追憶のステンドグラス

雪原るい

文字の大きさ
5 / 17
一章 ステンドグラスは幻に…

4:…いらっしゃいませ、魔の巣窟へ

しおりを挟む
あー…ほら、予想通りの展開じゃないか…と大きなため息がでました。
とりあえず、衣服を押しつけてワーウルフを人気のない森へ避難させましたが…逃がさぬよう、一応首輪をつけておいたのでいつでも呼び戻せます。

そんな事よりも、だ…先ほども言ったとおり、ため息が出てしまう状況なわけです。

「失礼する…貴殿は、ここで何をしている?」

僕の目の前に立つ男が言ってるのですが…この男は間違いなく人間で、神官騎士のようだ。
…神官と騎士の両方とは、なかなか面白いですよね――聖騎士じゃあ、ダメだったんですか?

まぁ、そんな事を考えてしまいましたが…それを口に出す事はできません。

「ここで一晩過ごしておりました…神官騎士様こそ、どうされましたか?」

あたりさわりのない返事をしておきましたが、彼の反応はいまひとつの様子。
もしかして、また死霊術士ネクロマンサーにでも間違われたか…と思ったんですが、ただ無表情に僕の頭から足先までを確認するように見て小さく頷くだけです。

不思議に思い首をかしげる僕に、彼は申し訳なさそうに声をかけてきた。

「あぁ、すまない…知り合いに似ている気がしてな。それよりも、貴殿は巡礼者かな?」
「まぁ…そのようなっものです。ここは捨て置かれたままでしたので、せめて安寧の地にしたく――」

もっともらしい事を言ってみましたが、心の中で自分は何を言っているのだろうと呆れてしまいました…仕事なので、そこは我慢です。

しかし、知り合いに似ているからと言ってじろじろ見られても困ります…
彼の年齢から考えても、僕と会った事は絶対にない――というより、僕らはつい最近復活したばかりなのだから出会うなどあり得ない。

あり得ないのですが…彼に気づかれぬよう、魔法で探りを入れて僕は気づいてしまった。
…でも、気づかぬふりでいきます。
前も言ったとおり、準備ができてないんです…色々と。

大体、彼は僕に気づかれぬよう…教会周辺に部下達を配置して、合図を待つように命じてるみたいです。
ならば、おあいこでしょう…というか、何なんだこの茶番はっ!

お互いに無言のまま、数分が経ちました。
とりあえず、来てしまったのならば仕方ないので…彼らにひと仕事してもらって帰ってもらいましょうかね。

「そういえば、僕の質問に答えを頂いておりませんが…神官騎士様方は、何故こちらへ?」

さっきから、視界の端にチラチラと貴方の部下達がこちらの様子を窺っているのが見えてるんだという思いを込めて訊ねてみました。
まぁ、わかりますよ…数分間も無言で立っているんですからね、僕達は。

「あ、あぁ…そうだったな。突如、この辺り一帯で闇の気配が濃くなってな…何が起こったのか調査の為、我々が派遣されたのだ」

…何か、申し訳なくなりました。
目覚めさせるつもりも予定もなかったのに、ゾンビ祭りを開催させてしまいましたからね…
本来の力が戻っておらず魔力が不安定なのが原因でして、そこは反省しております。

「そうだったのですね」と笑顔で答えておきましたが、内心穏やかではありません…
調査が半日で終わるとは、とても思えないのだから。
もうついでに、教会内の死霊もどうにかしてくれればいいのに…と、自棄やけを起こしたくなりました。


***


「…調査、という事ですけど貴方だけがここに滞在するつもりなんですか?」

思わず訊いてしまいましたが、神官騎士は気分を害した様子もなく首をかしげています。
…彼は部下達を全員帰して、何故か自分だけ残って元壁であった瓦礫に腰かけているんですよ。

部下達が寂しそうにしてたじゃないですか…つーか、お前も帰れよ!
何故、ここに残るんだ!
ひとりで何を調べる?

ちなみに、今は昼時…彼は、部下達が置いていってくれた昼食を準備しています。
僕の分もあるそうで、仲良く昼食を頂いております…サンドイッチ美味い。

「…まぁ、一応調査をしなければならないからな。それに、困っている友を見捨てられんからな…」

こちらの様子を窺いながら、そう言った彼はゆっくりとお茶を飲んでいる…んですが。

おい、ちょっと待て…
何か、とんでもない言葉を言わなかったか?
誰が貴方の友だって…?

助けてください、"我が君"…こいつ、生まれ変わっても何も変わってないです!
前世が変わり者だと、今世もなんですか?

あの時――
僕は敵だというのに「あいつは俺の友だ…だから、全力で戦って目を覚まさせる!」と勇者の盟友である騎士の彼が言っていた。

はっきり言って、友情など育んだ覚えはないです…
奴が勝手に、友人だと思っていたのだから。

しかも、最終決戦にて勇者が僕を倒した際――遠のく意識の中、確かに聞きました…
「お前は素晴らしいライバルで親友だった」という言葉を。
男泣きもしてましたねぇ…勇者も彼に「すまない…」と申し訳なさそうに言うし。

友人から親友という名のライバルに格上げしてました…
死んでも死にきれないという言葉を、あの時ほど思い知らされるとは思わなかった。

復活した現在、もう会わなくて済むと思っていたのに…何故なんでしょうか?
呪いですか、神からの。

しかも、こいつはここに居座る気でいるんですが…嫌がらせの類かなんですか?
厄日なのか…本当に。

「あ、そうだ…まだ名乗ってなかったな。"今の"俺の名前は、アルヴィド・エト・ラウドゥという…リル、よろしくな」

僕は聞かなかった事にしたい…というか、こいつ「今の」をつけましたね。
しかも、僕の愛称まで考えてるし…
「前」を覚えてるんですか、こいつは…永遠に忘れていてほしかったです。
神、仕事してください…切実なお願いです。

あー…まだ躾してないワーウルフもいるのに、何故こうも厄介な事が起こるんですかね。
というか、エンクヴィスト…いえ、今はアルヴィドですね――また、あの茶番劇を最期の時に見せるつもりなら止めてくださいね…と密かに願うしか、僕にはできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...