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勢力図
しおりを挟む「ッキャア! ちょっと、やめてよ!!」
「どうせヒマだろ、ヤらせろよ」
「そうそう」
書類提出帰りの近道の途中、悲鳴に晃心は足を止めた。
間違っていけない所としてココは男子校で高い声は男であり、そして下卑た声も当然ながら男である。
特大な溜め息をつきたいのを我慢しつつ、物音と声のする方をコッソリと窺う。
いくら風紀と生徒会が統制していても、ソコからあぶれる者は当然出てくる。まぁ、今はそれもほぼ崩壊しているので、抑制されていた者たちが表に出現してきたのも事実。しかしギリギリのところで攻防しているのは風紀だ。委員をこなしながら恋人の役員の仕事も着手している榛葉の有能さには本当に尊敬する。
力関係としては、未だ風紀が持っている。だが次いで今まで抑制されてきていた者とあぶれていた者たちが手を組んで第三勢力となり、現在一番の劣勢が生徒会関係だと晃心は踏んでいる。むしろ、生徒会を支持していた者たちが風紀やその他に流れているのも否めない。以前は虎の威を借りていた親衛隊の力も衰え、逆に制裁の対象として標的にされている話もチラホラと聞いている。本当に人間とやらは日和見であるが、それも仕方のないことなのか。
ちなみに、晃心が隊長として任されている親衛隊の隊員に対しての制裁は耳に届いていない。注意深く目を配ってはいるが、本当にこちらが気付かないように受けているのか、それとも元々人様にそれほど迷惑を掛けるほどの大々的な活動は行っていないので人畜無害とされているのか。
『はい、風紀。場所と用件を。』
情報社会の普及によりメールだけでなく風紀委員会への短縮ダイヤルというものが存在している。そのため一番近い委員を向かわせる司令塔として、お留守番のひとつの役目である。腕っ節には全く自信がないので、ありがたく活用させてもらう。先日充電したスマートホンに心の中で感謝をしつつ声を潜める。
「B棟第二調理室付近、1対3で暴行が──」
「いや、2対4だ」
響いた訂正に、瞠目も忘れて踵を返すが遅かった。
「副会長の親衛隊隊長サマじゃないですか。お付き合いしてもらいますよ」
「ラッキィー、キレイどころの隊長格二人とかツいてるッスね」
何も良くなどない。
目を凝らせば、先ほど悲鳴を上げたのはどうやら会計の隊長だったらしい。珍しい、副隊長と一緒ではなかったのか。
いつから晃心の存在に気付いていたのか、風紀に連絡したのも知られているので場所を移すだろう。面倒なことになった。
何がって、生徒会室に戻って仕事ができないからだ。どちらにしろ、会計親衛隊隊長を放置する事などできないので付き合うハメになるだろう。
「むぐぅぅ……」
拘束されて猿ぐつわをかまされた会計親衛隊隊長の姿が物語っている。諦めた晃心は今度こそ溜め息をついて、手にしていた携帯を離した。
「ちっせぇし、細っせぇな。抱き心地悪そうだな」
「……」
なら抱くな。
いい加減にこのフレーズ飽きた。そして近しい人たちだったら食事・睡眠と続くのだ。言われるほど細いか? 確かに筋肉質ではない。肌蹴られた上半身を眺めて晃心はひとり小首を傾げる。
別室に移動した一行は晃心と会計親衛隊隊長を取り囲んで舌なめずりしていた。隣で最大限に抵抗している渋谷隊長に手を焼いているようで、言い合いやもみ合いが聞こえる。
「風紀を待っていても、来ねぇよ」
「そーそー」
「第六会議室メチャクチャにしてやったからなぁ」
「ッ会計様の、大切な場所、荒らすなッ!!」
揉みくちゃにされながらも上げられる叫びには悲痛が混じっている。
特別棟の端に位置する、普段誰も近寄りもしない第六会議室は生徒会会計がヒッソリと使っている。セフレとコトを致す場所とある意味有名な噂として広まっているが、その実恋愛お悩み相談場所として大々的でないにしろ、恋多き青少年の憩いの場となっているのは少数のみが知る事実である。確か、渋谷も恋愛相談を会計に持ちかけて崇高しはじめたクチであったと記憶している。
「違うってのッ!! はじめ使ってたのはウチの総長だってッ!!」
「違うもん! 会計様だもん!!」
同レベルでツバを飛ばしあう二人を半眼で眺めて、静かに事の成り行きを見守っているどうやらこの中で一番冷静だろう人物に視線を向ける。
「あなた方は何をされたいのですか、副総長さん」
シ、ン……。
「ってめ、ドコのヤツだッ!!」
今までの騒々しさとは打って変わって静まり返った教室で、顔を真っ赤にした男が声を張り上げる。
「がなるな、うるさい。おもしろいヤツだな、生徒会副会長親衛隊隊長サマは」
「──どうも。ボクはしがない一般生徒ですよ。今まで大人しく話を聞いていれば、陣地取り合戦ですか? こんなに広大な敷地があるのに。そして会計様だの総長だのと、行動の言い訳にしている当の本人達の意向は確認したのですか」
再び訪れた静寂に晃心の声が響く。
「どっちが先だろうが後だろうが勝手にしてください。あなた方がしたことが、トップの評価にも繋がることを知った上で」
「評価だなんて、クソ喰らえだッ! どいつもこいつも俺らをカスみたいに──」
「──『ソレ』でいいのですか?」
いくら有名企業の子息が通う学園だとはいえ、みんながみんな品行方正とは限らない。強い光には、その分強い陰が付き纏う。
「お説教とは、いいご身分だなぁ! ぁあ?」
「俺はそんなにデキた人間ではありません」
むしろ、たった一人の幼馴染との友情のために、ココで踏ん張っているだけなのだから。
「……お前は今の学園、どう思っている?」
まさか意見を求められるとは思っておらず、内心驚きながら表情を変えず晃心は口を開く。
「学園がどの様に機能しようがしまいが関係ありません。自分の大切な人たちが楽しく学園生活を送ってくれるのならば」
そのための尽力は惜しまないつもりだ。
「あなたは、どの様にお考えですか──矢島先輩?」
挑発的に見上げた先の目は一度伏せられ、その顔にはうっすらと笑みが浮かぶ。
「……行くぞ。」
「えぇー……、そりゃないッスよ。オレその気になったのにぃ……」
「その辺の野良猫でも追いかけてろ」
情けなく縋る声をにべもなく振って、広い背中は他の三人を伴って教室を後にする。
「……木谷君って──」
「第六会議室、様子見に行こう!」
半ば言葉を遮った晃心は渋谷を急かした。
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