うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
13 / 94
1話「嘆きの墓標」

しおりを挟む
――その頃……

カトリの体術でネーメットは勢いよく壁に叩きつけられ、背中を強く打ちつけたせいで咳き込みながら床に座り込んだ。

「っ…剣で斬っても、魔法で攻撃しても…傷一つつける事ができぬとは、のぅ。ごほっ…これは困ったわい」
「…そんなに深い傷ではないようだけど、後で医者に診てもらった方がいいよ…念の為に」

ネーメットに駆け寄ったハミルトの治癒魔法で、痛みの和らいだネーメットは小さく息をつく。

「すまんのぅ…だいぶ楽になったわい。しかし、お前さんも…かなりダメージを受けておるじゃろ?」
「まぁ、大丈夫だと思うよ…これくらいは」

満身創痍のハミルトは首を横にふると、表情のないカトリに目を向けながら答えた。
そして、腕をおさえながら立ち上がり術式を描きはじめる。

「彼女は、もういない…と、頭ではわかっていたんだけどね」

ハミルトが術式に魔力を込めるとカトリの周囲の空気が凍てつきはじめ、一瞬にして彼女を氷柱へと閉じ込めた。
しかし、カトリを捕らえていた氷柱は瞬時に砕け散り…自由となったカトリは人間離れした速さと動きで、術者であるハミルトに殴りかかる。

それを紙一重で交わしたハミルトは、苦笑混じりに呟いた。

「カトリ…昔から運動神経は良かったけど、まさか…これほどとは思ってなかったな」
「生きる屍、じゃからのぅ…痛みを感じぬ分、多少の無茶もできるのじゃろうて」

そう語ったネーメットはカトリに斬り込むが、あまりダメージにならなかったようで彼女は意に介さず蹴り攻撃を仕掛けてくる。
それを左腕で受け止めたネーメットが再び斬り込もうとするも、カトリが大きく跳び下がられてかわされた。

舌打ちをしたネーメットと、新たに術式を描きだそうとしているハミルトを交互に見つめたカトリが両手を高く掲げると術式を描きはじめる。
その術式を確認したネーメットとハミルトは、ゆっくりと息を飲んだ。

「あれは…少々まずいのぅ」
「こんな狭い場所であの術は…軽く、この一帯が吹き飛ぶだろうね。でも…――」

彼女が使おうとしている魔法はこの地下研究室どころか、墓地一帯をぶっ飛ばすくらいの威力があるだろう……

それと、もう一つ…ある事に気づいたハミルトは唇を噛みしめて言葉を続ける。

「…カトリの魔力では、あんな大規模な魔法ものは使えないはず。まさか、あいつら…私がいない間に――」

カトリの魔力は元来少なく、初級レベルの魔法がせいぜいであるのを知るハミルトは複雑な面持ちで彼女を見つめた。
ハミルトの肩をたたいたネーメットは、剣を持ち直しながら声をかける。

「…我ら2人で、術の発動を阻止するしかないのぅ――が戻ってくるまで」

『あのバカ』が誰の事か、何となくわかってしまったハミルトは目を丸くさせ苦笑した。

「…カトリにあんな事をさせているあいつは近くに潜んで、この様子を楽しんでいると思う」
「これだけ死者の気配が色濃いと、どこにいるかがまったくわからんからのぅ…」

気配を探っていたネーメットはハミルトと目の動きだけで打ち合わせると、タイミングを合わせてハミルトが術式を描き魔力を込める。

ハミルトの術式から生みだされたミストは、カトリの動きと視界を奪った。
そして、隙のできた彼女の胴を斬ろうとネーメットが動く。
よろけて座り込んだカトリの描いていた術式が消え、ネーメットとハミルトは安堵のため息をついた。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...