13 / 94
1話「嘆きの墓標」
8
しおりを挟む
――その頃……
カトリの体術でネーメットは勢いよく壁に叩きつけられ、背中を強く打ちつけたせいで咳き込みながら床に座り込んだ。
「っ…剣で斬っても、魔法で攻撃しても…傷一つつける事ができぬとは、のぅ。ごほっ…これは困ったわい」
「…そんなに深い傷ではないようだけど、後で医者に診てもらった方がいいよ…念の為に」
ネーメットに駆け寄ったハミルトの治癒魔法で、痛みの和らいだネーメットは小さく息をつく。
「すまんのぅ…だいぶ楽になったわい。しかし、お前さんも…かなりダメージを受けておるじゃろ?」
「まぁ、大丈夫だと思うよ…これくらいは」
満身創痍のハミルトは首を横にふると、表情のないカトリに目を向けながら答えた。
そして、腕をおさえながら立ち上がり術式を描きはじめる。
「彼女は、もういない…と、頭ではわかっていたんだけどね」
ハミルトが術式に魔力を込めるとカトリの周囲の空気が凍てつきはじめ、一瞬にして彼女を氷柱へと閉じ込めた。
しかし、カトリを捕らえていた氷柱は瞬時に砕け散り…自由となったカトリは人間離れした速さと動きで、術者であるハミルトに殴りかかる。
それを紙一重で交わしたハミルトは、苦笑混じりに呟いた。
「カトリ…昔から運動神経は良かったけど、まさか…これほどとは思ってなかったな」
「生きる屍、じゃからのぅ…痛みを感じぬ分、多少の無茶もできるのじゃろうて」
そう語ったネーメットはカトリに斬り込むが、あまりダメージにならなかったようで彼女は意に介さず蹴り攻撃を仕掛けてくる。
それを左腕で受け止めたネーメットが再び斬り込もうとするも、カトリが大きく跳び下がられてかわされた。
舌打ちをしたネーメットと、新たに術式を描きだそうとしているハミルトを交互に見つめたカトリが両手を高く掲げると術式を描きはじめる。
その術式を確認したネーメットとハミルトは、ゆっくりと息を飲んだ。
「あれは…少々まずいのぅ」
「こんな狭い場所であの術は…軽く、この一帯が吹き飛ぶだろうね。でも…――」
彼女が使おうとしている魔法はこの地下研究室どころか、墓地一帯をぶっ飛ばすくらいの威力があるだろう……
それと、もう一つ…ある事に気づいたハミルトは唇を噛みしめて言葉を続ける。
「…カトリの魔力では、あんな大規模な魔法は使えないはず。まさか、あいつら…私がいない間に――」
カトリの魔力は元来少なく、初級レベルの魔法がせいぜいであるのを知るハミルトは複雑な面持ちで彼女を見つめた。
ハミルトの肩をたたいたネーメットは、剣を持ち直しながら声をかける。
「…我ら2人で、術の発動を阻止するしかないのぅ――あのバカが戻ってくるまで」
『あのバカ』が誰の事か、何となくわかってしまったハミルトは目を丸くさせ苦笑した。
「…カトリにあんな事をさせているあいつは近くに潜んで、この様子を楽しんでいると思う」
「これだけ死者の気配が色濃いと、どこにいるかがまったくわからんからのぅ…」
気配を探っていたネーメットはハミルトと目の動きだけで打ち合わせると、タイミングを合わせてハミルトが術式を描き魔力を込める。
ハミルトの術式から生みだされた霧は、カトリの動きと視界を奪った。
そして、隙のできた彼女の胴を斬ろうとネーメットが動く。
よろけて座り込んだカトリの描いていた術式が消え、ネーメットとハミルトは安堵のため息をついた。
***
カトリの体術でネーメットは勢いよく壁に叩きつけられ、背中を強く打ちつけたせいで咳き込みながら床に座り込んだ。
「っ…剣で斬っても、魔法で攻撃しても…傷一つつける事ができぬとは、のぅ。ごほっ…これは困ったわい」
「…そんなに深い傷ではないようだけど、後で医者に診てもらった方がいいよ…念の為に」
ネーメットに駆け寄ったハミルトの治癒魔法で、痛みの和らいだネーメットは小さく息をつく。
「すまんのぅ…だいぶ楽になったわい。しかし、お前さんも…かなりダメージを受けておるじゃろ?」
「まぁ、大丈夫だと思うよ…これくらいは」
満身創痍のハミルトは首を横にふると、表情のないカトリに目を向けながら答えた。
そして、腕をおさえながら立ち上がり術式を描きはじめる。
「彼女は、もういない…と、頭ではわかっていたんだけどね」
ハミルトが術式に魔力を込めるとカトリの周囲の空気が凍てつきはじめ、一瞬にして彼女を氷柱へと閉じ込めた。
しかし、カトリを捕らえていた氷柱は瞬時に砕け散り…自由となったカトリは人間離れした速さと動きで、術者であるハミルトに殴りかかる。
それを紙一重で交わしたハミルトは、苦笑混じりに呟いた。
「カトリ…昔から運動神経は良かったけど、まさか…これほどとは思ってなかったな」
「生きる屍、じゃからのぅ…痛みを感じぬ分、多少の無茶もできるのじゃろうて」
そう語ったネーメットはカトリに斬り込むが、あまりダメージにならなかったようで彼女は意に介さず蹴り攻撃を仕掛けてくる。
それを左腕で受け止めたネーメットが再び斬り込もうとするも、カトリが大きく跳び下がられてかわされた。
舌打ちをしたネーメットと、新たに術式を描きだそうとしているハミルトを交互に見つめたカトリが両手を高く掲げると術式を描きはじめる。
その術式を確認したネーメットとハミルトは、ゆっくりと息を飲んだ。
「あれは…少々まずいのぅ」
「こんな狭い場所であの術は…軽く、この一帯が吹き飛ぶだろうね。でも…――」
彼女が使おうとしている魔法はこの地下研究室どころか、墓地一帯をぶっ飛ばすくらいの威力があるだろう……
それと、もう一つ…ある事に気づいたハミルトは唇を噛みしめて言葉を続ける。
「…カトリの魔力では、あんな大規模な魔法は使えないはず。まさか、あいつら…私がいない間に――」
カトリの魔力は元来少なく、初級レベルの魔法がせいぜいであるのを知るハミルトは複雑な面持ちで彼女を見つめた。
ハミルトの肩をたたいたネーメットは、剣を持ち直しながら声をかける。
「…我ら2人で、術の発動を阻止するしかないのぅ――あのバカが戻ってくるまで」
『あのバカ』が誰の事か、何となくわかってしまったハミルトは目を丸くさせ苦笑した。
「…カトリにあんな事をさせているあいつは近くに潜んで、この様子を楽しんでいると思う」
「これだけ死者の気配が色濃いと、どこにいるかがまったくわからんからのぅ…」
気配を探っていたネーメットはハミルトと目の動きだけで打ち合わせると、タイミングを合わせてハミルトが術式を描き魔力を込める。
ハミルトの術式から生みだされた霧は、カトリの動きと視界を奪った。
そして、隙のできた彼女の胴を斬ろうとネーメットが動く。
よろけて座り込んだカトリの描いていた術式が消え、ネーメットとハミルトは安堵のため息をついた。
***
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる