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4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」
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廊下を歩くセネトは、左右を見回しながら呟いた。
「…やっぱり広いなぁー、ははは」
セネトが笑っているのには、理由――現在セネト達3人がいるのは屋敷の2階廊下なのだが、いたるところに破壊の痕跡があったからである。
それを見なかった事にしているセネトの後ろで、クリストフとイアンが囁くような小さな声で話していた。
「まぁ…当り前ですが、誰もいませんね」
「壁や床に破壊の痕、か…確か、中は木造だが石造りだったよな?この屋敷が丈夫でよかったな…」
こんな風に前向きに考えていないと、胃には優しくないのだろう……
さすがに、こんな暴れ方をするのは一人しかいないとセネトもわかっているので2人に声をかけた。
「おいおい…今はそこを気にするよりも――」
「うわぁーん!!」
セネトの言葉を遮るように、誰かの泣き声が聞こえてきた…が、それは突き当りの部屋から聞こえてきたようだ。
驚きと怒りの混じったような表情のセネトは、泣き声が聞こえてきた方向に目を向ける。
「な、なんだ…一体?つーか、おれのセリフを遮りやがって――でも、何か聞き覚えのある声だよな。誰だっけ…?」
首をかしげた3人が急いでその部屋に向かうと、そこにはメイスを片手に持った紺色の髪の少女と頭を抱えて震えている……
「はぁ~!?グラハム~ぅ!?」
思わず、セネトが素っ頓狂に叫んでしまったのは…いつだったかの、黄色の髪をした青年グラハム・ユージンがそこにいたからだった。
セネトの叫びに、少女はメイスを床に向けて下ろしてこちらの方を向く。
「あれ…セネトに、クリストフとイアン?何、遅かったわね?」
「お前は、自分が連れ去られたという自覚を…ないな、お前ならば」
きょとんとしている少女に、小言を言おうとしたイアンだったが途中でやめた。
その隙をついたグラハムが、自分の名を叫んだセネトとクリストフのそばに駆け寄ると上着の裾を引っぱる。
「うぅ~…た、助けて。買い物に行ったハミルトを待ってたら、あの子が急に僕をメイスで殴ろうと」
「な、何よ…あたしは、ここの吸血鬼と遊んでいただけよ!ついでに、こいつをここで見つけたから…やっちゃおうかな~って」
しがみつきながら主張するグラハムから呆れた視線を少女に向けると、彼女は少し狼狽えながら言った。
「や、やっちゃおうかな~で襲うなよ、こんな無抵抗なヤツを……というか、遊びって何だよ?クレリア…」
少女・クレリアの言葉に、セネトがひきつりながら言うとグラハムも同意するように頷いている。
「いや~あの子供――なんか、『主』って呼ばれていた子供にそそのかされてさ。本当に『主』か、わかんないけど…始末できたらラッキーかな、と思って」
笑いながら答えたクレリアに、クリストフは頭を抱えて呟いた。
「…本当ですよ、クレリア。その、『主』と呼ばれていた少年は」
「無知とは本当に恐ろしいものだな、そして…何でもいいからやってしまおうというのもな。良し悪し、だ…」
ため息をついたクリストフの肩に手をおいたイアンが、呆れたような笑みを浮かべていた。
メイスをぐるぐる振り回していたクレリアが、ふと…クリストフにメイスを向けると訊ねる。
「あたし…子供としか言ってないのに、何で少年だって知ってるの?」
「…あなたは、本当に素晴らしい判断能力を持ってますね。そこは…そこだけは、褒めて差し上げますよ。でもね…クレリア」
大きくため息をついたクリストフは持っていた杖をイアンに預けてクレリアの元へ駆け寄ると、彼女が持つメイスを払い落とし…そのまま腕をとってねじり倒した。
「あなたが知らないだけで、僕達は知っているんですよ?あなたよりも長く退魔士をしてますから…」
「い、たた…痛いって!もぉー…ごめんなさい、って!!」
謝るクレリアの腕から手を放したクリストフは、床に転がっているメイスを素早く没収する。
ようやく解放されたクレリアは、掴まれていた腕をさすりながら床に座り込んだ。
「だったら、そーいえばいいでしょ…あー、そこのやつ倒したら帰れるかと思ったのに」
セネトの足元にいるグラハムをひと睨みしたクレリアは、立ち上がると同時にクリストフからメイスを奪おうと動く…が、間一髪で避けられる。
クリストフは小さく息をいて、メイスをクローゼットへ向けて投げつけると…クローゼットの扉が音をたてて壊れた。
「ふふっ…やっぱり見つかっちゃったか。気づかれないようにしてたんだけどな…君には、やっぱりバレてたようだね」
その声は部屋のほぼ中央に置かれた椅子に、いつの間に現れたのか…幼い少年が面白そうに笑いながら腰かけていた。
セネトのそばにいたグラハムがその幼い少年の姿を見つけると、駆け寄ってその小さな身体にしがみつく。
「兄さーん…あの子、すごく怖いよ~。うぅ…ハミルト、まだ帰ってこないし…死んじゃうかと思ったよぅ…」
「よしよし、ごめんね…グラハム。君を、まさか…ついでと言って襲うとは考えてなかったんだ。うーん、これはハミルトに怒られてしまうかな?ははは…」
グラハムの頭を撫でた幼い少年が、苦笑混じりに答えた。
それを見たクレリアが「こいつ、こいつ」と指差して主張しているのに気づいたセネトは、何から聞くべきかを悩んで――とりあえず、一番に確認すべき事から訊ねる。
「…やっぱり広いなぁー、ははは」
セネトが笑っているのには、理由――現在セネト達3人がいるのは屋敷の2階廊下なのだが、いたるところに破壊の痕跡があったからである。
それを見なかった事にしているセネトの後ろで、クリストフとイアンが囁くような小さな声で話していた。
「まぁ…当り前ですが、誰もいませんね」
「壁や床に破壊の痕、か…確か、中は木造だが石造りだったよな?この屋敷が丈夫でよかったな…」
こんな風に前向きに考えていないと、胃には優しくないのだろう……
さすがに、こんな暴れ方をするのは一人しかいないとセネトもわかっているので2人に声をかけた。
「おいおい…今はそこを気にするよりも――」
「うわぁーん!!」
セネトの言葉を遮るように、誰かの泣き声が聞こえてきた…が、それは突き当りの部屋から聞こえてきたようだ。
驚きと怒りの混じったような表情のセネトは、泣き声が聞こえてきた方向に目を向ける。
「な、なんだ…一体?つーか、おれのセリフを遮りやがって――でも、何か聞き覚えのある声だよな。誰だっけ…?」
首をかしげた3人が急いでその部屋に向かうと、そこにはメイスを片手に持った紺色の髪の少女と頭を抱えて震えている……
「はぁ~!?グラハム~ぅ!?」
思わず、セネトが素っ頓狂に叫んでしまったのは…いつだったかの、黄色の髪をした青年グラハム・ユージンがそこにいたからだった。
セネトの叫びに、少女はメイスを床に向けて下ろしてこちらの方を向く。
「あれ…セネトに、クリストフとイアン?何、遅かったわね?」
「お前は、自分が連れ去られたという自覚を…ないな、お前ならば」
きょとんとしている少女に、小言を言おうとしたイアンだったが途中でやめた。
その隙をついたグラハムが、自分の名を叫んだセネトとクリストフのそばに駆け寄ると上着の裾を引っぱる。
「うぅ~…た、助けて。買い物に行ったハミルトを待ってたら、あの子が急に僕をメイスで殴ろうと」
「な、何よ…あたしは、ここの吸血鬼と遊んでいただけよ!ついでに、こいつをここで見つけたから…やっちゃおうかな~って」
しがみつきながら主張するグラハムから呆れた視線を少女に向けると、彼女は少し狼狽えながら言った。
「や、やっちゃおうかな~で襲うなよ、こんな無抵抗なヤツを……というか、遊びって何だよ?クレリア…」
少女・クレリアの言葉に、セネトがひきつりながら言うとグラハムも同意するように頷いている。
「いや~あの子供――なんか、『主』って呼ばれていた子供にそそのかされてさ。本当に『主』か、わかんないけど…始末できたらラッキーかな、と思って」
笑いながら答えたクレリアに、クリストフは頭を抱えて呟いた。
「…本当ですよ、クレリア。その、『主』と呼ばれていた少年は」
「無知とは本当に恐ろしいものだな、そして…何でもいいからやってしまおうというのもな。良し悪し、だ…」
ため息をついたクリストフの肩に手をおいたイアンが、呆れたような笑みを浮かべていた。
メイスをぐるぐる振り回していたクレリアが、ふと…クリストフにメイスを向けると訊ねる。
「あたし…子供としか言ってないのに、何で少年だって知ってるの?」
「…あなたは、本当に素晴らしい判断能力を持ってますね。そこは…そこだけは、褒めて差し上げますよ。でもね…クレリア」
大きくため息をついたクリストフは持っていた杖をイアンに預けてクレリアの元へ駆け寄ると、彼女が持つメイスを払い落とし…そのまま腕をとってねじり倒した。
「あなたが知らないだけで、僕達は知っているんですよ?あなたよりも長く退魔士をしてますから…」
「い、たた…痛いって!もぉー…ごめんなさい、って!!」
謝るクレリアの腕から手を放したクリストフは、床に転がっているメイスを素早く没収する。
ようやく解放されたクレリアは、掴まれていた腕をさすりながら床に座り込んだ。
「だったら、そーいえばいいでしょ…あー、そこのやつ倒したら帰れるかと思ったのに」
セネトの足元にいるグラハムをひと睨みしたクレリアは、立ち上がると同時にクリストフからメイスを奪おうと動く…が、間一髪で避けられる。
クリストフは小さく息をいて、メイスをクローゼットへ向けて投げつけると…クローゼットの扉が音をたてて壊れた。
「ふふっ…やっぱり見つかっちゃったか。気づかれないようにしてたんだけどな…君には、やっぱりバレてたようだね」
その声は部屋のほぼ中央に置かれた椅子に、いつの間に現れたのか…幼い少年が面白そうに笑いながら腰かけていた。
セネトのそばにいたグラハムがその幼い少年の姿を見つけると、駆け寄ってその小さな身体にしがみつく。
「兄さーん…あの子、すごく怖いよ~。うぅ…ハミルト、まだ帰ってこないし…死んじゃうかと思ったよぅ…」
「よしよし、ごめんね…グラハム。君を、まさか…ついでと言って襲うとは考えてなかったんだ。うーん、これはハミルトに怒られてしまうかな?ははは…」
グラハムの頭を撫でた幼い少年が、苦笑混じりに答えた。
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