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1話「嘆きの墓標」
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「と…とりあえず、お前の言う奴は…まだ、ここら辺にいるかもしれないな。だから…とりあえず、おれ達に協力しろ。な!」
ぐったりと疲れた様子で、セネトはグラハムの肩に手を置いた。
セネトの言葉にグラハムは小さく頷き、持っていた枕をベッドへと戻す。
「うん、ハミルトが呼んでるなら協力するよ。カトリも…僕にとっても大切な友達だから、助けてあげたいんだ」
「よし。それじゃ…そのカトリを止める為に、そろそろ行きますか」
肩を鳴らしたセネトはグラハムと共に、ネーメットとハミルトのいる部屋に向かった。
自分が少しいない間に、さらに荒れ果てた室内と…そして、ボロボロな状態のネーメットとハミルトの姿にセネトとグラハムは驚く事しかできない。
どう声をかけるべきか悩んだセネトはおどおどしているグラハムと共に、邪魔にならないだろう瓦礫の上に座った。
気づいていないネーメットがカトリの身体に斬り込み、ハミルトはネーメットの剣技に合わせて術式を描くと魔力を込める。
ハミルトの術式から凍える風がひと吹きし、カトリの足元を凍らせて動けぬようにした。
カトリが動けぬようになったのを確認したハミルトは、指を鳴らすと詠唱をはじめる。
「凍てつく槍よ…我が前に立ちふさがりし者を貫け!」
ハミルトの声に呼応したカトリの足元を凍らせたものから氷の槍が伸び、彼女の横腹から貫いた。
その瞬間、カトリは小さく悲鳴をあげると苦しそうに座り込んだ。
カトリの、その様子を観察したネーメットはひとつの憶測を呟いた。
「…今の身体に慣れはじめたようじゃの、どうやら」
「カトリ…」
ハミルトも、ネーメットと同じ答えにたどり着いたのだろう……
複雑そうな表情を浮かべて、苦痛に顔を歪めているカトリを見ていた。
死霊術によって蘇った死者ははじめのうち身体の扱いに慣れない為、声をあげる事ができない上に多少動きが鈍い。
倒すならば、この状態が一番楽である…が、身体の扱いに慣れはじめた死者は少々厄介である。
まるで生きているかのように振る舞い、生者の命を貪る魔物と化すのだ。
その上、動きが俊敏で多少身体も丈夫になっている為、簡単には倒せない。
…カトリの状態は、まさに後者の部分に当てはまりかけているのだ。
「カ、カトリ!!」
うずくまっているカトリの姿を見たグラハムが思わず声をあげると、彼女は生気の宿らぬ瞳に涙を溜めて彼を見た。
彼女の、そんな行動を見ていたセネトは腕を組んで口を開く。
「あー…かなり慣れてきてるな、あの様子だと。ネーメットのじいさんとハミルト――2人共、ボロボロだなー。何やってるんだよ…」
この言葉に、ネーメットとハミルトはようやくセネトとグラハムが来ていた事に気づいたようだ。
ネーメットとハミルトは、深くため息をついて声を揃えるように言った。
「セネト…お前さんというやつは。遅い!何をやっておった!」
「――グラハム…遅い!何をやっていたんだ」
2人の息のあった言葉に、唖然としたセネトと申し訳なさそうなグラハムが言う。
「…何か、おれのいない間に仲良くなったか?」
「ハ…ハミルト、ごめん。ぁ…大丈夫?」
傷を負っているらしいハミルトに駆け寄ったグラハムは、言葉を続けた。
「これ…もしかして、カトリが?」
「――生きていた頃のカトリ、ううん…カトリ本人よりも身体能力が上のようでね。私達は…あいつらに嵌められたみたいだよ…」
まだ動けぬ様子のカトリに視線を向けたハミルトは、今にも泣きだしそうなグラハムの頭を優しく撫でる。
その様子は、まるで兄が弟を慰めているかのようにも見えた……
「……ああなってしまっては、もうどうする事もできない。多分…私の兄弟子の力でもね」
「ハミルト…ごめんね。僕のせいだよね…僕が、あいつらの目的に気づけなかったせいで――本当にごめんなさい」
悔しそうに歯を食いしばっているハミルトに、責任を感じたグラハムは俯いてしまう。
気づいたハミルトは首を横にふると、優しく頭を撫でていた手を今にも泣きだしそうなグラハムの身体にまわして抱きしめた。
「違うよ…グラハム、君のせいじゃない。私が嵌められたんだ――だから、もう終わりにしよう。私達の為にも…カトリの為にも」
囁くように言ったハミルトに、何かを決意したらしいグラハムは頷く。
グラハムの身体から手を離したハミルトと、グラハムがセネトに向けて頭を下げた。
「勝手な事を頼むようだけど…」
「カトリをね…眠らせてあげたいんだ。だから、お願い…します」
2人の言葉に、ネーメットは視線だけをセネトへ向けている…
――どうやら、判断をセネトに任せるつもりらしい。
それに気づいたセネトは頭をかいて、ハミルトとグラハムに向き直った。
「…わかった。というより…そうするしかないだろ?事情は、後で話せよ!」
セネトの言葉に、ハミルトとグラハムがもう一度頭を下げると大きく頷いて答える。
「…わかっているよ。全ては私の責任だからね…」
「…ありがとう」
***
ぐったりと疲れた様子で、セネトはグラハムの肩に手を置いた。
セネトの言葉にグラハムは小さく頷き、持っていた枕をベッドへと戻す。
「うん、ハミルトが呼んでるなら協力するよ。カトリも…僕にとっても大切な友達だから、助けてあげたいんだ」
「よし。それじゃ…そのカトリを止める為に、そろそろ行きますか」
肩を鳴らしたセネトはグラハムと共に、ネーメットとハミルトのいる部屋に向かった。
自分が少しいない間に、さらに荒れ果てた室内と…そして、ボロボロな状態のネーメットとハミルトの姿にセネトとグラハムは驚く事しかできない。
どう声をかけるべきか悩んだセネトはおどおどしているグラハムと共に、邪魔にならないだろう瓦礫の上に座った。
気づいていないネーメットがカトリの身体に斬り込み、ハミルトはネーメットの剣技に合わせて術式を描くと魔力を込める。
ハミルトの術式から凍える風がひと吹きし、カトリの足元を凍らせて動けぬようにした。
カトリが動けぬようになったのを確認したハミルトは、指を鳴らすと詠唱をはじめる。
「凍てつく槍よ…我が前に立ちふさがりし者を貫け!」
ハミルトの声に呼応したカトリの足元を凍らせたものから氷の槍が伸び、彼女の横腹から貫いた。
その瞬間、カトリは小さく悲鳴をあげると苦しそうに座り込んだ。
カトリの、その様子を観察したネーメットはひとつの憶測を呟いた。
「…今の身体に慣れはじめたようじゃの、どうやら」
「カトリ…」
ハミルトも、ネーメットと同じ答えにたどり着いたのだろう……
複雑そうな表情を浮かべて、苦痛に顔を歪めているカトリを見ていた。
死霊術によって蘇った死者ははじめのうち身体の扱いに慣れない為、声をあげる事ができない上に多少動きが鈍い。
倒すならば、この状態が一番楽である…が、身体の扱いに慣れはじめた死者は少々厄介である。
まるで生きているかのように振る舞い、生者の命を貪る魔物と化すのだ。
その上、動きが俊敏で多少身体も丈夫になっている為、簡単には倒せない。
…カトリの状態は、まさに後者の部分に当てはまりかけているのだ。
「カ、カトリ!!」
うずくまっているカトリの姿を見たグラハムが思わず声をあげると、彼女は生気の宿らぬ瞳に涙を溜めて彼を見た。
彼女の、そんな行動を見ていたセネトは腕を組んで口を開く。
「あー…かなり慣れてきてるな、あの様子だと。ネーメットのじいさんとハミルト――2人共、ボロボロだなー。何やってるんだよ…」
この言葉に、ネーメットとハミルトはようやくセネトとグラハムが来ていた事に気づいたようだ。
ネーメットとハミルトは、深くため息をついて声を揃えるように言った。
「セネト…お前さんというやつは。遅い!何をやっておった!」
「――グラハム…遅い!何をやっていたんだ」
2人の息のあった言葉に、唖然としたセネトと申し訳なさそうなグラハムが言う。
「…何か、おれのいない間に仲良くなったか?」
「ハ…ハミルト、ごめん。ぁ…大丈夫?」
傷を負っているらしいハミルトに駆け寄ったグラハムは、言葉を続けた。
「これ…もしかして、カトリが?」
「――生きていた頃のカトリ、ううん…カトリ本人よりも身体能力が上のようでね。私達は…あいつらに嵌められたみたいだよ…」
まだ動けぬ様子のカトリに視線を向けたハミルトは、今にも泣きだしそうなグラハムの頭を優しく撫でる。
その様子は、まるで兄が弟を慰めているかのようにも見えた……
「……ああなってしまっては、もうどうする事もできない。多分…私の兄弟子の力でもね」
「ハミルト…ごめんね。僕のせいだよね…僕が、あいつらの目的に気づけなかったせいで――本当にごめんなさい」
悔しそうに歯を食いしばっているハミルトに、責任を感じたグラハムは俯いてしまう。
気づいたハミルトは首を横にふると、優しく頭を撫でていた手を今にも泣きだしそうなグラハムの身体にまわして抱きしめた。
「違うよ…グラハム、君のせいじゃない。私が嵌められたんだ――だから、もう終わりにしよう。私達の為にも…カトリの為にも」
囁くように言ったハミルトに、何かを決意したらしいグラハムは頷く。
グラハムの身体から手を離したハミルトと、グラハムがセネトに向けて頭を下げた。
「勝手な事を頼むようだけど…」
「カトリをね…眠らせてあげたいんだ。だから、お願い…します」
2人の言葉に、ネーメットは視線だけをセネトへ向けている…
――どうやら、判断をセネトに任せるつもりらしい。
それに気づいたセネトは頭をかいて、ハミルトとグラハムに向き直った。
「…わかった。というより…そうするしかないだろ?事情は、後で話せよ!」
セネトの言葉に、ハミルトとグラハムがもう一度頭を下げると大きく頷いて答える。
「…わかっているよ。全ては私の責任だからね…」
「…ありがとう」
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