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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
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アーヴィル村の――集会所前にいたはずなのに、いつの間にかセネト達は荒れ果てたフレネ村に立っていた。
驚きのあまり、誰もが何も言う事はできず…ただただ呆然と、その景色を見ているしかできなかった。
そんな中、セネト達は気づく…それは、集会所の中にいるミカサやクレリア、幼い子供達の姿がここにない事を。
一体どういう事なのだろうか…と、セネトは首をかしげる。
荒廃したフレネ村にいる、のも腑に落ちなかった…というのも、セネト達がフレネ村を最後に見た時はこんなに荒廃していなかったはずだ。
まったく理解できず、目を丸くしたままセネトは呟いた。
「何で…というか、ここは本当にフレネ村なのか?」
「まぁ、そのようですが…厄介な魔法を使いますね、彼らは――」
呆れた様子でクリストフは周囲を見回すと、説明をはじめる。
どうやら、アーヴィル村全体に夢術をかけ…村人や動物を眠らせて、さらに夢の力を増幅させて夢の世界で作り上げた荒廃したフレネ村をアーヴィル村に投影しているのだという。
そして、夢に飲み込まれてしまったアーヴィル村――この状態が長く続けば、眠らされている人々の生命が消耗され危険なのだそうだ。
「うへぇ、それだけ危険な術を使ってまで復讐を…って、ちょっと待てよ」
クリストフの説明に納得して頷きかけたセネトは、何か違和感を感じて動きを止めた。
それは、ヴァリスの行動や計画を知っていた人物が他にもいるのではないか…と、ふと思えたからだ。
ヴァリスが凶行にでた際、動かなかったフレネ村出身の人物と視線を向けられていたのに何も言わなかった人物――最低でもこの2人はこの事態を予期していたのではないか、と。
イアンとクリストフも同じ考えに至ったらしく…セネトが口を開く前に、その2名に訊ねた。
「…ナルヴァとウィルネス殿、少しいいですか?」
「いつから知っておられましたか?もしかすると、知ったのは僕達がコルネリオ卿のところに行っている時かもしれませんけど」
あ、先を越された…と思ったセネトを余所に、挙動不審になるナルヴァと驚愕して目を見開くウィルネスは静かにセネト達の方に目を向けている。
ウィルネスのそばにいるクレットは俯いて、事の成り行きを見守るように様子を窺っていた。
――もしかすると…彼女もまた何か知っていたのかもしれない、とセネトは考えた。
しばしの沈黙の後、ウィルネスは静かに頷いて話しはじめる――
「…そうだ、これから行われる事を予めヴァリスから聞いておった…だが、夢術でこの状況となるとは知らなんだ」
「ヴァリスは…あの時、罪を明らかにするだけだと言っていた。それで…子供達は何も知らないから安全な集会所に避難させた方がいい、って」
ウィルネスの言葉に頷いたナルヴァが、俯きながら答えた。
…どうやら、子供達やミカサを集会所へ誘導するようヴァリスに指示されていたらしい。
どんな手を使っても真実を明らかにしたい…だが、それを何も知らない子供達に見聞きさせたくないという――ヴァリスの思いのようなものだったんだろう。
唇を噛んだセネトは、フレネ村の人々に視線を向ける…が、誰一人として自分達は何も間違っていないという表情をしている。
(何て奴らだ…村を護る為と言いながら、ただ口封じに…そして、依頼されたから殺したとか…)
報酬に目がくらんだフレネ村の人々が、ヴァリスの兄と妹を殺した――その事実がヴァリスの心を蝕んでいたのかもしれない、と思うと悲しくなった。
そして、それが自分の身にも起こったら…と想像したセネトは頭をふる。
「…だからって、ヴァリス達がやろうとしている事は正当化されないよな。って、あー…もしかして、だけど――」
ふと気づいた事を口にしたセネトが、フレネ村の…リグゼノの少年の肩に手をおいて訊ねた。
ヴァリスの兄と妹を殺す依頼があった、という事は…ヴァリスを殺す依頼もあったのではないか、と。
口をつぐんだまま、何も答えまいという姿勢の少年の首をセネトは掴んだ。
「おーい、また答えないつもりかー?なら、こっちも優し~く待つけどな…」
「…セネト、少し力を緩めないと…答える前に死人ですよ?」
呆れた様子のクリストフが止めに入る、がそういう問題ではないだろうな…と密かにウィルネスとイアンは思っていた。
その会話を聞いた少年は、顔を青くさせながら何度も頷いて答える。
「確かに…言われたけど、守人の――あいつの兄を始末した後、エレディアの監視が入ってできなかった…だいたい、あいつは退魔士だから」
「つまり、使える間は使って…使えなくなったら始末する気だったか。エレディアの怒りに触れてるな、間違いなく」
大きくため息ついたイアンが、少年やフレネ村の人々を見ると呟いた。
この様子ではエレディア家だけではなく、もうひとつの家からも怒りを買っているだろうな…と密かに考えながら。
突き放すように少年の首から手を放したセネトは、クリストフやイアンに声をかけた。
「そういえば、ユミリィがウィルネスのじいさんの結界を解除した時に気づいたんだけど。なくなってるよな、ミカサの結界も…」
「そうでしたね…何かあったのかもしれませんが、クレリアもいるので大丈夫だと思いたいですね。ただ、今は助けに向かえませんから…彼女達を信じるしかないでしょう」
夢と現が入れ替わっている状況では手も足も出せないのだ、とクリストフは言う。
ヴァリス達の復讐を止める為にも――そして、何かあったかもしれないミカサ達を助けにいく為にも…早くこの夢の世界を終わらせなければ、とセネト達は考えていた。
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驚きのあまり、誰もが何も言う事はできず…ただただ呆然と、その景色を見ているしかできなかった。
そんな中、セネト達は気づく…それは、集会所の中にいるミカサやクレリア、幼い子供達の姿がここにない事を。
一体どういう事なのだろうか…と、セネトは首をかしげる。
荒廃したフレネ村にいる、のも腑に落ちなかった…というのも、セネト達がフレネ村を最後に見た時はこんなに荒廃していなかったはずだ。
まったく理解できず、目を丸くしたままセネトは呟いた。
「何で…というか、ここは本当にフレネ村なのか?」
「まぁ、そのようですが…厄介な魔法を使いますね、彼らは――」
呆れた様子でクリストフは周囲を見回すと、説明をはじめる。
どうやら、アーヴィル村全体に夢術をかけ…村人や動物を眠らせて、さらに夢の力を増幅させて夢の世界で作り上げた荒廃したフレネ村をアーヴィル村に投影しているのだという。
そして、夢に飲み込まれてしまったアーヴィル村――この状態が長く続けば、眠らされている人々の生命が消耗され危険なのだそうだ。
「うへぇ、それだけ危険な術を使ってまで復讐を…って、ちょっと待てよ」
クリストフの説明に納得して頷きかけたセネトは、何か違和感を感じて動きを止めた。
それは、ヴァリスの行動や計画を知っていた人物が他にもいるのではないか…と、ふと思えたからだ。
ヴァリスが凶行にでた際、動かなかったフレネ村出身の人物と視線を向けられていたのに何も言わなかった人物――最低でもこの2人はこの事態を予期していたのではないか、と。
イアンとクリストフも同じ考えに至ったらしく…セネトが口を開く前に、その2名に訊ねた。
「…ナルヴァとウィルネス殿、少しいいですか?」
「いつから知っておられましたか?もしかすると、知ったのは僕達がコルネリオ卿のところに行っている時かもしれませんけど」
あ、先を越された…と思ったセネトを余所に、挙動不審になるナルヴァと驚愕して目を見開くウィルネスは静かにセネト達の方に目を向けている。
ウィルネスのそばにいるクレットは俯いて、事の成り行きを見守るように様子を窺っていた。
――もしかすると…彼女もまた何か知っていたのかもしれない、とセネトは考えた。
しばしの沈黙の後、ウィルネスは静かに頷いて話しはじめる――
「…そうだ、これから行われる事を予めヴァリスから聞いておった…だが、夢術でこの状況となるとは知らなんだ」
「ヴァリスは…あの時、罪を明らかにするだけだと言っていた。それで…子供達は何も知らないから安全な集会所に避難させた方がいい、って」
ウィルネスの言葉に頷いたナルヴァが、俯きながら答えた。
…どうやら、子供達やミカサを集会所へ誘導するようヴァリスに指示されていたらしい。
どんな手を使っても真実を明らかにしたい…だが、それを何も知らない子供達に見聞きさせたくないという――ヴァリスの思いのようなものだったんだろう。
唇を噛んだセネトは、フレネ村の人々に視線を向ける…が、誰一人として自分達は何も間違っていないという表情をしている。
(何て奴らだ…村を護る為と言いながら、ただ口封じに…そして、依頼されたから殺したとか…)
報酬に目がくらんだフレネ村の人々が、ヴァリスの兄と妹を殺した――その事実がヴァリスの心を蝕んでいたのかもしれない、と思うと悲しくなった。
そして、それが自分の身にも起こったら…と想像したセネトは頭をふる。
「…だからって、ヴァリス達がやろうとしている事は正当化されないよな。って、あー…もしかして、だけど――」
ふと気づいた事を口にしたセネトが、フレネ村の…リグゼノの少年の肩に手をおいて訊ねた。
ヴァリスの兄と妹を殺す依頼があった、という事は…ヴァリスを殺す依頼もあったのではないか、と。
口をつぐんだまま、何も答えまいという姿勢の少年の首をセネトは掴んだ。
「おーい、また答えないつもりかー?なら、こっちも優し~く待つけどな…」
「…セネト、少し力を緩めないと…答える前に死人ですよ?」
呆れた様子のクリストフが止めに入る、がそういう問題ではないだろうな…と密かにウィルネスとイアンは思っていた。
その会話を聞いた少年は、顔を青くさせながら何度も頷いて答える。
「確かに…言われたけど、守人の――あいつの兄を始末した後、エレディアの監視が入ってできなかった…だいたい、あいつは退魔士だから」
「つまり、使える間は使って…使えなくなったら始末する気だったか。エレディアの怒りに触れてるな、間違いなく」
大きくため息ついたイアンが、少年やフレネ村の人々を見ると呟いた。
この様子ではエレディア家だけではなく、もうひとつの家からも怒りを買っているだろうな…と密かに考えながら。
突き放すように少年の首から手を放したセネトは、クリストフやイアンに声をかけた。
「そういえば、ユミリィがウィルネスのじいさんの結界を解除した時に気づいたんだけど。なくなってるよな、ミカサの結界も…」
「そうでしたね…何かあったのかもしれませんが、クレリアもいるので大丈夫だと思いたいですね。ただ、今は助けに向かえませんから…彼女達を信じるしかないでしょう」
夢と現が入れ替わっている状況では手も足も出せないのだ、とクリストフは言う。
ヴァリス達の復讐を止める為にも――そして、何かあったかもしれないミカサ達を助けにいく為にも…早くこの夢の世界を終わらせなければ、とセネト達は考えていた。
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