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49 思わぬ来訪者
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セシル兄様は腹実を宿すマナを持たないとセフェム様が伝えてくれた数日後、ハンロックが積年の思いを遂げ宿り実が付いたと長い手紙をくれた。そのあとにセシル兄様が国王になるための準備が始まり、新たな執行体制になるらしく、ラメタル国とも友好関係を築きたいと親書を送って来た。
セシル兄様の手紙の中にはハンロックが夜の寝屋でしつこいだとか、次の日は寝台から起き上がれないだとか、僕しか読んではだめだという内容のものも添えられたんだけど。
そんな僕はアルフィートよりもかなりあっさりと女の子の赤子を産んだ。
「ものすごい安産です」
なんてターク先生も呆れるほどだった。ジェスがわんわん泣きながら赤子を抱きしめていて、僕は安心と気が緩んで、やっぱり泣いてしまった。メーテルもテレサも泣いていた。こっそり屋敷内でアルベルトも泣いていたみたいだ。
後で報告を受けたのだが、王都のガルド神殿では、銀杯に僕の名前とジェスの名前から連なるところが光り始めていたらしい。間違いなく王になる赤子だった。
「アストラ……名前はアストラにしよう。ね、ジェス、どうかな?」
アストラは新しいラメタル国の女王になる。僕は泣きっぱなしのジェスからアストラを貰い受けると、アルフィートに教えられた通り初乳を与えた。乳首がツキンと痛くなる感覚と意外にも力強く吸われるのに驚いたのは、後からアストラに乳をやったジェスも同じで二人して、
「じんじんするね」
って苦笑いした。
ラメタル国には、パールバルト王国やレムリカント王国に隠れ住んでいたラメタル人が少しずつ集まって来ている。ターク先生とガリウス様が作った土壁の結界は、
敵意を持たぬ者
のみが通ることを許された盤石揺るぎない結界で、セフェム様とジェスが作った警ら隊が町を巡回し、二重砦になったラメタル国の大門を預かっていた。
政務はガリウス様に教えられて少しずつこなし、王立学舎でターク先生も教鞭を取られている。魔の森の学舎をラメタルに移転したのだ。ターク先生に頼まれて、読み書きだけを教える『神殿小学舎』というものを村のガルド神殿に配置して、神官に教えるようアストラの名前で命じ指示をした。その見返りもしっかりとしている。
ターク先生は学びを通して柔軟な考え方をもつ国民を育てることが、大陸同士の齟齬をなくすと話していた。
アルフィートは僕より先に産んだ赤子をスリングに入れて、文官として働き出した。ラムダはロキさん達と第二砦の中の穀物地帯で管理と算術をする管理者となり、穀物の値段を決めたりと忙しい。
そんな中、一台の馬車が砦内に入ったと連絡を受けた。僕は政務の真っ最中で、ジェスは久しぶりのお休みにアストラの世話を満喫していた。
「三ヶ月でやっと首が座るのか……長いものだな」
ガリウス様が政務の傍ら、アストラとジェスを抱き上げる。三メートルのガリウス様に抱っこされる小さいジェスがまた可愛くて、僕はペンを止める。
「確かに。同じだけの寿命なのに、ヒトは成長が遅いですね。ガルドバルドでは三ヶ月で離乳ですよね」
「うむ。早いものは歩き出す。ジェスも三ヶ月で普通に歩いていたな」
もっと小さなジェスがとことこ歩いている姿……すごく可愛いのだろうなあ。ジェスは王家の一員として髪を伸ばし始めていて、跳ねていた髪の毛が落ち着いて来て、本当に可愛いのだ。
「失礼します。国王陛下、レムリカント王国公爵様が御面会をと申し上げております」
テレサが扉を開けて王城警備兵の話を聞いていたのだが、そこに無理矢理入り込んできた一人の男……
「アーロン!」
派手派手しい縫い取りのジャケットの一揃えを着たアーロンが一人で立っていたのだ。
「なんて趣味の悪い……」
とテレサが苦虫を潰したような顔をしている。不敬罪に当たるよ、テレサ。僕らの服は相変わらずテレサが作っている。国王なのにキュロットってどうなんだろうとテレサに聞いてみると、
「陛下はまだ十歳でございます。背伸びをなさいませんように」
なんて答えた。ああ、成人するまでキュロットのような気がする。
「アーロン、どうしたのだ?従者もつけず」
アーロンは綺麗に撫でつけた金の髪に、自信のある強い青い瞳で僕を見上げると、
「殿下、いえ、陛下。陛下がラメタル国の新しい国王になったとレガリア王国貴族サロンで噂になりました。国王陛下をお守りするのは、陛下の婚約者でもあったこのアーロンの役目です。公私共にお守りします。こちらには煩わしい元老院もおりませんし、僕らの仲を引き裂いたレムリカント王国の国王もいません」
と声高々に話す。相変わらず、アーロンは自分だけ。自分ばかりのアーロンは、彼女もレガリア王国に置いて来たのだろうか。
「お断りします」
僕はきっぱりと言い放った。
「…………え?」
アーロンは僕を見上げたまま首を横にぎこちなく傾ける。
「僕は充実していますし、子供も生まれました。アーロンは必要ありません」
アーロンが傾けた視線の先には、僕の髪色に金の瞳を持つアストラがジェスに抱かれて笑っている。
「こ、ど、も……?」
そしてその二人を抱き上げている三メートルの巨人の姿に、声にならない叫びを上げて尻餅をついた。
「余の孫とサリオンは魂の番い。伴侶となり子もいる者に言い寄るなど愚行にしか見えないが?そなたの居場所に帰るが良い」
と巨躯から打ち出す低い声を響かせた。
「あ、あ、ぐ、ぎゃ……」
声にならない声と、ふわりと香るのはアーロンが失禁したからで、床に染みが出来ていた。
「テレサ」
僕の声にテレサが頷いて
「誰か!公爵子息様はお帰りです。誰か馬車にお連れください」
と警備員を促す。そこに、
「なんだ兄ちゃん、ガリィを見て小便漏らしたんか」
なんて言いながらセフェム様が入って来て、アーロンはセフェム様を見るなり声も出ず意識を失って、獣面顔のセフェム様の真隣に倒れてしまった。多分セフェム様の狼顔に驚いたのだろう。
「ざまぁみろ。ぼんくら息子」
ジェスがアストラをあやしながらそう言う。ふふ、そうだねと僕は肩をすくめる。
「臭えな。あ、こいつ、大便も漏らしてやがる。腹が緩かったのか?」
アーロンを担いだセフェム様が馬車まで行き、僕はテレサに止められて政務室からアーロンが馬車に乗せられ御者と共に王城内から出て行くのを見下ろした。
せめて服を替えてあげるべきだったのかなと思う。
しばらくして、アーロンがレガリア王国に帰着したことを知らせるアーロンのお爺様で僕の叔父様にあたるノートン公から手紙が来た。
ーーー
やっとざまぁでした笑
セシル兄様の手紙の中にはハンロックが夜の寝屋でしつこいだとか、次の日は寝台から起き上がれないだとか、僕しか読んではだめだという内容のものも添えられたんだけど。
そんな僕はアルフィートよりもかなりあっさりと女の子の赤子を産んだ。
「ものすごい安産です」
なんてターク先生も呆れるほどだった。ジェスがわんわん泣きながら赤子を抱きしめていて、僕は安心と気が緩んで、やっぱり泣いてしまった。メーテルもテレサも泣いていた。こっそり屋敷内でアルベルトも泣いていたみたいだ。
後で報告を受けたのだが、王都のガルド神殿では、銀杯に僕の名前とジェスの名前から連なるところが光り始めていたらしい。間違いなく王になる赤子だった。
「アストラ……名前はアストラにしよう。ね、ジェス、どうかな?」
アストラは新しいラメタル国の女王になる。僕は泣きっぱなしのジェスからアストラを貰い受けると、アルフィートに教えられた通り初乳を与えた。乳首がツキンと痛くなる感覚と意外にも力強く吸われるのに驚いたのは、後からアストラに乳をやったジェスも同じで二人して、
「じんじんするね」
って苦笑いした。
ラメタル国には、パールバルト王国やレムリカント王国に隠れ住んでいたラメタル人が少しずつ集まって来ている。ターク先生とガリウス様が作った土壁の結界は、
敵意を持たぬ者
のみが通ることを許された盤石揺るぎない結界で、セフェム様とジェスが作った警ら隊が町を巡回し、二重砦になったラメタル国の大門を預かっていた。
政務はガリウス様に教えられて少しずつこなし、王立学舎でターク先生も教鞭を取られている。魔の森の学舎をラメタルに移転したのだ。ターク先生に頼まれて、読み書きだけを教える『神殿小学舎』というものを村のガルド神殿に配置して、神官に教えるようアストラの名前で命じ指示をした。その見返りもしっかりとしている。
ターク先生は学びを通して柔軟な考え方をもつ国民を育てることが、大陸同士の齟齬をなくすと話していた。
アルフィートは僕より先に産んだ赤子をスリングに入れて、文官として働き出した。ラムダはロキさん達と第二砦の中の穀物地帯で管理と算術をする管理者となり、穀物の値段を決めたりと忙しい。
そんな中、一台の馬車が砦内に入ったと連絡を受けた。僕は政務の真っ最中で、ジェスは久しぶりのお休みにアストラの世話を満喫していた。
「三ヶ月でやっと首が座るのか……長いものだな」
ガリウス様が政務の傍ら、アストラとジェスを抱き上げる。三メートルのガリウス様に抱っこされる小さいジェスがまた可愛くて、僕はペンを止める。
「確かに。同じだけの寿命なのに、ヒトは成長が遅いですね。ガルドバルドでは三ヶ月で離乳ですよね」
「うむ。早いものは歩き出す。ジェスも三ヶ月で普通に歩いていたな」
もっと小さなジェスがとことこ歩いている姿……すごく可愛いのだろうなあ。ジェスは王家の一員として髪を伸ばし始めていて、跳ねていた髪の毛が落ち着いて来て、本当に可愛いのだ。
「失礼します。国王陛下、レムリカント王国公爵様が御面会をと申し上げております」
テレサが扉を開けて王城警備兵の話を聞いていたのだが、そこに無理矢理入り込んできた一人の男……
「アーロン!」
派手派手しい縫い取りのジャケットの一揃えを着たアーロンが一人で立っていたのだ。
「なんて趣味の悪い……」
とテレサが苦虫を潰したような顔をしている。不敬罪に当たるよ、テレサ。僕らの服は相変わらずテレサが作っている。国王なのにキュロットってどうなんだろうとテレサに聞いてみると、
「陛下はまだ十歳でございます。背伸びをなさいませんように」
なんて答えた。ああ、成人するまでキュロットのような気がする。
「アーロン、どうしたのだ?従者もつけず」
アーロンは綺麗に撫でつけた金の髪に、自信のある強い青い瞳で僕を見上げると、
「殿下、いえ、陛下。陛下がラメタル国の新しい国王になったとレガリア王国貴族サロンで噂になりました。国王陛下をお守りするのは、陛下の婚約者でもあったこのアーロンの役目です。公私共にお守りします。こちらには煩わしい元老院もおりませんし、僕らの仲を引き裂いたレムリカント王国の国王もいません」
と声高々に話す。相変わらず、アーロンは自分だけ。自分ばかりのアーロンは、彼女もレガリア王国に置いて来たのだろうか。
「お断りします」
僕はきっぱりと言い放った。
「…………え?」
アーロンは僕を見上げたまま首を横にぎこちなく傾ける。
「僕は充実していますし、子供も生まれました。アーロンは必要ありません」
アーロンが傾けた視線の先には、僕の髪色に金の瞳を持つアストラがジェスに抱かれて笑っている。
「こ、ど、も……?」
そしてその二人を抱き上げている三メートルの巨人の姿に、声にならない叫びを上げて尻餅をついた。
「余の孫とサリオンは魂の番い。伴侶となり子もいる者に言い寄るなど愚行にしか見えないが?そなたの居場所に帰るが良い」
と巨躯から打ち出す低い声を響かせた。
「あ、あ、ぐ、ぎゃ……」
声にならない声と、ふわりと香るのはアーロンが失禁したからで、床に染みが出来ていた。
「テレサ」
僕の声にテレサが頷いて
「誰か!公爵子息様はお帰りです。誰か馬車にお連れください」
と警備員を促す。そこに、
「なんだ兄ちゃん、ガリィを見て小便漏らしたんか」
なんて言いながらセフェム様が入って来て、アーロンはセフェム様を見るなり声も出ず意識を失って、獣面顔のセフェム様の真隣に倒れてしまった。多分セフェム様の狼顔に驚いたのだろう。
「ざまぁみろ。ぼんくら息子」
ジェスがアストラをあやしながらそう言う。ふふ、そうだねと僕は肩をすくめる。
「臭えな。あ、こいつ、大便も漏らしてやがる。腹が緩かったのか?」
アーロンを担いだセフェム様が馬車まで行き、僕はテレサに止められて政務室からアーロンが馬車に乗せられ御者と共に王城内から出て行くのを見下ろした。
せめて服を替えてあげるべきだったのかなと思う。
しばらくして、アーロンがレガリア王国に帰着したことを知らせるアーロンのお爺様で僕の叔父様にあたるノートン公から手紙が来た。
ーーー
やっとざまぁでした笑
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