58 / 59
外伝1 会議は回る
しおりを挟む
直樹とシンラが二人して赤国の赤の別宮に行ってしまい、ヤガーはティーの手伝いをしていた。
「別宮は僕も行ったことがありますよ。『釣り』を教えて頂きまして、なかなか面白かったです。赤王様が温泉を掘り当て、露天風呂を作られて」
「お湯のことですか?俺はあまり好きではありません」
ヤガーは稲酒の樽をかき混ぜながら、ティーに話す。
「そうなのですか。それは勿体ないことですが、実は、森王様も苦手なようですよ。さあ、終わりました。会議をするから部屋に戻りましょう」
ティーはいつも左半分の顔を隠しており、片目を野盗に切られ『欠けて』いる。それ以外には申し分なく、整った容貌なだけに、ヤガーは気の毒にと思っていた。
野盗に小指を切断され犯されたヤガーはその日は泣き続けていたが、ティーに風呂へ入れてもらい、
「一度や2度くらい、大したことはありません」
と冷静に言われこの人でなしと心中思ったが、武官長のルカに言われた言葉に驚き、泣き止むと同時に気持ちを入れ替えたのだ。
「ティーは五年近く森で生きてきたっすよ。その意味、分かるっす?」
この学びの館の稲酒蔵には『欠けたる者』が多く、生来の者から野盗に斬られた者まで様々だった。
「ティーさん、あの木は何ですか?」
「あれ、知らなかったのですか?直樹様とシンラ様の和木ですよ」
「和木?宮の中に大切にされてるって、親父が……」
「普通はそうですね。でも、直樹様は外に置かれました。雨ざらしにも暑さにもなりますが、民と共にありたいと。だから取引に来て、和木に平伏する村人も多いのですよ」
黒く艶やかな和木は、不思議に発光し輝いており、拳くらいある実は震えているようだ。
「はじめは掌に乗るくらい小さかったのに、今では宮の背くらいになって、実も立派になりました」
木枠に薄く張られた玻璃から、黒国和木が見える部屋には、二人の男が待っていて、稲酒を杯に注ぎながら手を上げる。
「カナメ様、お待たせ致しました」
文官長カナメと武官長ルカの二人に、ヤガーは慌てて平伏しようとするが、ティーに止められ席についた。
「では、会議を始める」
杯に注がれた稲酒をカチンと互いの杯に当てると、ヤガーも一口口に含む。
「これが稲酒……甘いですね」
カナメが咳払いをして、
「さて、最近の直樹様ですが、ヤガーどうかな?」
とヤガーに聞いてきた。
「紐の結びが苦手ですね」
それにティーが吹き出す。
「あと、お髪を整えるのも苦手ですね」
他にはと聞かれて、ふと、先日取引小屋を視察した時のことを思い出した。
「腐りかけの林檎からお酒の匂いがすると……」
「葡萄酒と同じような、林檎酒か。林檎はティーの村から?」
「はい」
「しかし、葡萄酒と同じような酒ではな……」
ヤガーは自分の村の薬の水を思い出した。
「俺の村には、泡が浮かぶ水が湧く泉がありまして、それを飲むと気分が軽くなります。村長は薬の水と呼んでいました。玻璃の杯に入れると、とても綺麗です。それと混ぜるのはどうですか?」
「それはいいですね。直樹様は明日もいないから、ヤガー、村に案内してください」
いつも冷静沈着なティーがとても嬉しそうで、ヤガーは嬉しくなった。
「はい。それからお食事ですが、シンラ様が召し上がる時、直樹様にも少しだけ召し上がって頂きたくて、果物や果実絞りなどお出ししてもよろしいですか?」
いつも一人で食べているシンラが、直樹と酒を嗜む時は楽しそうなのだ。
「それはいい。ヤガーや、お前の料理の腕をシンラ様も誉めていらした」
隣のルカが片手を上げた。
「はい、俺からもっす。直樹様は御酒を嗜まれての和合の声が艶かしく、宮の見回りをする俺には耳得ですが……」
「うむ……声か。和合は大切な王の責務だが、声はいかんともしがたないな。木の扉ではなく、玻璃に替えてみるか」
「ティーもあれくらい声を上げてくれてもいっす。噛み殺す風情もいいが……いたっ……たたた」
ティーが真っ赤になって、ルカの耳を引っ張り上げる。
「お、とうとうか?」
「そうっす、苦節三年、ようやく交合にこぎつけましたっす。あとは、魂の和合……いててっ……耳千切れるっす、欠けちゃうっすよ、ティー」
「欠けてしまえ!直樹様の可愛がられておられる声を盗み聞きしているなんて!」
「たまたまっす!盗み聞きじゃ…いてて」
どうやら、交合以上和合未満の、恋人同士の痴話喧嘩に発展しているようで、ヤガーはカナメに訪ねる。
「カナメ様、俺はいつまで直樹様の側仕えでいられますか?」
「お前が宮でやりたいことが見つかるまでだ。武官でも文官でも、稲酒でも、下働きでも何でも構わないぞ」
ヤガーは数日間考えていたことを、しっかりと口にした。
「俺、飯炊きになりたいです。シンラ様やマナ様が楽しく召し上がられる食事、皆様が食べる食事を作りたいです」
カナメはうんうんと頷き、
「良いと思うが、しばらくは兼ねてくれると助かる。直樹様はどうにも生活に不器用でな」
と飲みながら笑う。
「和木が輝いてるっす、いいっすねえ……和合中ですか?黒国に杯を」
会議
それは愛すべき黒王様を肴にした、ただの飲み会だった。
「別宮は僕も行ったことがありますよ。『釣り』を教えて頂きまして、なかなか面白かったです。赤王様が温泉を掘り当て、露天風呂を作られて」
「お湯のことですか?俺はあまり好きではありません」
ヤガーは稲酒の樽をかき混ぜながら、ティーに話す。
「そうなのですか。それは勿体ないことですが、実は、森王様も苦手なようですよ。さあ、終わりました。会議をするから部屋に戻りましょう」
ティーはいつも左半分の顔を隠しており、片目を野盗に切られ『欠けて』いる。それ以外には申し分なく、整った容貌なだけに、ヤガーは気の毒にと思っていた。
野盗に小指を切断され犯されたヤガーはその日は泣き続けていたが、ティーに風呂へ入れてもらい、
「一度や2度くらい、大したことはありません」
と冷静に言われこの人でなしと心中思ったが、武官長のルカに言われた言葉に驚き、泣き止むと同時に気持ちを入れ替えたのだ。
「ティーは五年近く森で生きてきたっすよ。その意味、分かるっす?」
この学びの館の稲酒蔵には『欠けたる者』が多く、生来の者から野盗に斬られた者まで様々だった。
「ティーさん、あの木は何ですか?」
「あれ、知らなかったのですか?直樹様とシンラ様の和木ですよ」
「和木?宮の中に大切にされてるって、親父が……」
「普通はそうですね。でも、直樹様は外に置かれました。雨ざらしにも暑さにもなりますが、民と共にありたいと。だから取引に来て、和木に平伏する村人も多いのですよ」
黒く艶やかな和木は、不思議に発光し輝いており、拳くらいある実は震えているようだ。
「はじめは掌に乗るくらい小さかったのに、今では宮の背くらいになって、実も立派になりました」
木枠に薄く張られた玻璃から、黒国和木が見える部屋には、二人の男が待っていて、稲酒を杯に注ぎながら手を上げる。
「カナメ様、お待たせ致しました」
文官長カナメと武官長ルカの二人に、ヤガーは慌てて平伏しようとするが、ティーに止められ席についた。
「では、会議を始める」
杯に注がれた稲酒をカチンと互いの杯に当てると、ヤガーも一口口に含む。
「これが稲酒……甘いですね」
カナメが咳払いをして、
「さて、最近の直樹様ですが、ヤガーどうかな?」
とヤガーに聞いてきた。
「紐の結びが苦手ですね」
それにティーが吹き出す。
「あと、お髪を整えるのも苦手ですね」
他にはと聞かれて、ふと、先日取引小屋を視察した時のことを思い出した。
「腐りかけの林檎からお酒の匂いがすると……」
「葡萄酒と同じような、林檎酒か。林檎はティーの村から?」
「はい」
「しかし、葡萄酒と同じような酒ではな……」
ヤガーは自分の村の薬の水を思い出した。
「俺の村には、泡が浮かぶ水が湧く泉がありまして、それを飲むと気分が軽くなります。村長は薬の水と呼んでいました。玻璃の杯に入れると、とても綺麗です。それと混ぜるのはどうですか?」
「それはいいですね。直樹様は明日もいないから、ヤガー、村に案内してください」
いつも冷静沈着なティーがとても嬉しそうで、ヤガーは嬉しくなった。
「はい。それからお食事ですが、シンラ様が召し上がる時、直樹様にも少しだけ召し上がって頂きたくて、果物や果実絞りなどお出ししてもよろしいですか?」
いつも一人で食べているシンラが、直樹と酒を嗜む時は楽しそうなのだ。
「それはいい。ヤガーや、お前の料理の腕をシンラ様も誉めていらした」
隣のルカが片手を上げた。
「はい、俺からもっす。直樹様は御酒を嗜まれての和合の声が艶かしく、宮の見回りをする俺には耳得ですが……」
「うむ……声か。和合は大切な王の責務だが、声はいかんともしがたないな。木の扉ではなく、玻璃に替えてみるか」
「ティーもあれくらい声を上げてくれてもいっす。噛み殺す風情もいいが……いたっ……たたた」
ティーが真っ赤になって、ルカの耳を引っ張り上げる。
「お、とうとうか?」
「そうっす、苦節三年、ようやく交合にこぎつけましたっす。あとは、魂の和合……いててっ……耳千切れるっす、欠けちゃうっすよ、ティー」
「欠けてしまえ!直樹様の可愛がられておられる声を盗み聞きしているなんて!」
「たまたまっす!盗み聞きじゃ…いてて」
どうやら、交合以上和合未満の、恋人同士の痴話喧嘩に発展しているようで、ヤガーはカナメに訪ねる。
「カナメ様、俺はいつまで直樹様の側仕えでいられますか?」
「お前が宮でやりたいことが見つかるまでだ。武官でも文官でも、稲酒でも、下働きでも何でも構わないぞ」
ヤガーは数日間考えていたことを、しっかりと口にした。
「俺、飯炊きになりたいです。シンラ様やマナ様が楽しく召し上がられる食事、皆様が食べる食事を作りたいです」
カナメはうんうんと頷き、
「良いと思うが、しばらくは兼ねてくれると助かる。直樹様はどうにも生活に不器用でな」
と飲みながら笑う。
「和木が輝いてるっす、いいっすねえ……和合中ですか?黒国に杯を」
会議
それは愛すべき黒王様を肴にした、ただの飲み会だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる