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5 異世界の月
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黄国の月は大きすぎる。
風情がない。
明は、そう思う。
白いトーガ風の服を緩く着て、片肩から赤のストールをかけ、窓枠から外を眺めていた。髪の結わえを外し、剣は左手に持っているものの、緊張はしていない。
砂漠の夜風になびく風が心地よく、しばらくそうしていた。
ノックの音がして、返事も待たずに黄国文官長が入ってくる。被り物を取りくつろいだ姿の両手には、陶器の容器が二つに、金属製のボトルがあった。
「飲みませんか?それとも、待ち人ですか?」
どの国の人間も、他国の王にはそれほど礼儀を払わない。テアンは最たるもので、明を友人のように扱うが、明にとっても気が楽な相手だった。
「……いや、飲もう」
窓横にあるカウチに対面で腰を下ろすと、テアンが明の隣の貴賓室の寝台で眠る黒王を思う仕草をする。
「薬が効きすぎましたか?」
黄王の仕事中の恥態を見て気を失った黒王は、ぐったりと横たわり身動きもしなかった。
「疲れと、暑さにやられたのだろう。常夏の黄国と違い、黒国は朝晩少し肌寒いくらいの気候だったからな」
「そうですか」
赤葡萄酒が陶器杯に注がれ、明は月を見ながら口を付けた。
同じように葡萄酒を飲んだテアンが、ふ…と苦い笑いをする。
「黒王を見ていて、黄王様との出会いを思い出しました。……少し語らせて下さい」
「……どうぞ」
黄国はアルバートが出現する少し前まで、恐怖国家だった。テアンが仕える二代目の王が、頭のいかれた現王アルバートになる。
「先代の前、つまり三代前の王が消滅した時、父である文官長や多くの城従事者を巻き込みました。私は地方新任文官で生き残りましたが、次が最悪だったんです」
「知っている。クレイジーな奴だった」
明が知る強迫観念症を患い首吊り自殺をしてこの国に出現した、名も亡き影のある美貌の王は、首から縄をぶら下げ王宮をたださ迷っていた。
「王は国を作らず、務めを果たさず、黄を罪人の色と言い、王の心象通りに、荒れ、乱れ、壊され、狂い……王は、男たちを断罪し続けました」
テアンが葡萄酒をあおる。
「飲め」
明はさらに杯に葡萄酒を並々と注いだ。話を聞くのも年長者の務めだ。
「男たちが城から消え国の男も減り続け、私は王を廃位させました。赤王様もご存知の通り」
それを全て見ていた明は、知っている。王が死ねとおっしゃるならと、首を差し出していた男たちが醒め、先刻まで『王』だった者が侮蔑され、血の生臭い蒸せ返る王宮からテアン率いる集団に叩き出された瞬間を。
ふらつき漂い、高い木に自分が首からぶら下げていた縄をかけて、にかにかと笑いながら二度めの首吊りをした王。その死体は、すぐには消えなかった。
悪天による悪天。わずかな曇天に腐り落ち首が千切れ、死んでからも笑い続けた王を葬ったのは、圧政に苦言を呈し続け、王を廃位をさせたテアンだった。
「それから私は国を立て直すため旅をし続けて、現黄王様の出現に立ち会いました。黄王様は私の髪を見て、黄は砂と言い、豊かでおおらかな国を下さいました。アルバート様こそ、私の神です。何者にも替えがたい。お務めを苦々しく思うくらい……」
喋り続けての沈黙のあと、テアンがふいに席を立つ。
「すみません、酔いが回りました。残りはどうぞ」
テアンが部屋を出ていくと、明はしばらく残された葡萄酒を飲んでいたが、窓の外に声を掛けた。
「お前も飲むか?」
声を掛けられた影が、窓を飛び越えて明の口に顔を近づける。
「黄の酒は旨いな」
「ああ、酔いが回る。味わえよ」
葡萄酒を口に含み、レキの唇に寄せると舌で流し込んだ。
「ん……」
明の舌を探りレキの舌が絡み、唾液混じりの残り香を啜られる。舌が歯列をなぞり、上顎の柔らかいところをざらりと舐めてきて、ぞく…と背骨が下から震えてきた。
「ぅ、ん……」
それから、ついばむように唇を吸われ舌をやわやわと噛まれると、明はレキの首筋に腕を回す。
「レキ、まさか、黄国貴賓室でヤりはしないな?」
お互いに高ぶっていた。しかし、分別はついている。レキが明を抱き締めたまま、豊かな赤髪を撫でた。
「文官長が還って来いと。黒王即位の儀もある」
直樹はまだ、自国に知れ渡っていない。もちろん諸五王国にもだ。
「それと、明。そろそろ狩りの時間だ」
「ああ……」
その言葉に明は、官能以上の高ぶりを感じ、レキの唇に接吻をし薄く舌を這わした。
風情がない。
明は、そう思う。
白いトーガ風の服を緩く着て、片肩から赤のストールをかけ、窓枠から外を眺めていた。髪の結わえを外し、剣は左手に持っているものの、緊張はしていない。
砂漠の夜風になびく風が心地よく、しばらくそうしていた。
ノックの音がして、返事も待たずに黄国文官長が入ってくる。被り物を取りくつろいだ姿の両手には、陶器の容器が二つに、金属製のボトルがあった。
「飲みませんか?それとも、待ち人ですか?」
どの国の人間も、他国の王にはそれほど礼儀を払わない。テアンは最たるもので、明を友人のように扱うが、明にとっても気が楽な相手だった。
「……いや、飲もう」
窓横にあるカウチに対面で腰を下ろすと、テアンが明の隣の貴賓室の寝台で眠る黒王を思う仕草をする。
「薬が効きすぎましたか?」
黄王の仕事中の恥態を見て気を失った黒王は、ぐったりと横たわり身動きもしなかった。
「疲れと、暑さにやられたのだろう。常夏の黄国と違い、黒国は朝晩少し肌寒いくらいの気候だったからな」
「そうですか」
赤葡萄酒が陶器杯に注がれ、明は月を見ながら口を付けた。
同じように葡萄酒を飲んだテアンが、ふ…と苦い笑いをする。
「黒王を見ていて、黄王様との出会いを思い出しました。……少し語らせて下さい」
「……どうぞ」
黄国はアルバートが出現する少し前まで、恐怖国家だった。テアンが仕える二代目の王が、頭のいかれた現王アルバートになる。
「先代の前、つまり三代前の王が消滅した時、父である文官長や多くの城従事者を巻き込みました。私は地方新任文官で生き残りましたが、次が最悪だったんです」
「知っている。クレイジーな奴だった」
明が知る強迫観念症を患い首吊り自殺をしてこの国に出現した、名も亡き影のある美貌の王は、首から縄をぶら下げ王宮をたださ迷っていた。
「王は国を作らず、務めを果たさず、黄を罪人の色と言い、王の心象通りに、荒れ、乱れ、壊され、狂い……王は、男たちを断罪し続けました」
テアンが葡萄酒をあおる。
「飲め」
明はさらに杯に葡萄酒を並々と注いだ。話を聞くのも年長者の務めだ。
「男たちが城から消え国の男も減り続け、私は王を廃位させました。赤王様もご存知の通り」
それを全て見ていた明は、知っている。王が死ねとおっしゃるならと、首を差し出していた男たちが醒め、先刻まで『王』だった者が侮蔑され、血の生臭い蒸せ返る王宮からテアン率いる集団に叩き出された瞬間を。
ふらつき漂い、高い木に自分が首からぶら下げていた縄をかけて、にかにかと笑いながら二度めの首吊りをした王。その死体は、すぐには消えなかった。
悪天による悪天。わずかな曇天に腐り落ち首が千切れ、死んでからも笑い続けた王を葬ったのは、圧政に苦言を呈し続け、王を廃位をさせたテアンだった。
「それから私は国を立て直すため旅をし続けて、現黄王様の出現に立ち会いました。黄王様は私の髪を見て、黄は砂と言い、豊かでおおらかな国を下さいました。アルバート様こそ、私の神です。何者にも替えがたい。お務めを苦々しく思うくらい……」
喋り続けての沈黙のあと、テアンがふいに席を立つ。
「すみません、酔いが回りました。残りはどうぞ」
テアンが部屋を出ていくと、明はしばらく残された葡萄酒を飲んでいたが、窓の外に声を掛けた。
「お前も飲むか?」
声を掛けられた影が、窓を飛び越えて明の口に顔を近づける。
「黄の酒は旨いな」
「ああ、酔いが回る。味わえよ」
葡萄酒を口に含み、レキの唇に寄せると舌で流し込んだ。
「ん……」
明の舌を探りレキの舌が絡み、唾液混じりの残り香を啜られる。舌が歯列をなぞり、上顎の柔らかいところをざらりと舐めてきて、ぞく…と背骨が下から震えてきた。
「ぅ、ん……」
それから、ついばむように唇を吸われ舌をやわやわと噛まれると、明はレキの首筋に腕を回す。
「レキ、まさか、黄国貴賓室でヤりはしないな?」
お互いに高ぶっていた。しかし、分別はついている。レキが明を抱き締めたまま、豊かな赤髪を撫でた。
「文官長が還って来いと。黒王即位の儀もある」
直樹はまだ、自国に知れ渡っていない。もちろん諸五王国にもだ。
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