追憶のステンドグラス

雪原るい

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一章 ステンドグラスは幻に…

3:まずは「おすわり」からですかね…?

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兄が帰った後、僕は干していたマットレスの回収へ向かう事にしました。
まぁ、日が昇ったら干し直すつもりです…それよりも、外にこのまま置いておきたくなかったんです。

死者――いえ、もうはっきり言えばゾンビが絶対にウロウロしてる気しかしなかったんですよ…無事かな、マットレスは。

案の定…外はゾンビ祭り状態でしたが、とりあえずマットレスは無事だったのでひと安心です。
魔法で室内へマットレスを運び入れ…どうやってゾンビ祭りを鎮めるか思案していると、背後から声をかけられました。

「…おい、お前――ここで何してやがる、人間っ!!」

知らぬ声に、僕が首をかしげつつ振り向くと同時に…ものすごい握力で、首元を掴まれたわけです。
…まぁ、僕はすぐに相手の正体に気づきましたが――目の前にいる彼は、僕の正体に気づいてない様子で…いや、あれから随分時が経ってるので知らない世代なのでしょう。

気配でわかりそうなのに…と、心の中で呆れてしまったのはここだけの話です。

何も答えぬ僕にイラついたのか…彼は、僕の背を建物の壁にたたきつけて怒鳴りつけてきた。

死霊術士ネクロマンサーか何か知らねーけど、舐めた真似するなよっ!」

いやいや、"舐めた真似するな"は僕の方こそ言いたい…
今、貴方の目の前にいる僕は"我が君"に仕える者ですよって。

鼻が辛いからって、八つ当たりは止めてもらいたい…
大体、後先考えずに相手の正体も考えず喧嘩を売るとは――僕は、兄よりは温厚ですよ…兄だったら、壁にたたきつけられた時点でってます。

見たところ、はぐれワーウルフのようですから…きちんと教育しつけしなければ駄目ですよね。

「貴方は…僕が何かわかってますか?」
「はぁ!?意味わかんねー事言ってると…?」

先ほどの勢いが失速し、彼は首をかしげてますが…もしかして、ようやっと気づいて――

「闇の気配…お前、下級魔族の類か。どうせ、たいした力もねーだろうが…早く何とかしろっ!」

…しばいても良いですよね、"我が君"。
こいつ、間接的に貴方様を侮辱しましたから…大丈夫です、生命まではとりませんので。
きっと兄も同意してくれるでしょう…だって、兄の事も貶した様なものだし。

僕の首を掴んでいる、躾のなっていないワーウルフの手を優しくひねりあげ…彼の耳元で、自己紹介をしてみました。
驚きで固まった彼は、僕の方を凝視したまま…あぁ、多分『鳩が豆鉄砲を食ったような』とはこの事だろう。
…とりあえず、"躾は後でしてやるから大人しくそこで待っていろ"とオブラートに包んで言ってやると彼は無言で何度も頷いてました。

――まったく、僕の仕事を増やさないで欲しい…これ以上は。


***


まだ本来の力がすべて戻っているわけではないですが…とりあえず、ゾンビ祭りは終わらせました。
出てきてる奴だけは土に帰しました…しかし、翌日の夜もなるんじゃないですかね。

…これで人間サイドが動きを見せてきたら困ります――だって、まだこちらは準備できてませんから…何もね。

そんな事を考えながら振り返ると、僕に向けてワーウルフが土下座してました。

「申し訳ありません…まさか、貴方様が"あの"リルハルト様とは知らず大変な失礼を――」

…すみませんが、"あの"とはどういう意味でしょうか?
何かしたかな…前に、噂になるような事を。
兄が言われるなら、まだわかるんですがね…うーん?

考えても仕方ないので、聞かなかった事にしましょう…大体、そんな事よりもやらなければならない事が沢山あるわけですからね。

僕はワーウルフの頭を無理矢理上げて、怖がらせないよう笑顔で声をかけてみました。

「本当に痛かったですが…貴方の謝罪を受け入れましょう。ですが、きちんと罰を与えねば…僕が"我が君"からお叱りを受けてしまいますから――」

ワーウルフは力持ちでしたっけ…と心の中で考えつつ、彼に教会内にある大きなゴミを外に運び出す命をだしてみました。
二つ返事で了承した彼は、すぐに仕事に向かってくれましたが…僕は、ある事に気づいてしまったわけです。

アイツらって、日中は人と同じ姿をとりますよね…
今は夜だから、毛皮でそんな事は気にならないわけで――つまり、彼は人の姿になったら全裸な状態ですね。

彼は「お巡りさん、コイツ変態です」と、言われてしまう状況になるんですよ…ゾンビ祭りの次に目立つだろうが。

衣服…といっても、すぐにどうにかなるものじゃないですしねぇ。
とりあえず、土に帰したゾンビの服で大丈夫…かな?

特に傷んでいない衣服を見つけ、魔法で洗って乾かせば…まだ使えるでしょうし。
これで嫌だと言うんなら、自分で何とかしてもらおう…できるものなら、ですが。

もう数時間もすれば、夜が明けるわけですが――ふと、今の現状を思い返してみました。

廃墟となった教会には死霊がいっぱいな上に、ゾンビ祭りが予告なしで開催され…挙句、現れたワーウルフ一匹。
…本来の力を取り戻せていない僕の気配は誤魔化せても、闇の気配が強くなりすぎている。

これは…多分、早馬で来てしまうんじゃないかと気づいてしまい、本当に頭が痛くなってきました。
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