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6話「王女と従者と変わり者と…」
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――…昔々、フローラント郊外に【狂気の魔術士】と呼ばれるエリシカ・メニートの屋敷があった。
そこには彼の弟子や養い子達が住んでいた、といわれている。
廃墟と化した現在、彼と弟子達の姿は消え…養い子の少女ひとりだけが残されたそうだ。
残された理由は少女がすでに亡くなり、霊体姿で屋敷に縛られているからだという……
「――って感じの噂があるんだ、あの廃墟に」
のんびりと馬車に揺られながら、隣に座るベアトリーチェに廃墟の噂を話したセネト。
2人は郊外にある廃墟に向かう為、最寄りの所まで往復運行する乗り合い馬車に乗っていた。
その間、ベアトリーチェに廃墟となった屋敷はどういう所なのか質問されたのでセネトがそれに答えたのだ。
「まぁ、色々と他にも言われてるけど…共通してるのはそんな感じ」
「そうですか…でも、どうして少女だけそのような事に?」
魂が縛られてしまった理由は一体何なのか、ベアトリーチェが首をかしげた。
魔法で縛られているのか、それとも何か心残りがあるのか……
今となっては誰もわからないだろう、とセネトが言葉を続ける。
「少女本人も忘れていて、訪れた者に話しかけては忘れてしまった何かを思い出そうとしている…というのも聞いた事あるな」
「セネトは詳しいのですね。私、歴史の勉強でエリシカ・メニートの事を知りましたけど…そういった歴史までは知りませんでした」
勉強不足で申し訳ないです、と顔を伏せたベアトリーチェにセネトは慌てたように首を横にふった。
「いや、その…歴史というか、こういうのは言い伝えというか…おれも、そこまで詳しいわけじゃないから」
他国な上に巷の噂レベルなのだから、ベアトリーチェが知らなくても当然だと彼は言う。
「それに、おれは歴史関係が弱いから…そういった場所での仕事の時、教えてくれると助かるかな」
「…はい!わかりました、ありがとうございます」
セネトの言葉に、安心したような表情を浮かべたベアトリーチェは微笑んだ。
――ベアトリーチェはセネトの不器用な優しさに、心の中で改めて彼を選んでよかったと思った。
***
小さな鼻歌混じりの歌声が響く、そこは古びた部屋の中――
今にも壊れそうな本棚にすがるような形で、埃の被った書物を手にする人影がひとつ……
表紙にのる埃を払い落とし、その人物は笑みを浮かべると独り言のように呟いた。
「先生も、面白いものを残してくれているから…おかげで心置きなく遊べるなぁ」
無数の小さな光の玉が、その人物の顔を照らしだす。
口元に笑みを浮かべた表情のまま、手に持つ書物から無数の小さな光の玉へ視線をうつした。
無数の光は舞うように漂い、楽しそうな笑い声をたてて部屋の中を満たしていく。
その光の玉達はゆっくりと形を変えると、それぞれ人の姿となった。
まるで、かつての姿を取り戻すかのように……
――かつての姿を取り戻した人々の中に、大きなクマの人形を抱きしめて座り込む幼い少女がひとり……
何も映さぬ瞳を床に向け、誰にも聞き取れぬほど小さな声で呟いている。
「…やく、どうして…約束を…て…あーろ…け…」
彼女の囁き声は、たくさんの笑い声の中にかき消されていった――
そこには彼の弟子や養い子達が住んでいた、といわれている。
廃墟と化した現在、彼と弟子達の姿は消え…養い子の少女ひとりだけが残されたそうだ。
残された理由は少女がすでに亡くなり、霊体姿で屋敷に縛られているからだという……
「――って感じの噂があるんだ、あの廃墟に」
のんびりと馬車に揺られながら、隣に座るベアトリーチェに廃墟の噂を話したセネト。
2人は郊外にある廃墟に向かう為、最寄りの所まで往復運行する乗り合い馬車に乗っていた。
その間、ベアトリーチェに廃墟となった屋敷はどういう所なのか質問されたのでセネトがそれに答えたのだ。
「まぁ、色々と他にも言われてるけど…共通してるのはそんな感じ」
「そうですか…でも、どうして少女だけそのような事に?」
魂が縛られてしまった理由は一体何なのか、ベアトリーチェが首をかしげた。
魔法で縛られているのか、それとも何か心残りがあるのか……
今となっては誰もわからないだろう、とセネトが言葉を続ける。
「少女本人も忘れていて、訪れた者に話しかけては忘れてしまった何かを思い出そうとしている…というのも聞いた事あるな」
「セネトは詳しいのですね。私、歴史の勉強でエリシカ・メニートの事を知りましたけど…そういった歴史までは知りませんでした」
勉強不足で申し訳ないです、と顔を伏せたベアトリーチェにセネトは慌てたように首を横にふった。
「いや、その…歴史というか、こういうのは言い伝えというか…おれも、そこまで詳しいわけじゃないから」
他国な上に巷の噂レベルなのだから、ベアトリーチェが知らなくても当然だと彼は言う。
「それに、おれは歴史関係が弱いから…そういった場所での仕事の時、教えてくれると助かるかな」
「…はい!わかりました、ありがとうございます」
セネトの言葉に、安心したような表情を浮かべたベアトリーチェは微笑んだ。
――ベアトリーチェはセネトの不器用な優しさに、心の中で改めて彼を選んでよかったと思った。
***
小さな鼻歌混じりの歌声が響く、そこは古びた部屋の中――
今にも壊れそうな本棚にすがるような形で、埃の被った書物を手にする人影がひとつ……
表紙にのる埃を払い落とし、その人物は笑みを浮かべると独り言のように呟いた。
「先生も、面白いものを残してくれているから…おかげで心置きなく遊べるなぁ」
無数の小さな光の玉が、その人物の顔を照らしだす。
口元に笑みを浮かべた表情のまま、手に持つ書物から無数の小さな光の玉へ視線をうつした。
無数の光は舞うように漂い、楽しそうな笑い声をたてて部屋の中を満たしていく。
その光の玉達はゆっくりと形を変えると、それぞれ人の姿となった。
まるで、かつての姿を取り戻すかのように……
――かつての姿を取り戻した人々の中に、大きなクマの人形を抱きしめて座り込む幼い少女がひとり……
何も映さぬ瞳を床に向け、誰にも聞き取れぬほど小さな声で呟いている。
「…やく、どうして…約束を…て…あーろ…け…」
彼女の囁き声は、たくさんの笑い声の中にかき消されていった――
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