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二年目

68:色々な始末

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 切れた通信機を仕舞い、足元に視線を向ける。

「……」

 そこに転がるのは人間だったもの、であった。

「少々、間が悪う御座いましたね」

嘆息し周囲へ視線を向ける。怪しい影も気配も、一般人を含めて誰一人、獣一匹すら何も無い事を改めて確認する。通信前と違いは無かった。

「いえ。……あの方も、有る意味で

 実に運の良い娘だ、と内心の表面で感心する。

 先程連絡を寄越よこした彼女には、宮廷で仕事をしていたかのように返答していたが。

「嗚呼、矢張やはり貴族と成れば素材の出来宜しいですな」

 ちら、と一瞬だけ手のひらを見て、呟く。
 赤黒く染まった手の内に二つ、同色に染まった魔力石が乗っていた。それは必ず頭部から摂れるもので、仕事を行った証として持ち帰るべきものである。

 無論、宮廷に居ると答えたそれは虚偽だ。

 依頼通りに対象へと干渉をしその回収を行う、宮廷魔術師でないもう一つの仕事の最中さいちゅうであった。

 ひと回り大きい魔力石をもう一つ取り出し、三つの魔力石を二つの回収瓶の中へ落とす。やや小さい方二つと、ひと回り大きい方一つに分けた。瓶に落ちる音はせず、さっと懐に入れる。
 『頃合いが良い』と言ったのは、丁度、回収作業の最中だったからだ。
 わずかでも早ければ、仕事の妙な時に着信するところだった。

 彼の所属する監視員は、危険人物を秘密裏に監視し素行が悪ければ捕縛を行うだけの公的機関である。それはきちんと国内では存在を知られており、仕事内容も大衆に知られていた。
 ただし、は誰もわからない。
 監視員の長である監視員長と、その副官だけを除いて。
 無論、公開されている仕事内容に嘘は無い。
 一般の監視員の仕事も、一応はそれの通りである。

 だが、監視員による監視や政府による警告を極度に無視した対象には、を行なって良い決まりとなっていた。
 これは、そのの一つである。

 残ったものは早急さっきゅうに黒い袋に詰め、空間魔術で然るべき所へ送る。残った赤色を浄化装置で無かった事にし、自身の汚れも消し去った。

 時折思うのだ。『彼女にはこうなって欲しくない』と。
 知り合いに干渉を施すのは少々面倒なのだ。後始末を含めて。

×

 既に宮廷の中へと戻り、何事も無かったかのように仕事部屋で普段通りに振る舞う。仕事の完了の報告書と共に、魔力石二つが入った回収瓶を上司へ送付した。

「……さて。準備をせねばなるまい」

 宮廷での作業を行いつつ、彼は呟く。
 準備、と言うのは客人を迎える準備であって、他意はない。

 婚約者となった彼女が何に興味を示すかなど分からないので、明らかによろしくないものは自室の物でもしっかりと隠しておかねば。

 学生及び若い女子の好むものなど、よくわからなかった。ひと回りも年が離れているからだ。
 情報媒体である程度の知識は有しても、体験はしていないので知っているが理解はできていない。

「(……の上、彼女は少々趣味が特殊な様子)」

 、流行りものなどには少しの関心を示す事、薬草のたぐいを好む事しか分からない。
 彼女は何を好むだろうか、と考えひとまずは無難な物を揃えようかと思考する。
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