、ひどく大きな影が見える。ターク先生はその影の手の中にいて、顔を数回叩いた後、唇をつけていた。それが長くてまるで食べられてしまいそうで、僕は悲鳴を上げかける。
「あ、大爺様」
「え、あ!ガリウス王?」
思わず大きな声になってしまい、ターク先生がゆっくりと振り向いた。その顔は夕刻の焼けよりも赤く、表情はぎこちなかった。
「こ、こ、これはですねっ、オドが足りずにガリウスからもらっていたのですよっ!サリオン、ジェス、分かりますね!!」
ターク先生を大切に手の中に入れているガリウス王は、夕暮れにも映える金髪に真っ青な優し気な瞳で僕を見下ろす。
「サリオン王子、ジェスの伴侶になってくれてありがとう。今宵は祝いの城を建てに参った」
低い深い声に、僕は立ち尽くしてしまう。ジェスは嬉しそうに飛び上がった。
「大爺様の力が有れば、城どころか王都が作られてしまうな」
「おお、その通りだ。望む王都を作ろう」
夕食に呼びに行った筈なのに、僕は瓦礫と山積みの木材の中で、ガリウス王に抱き上げられ頬擦りされたターク先生の本気の魔法陣を見ていた。
あり得ないほどの莫大な金色のマナの量が丘全体を包み込み、そして魔の森の入り口から丘の下までぐるりと囲い込む。
「王都を作ります。錬成陣展開!」
巨大な陣が下草に迸り天空に昇ると、天空に都市が見えた。メーテルやテレサを見ると、思わず唇開いてしまうくらい驚いている。
「定着!」
夜空の幻のような都市が大地に降り注ぐと僕たちを包み込み、地面を揺らしながら城から建った。それどころか二百くらいの家が現れ、誰もいない空の王都が出来上がった。
「あー、すっきりしました。サリオン、こちらの王都はユミル式を採用しました」
僕らは王城の庭に立ち尽くしている形となり、王城の裏から木の屑まみれのアルベルトが現れて、メーテルの横に来た。
「アルベルト、無事だったのですね」
「あ、はい。急に現れた家屋と木の間に挟まれました」
アルベルトはメーテルについてレムリカント王国に来てくれた、本来メーテルのための家令だ。
「お腹が空きました。メーテル、パンとスープを貰っていいですか?こちらはフェンナからサンドイッチのバスケットをお出しします」
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