銀のトランペット〈完結〉

クリム

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(中編)

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~1~
 音楽部初の朝部活だという学生も少ない学舎に、響は久しぶりに通う。朝ごはんは喉を通らず、指もガチガチだったが、黒田は吹けと言うしあんな写真を待受にされたくはなかった。

「とりあえず楽器も出したけど、響くんの音に任せて、好きにやらせてもらうよ」

 藤井がタクトを出して、メンバーは椅子にスタンバイした。部室には既にメンバーが揃っていて、響は久しぶりに手にする銀のトランペットをケースから出し構える。

 悩んだ挙句、一番好きな曲を吹く事にした。

『アメージング・グレイス』は宇崎と時任とで、コンクールで日本一になった曲だ。

 第一トランペット第二席の時任は、言動は粗野だがトランペットに賭ける思いは同じで、確かに音には厳しく接していたが、分かり合えていたと思っていた。

 副部長であり第二トランペットリーダーで親友だった宇崎より、近い存在だったと思っていた。

 多分…最初に響を犯したのは、時任だと思う。そんなに嫌われていた……時任を苦しめていたトランペットを吹く……。

 響にとって、付属中への決別のつもりだった。

 ピストンを整備してくれていた黒田が横にいて、中学時代の響すらも受け止めてくれる。

 だから、多分、大丈夫。

 第一音から滑らかに出て、高音の響きもいい。フレーズな綺麗に流れ……音が増えた。トロンボーンが入り、クラリネット、フルート、キーボード、サックス、ドラム、ベース、ギターがサイドを固め、それをタクトがまとめる。

 みんなが響の音に絡み合い、まるでDNAのゲノム配列のように繋がっていき、その永遠に感じられる音の陶酔は、響の左手からトランペットが落ちて……終わった。

「響先輩っ、優人持って!」

「ちょっ……」

 唯一演奏に参加していなかった黒田が目を上げると、床に落ちる寸前のトランペットを必死で掬い上げた秀人が尻餅を付き、ラッパのリンの部分が歪むことはなかったが、響は痺れてしまっている左手首を抑えた。

「セーフ……」

「響っ!」

 一曲……吹けないなんて。

 響は静まった資料室で、周囲を見渡し動揺する。

 そんなに長い曲ではない『アメージング・グレイス』が鳴り終わらないうちに、左手が悲鳴を上げた。

「黒田くん、指に……力が入らない」

 手首にも、指にも力が入らず指かけすらできないのだ。

「響くん、手、見せてくれる?」

 森野が響のリストバンドを外して、傷を見た。

「ね、リハビリをしよう。そうしたらもう少し支えられる」

 一度もそんなことはしていないし、あれ以来引き込もっていたのだから。

「は……はい」

 真摯な態度の森野に思わず頷き、響は黒田をじっと見つめる。黒田がスマホを取り出して、消去操作を始めると安堵して、響はトランペットをしまった。


 藤井は放課後に部室となっている資料室に、榊に呼び出された。

 昼休みには担任に呼び出され、

「響を部活に誘ったようだが、親御さん側は三年で無事に卒業させることが目標だ。余計な波風を立てるな」

と釘を刺されたばかりだ。

 ちらりと見た個票には、『部活動部長として悩み自殺未遂、不登校卒業』と書いてあり、黒田が響から聞いて話してくれた内容とはかけ離れている。

 黒田が響にトランペットを吹かせた『脅し』もとんでもないが、あれだけの音を燻らせ埋めてしまうのは勿体無い気がしていたから、自分たちがしたことは正解だろうと思っていた。

 だから難しい顔の三年生に呼び出され、話されたことに驚いたのだ。

「あれは、ソリストの音だよ、藤井」

 『笛の貴公子』と呼ばれる涼やかな容貌の部長の榊が藤井に言い放つ。

 資料室にいたのは、三年の榊と進級し損ねた二年生の白石と打田で、森野はいない。

「森野は響くんのリハビリに付き合って貰ったよ。少しばかり嫌な話だからね」

 優しい気質の森野には、聞かせたくない話なのだろう。

「しかし、付属中では第一トランペットのパートリーダーとして…」

 藤井は三年生達が何を言いたいのか分からず、響を擁護するような内容を示唆したが、それに対して白石が静かに突き放して来る。

「俺らは確かに『アメージング・グレイス』では、ハモった。だけど、響の音を軸に絡んだに過ぎないし。一本軸に螺旋を描くようにだ。それはソリストとオケの構築に過ぎない。和声ではないんやわ、藤井」

 それに頷いた榊が更に言って来た。

「僕らは少なくとも中学で吹奏楽部だったから、響くんのような正統派の『音』に多少は慣れている。黒田はどうだろう?小学校のマーチングのトランペットの経験しかない。彼は響くんの『音』に混じり合うことが出来なかった。だから吹かなかった。違うのかな?」

「まさか……」

「藤井よ、人間観察が特技なんやろ?黒田、観察しとけ。潰れるぜ?」

 打田が三白眼で睨んで来て、しばらく考えた挙句、今度の幼稚園の演奏会では、響はファンファーレや単独でのフレーズのみにし、合奏には加わらないようにすると藤井は告げた。

 三年生達の心配を藤井は軽く考えていたのだが、しかし、練習で打ちのめされた。

 響の音はとにかく映えるのだ。

 ファンファーレは伸びやかで、『となりのトトロ』の前奏は華やかに、響のトランペットは色香を伴い鳴った。

 タクトの藤井ですら聞き惚れてしまう綺麗な音の後の黒田のトランペットパートは地味に感じてしまい、響に引っ張られてサックスとクラリネットが鳴る。

 元々底力があるメンバーで、そこにブレスの一員である黒田がとうとう取り残された。

 マウスピースから口を離し、そして……黒田がトランペットを吹くのをやめた。吹けなくなってしまったのだ。

「黒田……」

 圧倒的な音は、双子はもとより、他にも魅了した。

 放課後用もないのに第二準備室に入り、響の楽器ケースを開き銀のトランペットを眺めている川原である。

 謝辞を読んだ不遜の秀才一年生川原は、既に同じ中学の先輩に誘われ生徒会会計となり、部活動では一度吹奏楽に所属したものの、ヒステリックにコンクールを重視する練習に納得出来ず、一日で辞めた。

 クラスメイトの中西優人に誘われて音楽部に入部したものの、あまりの緩さに馬鹿馬鹿しいと感じ始めた頃、響の音を聞いたのだ。

 『アメージング・グレイス』のセッションでは、血が湧き上がるような高揚感を覚え、甘さのあるトランペットの音色が耳から離れないでいる。

「響先輩……」

 銀のトランペットを撫でると、まるでそれが響の肢体を触れているようで、下腹が重くなった。

「……川原くん?は、早いね」

 ややアルト気味のテノールが川原を呼び止めて、川原は慌てて振り向き、何もなかったかのように、黒縁の眼鏡を中指で引き上げた。

「資料室の鍵……僕……ないから。楽器も……出さないと」

 部室である資料室の鍵は皆が持っているのだが、響の鍵はまだできていず、大抵黒田と一緒に来るのだが今日は一人でいて、扉の所で入っていいのかと一年生の川原を見上げているのだ。

「……どうぞ。リハビリは休みですか?」

 川原は精一杯冷静に、響を見下ろした。柔らかそうな茶色の髪がふわふわと揺れて、緑がかる瞳が泳ぐ。

「……木曜日だから、休み。その、僕の……トランペットを……」

「はい、どうぞ」

 ケースは辛うじて閉め、川原は撫でていたトランペットを寄越した。

「響先輩、『ベト五』セッション、どうです?」

 川原は資料室に一緒に行くと、椅子を出して響を呼び、響が戸惑いながら部屋に入ってとりあえずの譜面台を受け取る。

「響先輩のアレンジについて行きますから。ああ……譜面ありませんが、できますよね?」

 下肢を落ち着かせるように椅子に座り、川原はクラリネットを取り出した。

「……いいの?大丈夫かな……」

「腕が疲れたら辞めていいですから」

 クラリネットは『トランペットによく似た小さい音』という異名を持つ。トランペットとクラリネットの為の楽曲はないが、相性はいいしアレンジはある。

 ベートーベン第五番は、一般には『運命』と呼ばれ、クラッシックに手を染めた者ならば、一度は吹く名曲中の名曲だ。

「じゃあ……」

 響の第一音に、ぞくと魂が震える。クラリネットを装飾にして、さらに上り詰めるよう追い詰めるのに、トランペットはかわして高らかに響き渡り、雄々しく切り開くと言うよりは、甘苦しい悩みに頭を抱えて悶える、そう川原の苦しみのような……高みへ……高みへ……。ぷつ……とトランペットが途絶えた。

「すみません……無理……させました」

 入り込んだ演奏の果ての現実で、響が辛そうに左手首を抑えていた。響の音は弾き手も聴き手も、入り込ませ酔わせるのだと思う。だから、川原は言ってしまったのだ。

「響先輩……好きです」

 響が困ったように緑がかる茶淵の瞳を揺らしたのを、見逃す程馬鹿ではなく川原は苦笑する。

「すみません、困らせて。嘘です、気にしないで下さい」

 そして明らかに安堵した表情をした響を見て、間違いなく振られたのだと理解する頭脳が悔しかった。

「また、セッションして下さい」

「う……うん……楽しかった」

 緊張からか吃る響を抱きしめたくて、でも出来なくて

「鍵、閉めます」

とだけ言えた。
 
 川原の夢の中での響は、たどたどしくも色っぽく川原を誘い、川原はしばらく夢精に悩まされた。それを発散するかのように、幼稚園での『おどるポンポコリン』での歌パートを担当し、響の

「パッパパラリラ」

と鳴るトランペットに合わせて絶叫し、園児の人気者になったのだった。


~2~
 響の左手首は血管と筋を断絶した再建手術をしたものの、筋のリハビリを怠ったため、伸筋が硬くなっている。病院でのリハビリと、自宅でのゴムボールを握るリハビリ、マッサージの繰り返しで、五分程度の曲ではなんとかトランペットを支えられるようになっていた。

 最も一曲吹かせてもらえることはなく、ポインターではあったが、トランペットを吹かせて貰えることだけでも嬉しかった。

 幼稚園ではアニメソングや童謡の一部分を吹いたし、森野と白石の楽器で掛け合い『森のくまさん』や、川原の絶叫棒読み『おどるポンポコリン』は園児に大受けだった。

 吹奏楽コンクール時期に入り本家は忙しそうに朝練夕練を繰り返しているが、同好会は梅雨入りと共にもっぱら暇を持て余していた。

「じゃあ、響くん、今日は病院営業」

「は、はい」

 しかし響だけは『営業補佐』として榊について雨の中を歩いている。

 音楽部は学生ではあるが

『曲を提供し、金銭を頂き活動をする部活』

で、楽器は自前だが備品やスワローテール型のジャージユニフォームなどを購入する資金に充てている。その為、自分達を売り込みに様々な所に赴いていて、今日は総合病院の担当者と会い話をした。

「プロの演奏家に頼めば二桁行くが、僕らだと一桁かそれ以下で済む。しかも曲目自在だから、イベントとしては成立する。そんな隙間活動さ」

 そう言いながら榊が営業用鞄を持っている響に振り返る。

「で、響くん、今日はどうだった?」

 毎回聞かれる営業後の印象は、響を試しているようで、響は言葉を選びながらボソボソと話した。

「あまり乗り気ではないようでした……。七夕コンサート……お金を出して高校生を雇うのは……」

 五千円で一時間の七夕コンサート……悪い話ではないだろうが、高校生というメンバーにお金を払ってまで演奏してもらうことが嫌なのだろうという表情をしていたと思う。

「ボランティア演奏者は沢山いるだろうが、それでは価値がない。『音楽部』の価値を下げてまで市民病院で行うことはないね。響くん、電話貸して」

 様々な所へ連れ出され、様々な人々と話すようになり、響は呼吸が楽になった。過呼吸の発作も減り、資料室にも入れるようになったが、心配が一つある。黒田がトランペットを吹かなくなり、幼稚園の公演も出なかった。

 学校が終わると一人で出て行って、夜ご飯時に帰宅しては、ご飯を作ってくれるが、考え込んだように座り込んでいることが多いのだ。

「響くん、断りを入れた。さあ、六月は何もない。七月前半の商店街のボーナスセールだけだね。だから、ね。うん、夏休みに合宿をしよう!」

 『榊さま』のマイペースな発言に響は

「は……い?」

と目を丸くして答えるしかなかった。


 学校に寄り一応の顧問に報告をし、思っていたより遅くなって両隣のいないアパートに帰宅すると、黒田が先に帰っていて、響はほっ…と胸を撫で下ろす。

「おかえり、響」

 焼きそばの甘いソースの香りがして、響は急速に空腹を感じ始めた。

 野菜や食材を送って来る実家の段ボールの中身を捨ててばかりいた響とは違い、料理を含め家事全般が得意な黒田は、アパートに居座る代わりに生活費と家事を折半してくれていた。

 野菜と肉いっぱいの焼きそばを食べると、先にシャワーを浴びて、ドラムに服を突っ込み、黒田を見つめる。

 どうしても言いたいことがあり、髪の毛を乾かすことも忘れて、部屋の中で英語の予習をしながら黒田が出て来るのを待っていると、

「髪、濡れてるぞ」

 タオルを乗っけられがしがしと拭かれた。

 響はシャツとパンツだけ着た黒田が横に座ったのを確認して、過呼吸が起きそうなくらい緊張して黒田に尋ねる。

「くっ……黒田くんがトランペット吹かなくなったの……僕のせい?」

 黒田が太いが整った眉を寄せ、切れ長の黒目がちな瞳で見つめてきた。

「だったら、僕……やめ……え……?黒田くん……?」

 黒田が眉を寄せて涙を流し、敷布の上に座った膝を立てて顔を伏したのに、響は驚いた。

 黒田はよく泣く。涙もろいたちなのだろう。テレビ番組で泣くこともあるし、こんなところで?と思う日常で涙することもある。

「あの……黒田くんっ……」

 どうしたらいいかわからず、黒田の前に座り込むと、しばらく嗚咽を聞いておず……と短い強い髪を撫でた。

「あの……僕……」

「なんで鳴らねえんだよ……俺のトランペット」

 時任の言葉を思い出し、動揺に胸が跳ね上がる。

『俺のが鳴らねえ筈はないんだ。絶対にお前の音を超えてやる!』

 第一パートリーダーを選ぶ時、血を吐くように叫んだ時任は、トランペット講師の息子で英才教育を受けていた。

「あ……あのっ……」

「お前と一緒に吹きたいのに……指がビビってよ。お前の音を汚しちゃいけないとか……もうぐちゃぐちゃで」

 嗚咽の中で黒田の声がくぐもり、響は身体の大きな黒田の髪を撫で続ける。

「短期講習で吹き方から叩き直してもらったけど。俺は…お前と並んで吹けない……」

 響は黒田を抱きしめたくてたまらなくなり、髪を撫でる手を止めて首にふわ……と抱きついた。

 かすかなメンソールの香りは、黒田の持ってきたシャンプーの香りで、男らしい体臭に混ざり色香を感じる好きな香りだ。

「ねえ、黒田くん。僕は黒田くんのトランペット好きだよ」

 黒田のトランペット歴は小学校のマーチング・バンドの三年間だけと聞く。中学時代は家族の都合で吹奏楽部ではなく水泳部で、高校入学後音楽同好会に入って現在に至る。

「黒田くんの音は……男らしくて、低音が響く。肺活量……かな。僕には真似出来ない」

 響と出会うことで、自分の音を探し始め戸惑う黒田は、本当にトランペットが好きなのだろう。そんな黒田のことが好きでたまらなくなり、泣いている黒田の顔に両手を添えて上げさせた。

「響……俺は……どうしたらいい?」

 響は震えと怯えを嚥下して唇を黒田のそれに近づけ、時任に言った言葉をそれに近い事を告げる。

「ぼ……ぼくの音を掴んで、押し倒す勢いで……」

 あの当時の響は淀みがなく、今よりももう少し早口でキツイ言い方だったと思う。

「……黒田くんに……押し倒されるの……好きだから……」

 これは精一杯の響からの誘いだった。

 幼稚園の演奏会前からしばらく抱き合っていない響は、これが欲求不満かとわかるくらい下腹がもやもやとしていて、しかし自分では上手く処理できないでいたのだ。

「響……」

 ぽかん……と泣きべそのまま硬直している黒田に、響は黒田のボクサーパンツを下げて、多めの硬い下生えに隠れた穂先を握り唇を付けた。

「あっ……響っ……おいっ……」

 明らかに狼狽した声と、髪をやんわりと掴まれて引き離そうとしたが、響はいつも黒田がしてくれる行為をなぞる。上顎に切っ先を擦り付けると、下肢がぞわぞわと感じ、慌てて正座をして屹立してしまいそうな感覚を隠し、舌で扱いた。

 味のないぬめりが口に溜まり、それを嚥下して喉奥に長大な屹立を押し込もうとしたが噎せて諦め、穂先を吸い舐めながら、指を根元に這わせて裏筋を撫でる。

「響っ……もっ……離っ……ぐっ……う!」

 ちゅう……と吸い上げると、口の中一杯に生暖かいぬめりが溢れて慌てて口を離す。残滓の一部が頬と柔らかい髪にかかり、滴るこれをどうしようかと悩んでいると、空気に触れて白濁のきつい臭いに変わって、響は噎せて吐き出した。

「かはっ……はっ……」

 黒田が慌ててタオルで口を拭いて来た。

「響、こんなもん、飲むな。全部吐け!」

「う……う……ん。げほっ……」

 口の中と、顔と髪にかかった白濁を拭われて、響はきつく抱きしめられ、黒田の筋肉質の背中に腕を伸ばす。

「くっそぉ……響のくせに……響のくせに……」

「うん……うん……」

 また黒田が泣いている。響の背中に涙が落ちてきた。

「俺……格好悪い……」

「黒田くんは格好いいよ……」

 苦しいほど抱きしめられて、声が出しにくい中で響は呟く。

「ちくしょう……」

 響はぐずぐずと鼻を鳴らす黒田を、ぎゅう……と抱きしめ続けた。



 『趣味・人間観察』の藤井は、教室に入ってきた響を見ていると、いつも申し訳なさそうに背を丸めて静かに入って来るのに、響は顔を伏せずに急ぎ入って来て、藤井に真っ直ぐに向き直るのに驚いた。

「おはよ、響くん」

 響はやや緊張しているのか、過呼吸を堪えて何とか藤井に話そうと必死の様子だった。

「お……おはよ。あのっ……きょ……今日……部活……やってくれないかな。黒田くんと……吹くから……」

「あいつと?」

「う……うん。みんなにいて欲しい」

「分かったし。榊先輩には話しておくて」

 明らかにほっ……とした様子で、席に座るとカバンの中身を出している響に、藤井は正直驚いている。黒田に対して、何かのアクションをしようとしているのだ。

 それについて思わず考えてしまい、気もそぞろで授業に身が入らず、今日の学習の大半は頭からすっぽ抜けていて、かなり反省しながら、ホームルームが終わると早めに教室を出て、資料室のドアを開けて椅子を出す。

「……よう……」

 トランペットを持って部室に入る黒田が、少し青ざめた顔をしていて

「……大丈夫なん?」

と声を掛けるが、黒田は軽く手を上げてスタンバイを始めた。

「すっげえ、緊張してるし……ヤマトで頼む」

 吹奏楽やマーチングで定番の曲だが、

『宇宙戦艦ヤ~マ~ト~』のファンファーレから始まる音楽部アレンジの曲は、最初からトランペットが飛ばすのだ。

 めいめいが声を出しながら部室に入って来て、楽器を用意しながら突然の招集にぼやくわけでも無く、久しぶりに見る黒田に軽く手を挙げたりと、音楽部はいい感じだ。

 ただ、そこに響がいない。

「ひび…」

 音出しを始めたブレスの中に、トランペットを手にした響と川原が遅れて入って来て、黒田の横に座り茶色い縁の緑がかる瞳を閉じた。川原と一緒ということは、トランペットを第二音楽準備室から出して、何処かで先に練習をしていたのだろう。

 藤井としても、響がホームルームの時間にいたのかいなかったのか……記憶にない。

 雰囲気が違う。いつもの頼りなげな感じとは違い、研ぎ澄まされた空気を纏う響に、藤井は生唾を呑んで楽譜台の前に立つ。 

「では、『宇宙戦艦ヤマト』を」

 タクトを構えて下に振り下ろす。トランペットのファンファーレから始まる、その圧倒的な二人の音に、藤井は目を見張った。黒田と響が競い合っているのだ。黒田のピストンを押す指とタンギングが違う。キレがあり、低音が響く。

「……っ」

 前奏の音に入り、一斉に音が増えると、響と同じパートの黒田の音が弱くなり、黒田が音に戸惑い、響の音は鳴っているのに、吹き止めようとする。

「……負けるなっ!自分の音を聴け!」

 叫び声がした。

 一瞬誰が発したか分からなかったが、あの響がマウスピースから唇を離し、黒田に叫んだのだ。急速に黒田の音が戻ってきた。しかし伸びるのは低音で、響の高音とピストンの動きには届かない。

 最後のフレーズに入り、響のトランペットが徐々に下がり出した。手首が痺れてきたのだろう。しかし、タクトを止めなかった。
ドラムがなり、最後の低音小節は黒田が吹き切り、響は必死でトランペットを支えていて音が弱い。

 突然気づいて、

「あっ…!」

と声を出し、藤井はタクトを止めた。

「あ?」

「あれ?」

「おや?」

 三年生組が小さくため息を付き

「助かった…」

「もう、なんなんです、音バトル?」

「何なんだよ、ぶっ飛んだトランペット…音についていけない…」

と一年生組のブレスの双子と、そして川原が荒い息をついており、

「なーんで、手を止めんだ?藤井」

とドラムの打田が声を出して不満気味だったのだが、その横で

「勘弁してよ…」

「ゲロ吐きそう…」

と時岡と金城がへたり込んでいた。

 藤井はタクトを止めて、一同を見渡す。

「黒田と響くんでは、音の本質が違う。白石さん、簡単でいいんで、高音パートと低音パートの譜分け、即興で出来ますか?」

 音楽部の譜面作りを担当している白石が、トランペットの楽譜を見て、

「第一と第二ってことやなしに、主旋律から通常音を高音パートにして、低音パートを作り出せってことか?ははん…来いよ、響」

 トランペットを持てなくなっていた響が、白石に呼ばれて腕を押さえながらキーボードの前に行く。

 森野も響の横に行き、リストバンドを外すとマッサージを始めていた。

 藤井は放心したように肩を落として座り込む黒田の横に行く。

「黒田、負けてへんかったし」

「……嘘こけ」

「嘘じゃないて。低音は負けてないんだ。さすがの肺活量、元水泳部ってとこやん。響くんと同じパートを吹いてはダメなん、音質がそもそも違うんだし、だから、わざと分けて一つにするんよ」

「わざと一つ?」

「うん。第一パートと第二パートって分けるのもありだけど、同じ旋律を下げて……ええと、響くんの音が女性で、黒田の音が男性で、デュオみたいな感じで絡み合う音が欲しいってことやん」

「はあ……」

 分からないといった風の黒田の後ろでは、キーボードを弾く白石の音を忠実に譜面に写す響が見える。

「じゃ、トロンボーンも変えないと……だ。森野、いいか?」

「うん、僕は構わないよ」

 白石が更にキーボードを弾いて行き、数枚の手書きの譜面が行き渡り、藤井は変更した音を確認した。

「……黒田くんの、沢山変更したから、ピストン番号書いたよ」

 響が黒田に譜面を持って行き、黒田は「さんきゅ」と、譜面を見ている。譜読みを始めたのだ。

「こんな楽譜初めてだ……」

 黒田が藤井を見上げ、藤井はタクトを構え笑った。
 
「俺ら方式だ。さあ、響くんと絡んでみなよ。行くよ」

 タクトを振り上げ、最初のトランペットが鳴る。

 重低音がシンクロしてハーモニーを奏でる。まるで床屋の赤と青の回転ネオンのように、離れることなく完全に寄り添う音色は、闘うのではなく互いを尊重し高め合うシンフォニックで、そこに金管の友愛のようなビロード音が重なり包み込み、打楽器と電子音が地平線を広げる。あっと言う間に最後のフレーズに辿り着き、藤井は広げた手を上に上げて止めた。

 長めの顎から汗が滴り落ち、タクトを持つ指からも落ち、憧れのジョンレノンの眼鏡はずれ、ぐちゃぐちゃのまま放心し、ようやく音の余韻から解き放たれ、メンバーを見下ろすことが出来る。

 メンバーも茫然自失というか放心状態で、黒田はトランペットを構えたままだし、ただ……響がトランペットを抱きしめて……泣いていた。

「え……あの、響くん?なに、何か悪かったん…?」

 藤井は動揺して響の元に駆け寄る。

「ち……ちが……う……嬉しくっ……嬉し……」

 何度も首を横に振って、トランペットを抱きしめて啜り泣く響は、吹奏楽……いや、すべてで孤独だったのかも知れない。

 ソリストと称されて、パートリーダーとして、部長として……響はそんなことを望まなかったのかも知れないと藤井は思った。

「う~ん、やっぱりいいねえ!さあ、僕等の音を極めるために合宿をしよう!」

 部長の榊さまの一声に、夏休み入ってすぐの合宿が決まった。



~3~
 響は学校から帰り、シャワーを浴びていた。

 演奏の後で泣いてしまったし、二度の演奏や緊張から汗をかいていたからだ。初めての手応えに身体の芯から震え、黒田の男らしい低音が、響の音に寄り添いダンスをするように鳴る。

 響の音を認めて愛してくれる黒田の音は響には男らしく官能的で、思い出した今シャワーの中で半勃ちになってしまった。昨晩の一件で黒田は眠ってしまい、響はしばらく悶々としたが、黒田と会う前は『あれ以来』自慰もなく過ごしてきたのだから、やり過ごすことが出来た。
 
「買い物に行くから、先に帰れ」

 黒田と学校で別れて帰宅した響は、今回も冷たいシャワーを浴びてやり過ごすことにする。何とか火照りが治まり、カランをひねり風呂を出ようとした響は、

「あち~な、もう」

と入ってきた黒田に抱きとめられてキスをされた。

「黒っ……ん……ふ……ぅ……んっ……」

 キスは唇を割り舌を吸い、やわやわと噛まれて、気持ち良くて膝が震え力が抜けると、腕を掴まれる。

 カチ……と乾いた音がして、響はシャワーのカランにオモチャらしい手錠で繋がれてしまった。

「なっ……黒田くんっ……」

 腰あたりのカランに両手を拘束され、膝立ちの状態で黒田に尻を突き出す形になり、響は真っ赤になってまた半勃ちになった前を隠すように膝を閉じる。

「黒田くん、やだよ……これ」

 黒田も裸であぐらをかいて座り、響の突き出さざる得ない尻を撫でながら、

「響のくせに生意気だったか、お仕置きだ」

「な……なに……」

 黒田が浴室内に干してあるタオルから洗濯バサミを外すと、響の乳首を摘まむように捏ねて、乳輪を下から掬い上げるように挟んだのだ。

「ひっ……痛いっ……痛っ……黒田くっ……」

 左の乳首を下から挟まれ痛くて辛いのに右の乳輪も挟まれ、響は鼻の奥がつん……として涙が出てくる。

「痛いくせに、前はすっげ……溢れてるぜ?」

 低い声で囁かれて屹立を撫でられ、空いた手でずきずきと痛む乳首先をくりくりと潰されると、更に下腹に力が入った。痛くてたまらないのに屹立は脈打ち、乳首を触られる度に襞どころか内壁がうねり、響は腰を揺らす。

「やっ……やっ……やだあっ……触らなっ……出……っ……漏れちゃうっ!」

 黒田の指が尻襞に入り込み、響は手から逃れようと身体を縮めたが、カランに洗濯バサミが当たりそれが強烈な刺激となって、下肢に駆け巡った。

「やっ……あああ……!」

 響は仰け反り、限界の屹立から白濁を飛沫させ壁を濡らす。

「ひっ……ひっ……あっ、あっ」

 内壁か何度もしゃくりあげるようにうねり、黒田の手にもたっぷりとかけてしまう。

「すっ……げえ……。盛大なイきっぷりやん」

 黒田の笑いが混じる声に、響は背中まで真っ赤にして嗚咽した。

「こ……こんなのっ……ひっ……ひどっ……」

 黒田が背後に回るとひくつく襞を屹立で拡げて来る。

「あっ……はぁっ……あ、あ、入って……んんんっ」

 ぶるぶる……と身体に震えが走り、響は内壁が気持ち良くて息を詰めた。腸内が痙攣しているみたいに動いて、黒田の長大な屹立をやんわりと食んでおり、響に絶え間ない快楽を送り続ける。

「っ……く……てめ……気持ち良すぎ。おら、響、鏡見てみろよ」

「……え?」

 カランの上には鏡があり響の蕩けた顔を映し出し、黒田がぐ……んと突き上げて来て、響は仰け反り胸への戒めすら見てしまう。

「やっ……」

 鏡には蕩けた響の顔と背後から黒田の少し苦しそうに眉を寄せる精悍な顔を映し出していて、淫蕩な自分の様子に響は見ていられず目を閉じようとした。

「見とけ……はあっ……ちくしょ……お前が好きすぎて、ぐちゃぐちゃに虐めたくなるっ……」

 後ろから激しく貫かれてローションと腸液が混じり合った液体が泡立ち、黒田の裏筋や血管の浮き出た屹立の隙間が作る鈍い肉の音が響く。

「あっ、あっ、あぁっ……」

 後孔を強いグラインドで突かれる度に、漏れる声は喘ぎ甘くなり、響は脳内までしびれる感じがした。

「くっそ……」

と黒田の指が慢性的に痛む両乳首を摘み潰して、響の喘ぎは悲鳴と喘ぎが混じり合ったものに変わる。

「ひっ……あっ……痛っ……あっ……あっ……やだっ……出っ……ううっ!」

「も一回、イけよ、おらっ……」

 両乳首をぎゅう……と潰されながら、尻をひくつかせ襞が搾り上がる。

「あっ……あっ……ひあっ……」

 鏡に映る響は黒田の胸へ頭を擦り付け、涙を流しながら叫びすぎて口端から唾液が滴った淫らな顔をしていて、鏡にぱたぱた……と響の白濁が飛んだ。

 まるで響の顔に掛かるような白濁を見た黒田がら響の肩を噛んで来る。

「ひっ……あっ……」

 腰を掴まれて奥底を左右に揺すられ、黒田が唸り声を上げながら、響の中に白濁を叩きつけるように排出した。

「くそ……持ってかれた……」

 乳首の洗濯バサミを外され、一気に血流が巡り感覚が鋭くなり、黒田が指で揉んで来て、ぞく……と甘い痺れが拡がる。

「ん……っ……ん……またっ……」

 乳首の気持ち良さが、下肢に直結し、黒田の排出しても存在感のある楔を締め付け、軽く達してとろ……と白濁が切っ先を濡らした。

「またイったんかよ……」

「だ……誰のせ……せい……」

 歯型のついた肩口を舐められキスをされて、黒田が後ろから抱きしめながら手錠を外してくる。

「響がエロいのも、響が可愛いのも、響の乳首が気持ちいいのも、全部俺のせいだ。ちくしょう……好きだ。好きすぎてぐっちゃぐちゃにヤりまくって、ヤり殺してぇ……」

 響は真っ赤な筋のついた手を後ろに回し、黒田と繋がる襞に這わせた。

「響……?」

 響の尻襞は淵まで限界に伸び切っており、黒田の強い下生えがびっしりと生える根元まで飲み込んでいて、指でその太さを感じ下生えの当たる下腹を撫でる。ありありと感じる熱い体温が好きだと響は思うから、はしたない言葉も紡ぎ出せた。

「ヤりこ……殺していいよ……。黒田くん……好き……っ」

「このあほんだら。も、止められせんし……」

 響も黒田も今日の魂を重ねたような演奏で、どこかおかしくなっていたのかもしれない。黒田が唸り声を上げて床に響を押し倒し、胸に膝が着くほど折り曲げて、白濁を溢れさせん程に再び激しく貫いて来て、響は甘く喘ぎ続けた。





~3~
  黒田は自分の音を見失って以来、地方赴任の親に頼んで金を出してもらい、週一で市内楽器店のトランペットレッスンを受けている。

 『宇宙戦艦ヤマト』で自分の音を取り戻した今も、指番号や高音への取り組みとして通い、週一になった響のリハビリの曜日と合うから、響を病院に送ってからレッスンを受け、リハビリ後に響が来る楽器店で待ち合わせをしていた。

 六月の末の暑いアーケードをくぐり抜け、楽器店の自動ドアが開く。

「チィース」

 奥の教室スペースには、すでに年配の女講師がいて、黒田を見ると手を挙げた。

「少し早いけど始めよう。音階とロングトーン」

 ふっくらとした指で黒田に指示を出し、黒田は毎回の基礎練習を身体に叩き込む。たった三十分のレッスンだが、音楽部では成し得ない練習で、この女講師はうるさいことを言わないが、ポイントは的確で黒田のトランペットは鳴るようになっていた。

「うん、君は肺活量があるからいいね。高音も出てきた。もう私の所に来なくても……」

 黒田は首を横に振り、苦笑いをする。

「俺と組んでる奴がすげー上手い奴で、あいつの横っていうか、一緒に吹きたいんで」

 女講師は

「君のトランペットは高校の吹奏楽で十分聞けるよ?」

と腕を組んだ。

「奴は超高校級なんで」

 教室から響が店に入るのが見え、黒田は

「あ、あいつなんですけど」

と高校男子にしてはほっそりと小柄な響を指差した。

「あんな小さい子が、君の目標?面白い、教室に招いてよ」

 まだレッスン終了には五分程あり、黒田は響を呼んでガラス張りの教室に迎え入れた。

「な……なに?」

「俺がレッスンを受けてる木村先生が、お前のトランペット聞きたいんやて」

 黒田が色褪せた金のトランペットを

「マウスピースは洗った」

と響に寄越した。

「……吹くの?」

「急にごめんな、君。黒田君の目標のレベルを聴きたくてね」

 響が困った顔をしていたが、黒田の顔を見てトランペットを構え、軽く音を出す。

「す……少し音が違う……。な、直すね」

 木村講師が太った腕を組んで響を見ていて、それから第一音を聞いて驚いた顔をした。

 響が『アメージング・グレイス』を吹き始めた。

 スラーが甘く綺麗で、黒田のトランペットとは思えないほどの音の解放に、黒田は自分の力不足を感じてしまうが、いつもはなんか……こう……響の音が違う気がする。

「も……もう……いい?」

 数フレーズで響はトランペットを離し、マウスピースを拭いて黒田に渡した。

「……この音。響くんか……君があの『響京介くん』なんだね……そうか……そうか……」

 響が木村講師の発言に身を竦ませ

「ひっ…」

と息を呑み過呼吸の前兆を起こし、黒田は響に

「大丈夫だ」

と座らせた。

 木村講師の人となりは、この一ヶ月…いやゴールデンウイーク明けの『毎日二週間!君もトランペットマスターコース』で毎日会っていたから理解している。


 大丈夫だ、多分、いや、絶対。

「木村先生、響は前の学校で脅されて、人前でトランペットを吹くのを辞めたんだ。だから……」 

「そうか… 。そうなんだね……だから辞めて、か……。うん、心しておく」

 木村講師は肩を竦めそれ以上は聞かないでくれて、響も黒田もそのまま教室を後にした。


 『宇宙戦艦ヤマト』での吹き合わせから、響が変わったと思う。
そして響のアパートに帰ってからの『お仕置きセックス』とやらは、さらに響の殻を一枚壊したようだ。

 ただ、その日はあの後も風呂で求めあい、軽くシャワーを浴びて部屋でも抱き合いお互いに何時間も貪り続けた。

 黒田ですら次の日の土曜日朝起きられず、日課のジョギングが出来なかったし、響は日曜日までベッドから出られないばかりか、しばらく下半身を中心とした全身筋肉痛に悩まされていた。

 あれ以来、響は言葉少なにも毎日抱かれたがる。確かに響の負担になるのに、黒田は背徳の悩みの中で快楽に溺れていた。



「んっ……黒田く……んっ……イくっ!」

 風呂へ入り寝る前の儀式のように、響にのしかかり屹立を扱きながら腰を進める。手に響の白濁が溢れ、きゅっ……と襞が収縮し黒田は排出感に耐えた。

 外で達した後の内壁はきつく柔らかく収斂を繰り返しうねり、黒田は少し引き気味に響の一番感じる核を肉壁越しに突いてやる。

「やっ……んっ……ぅんっ……また……イくっ……」

 程なく内壁刺激により絶頂に、響が黒田の背中にしがみついて、小刻みに痙攣する内壁をかき混ぜてやると、小さな快楽絶頂が繰り返しているのか響が気持ち良さそうに弛緩していった。

「じゃ、動くぜ?」

 我慢に我慢を重ねた黒田は尻肉を掴むと、タオルケットを蹴散らして、最奥を手荒く蹂躙する。

「あっ、あっ、あっ、やっ……ああっ!」

 響の胸に唇を這わせると柔らかく膨らんだ乳輪と乳首を噛み舐め、その度に襞が引き搾られ気持ちいい。

「やっ、やあっ、んっ、またっ……!」

 奥の奥まで激しく揺すり太い根元をぎゅ……と締め付けで来る、さらに切っ先を搾るような奥襞の括れの良さに、響の柔らかく膨らんだ乳首を噛みながら黒田は飛沫させた。

「んっ、んっ、んんんっ……!」

 歯を食いしばり残滓のようなわずかな白濁を痩せた腹に散らした響が、三度目の絶頂に脱力して、黒田の肉厚な背中に回していた腕を解いて、ぐったりと敷布に投げ出す。

 響の内壁から名残惜しそうに屹立を抜くと、黒田はタオルでぬめるローションや白濁を拭い、響の腹やら胸やらに飛沫した白濁を拭いてやった。

「こら、腹を壊す。中の出さんと……」

 薄暗く照明を落とした中で、響は眠りに入ろうとして横たわり、

「このまま……で、いい」

と黒田の腕を引っ張る。背中を抱きしめられて眠るのがお気に入りらしく、響は背を向けてすぅ……と眠りに入り、黒田はバスタオルを敷いた敷布に横になる。

 一緒に過ごしてみて、響はややずぼらな性格のようだと思う。生活基礎がなっていないようで、ゴミ出しはゴキブリが苦手だからこまめに出すが、あとは最低限…という感じだ。

 出会った頃も今も料理は皆無。鍋やフライパンなどは新品だったし、慢性的に生きるためだけに食べる食品は、コンビニエンスストアの弁当やカップ麺で、どうにも面倒で食べない時もあったらしい。

 栄養不足の為あばらの浮いた響も、黒田の食生活により少し柔らかな肢体となって満足している。その身体を背後から抱きしめて、お互いの裸の下肢にタオルケットをかけて眠りについた。

 響は背中にあたる黒田の屹立の存在を感じて、横倒しに寝たまま響の腹に乗る太い片腕を撫でた。



 まだ明け方の明るさが白々としていて、響は昨晩の甘い余韻を思い出し腕を解こうとした。しかしその腕はゆっくりと胸を撫で、響のふっくらとしてしまった敏感な乳首を摘み、くりくりと指で遊ぶ。

「んっ……ぅっ……」

 響は掠れた甘い吐息を放ち、ひく……と屹立してしまい、黒田の腕をやんわりと止めが、黒田の別の手は裸で横たわる響の尻の狭間に入り、襞をそろり……と撫で指を入れて来た。

「黒田く……ん……ぁんっ!」

「柔らかい……」

 黒田が敷布の端に転がっていたローションを掴むと、自分の屹立の根元まで塗り込め二、三度後ろから襞をつつくと、昨晩の白濁のぬめりを借りて一気に貫いて、響は内壁快楽に震え達して、わずかばかりの先走りをバスタオルに垂らす。

「はっ……はぁ……んっ……うううっ!」

「入れただけで、イったんか?おんし抱かれるための身体やん。気持ちいい……おんしは?」

 黒田が耳元で囁きながら尻を穿ち、響の弱い屹立先と乳首を扱きながら、朝立ちを内壁に擦り付けてくる。

「き……気持ち……い……い……」

 こんなにも狂おしく気持ち良くなってしまい、響は二年前の『あの時』への嫌悪を忘れ溺れていた。

 内壁を擦られると尾てい骨側が痺れ、襞環を前後し縁がめくれる程拡げられると、気持ちいい。内壁から核を潰されるように揺らされると、腰の抜けそうな絶頂がやってきて、白濁も出ないのに腰がとろけそうになり、全身から力が抜ける。

「イきそうか?」

 横たわる響の後ろから攻めていた黒田が、気持ち良さそうに吐息を噛み殺しながら聞いてきた。

「んっ……っ……あっ!」

 核をぐんっ……と突かれ、刺激に響はびく……と腰を震わせた。黒田が扱く手の中に、力なくわずかに溢れさせ、バスタオルに薄くなった白濁を零す。

「くっ……」

 黒田の白濁が体中に出されたのが幸せに感じられて、乳首を弄ぶ黒田の腕を抱きしめた。

「ふ~っ。響……シャワーせんと」

 萎えてなお充足感を感じる穂先を抜かれ、引き寄せられて正面からキスをされる。

「うん……」

 毎日ではないがこんな日は、ランニングに行かず響と抱き合うことにした黒田の心遣いに甘えて、黒田の胸に頭を寄せた。情事後で黒田の男らしい香りがより増して、響はその匂いに至極安心し、こんなにも黒田に、快楽に、依存していることを改めて感じてしまう。

「く……黒田くん……おはよ。あ……あの……好き……だよ」

 黒田が嬉しそうに、目を細めて抱きしめてきた。




~4~
 登校早々、中西家の双子のやんちゃな片割れ秀人は、引くに引けない状況になりクラスで叫んでいた。

「響先輩のが、絶対に上手い!凄いんだぜ?」

 吹奏楽部の女子が秀人の言葉に、

「だったら証明してみなさいよ!」

と反論して来る。

「いいぜ!絶対に響先輩が勝つに決まってる」

「じゃあ、『シェヘラザード』で勝負しなさいよ。負けたら、音楽部は廃部だからね!」

 シェヘラザード……聞いたことはないが、響なら絶対に吹けるし絶対に勝つはずだ。

「たかが同好会」

「どうせサークル」

「馬鹿馬鹿しいパフォーマンス集団」

と馬鹿にしてくる吹奏楽部の女級長をどうにかしてやりたくて、

「分かった!」

と秀人は答えたのだった。



 響は黒田から資料室の鍵を借りて、自宅から持ってきたトランペットを出すと、資料室を締める。黒田が習っているトランペット講師に持ってくるように言われたからだ。気が進まないが、黒田がどうしてもと言うし、リハビリが終わってから、不安が残るが黒田と教室に行く為にした。

 リハビリの理学療法では、温め、筋肉トレーニング、マッサージと行っているが、最初の緊急手術では血管を修復するのが中心で筋を荒く縫われており、リハビリもしていないので硬く強張っていたから、完治は出来ないそうで、しかし解決策もなく時間がかかっている。森野総合クリニックから出ると、躊躇しながら楽器店に向かい、程なく着いてしまう。

「響」

 外で待っていた黒田が響見つけ、響は木村講師の待っているガラス張りの教室に入った。

「やあ、ごめん。不安にさせたかな?」

 木村講師は響と同じくらいの背丈の、初老のふっくらとした女性で、化粧っ気のない人だった。

 喋り方がさばさばとしていて、

「君の本当の音が聞きたい聴きたい」

と響のトランペットを指差して来た。

「え……あの……はい……」

 断りきれず響はトランペットを出し、『アメージング・グレイス』を吹き始める。

 黒田には悪いと思うが、自分のトランペットの方が鳴るし、音が澄んでいて気持ちがいい。

「ん、ん、いいね。黒田くん、わかるかな、違いが」

 黒田が低い声で

「なんで…こんなに音が違うのん?」

と呟いた。

「響くん、違いがわかるかな?」

 木村講師に言われて響はちら……と黒田を見て、黒田が頷いて促したので話しをする。

「リンが……多分、何度か落として……歪んでる。叩いて、な……直してるみたいだけど。音は歪むから……響かない」

「そうだね。正解だ」

「俺、でも、落としたことない」

 木村講師が頷いて

「黒田くん、トランペットの入手法は?」

と尋ねると、黒田は困ったように頭を掻いた。

「小学生の時、マーチングでトランペットが足りなくて、親が買ってくれたんだよ。郵送で受け取ったから、通販かな、多分。マウスピースだけはここで買ったんだぜ?」

「吹き比べて確かめるのが、トランペットの買い方なんだけどねえ……。今時だか、世相だか……厄介だよねえ」

 木村講師は太めの身体を揺らしながら、奥から黒いトランペットケースを持って来て黒田に渡すのを、響は自分のトランペットを手入れしてしまいながら見ていた。

「マウスピースは自分のをつけて、このトランペットを吹いてみよう」

「はあ……」

 黒田がトランペットを構えて吹いた途端、『宇宙戦艦ヤマト』のソロの低音に、ぞくぞくと背筋が震え、まるで黒田に耳元で囁かれるかのような、尾てい骨を直撃する音に、響は膝から力が抜けてへたり込む。

 宇崎……いや時任以上……いや、自分の低音以上の音に指が震え、真剣に吹きたいと高校に入って初めて思った。

「く……黒田くん、も、もう一度」

「お、おう」

 黒田も自分の音に驚いているらしく動揺した様子だったが、再びトランペットを構えてくれて、二人で恍惚とするハーモニーを奏で、響は泣きそうになった。

「これはっ……先生!」

 自分の音に驚いている黒田が、木村講師に振り返る。

「楽器の力不足なんだよ。ま……値段とトランペット相性かな?君にはこのトランペットが合ったんだ。黒田くんトランペットを貸してあげるよ。君らはプロになる気はないだろう?高校あと一年間半を楽しむ為の無料レンタルだ。使って欲しい」

 無理矢理だが貸してくれた木村講師の暗い表情に、黒田が眉を寄せたが何も言わなかった。



 木曜日。響は部活の時間が待ち遠しくて授業が終わると、日直の藤井を待ちきれず、黒田を連れて廊下を出る。

 さすがに両隣のいないアパートでもセッションできず、部室である資料室で吹こうと黒田に話していたら、部活緊急招集があり夏休みの合宿まで演奏会はないはずだったから、新しく何かイベントを申し込まれたのだろうと思って、黒田の用事が終わるのを待っていた。

「黒田くん、もうじき終わるし」

 廊下でトランペットを抱えていた響を見兼ねて、班の用事でなかなか出てこない黒田を活発そうな女子が呼んでくれる。

「あ、ありがと」

「大変なことになっちゃったみたいやん。でも、うちは響くんを応援するしね」

 名前の分からない女子が笑いかけてくれて、響はどうしていいか分からず頭を下げた。

「響、悪い、待たせたし。藤井は俺よりも先に終わったみたいだし。悪かった」

「う、うん。音楽部にいこうよ」

 時間よりも少し遅れた響は、慌てて黒田と資料室に上がって行き、扉をスライドするとともに聞こえてきた、部長の榊の信じられないほど厳しい怒鳴り声に驚いた。

「なんて勝手なことを!」

「だって、だって!響先輩が負けるはずないやんっ!」

「すみません、僕が止められなくて!」

 扉を開けると、榊が秀人と向き合っていて、響に気づくと困ったような顔をして同時に叫ぶのに、響は驚き後ずさり、何人かの顔を伺いどうしたらいいかわからなくなり、胸が痛くなってきた。

「響くん……!」

「響先輩っ」

「先輩、すみませんっ」

 心臓があおり過呼吸がやってきそうな響を、後ろから支えてくれたのは黒田で、響は藤井が用意してくれた椅子に座って深呼吸を繰り返した。

「もう……平気。ありがとう、藤井くん」

「いえいえ、響くんのためなら」

「藤井……たらすなや」

「心外だがね、これは心安い友人として……」

 こんなやり取りに響は、少し笑ってしまう。

「響くん、『シェヘラザード第一楽章』を知っているかい?」

 みんながバラバラに座る中、トランペットを吹く雰囲気ではないと理解した響は、知っている曲だから頷く。

「それを吹奏楽部で吹いて欲しい。月曜日、あちらの第一トランペットリーダーが吹き、その後響くんが吹く」

「え……?」

「もし、吹き負けるようなら……音楽部は解散し、僕らの金管、木管は吹奏楽部に組み込まれる」

 榊が難しい顔をしていて、響は藤井を見た。藤井も頷き、ことの重大さを理解した。

「ぼ……僕が吹けば、い、いいの?楽譜、あ、あるかな……」

 部活が無くなるのは嫌だったし、『シェヘラザード』は吹いたことがある。しかし『敵』となる吹奏楽部が演奏をしてくれるのか。

「その前に、響は音楽室に入れないだぜ?吹奏楽部は音楽室でやってんだよ」

 黒田の言葉に一同が、忘れていたとばかりに頭を抱えた。

「そうだな、そうだった。新入部員の響くんに、部活の一大事を任せるなんてどうかしてる。秀人くん、今からでも土下座でもして謝っておいでよ」

 榊が秀人の前に立ちはだかり、扉を指差し促す。

「や、いやだ!だって、響先輩を馬鹿にしたんだよっ!たいしたことないってっ!俺と優人の大好きな音を馬鹿にされてっ!こんなん、絶対謝らないよっ!本気の響先輩の弾き方を、音を知らないからっ!」

 泣きながら喚き散らす双子の片割れの肩を抱きしめて、優人が唖然とする先輩達を見上げた。

「僕らはネットで響先輩のトランペットをずっと聞いていて……ファンになって……すみません。僕が秀人の振りして謝ります……」

「優、謝っちゃだめだ!響先輩を認めないことになるっ!うわあああん……!」

 こんなにも響の音を愛してくれている人がいて、響は何もできない自分に悔しくて……しかし……この学校でも音楽室に入れないのだ。高校一年生の頃、音楽室で過呼吸を起こし倒れた響に配慮して、学校側が極力音楽室を使わない授業をしてくれている。

「……ようは、音楽室に入れればいいんやし?何とかしたる。ただし、秀人、お前も責任取れよ」

 響は黒田を見た。

どうやって音楽室で過呼吸を起こさないようにするつもりか分からず、響は椅子に座ったまま動けずにいた。



 響は昼食の弁当を必死で全部食べると、よたよた…と教室を出る。

 昼休みは長いようで、用事がある者には短い。

「んっ……」

 渡り廊下を越えて特別校舎の三階に上がって行き、体内の異物感に座り込みそうになるが、なんとか音楽室に向かい扉に手をかけた。

「開かない……」

 長くなった後ろ髪が嫌な汗でべたつき、隣の準備室にいくと開いて、繋がる引き戸を開き音楽室を見つめた。首からタオルを下げピアノの椅子の前に立ち、ゆっくりと息を吐いて、ロングトーンの練習をしている。

 黒田の美しい低音は、類い稀なる肺活量と、体幹の歪みのなさにあると木村講師は言っていた。響はそれに含め、黒田は真摯な努力家なのだと思う。

「ん……ぅ……」

 ぞく……と身体が震え、床に座り込みそうになる。中の異物を無意識に締め付けてしまい、扉にすがった。

「響、来いよ。出してやるから」

 響に気がついた黒田がピアノにもたれて、手招きをする。

「で……でも……僕……」

「じゃ、帰りまでそのままだな」

「そ……そのまま?い、いやだ……こんな……」

 恥ずかしくて恥ずかしくて、朝からトイレにも行けていないし、中の物が音を立てているようで動きが緩慢になるし、午後は体育もあるのだ。昼休みだって無限ではないから、このままいるわけにはいかない。

 ここは……別の音楽室で、音楽室には黒田もいて、過呼吸になっても助けてくれるから、黒田は響を裏切らない……だから!

 響は大きく息を吐いてから音楽室に走りこみ、薄青の夏服半袖シャツの逞しい胸に飛び込んだ。

「響、入れたじゃないか」

「……って…て取って!出して!中の!」

 音楽室に入れたとか、過呼吸とか、そんなことよりも、敏感な内壁と襞に感じる異物感に耐えられず、黒田にすがる。

「分かった、分かった。ピアノに手を着けよ」

 響は外からも音楽室の扉からも死角になる場所を選んで、グランドピアノに手を着くと、ベルトを外され下着をずらされて、汗ばむ尻を突き出させるように手を添えられた。

「丸いローターをがっちり食ってるぜ、お前の孔」

「い、言わないで!と、取って!」

 響の尻には朝出掛け寸前に、ミニローターというものが押し込まれ、ひもからつながっているものの奥に入ってしまっている。

「最近の店ってなんでも売ってんな」

 つまり黒田が目にしている光景は、白い尻の最奥の孔からひもが出た滑稽な姿で、響は羞恥に汗が噴き出した。

 それだけではないのだ。

 内壁は異物感にうねり、排出しようと締め付けて襞に刺激を送り、襞が敏感な響は甘い戒めにさらされ続けていて、全身がびりびりと電気が走るようでたまらない。

「出してやっから、もっと尻突き出し」

 響はシャツをまくられ腰を突き出し、黒田の指を感じて息を呑み、何度か揺らされて甘い吐息がこぼれそうになりなる。

「力抜けって……いや、お前の孔が締め付けてるから、出ねえ。力いれてひり出せよ。無理とか言うなし」

 響は尻たぶをぺちぺちと叩かれ、引っ張られて抜けない異物を自分でですように要求され、それに合わせて排泄するように力を込めた。

「ひ、ひど……ぅ……んっ……くぅ……っ!」

 襞が広がり丸い異物が出ていくのがわかる。ぞくぞくとする襞のめくれと内壁が空虚に波うち、抜けた瞬間襞が甘く痺れ、背中を甘美が走るようで響は思わず尻を揺らす。

「あっ……は、はぁ……っ」

 脱力してグランドピアノに顔を突っ伏すと、黒田が緩んだ襞に切っ先の先走りをとろ…と掛けて来たのだ。

「ゃっ……だ!やめてっ…」

「汚さないようにしてやっから」

 黒田の屹立が襞を割り開くと、切っ先にぞく……と肌が甘く粟立ち、響は背を反らす。慢性的に開かされていた襞が、剛直の質量に悦び、内壁がうねり始め細かな快楽が響を包み込んだ。

「あっ、あっ、んんんっ……」

 内壁の快楽痙攣が治まると、黒田が感じてたまらない箇所を突きながら、大きな手で響の屹立を扱いてくる。

「あっ、あっ、ゃあっ……!」

「ほんとは奥までぐちゃぐちゃにかき混ぜてやりたいけど、昼休み終わっちまうからな。ほら、イけよ」

「ひぁっ……!だめ、あ、あ!」

 核と屹立の両方を激しく刺激され、響はあっと言う間に上り詰め、歯を食いしばりながら当てられたタオルに白濁を零し、黒田が

「やべっ……」

と慌てて引き出し響の白濁を吸い取ったタオルに、怒張から白濁を飛沫させるのを、座り込んでみてしまい、治まっても存在感のある穂先をしまう黒田に笑われた。

「中に出すと体育できないだろ。また、夜な」

 二人分の精を吸ったタオルで尻を拭われ身支度を手伝われて、残り少ない昼休み、音楽室の床に座り込み響はピアノの上を見上げた。

「音楽の神様に祝福されてるみたいやん、俺ら」

 ショパンやモーツァルトやベートーベンと肖像画の下で、淫らな行為をしたと恥ずかしくてうつむいた響は、黒田の言葉に顔を上げる。

「え……?な、なに……?」

 黒田が響の手を握り、嬉しそうに笑った。

「だってさ、昼休みの音楽室に誰も来ないし、お互いイけたし、何より響は音楽室に入れて、うん、音楽の神様は俺たちの味方やん」

 どうやら真面目に言っているらしく、その後黒田のトランペットの音が良くなったことやら言い出し、なんだかもう可笑しくて、声を上げて笑ってしまった。




~4~
 『シェヘラザード』はロシアのリムスキーによる管弦楽だが、弦をなくした吹奏楽用編曲楽譜があり、トランペットがソリストになるものもある。

 吹奏楽部から楽譜のコピーを貰ったが、『トランペットソロと吹奏楽のための「シェヘラザード」』は、以前吹いたことがあった。

 しかし中学一年の吹奏楽コンクールで吹いて金賞を貰った曲も、今吹くと読み方が甘かったのだと楽譜を見て感じる。土日の二日間、響は黒田の通う教室を、今までの貯金でできる限り買い取り、時間を惜しんで吹き続けた。

 貸しスタジオはない楽器店は、木村講師を通じて破格の値段で教室部屋を貸してくれ、

「暇つぶしで来たよ」

と現れた木村講師の前で『シェヘラザード第一楽章』を何度も吹いて、響はなんだか指導を貰ってしまった。

 そして木村講師の元、黒田も一緒に練習し、朝から晩まで黒田と一緒に吹き続けることが響は嬉しくて仕方なくて、低いトランペットの唸りに身体の芯が蕩けそうになるのを何度も堪えたものだ。

 響は自分の音以外に、こんなにも心地よいと感じる音があるなんて思いもよらなかったのだ。音に惚れる……確か、黒田が言っていたことだったが、自分にもそんなことが起こるとは思いもよらなかった。

「君たちの音は全くエロいな」

 木村講師は多いに明るく笑っていて、響はそれが彼女流の褒め言葉だと分かり、木村講師に親近感を覚えた。




 この音楽室に入るのは二度目で、一度目はただ恥ずかしさと、気持ち良さが渦巻いていた。ピアノにすがって後ろから後ろから貫かれ、喘いで悶えたのはつい最近のことだ。

 荒療治とはいえ、学校で抱かれてしまったそれを思い出すたびに、響は恥ずかしくてたまらない。

 響はトランペットケースを抱えて、音楽室の前に立つ。

 響のトランペットケースには、黒田が赴任先にいる親に頼んで買って貰った久能山東照宮音楽芸能のお揃いの色違いお守りがついていて、思わずそれを握ってしまって、同じようにトランペットケースを持つ黒田が肩に手を掛けて来た。

「過呼吸も起きないし、トランペットも吹ける。響は音楽の神様に愛されてるからな」

 誰もいないことを見計らい、黒田が顔を寄せて来てキスをされ、ほ……と息を吐いた。

 この音楽室なら大丈夫だ……響はそう思い、足を一歩踏み入れる。

 練習最中の吹奏楽部の音が響を一気に包み込み、響は一瞬中学時代を思い出し、お守りごとトランペットケースを抱きしめた。

「ひっ」

「大丈夫やし。ピアノの上を見ん」

 息を何度か吸い込んでしまい過呼吸の前兆に硬直した響は、ピアノの上の『音楽の神様』を見上げた。

「あの人たちは、響の味方やんか。な?」

 肖像画は微笑みや苦悩や真摯な表情を浮かべ、響を見下ろしていて、響は深く息を吐いた。トランペットを吹いている時、譜面から読み取れる彼らの想いを感じる。

 喜怒哀楽やそれに伴う音の強弱早遅、名曲を作り出し後世に送り出した彼らもまた人の子で、繊細で緻密で……いや破天荒だったのかも知れなくて。そんな『音楽の神様』のスコアの一部になることの名誉……一音になる喜びを、聞き手に伝えられたら……。

 さらに、一歩を踏み出す。

 『音楽の神様』が手招きをしているような気がして、響は梅雨の晴れ間、一歩また一歩と、初めてなのに久しぶりな感じのする、光と音一杯の音楽室に入った。

「響先輩っ!」

「響先輩!」

 中西双子が駆け寄って来て、響はやんわりと苦笑する。

「気持ち悪いとかないん?」

 藤井が席を譲ってくれてふた席空いた中でトランペットをケースから出した。

「大丈夫。心配してくれてありがと」

 壁にもたれる黒田を見上げると、黒田が笑顔でかわして来て、気持ちは落ち着いている。音楽部のメンバーが揃う中で、響はチューニングを始め、久しぶりの吹奏楽の演奏に聞きいっていると、トランペットソロの位置に立っていたロングヘアのスラリとした長身の女生徒が歩み寄って来て、響は立ち上がった。

「あなたが響くん?今回は妹がごめんなさいね。勝負って音楽でおかしいと思うのだけど、妹達一年生が引かなくて」

 確か川原も中西双子も吹奏楽部から、わずか一日で退部して音楽部に在籍しているのだから、癇に障ることもあるだろう。

 ただ、黒田は別で、中学時代吹奏楽部に在籍していなかったのを理由に、入部を拒否されたといいう。それを聞いた時は驚いたが、今は許せないとすら思う響は、自分の気持ちの変化に驚いていた。

「お姉ちゃん!」

「部長!」

 一年生だろうか、黄色い声で呼ばれて、頭を下げて立ち位置に戻る彼女を見送ると、

「あの人、音楽大の推薦決まってるんやそうです」

と秀人が苦々しそうに告げてきて、叔父のおかけで良い音をたくさん聞いている双子が少しだけうらやましくなる。

「あの人、三年生なんだ?」

 響はピストンを確認しながら呟く。

「うん、でも、僕ら、あの人の音嫌いやん。キンキンしてるしさ、もう最悪」

 この状況を理解しているのかいないのか、吹奏楽部の女顧問が指揮棒を振り、曲が始まった。

 タンギングの難しいこの曲は、トランペットソロ泣かせの名曲で、今よりも小さい体格の響も、かなり苦しんだものだ。

 譜面に忠実な吹き方の彼女のトランペットは、やや甲高い音をしていて、響は下を向き目を閉じ、自分の音を思い起こす。第二トランペットパートを吹いてくれた黒田との音を思い出して、もう少し早く、いや、そのタンギングは鋭く……。

「……響、終わったし」

「あ、うん。行くね」

 響はトランペットを掴み直すと、ソロ位置に移動して

「お願いします」

と指揮者と吹奏楽部員に頭を下げトランペットを構えなおし、リンを綺麗な音の出る位置に持ち上げた。

 第一音は鋭くトランペットでは難しいトリルをこなし……突然、第一トランペット音が消え……第二トランペットがバラバラと崩れて行き、響は後ろを向こうとしたが、向けば音がブレるので吹き続けた。

 第二トランペットの音が一本になり細くなったが、いきなり馴染みのある低音が支えてくれ、鳴らなくなったティンパニ、サックス、クラリネット、トロンボーン、フルートが入ってくる。

 歯の抜けた形ではあるが、曲としては形を保ち、響は左手首の痺れを感じつつ、右手親指と小指に力を入れ重心を変えた。

『左手首がもたないなら、右手を強化したらどうかな?』

 初めて会った時、木村講師が事も無さそげに言い『右手だけのパフォーマンストランペットもある』と笑っていて、左手と同時に右手の訓練をして来た響は、トランペットを吹き切り、大きく息を吐きゆっくりと唇を離した。

 沈黙と静寂の中、後ろを振り向くと、罰の悪そうにしている吹奏楽部員の中に、音楽同好会のメンバーがいて、第二トランペットの場所に黒田と、木曜日に声を掛けてくれた黒田のクラスメイトがいて、最後まで吹いてくれていたのが、彼女だと知る。

「響先輩~~」

 楽器を持って来ていたメンバーが響の周りに集まり、響は左手首を抑えながら笑った。秀人が椅子に蹴っつまずきながら駆け寄って来て、

「響先輩、やっぱすっごいよ」

と叫んで飛び跳ねる。

「今、演奏をやめた者は集まりなさい」

 吹奏楽部顧問がトランペットを中心に呼び集め、

「や~い、そっちの負け」

と揶揄した秀人に、元凶の一年生の女子が叫び返した。

「どうせ、サークルのくせに!」

 一同が、肩をすくめて苦笑する。仕方のないことだ、価値観は人によって違うのだから。




 神社の朝は早い。

 山の上に立つ神社の空気は澄んでいて、響は横で寝ている白石を起こさないように、着なれない和服を着る。初日、右前に着てしまい笑われたので、白い和服を慎重に合わせ袴を履いた。

 顔を洗い外に出ると竹ぼうきを持って、長い階段を下に向かって掃き始め、早くから訪れる参詣客に頭を下げる。早朝当番の掃き清めをしていると、下から黒田がジャージで走って来て、

「おはよう」

と声を掛けた。

「おはよっす。……つか……まじで神主さんみたいやん、響」

「なんだか、恥ずかしいよ。僕と白石さんだけだから」

 響と白石は午前中『ビジュアル系神主』を強要されていた。

 あれから、吹奏楽部員から全員の謝罪と、吹奏楽部顧問から謝罪がてら、七月末の吹奏楽コンクール地方大会のゲストに出ないかと誘われたのだ。


「中西双子を中心としたジャズ『スペイン』を演奏します。中西双子には拒否する権限はありません。ソプラノサックス秀人くん、アルトサックス優人くん」

 指揮者の藤井が譜面と総合スコアのコピーを配って行き、双子は、いや、双子の弟の方が、

「そんな……」

と唸りながら楽譜を受け取り椅子に座り込み、最初から決めていたように、榊が「そこで、我が神社にて一週間合宿を行う。テーマは『和』」 だよと言い放った。

 青の袴の出社の格好で早朝から掃除などのお勤めをし、響と白石はなんと奉納神楽舞と、他のメンバーは雅楽をやらされ、午後からコンクールの練習をしているのだ。

「十年前は僕と姉さんで舞をしたけどもう体格的に無理だし、姉さんの子供は赤ちゃんだ。だからねぇ」

 女装を断固拒否した白石が「氏子から選べよ」と言ったのだが、榊が無視し白石と響は破格の条件付きで、神主となったのだが、白石は機嫌も体調も悪く、なかなか部屋から出られなくて、森野総合医院の担当医師が往診に来ているくらいだ。

「舞、覚えたん?」

「うん、まあ。意外に難しいね。でも掃除とかも大変だよね?」

「俺は苦にならへんけどな。先輩ら、なかなかな。それよりも響と離れて寝るのが辛いし」

 誰も見ていないのを確認してから、黒田がキスをしてくる。

 触れるだけのキスが嬉しくて

「僕も辛いかな…」

と唇を合わせながら呟く。

 一週間が長いなんて初めてだった。食事当番の時間で黒田が走っていってしまうと、唇を触れて黒田の存在を確かめた。

「おはよう、響くん。裏参道の掃き清めは終わったよ」

 丸眼鏡の長身が奥から現れて、響は

「こっちも終わったよ」

と告げ、箒を片付けに行く。

「響くん、気になっていたんだけど、舞の報酬は……」

 藤井が青い袴を指差して来て、響はうつむきながら藤井に告げた。

「実家までの新幹線代……黒田くんと行くのに……。楽譜を取りに行きたいから」

 思うことを話そうとすると止まってしまうから、言葉を選びながらゆっくりめに話す。

「そっか……よかったし。うん」

 藤井が笑いながら言ってくれて、響は安心した。

 一年以上メールだけの関係の為、一人では都心の実家には行きづらい。

「今日は黒田が食事当番だから、まともな物を食べられそうやし」

 昨日の食事を思い出して、響は声を立てて笑った。


 朝は舞練習、昼食の後は自由時間で、夕方からコンクールゲスト練習がある。昼食後の空き時間に、響は自主練習をしようと、トランペットを出した。

「な~、響。アニソン、何、知ってる?ギグしようぜ」

 昨日のとんでもない闇鍋料理長金城がギターを持って現れ、その後ろを寝癖が髪型の地味めな時岡がベースを持って着いて来て、響の前に座った。

「アニソン……楽譜あればアドリブできるよ?」

「本当かい?響くん吹いてくれるのか?」

 時岡が言いながら嬉しそうに前のめりになり、金城も目をキラキラさせて

「じゃ、エヴァンゲリオンは?」

とアニメ楽譜を響に差し出す。

 楽譜を元にトランペットで前奏を吹くと、

「うをぉ!」

と二人が嬉しそうに合わせて来た。

 ギターを中心にベースそしてポイントをトランペットで合わせる。

「すっげ……じゃあさ!」

 金城が続けてとばかりに楽譜を見せると、

「響先輩、響先輩っ!パズーの奴、トランペットやりましょう!」

 優人がアルトサックスを出して来て、

「僕も」

と秀人が苦戦しているソプラノサックスを持って来て、『ハトと少年』を管楽器三本で

「せ~の」

と合わせ始めると、ギター、ベースが合わせ、気づくと全員の大合奏になってしまい、響は思わず笑ってしまう。

「響、響っ、マクロスっ……マクロスやるぞ、萌えて来たっ!」

 いつも大人しい時岡が、アニソンに夢中になり怒鳴り声を上げ、ベースを床に投げつけそうになり金城が慌てて止め、

「あ、わり…金城!すっげえ楽しい」

と興奮していた。

「響、お前、いい奴だなあ!吹奏楽とか管弦やってる奴は、アニソンをバカにすんだよな」

 金城がギターでアニソンを弾きながら響に、今までいかにひどいことを言われて来たかつらつらと呟いてくる。

 金城も時岡もアニメソングが大好きで、高校の軽音楽部はヘビメタだったし、吹奏楽部はクラッシックだしで、音楽同好会に流れて来た経緯があり、ある程度アニメソングを弾かせてくれる部活に満足していると話してくれた。

 まさに『和』だ。
 
 今まで喋らなかったメンバーとも近しくなった。

 練習になれば初めての消音器をつけてのトランペットに、「響くん、黒田、もう少し音……」と音を出しすぎて、タクトの藤井にたしなめられ二人で肩をすくめ、楽しくて楽しくてたまらない、そんな合宿も終わりに近づく。


 最終日の朝、白粉化粧に紅をさされ、いつもの白衣に黒の袴その上に薄衣金衣装に金の鈴を持ち、長い付け毛をなびかせて響と白石が神社に立つ。

 響より頭一つ小さい白石は微熱だが役目の為、冷水にも浸かり精進潔斎していた。

「大丈夫ですか?」

 白石は

「大丈夫だ。報酬分は働くつもり」

と剣を持つ。

 その姿は凛とし毅然としていて、響も剣を持ち直す。

 早朝の観客もまばらな奉納祭に安心し、神装束になる響は剣を鳴らし、白石と左右対称でシンクロした演舞をする。手を伸ばし身体を傾け、剣をしゃん……と鳴らした。和楽器の清廉な音が響と白石の身体を包み、夏の朝の空気が気持ちいい。

 差し足をして構え、引き足をして構え、腰を下げて鈴と剣を構える。一人で舞う所になり、響は身体の中から足元よりすう……っと抜ける何かを感じて、とととん……と踏みつつ舞を舞う。

 雅楽に包まれている自分も音色の一部になっているようで、身体の中を音がすり抜けて行くようだ。一体感……これが『和』。

 雅楽の音色の凪と共に、響は足をとんとん……と踏み鳴らし終わり、再び白石と舞い、裏に引き込むと白石がたたらを踏みつつ、響にすがりつく。

「この白粉厚塗り……早く取りたい……気持ち悪……」

「わああ……白石さんっ」

 白石の冠を外して、クレンジングを塗りたくり互いに顔を洗うと、白石の装束を脱がせ一息ついた所で、

「白石、大丈夫?」

と、心配して来た森野と一緒に病院に行くのを見送った。

「はあ……疲れた……」

 白石の体調を考慮し、最後の榊神社奉納花舞を一人で舞った響は、金糸の衣装はとりあえず掛けて、衣装のままぱたん……と畳に倒れて、ふぅ……と息を吐く。そのままうとうとしていたようで、響は黒田の声で目を覚ました。

「あれ……午前中練習ないよね?」

 寝転んだまま普段着ジャージの黒田の手元を見ると、食事のトレイを持っていて驚く。

「昼過ぎだ。白石さんたちも戻ってこないから、当分自由時間だな」

 神楽舞からかなりの時間寝てしまったことになり、響は慌てて起き上がり、立つと衣装を脱ぐために袴に手を掛けた。

「あれ、結び目……かたい……」

「外してやるよ」

 トレイを置いて膝をついた黒田が、黒袴のきつい結び目を外してくれ、着物の中帯に手を掛けた時、響は思い出して黒田の手を止める。

「あ?なんだよ」

「だめだって!僕っ……ぁっ!」

 帯をあっさりと外されて、響は腰を引こうとして、着物をめくられうつむいた。黒田に触れられて半勃ちに膨らんだ桃色の穂先が露わになり、下着をはいていないことに気づかれてしまい、黒田が息を呑んだのがわかる。

「気にすんな……いや、上出来すぎるだろ」

 立っている響の腰を抱きしめて、穂先を舐められた。

「ひゃ…っん…こんなとこで…だめっ…て」

 指は尻襞を撫でてくすぐり、口淫される快楽に腰を引くが、黒田の腕は強く抱きしめて来て、足から力が抜けて座り込む。

「ローションないから」

 黒田の手が響の屹立と黒田の昂ぶりを掴み擦り出し、黒田の張り出しが屹立を刺激して、響は黒田の肩にすがりついた。

「あっ……ぁんっ……ぁっ……」

 尻襞をくすぐられつつ、屹立を擦り合わされ、喘ぎを殺す為に袖を噛む。

「うっ……くぅっ……んっ!」

 響はあっという間にぱたぱた……と白濁を溢れさせ、黒田も簡入れず響の敏感な切っ先に吐精し、柔らかな先に触れる重暖かい感覚にぞくと挿入を期待していた内壁が震え、もじ……と腰を揺らした。

「これ以上はヤバいし。帰ってから腰抜けちまうくらいやらまい」

「……うん」

 響は黒田の胸に頭をくっつけて、顔を隠して頷いたのだった。
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