薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

月乃宮 夜見

文字の大きさ
5 / 200
一年目

5:思案

しおりを挟む
 焦茶で、先を尖らせた頭髪の男子。つまり転入生の内一人は、どうやら転生者らしい。フォラクスは資料に視線を落とす。
 から届いた資料によると、神の声を聞き、聖剣を抜いたのだとか。
 どこから転生したのかは不明だが、保有魔力の質はかなり良い。
 お陰で強い魔法を発することができている。だが、それを周囲に誇示するかように派手にのはどうなのだろうか。
 そして転生者であるせいか、態度がやや斜に構えたような、周囲を小馬鹿にした様子だった。『転生者』と呼ばれる者は、斜に構えたような態度か逆に酷く世界に怯えた様子を見せる、と資料に書かれていた。

「(……まあ、高圧的な態度は貴族も似た様なものなので、の態度に関しては放置いたしましょう。)」

 小さく息を吐き、フォラクスは資料を仕舞う。
 しかし、フォラクス自身は気にしなくとも周囲の者達はどう思うだろうか。

×

 魔術アカデミーの魔術コースと薬学コースの学生には義務がある。

 魔術コースでは『魔獣の退治と間引きを行うこと』。
 薬学コースでは『一定以上の品質を持つ薬品を一定量以上生成すること』。

 この義務は魔獣が発生するこの国で魔術師や軍人、薬師などを育成する学校で必ず課せられているものだ。
 今日は魔術コース学生達による魔獣の退治や間引きの作業が行われていた。明日、薬学コースの学生達が薬草を採取するので、その下見と安全確保も兼ねる。
「なんで薬学コースの草むしりのために駆り出されなきゃいけないんだ」と不満をこぼす学生が多かったものの、魔術コース自分達の使用する薬は薬学コースの学生が生成したものだと知れば、すぐに静かになった。

 ……そこまでは良かった。

×

 魔術アカデミーの魔術コース第四学年生に課せられた義務は『魔獣の間引き』であり、決して『魔獣退治』ではない。
 なので、アカデミー生は防具と小型の杖、逃亡用の閃光弾や臭気弾、笛などを携帯し、なるべく規定以外の魔獣は倒さないように指示を受けていた。
 「そんなに、片っ端から魔獣を退治するな」と、監督者として付いた上級生の注意をうながす声も、「魔獣を倒して役に立ちたいんです」と意気込む第四学年生の様子も毎年のように見られるもので、視察者達も数名ほどは覚えがあるらしく懐かしいような気恥ずかしいような様子でいる。

 普段では視察者達は付かないが、近年魔獣が強力になっているらしく、今回は授業の影響で複数教員を連れて行けない代わりに視察者をその監督者として魔獣の間引き作業に同伴させた。

 いわく、『普段通りの仕事だろう』と。

 それは軍部の魔術師の話であって、城勤の魔術師達は通常ならば研究と城や国を守る結界の管理しかしていない。そのため、城勤の者はげんなりとした様子だった。

×

 魔獣を見つけ、規定のサイズ以上ならば殺し、それ以下ならば見逃す。その作業を始めて大分経った。この場所に現れる魔獣は大型の虫から小動物くらいの大きさの、危険性の低い魔獣ばかりだ。
 初めは怖がっていた学生達も、倒す魔獣の大きさや危険性の低さに気がゆるみ始めている頃合いである。
 そういう時こそ、殊更ことさらに注意が必要となる。

「害を与えるのなら殺しても問題ないだろ?」

「魔獣は倒し過ぎると手に負えないくらい強い魔獣が現れる。だから、ほどよく間引きするように規定がもうけられている」

 言い合う声の方にフォラクスは視線を向けた。とあるアカデミー生が、規定サイズ以下の魔獣を退治しようとしていたらしい。
 退治しようとしていたのは転入生のようで、上級生から注意を受けていた。

「三年の時に習っただろう」

「すみません。この人、今年転入してきたんです」

 苛立つ上級生に、他のアカデミー生が困った様子で答える。珍しい転入生に、周囲の上級生や視察者達は驚いた。
 注意をした上級生も驚く様子を見せたものの、直ぐに持ち直す。

「そうは言っても、別の学校や初等部でも習うだろう、こんな基本的なことぐらい」

「……習っていないぞ」

 憮然ぶぜんとした態度で、転入生は答えた。恐らく、聞いていなかったのではないのか。
 あるいは、そのような教育が施せないほどに地方学校だったか。

「デタラメじゃあねぇだろうな」

 腕を組み、なぜか高圧的な態度で転入生は上級生に問いかける。

「元となる論文はある。図書館のxxxxの所に」
「だが、」

 転入生はなおも食い下がり、更に時間がかかりそうだった。このまま放置すれば、声に反応した魔獣が呼び寄せられるかもしれない。
 そう判断したフォラクスは言い合う二人に近づき、転入生の方に視線を向けて声をかけた。他の視察者達は我関せずで言い合いを無視していたからだ。

「目先の、刹那せつなの恐怖にとらわれて先の事が考えられないのですか」

「……恐怖、だと?」

 転入生は不愉快そうに眉間にしわをよせ、フォラクスを見上げた。

「『悪しきものが現れたから排除する』。其れは理性的な行動では有りません」

「……その魔獣が人間を襲ったらどうする」

「街中に現れたのならば、排除いたしますが」

 それこそ、魔術師や軍部の仕事だ。ただの学生ごときに換えが務まるものではない。

「山や森の中で襲われたらどうする」

そも、魔獣が出没しやすい危険地帯は立入禁止区域に指定されております」

「……」

「貴方がで魔獣を殺したために、更に強い魔獣が現れ本来以上の被害を出した時、

 声に少し魔力を込めて威圧しながら注意すると、

「……チッ」

苛立ったままであったが、ようやく引き下がった。きびすを返した転入生を見送り、フォラクスは小さく溜息を吐く。
 こういった自尊心の高い者はいずれまた何かを起こすだろうとフォラクスは考えているからだ。
 それが良い方に向かうことを願うよう、フォラクスは溜息とともに軽く目を閉じた。

「(……明日の薬学コースとの連携は大丈夫なのでしょうか)」

 確か、婚約者の居る方だったかと、思い出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...