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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
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夢魔の少女2人に説教をしているイアンと、刃を交えながら術勝負のような事になっているクリストフとヴァリスを横目に…セネトとルフェリスが切り結んでいた。
どちらかと言えば、魔法専門であるセネトがルフェリスの剣技におされている状態であるが……
(っ、くそ…さすがは"守人"って事か。剣の腕は、あっちが上…あー、もういっそ魔法でやってやろうか)
少々自棄になったセネトが不吉な事を考えながら、払い斬るように氷の刃のついたナイフを振った。
そして、ルフェリスが少し距離をとった隙にセネトはしゃがみ込むと地面に術式を描きだす。
「――"砕け、飲み込まれろ!"」
詠唱したセネトが勢いよく地面に拳を振り下ろすと、そこからルフェリスに向かって地割れが伸びた。
一瞬だけ驚いたように目を見開いたルフェリスだったが、すぐに表情を戻すと口元に笑みを浮かべる。
「ヴァリスから聞いてはいたけど…本当に、魔法の腕だけはすごいようだね。でも、慢心していると…いつか痛い目に合うよ?」
一瞬でセネトの背後へ回り込んだルフェリスは、術式を描きだすと口早に詠唱し終えた。
「"全てを飲み込み、爆ぜろ"」
セネトの足元に一つの大きな術式が現れ――それに気づいた時にはルフェリスは地割れで盛り上がった場所におり、セネトの舌打ちと同時に大爆発が起こる。
砂埃が舞う中、しばらく無表情にその様子を見ていたルフェリスは何かに気づくと小さく笑う。
「……すごいな、結構と本気でやったんだけどね。やっぱり、仕留められなかったか」
「当り前だっての、あれで仕留められるかって…ごほっ。それよりも…お前、魔法の他に何か仕掛けてきただろ?」
咄嗟に結界をはって、ルフェリスの魔法攻撃を防いだものの…髪の毛や服が少し焼け焦げ、顔に煤を付けたセネトが片膝をたてて文句を言った。
あれで本当に防いだと言えるのか、とルフェリスは疑問に感じつつ――呆れたように答える。
「何って…ちょっと薬を使っただけだよ。知ってるとは思うけど…アードレアは、薬と魔法を合わせた『薬術』が得意でね」
さっきの魔法に遅効性の動きを鈍らせる薬を混ぜておいた、とルフェリスが説明をした。
「あー…だから、さっきから違和感あんのかー」
自らの手を見つめながらセネトは納得したように呟く…これは早く決着をつけなければまずいな、と。
セネトがそう考えているのを知ってか知らずか、ルフェリスは心配そうな表情で声をかけた。
「ところで、大丈夫なのかな…そんな状態で?」
「っ…誰のせいだよ!心配はありがたいけどな…"舞え!吹き飛ばせっ!"」
相手に心配されてしまった事に、内心赤面しているセネトが術式を略式で描きだすと口早に詠唱を終える。
セネトの術式から作り出された風の塊がルフェリスの身体に当たると消え、そのまま彼を巻き込んで風は渦巻いた。
巻き込まれたルフェリスに目を向けたセネトは背後に気配を感じ、慌てて振り返る。
「ちっ…もう出てきたのか。もう少し、ゆっくりしてくればよかったのにな…」
「まぁ、ね…ビックリはしたけど、あんなところでゆっくりなんてできないかな。じゃあ、次は僕だね…」
そこにいたのは、肩をすくめながら苦笑するルフェリスだった。
彼はセネトが次の術式を描くよりも先に、セネトの胴めがけて勢いよく蹴りつける。
それを腕で防いだセネトであったが、重たい衝撃で腕のしびれるような感覚に隙を作ってしまう。
その隙をついたルフェリスはセネトの首に両足をかけ、そのまま地面へ叩きつけた。
「っ…」
全身に走る痛みに横たわっていたセネトはすぐに驚きの表情を浮かべ、転がるように移動する。
それと同時に、セネトのいた場所に剣が振り下ろされた。
「あ、危ないだろーが!!おれは、体術の心得がほとんどないんだぞ!」
「うん…知ってるよ。さっきからの行動で、なんとなくわかっていたからね…もう、君と遊ぶ時間は終わりにしようかな?」
急いで起き上がったセネトを、ルフェリスが面白そうに見ながら笑みを浮かべるとセネトの顎に向けて掌底をくらわせる。
後ろへ倒れたセネトは口元だけに笑みを浮かべると、囁くように言った。
「ったた…おれは、か弱いんだから…手加減してくれ、っての。だけど、まぁ…用意しておいて、正解だったな…」
意識が遠のきながら、ゆっくりと指を鳴らした。
不思議そうに首をかしげたルフェリスは、自らの身体に強い衝撃を受けてゆっくりと視線を下げる。
「…こ、これは――」
言葉と共に口から血が流れ落ち、自らの胸元に手をあてたルフェリスが驚いたように見つめていた。
彼の胸元には無数の氷の刃と一本のナイフが急所を外して突き刺さっており、それを確認したセネトは口元についていた血をぬぐいながら立ち上がる。
「さっき…お前に蹴られた時に、術式を描いておいたんだ。で、ついさっきの…掌底をくらって倒れる時に、ナイフも投げといてからの魔法を発動!ふふふ…どうだ!動きにくくなっても、これくらいは…できるんだぞ」
「あ、ははは…それは気づかなかった、な。ついでに、君の打たれ強さも…考慮しておく、べきだったね…」
小さく笑ったルフェリスが、胸の傷口をおさえると地面に膝をついた。
おびただしい血が彼の着ている青い服を染めて、ゆっくりと倒れる。
術者であるルフェリスが倒れた事で夢の世界は脈動し、ボロボロと崩壊し始めたのだった……
***
どちらかと言えば、魔法専門であるセネトがルフェリスの剣技におされている状態であるが……
(っ、くそ…さすがは"守人"って事か。剣の腕は、あっちが上…あー、もういっそ魔法でやってやろうか)
少々自棄になったセネトが不吉な事を考えながら、払い斬るように氷の刃のついたナイフを振った。
そして、ルフェリスが少し距離をとった隙にセネトはしゃがみ込むと地面に術式を描きだす。
「――"砕け、飲み込まれろ!"」
詠唱したセネトが勢いよく地面に拳を振り下ろすと、そこからルフェリスに向かって地割れが伸びた。
一瞬だけ驚いたように目を見開いたルフェリスだったが、すぐに表情を戻すと口元に笑みを浮かべる。
「ヴァリスから聞いてはいたけど…本当に、魔法の腕だけはすごいようだね。でも、慢心していると…いつか痛い目に合うよ?」
一瞬でセネトの背後へ回り込んだルフェリスは、術式を描きだすと口早に詠唱し終えた。
「"全てを飲み込み、爆ぜろ"」
セネトの足元に一つの大きな術式が現れ――それに気づいた時にはルフェリスは地割れで盛り上がった場所におり、セネトの舌打ちと同時に大爆発が起こる。
砂埃が舞う中、しばらく無表情にその様子を見ていたルフェリスは何かに気づくと小さく笑う。
「……すごいな、結構と本気でやったんだけどね。やっぱり、仕留められなかったか」
「当り前だっての、あれで仕留められるかって…ごほっ。それよりも…お前、魔法の他に何か仕掛けてきただろ?」
咄嗟に結界をはって、ルフェリスの魔法攻撃を防いだものの…髪の毛や服が少し焼け焦げ、顔に煤を付けたセネトが片膝をたてて文句を言った。
あれで本当に防いだと言えるのか、とルフェリスは疑問に感じつつ――呆れたように答える。
「何って…ちょっと薬を使っただけだよ。知ってるとは思うけど…アードレアは、薬と魔法を合わせた『薬術』が得意でね」
さっきの魔法に遅効性の動きを鈍らせる薬を混ぜておいた、とルフェリスが説明をした。
「あー…だから、さっきから違和感あんのかー」
自らの手を見つめながらセネトは納得したように呟く…これは早く決着をつけなければまずいな、と。
セネトがそう考えているのを知ってか知らずか、ルフェリスは心配そうな表情で声をかけた。
「ところで、大丈夫なのかな…そんな状態で?」
「っ…誰のせいだよ!心配はありがたいけどな…"舞え!吹き飛ばせっ!"」
相手に心配されてしまった事に、内心赤面しているセネトが術式を略式で描きだすと口早に詠唱を終える。
セネトの術式から作り出された風の塊がルフェリスの身体に当たると消え、そのまま彼を巻き込んで風は渦巻いた。
巻き込まれたルフェリスに目を向けたセネトは背後に気配を感じ、慌てて振り返る。
「ちっ…もう出てきたのか。もう少し、ゆっくりしてくればよかったのにな…」
「まぁ、ね…ビックリはしたけど、あんなところでゆっくりなんてできないかな。じゃあ、次は僕だね…」
そこにいたのは、肩をすくめながら苦笑するルフェリスだった。
彼はセネトが次の術式を描くよりも先に、セネトの胴めがけて勢いよく蹴りつける。
それを腕で防いだセネトであったが、重たい衝撃で腕のしびれるような感覚に隙を作ってしまう。
その隙をついたルフェリスはセネトの首に両足をかけ、そのまま地面へ叩きつけた。
「っ…」
全身に走る痛みに横たわっていたセネトはすぐに驚きの表情を浮かべ、転がるように移動する。
それと同時に、セネトのいた場所に剣が振り下ろされた。
「あ、危ないだろーが!!おれは、体術の心得がほとんどないんだぞ!」
「うん…知ってるよ。さっきからの行動で、なんとなくわかっていたからね…もう、君と遊ぶ時間は終わりにしようかな?」
急いで起き上がったセネトを、ルフェリスが面白そうに見ながら笑みを浮かべるとセネトの顎に向けて掌底をくらわせる。
後ろへ倒れたセネトは口元だけに笑みを浮かべると、囁くように言った。
「ったた…おれは、か弱いんだから…手加減してくれ、っての。だけど、まぁ…用意しておいて、正解だったな…」
意識が遠のきながら、ゆっくりと指を鳴らした。
不思議そうに首をかしげたルフェリスは、自らの身体に強い衝撃を受けてゆっくりと視線を下げる。
「…こ、これは――」
言葉と共に口から血が流れ落ち、自らの胸元に手をあてたルフェリスが驚いたように見つめていた。
彼の胸元には無数の氷の刃と一本のナイフが急所を外して突き刺さっており、それを確認したセネトは口元についていた血をぬぐいながら立ち上がる。
「さっき…お前に蹴られた時に、術式を描いておいたんだ。で、ついさっきの…掌底をくらって倒れる時に、ナイフも投げといてからの魔法を発動!ふふふ…どうだ!動きにくくなっても、これくらいは…できるんだぞ」
「あ、ははは…それは気づかなかった、な。ついでに、君の打たれ強さも…考慮しておく、べきだったね…」
小さく笑ったルフェリスが、胸の傷口をおさえると地面に膝をついた。
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