68 / 94
5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
4
しおりを挟む
「これが真実の一部です…あぁ、言い忘れてましたね。ミリスは私の妹、守人の少年は私の兄なんです…だから、仇をとらせてもらいますよ」
「…確かに、こいつらのした事は赦されるものじゃない。だけど…お前は、その事を知りながら護ってきたんだろう――こいつらを」
フレネ村の人々が誰一人としてヴァリスを見ていない事に気づいたセネトであった…が、その事には触れずにヴァリスの説得を試みる。
俯いて苦笑したヴァリスが一瞬だけウィルネスに目を向けて…そして、セネトの方を見た。
「…ずっと耐えてきました。村長に命じられるまま、彼らに殺され甦った人々を再び葬ってきたのですから。耐えてきたのは、復讐の機会を待つ為です…だいたい、兄に待つよう言われなければ――もう、とっくに行動を起こしていました」
ヴァリスの言葉に耳を傾けながら、セネトはこっそりと術式を描きはじめた。
ため息をついたヴァリスがフレネ村の人々の様子を冷めた目で見つめ…そして、ゆっくりと哀しみのこもった笑みを浮かべる。
「ははは…ほら、彼らはいつもこうなんですよ。自らの罪を、絶対に認めようとしない…余所者は信じるに値しない、と。兄さん…やはり、彼らは償う気がないようです」
「おじいさま、ごめんなさい…術に干渉させてもらいますね。ミリス、ヴァリスさんをお願い!」
静かに…しかし、面白そうに見ていたユミリィがウィルネス…そして、ヴァリスに視線を向けると言った。
そして、ゆっくり手をかざすと張られた結界を解除したらしく、その反動でウィルネスが苦痛に顔を歪める。
「おじいさまっ!」
ウィルネスの苦しげな声に、クレットが慌てて駆け寄ると…大丈夫だ、と言うように彼女の肩に手をおいたウィルネスはユミリィに声をかけた。
…もしかすると、ヴァリスに気づかれているかもしれない――そう考えたセネトであったが、今にも短剣を引こうとしているヴァリスの様子を見て魔法を発動させる。
「させるか!"吹き飛ばせっ!"」
セネトの短い詠唱に呼応した術式から風が巻き起こり、ヴァリスの持つ短剣をもぎ取るように吹き飛ばした。
宙を舞う短剣をクリストフが受け取ると、それを足元の地面に突き刺す。
風の力で自らの武器を奪われたヴァリスは利き手である右手をおさえ、驚いたようにセネトやクリストフの方を見た。
…その隙に首の傷をおさえた少年や他のフレネ村の人々がヴァリスのそばから離れ、セネト達のいる方へと逃げると皆が異様なものを見るような眼をヴァリスに向ける。
ナルヴァだけがその場にとどまり…ヴァリスの後ろ姿やフレネ村の人々の様子を、微かに唇を噛みしめながら眺めていた。
「…何を考えておる、ユミリィ?わしの結界を解除したとしても…っ!?」
「ふふふ、おじいさまこそ変なの…結界って、おじいさまのものしかなかったわ。わたしも、ね…復讐をするの。わたしの生命を奪った彼らに対して…それにね、わたしがこうして留まる事ができたのはヴァリスさん達のおかげだから…そのお手伝いも兼ねてるのよ」
張っていたもうひとつの結界の異変に気づいたウィルネスに、ユミリィが満面の笑みを浮かべて自分のスカートの端を持つとくるりとひと回りする。
(何で、2重の結界がすべて解除されて――それに、ユミリィが言ってた…)
ウィルネスとユミリィのやり取りを聞いていたセネトがある事に気づいて、慌ててヴァリスの方に目を向けた。
そこには…ヴァリスのそばに茶髪でショートボブの少女…おそらく、この子がミリスなのだろう――が、いつの間にか現れていた。
彼女の手にはクリストフが地面に刺した短剣が握られており、それをヴァリスに渡しているようだ。
「ヴァリス兄さん、大丈夫…?」
「ありがとう…大丈夫ですよ、ミリス。すみません…仇を――せめて、君に酷い事をした奴らに仕返ししたかったのですが…」
短剣を受け取り、心配そうな表情を浮かべるミリスの頭を優しく撫でながらヴァリスが哀しそうに微笑んだ。
ミリスが兄の言葉に、首を横にふると手を差し出す。
「ううん…それよりも一度戻ろう。あの人達、思ってた以上に邪魔になるから…少し計画を変える、って」
「…兄さんが言ってたのですか。わかりました…ユミリィ、引きますよ」
何か思案したヴァリスはミリスの手をとると、ユミリィに声をかけた。
「はーい、それじゃ…おじいさま、クレット。また後で、ね」
元気よく返事をしたユミリィは、ウィルネスとクレットに向けて手をふると指を鳴らした。
その瞬間、強い風が吹き荒れ…辺りは真っ白な靄のようなもので、視界がさらに悪くなる。
「な、なんだよ…何も見えんっ!つーか、ヴァリス…待てって!?」
「待てはお前だ、セネト…そこを動くな!」
視界ゼロの中、動こうとしたセネトをイアンが声だけで制止した。
――この状態では、何が起こるかわからないからである。
動きを止めたセネトが周囲を窺っていると、真っ白な靄のようなものはゆっくりと晴れていき…気づくとアーヴィル村ではなく、荒廃した夜のフレネ村の中に立っていた。
***
「…確かに、こいつらのした事は赦されるものじゃない。だけど…お前は、その事を知りながら護ってきたんだろう――こいつらを」
フレネ村の人々が誰一人としてヴァリスを見ていない事に気づいたセネトであった…が、その事には触れずにヴァリスの説得を試みる。
俯いて苦笑したヴァリスが一瞬だけウィルネスに目を向けて…そして、セネトの方を見た。
「…ずっと耐えてきました。村長に命じられるまま、彼らに殺され甦った人々を再び葬ってきたのですから。耐えてきたのは、復讐の機会を待つ為です…だいたい、兄に待つよう言われなければ――もう、とっくに行動を起こしていました」
ヴァリスの言葉に耳を傾けながら、セネトはこっそりと術式を描きはじめた。
ため息をついたヴァリスがフレネ村の人々の様子を冷めた目で見つめ…そして、ゆっくりと哀しみのこもった笑みを浮かべる。
「ははは…ほら、彼らはいつもこうなんですよ。自らの罪を、絶対に認めようとしない…余所者は信じるに値しない、と。兄さん…やはり、彼らは償う気がないようです」
「おじいさま、ごめんなさい…術に干渉させてもらいますね。ミリス、ヴァリスさんをお願い!」
静かに…しかし、面白そうに見ていたユミリィがウィルネス…そして、ヴァリスに視線を向けると言った。
そして、ゆっくり手をかざすと張られた結界を解除したらしく、その反動でウィルネスが苦痛に顔を歪める。
「おじいさまっ!」
ウィルネスの苦しげな声に、クレットが慌てて駆け寄ると…大丈夫だ、と言うように彼女の肩に手をおいたウィルネスはユミリィに声をかけた。
…もしかすると、ヴァリスに気づかれているかもしれない――そう考えたセネトであったが、今にも短剣を引こうとしているヴァリスの様子を見て魔法を発動させる。
「させるか!"吹き飛ばせっ!"」
セネトの短い詠唱に呼応した術式から風が巻き起こり、ヴァリスの持つ短剣をもぎ取るように吹き飛ばした。
宙を舞う短剣をクリストフが受け取ると、それを足元の地面に突き刺す。
風の力で自らの武器を奪われたヴァリスは利き手である右手をおさえ、驚いたようにセネトやクリストフの方を見た。
…その隙に首の傷をおさえた少年や他のフレネ村の人々がヴァリスのそばから離れ、セネト達のいる方へと逃げると皆が異様なものを見るような眼をヴァリスに向ける。
ナルヴァだけがその場にとどまり…ヴァリスの後ろ姿やフレネ村の人々の様子を、微かに唇を噛みしめながら眺めていた。
「…何を考えておる、ユミリィ?わしの結界を解除したとしても…っ!?」
「ふふふ、おじいさまこそ変なの…結界って、おじいさまのものしかなかったわ。わたしも、ね…復讐をするの。わたしの生命を奪った彼らに対して…それにね、わたしがこうして留まる事ができたのはヴァリスさん達のおかげだから…そのお手伝いも兼ねてるのよ」
張っていたもうひとつの結界の異変に気づいたウィルネスに、ユミリィが満面の笑みを浮かべて自分のスカートの端を持つとくるりとひと回りする。
(何で、2重の結界がすべて解除されて――それに、ユミリィが言ってた…)
ウィルネスとユミリィのやり取りを聞いていたセネトがある事に気づいて、慌ててヴァリスの方に目を向けた。
そこには…ヴァリスのそばに茶髪でショートボブの少女…おそらく、この子がミリスなのだろう――が、いつの間にか現れていた。
彼女の手にはクリストフが地面に刺した短剣が握られており、それをヴァリスに渡しているようだ。
「ヴァリス兄さん、大丈夫…?」
「ありがとう…大丈夫ですよ、ミリス。すみません…仇を――せめて、君に酷い事をした奴らに仕返ししたかったのですが…」
短剣を受け取り、心配そうな表情を浮かべるミリスの頭を優しく撫でながらヴァリスが哀しそうに微笑んだ。
ミリスが兄の言葉に、首を横にふると手を差し出す。
「ううん…それよりも一度戻ろう。あの人達、思ってた以上に邪魔になるから…少し計画を変える、って」
「…兄さんが言ってたのですか。わかりました…ユミリィ、引きますよ」
何か思案したヴァリスはミリスの手をとると、ユミリィに声をかけた。
「はーい、それじゃ…おじいさま、クレット。また後で、ね」
元気よく返事をしたユミリィは、ウィルネスとクレットに向けて手をふると指を鳴らした。
その瞬間、強い風が吹き荒れ…辺りは真っ白な靄のようなもので、視界がさらに悪くなる。
「な、なんだよ…何も見えんっ!つーか、ヴァリス…待てって!?」
「待てはお前だ、セネト…そこを動くな!」
視界ゼロの中、動こうとしたセネトをイアンが声だけで制止した。
――この状態では、何が起こるかわからないからである。
動きを止めたセネトが周囲を窺っていると、真っ白な靄のようなものはゆっくりと晴れていき…気づくとアーヴィル村ではなく、荒廃した夜のフレネ村の中に立っていた。
***
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる