薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

月乃宮 夜見

文字の大きさ
169 / 200
同棲生活

169:試運転

しおりを挟む
 結果を述べると、何とかなった。

 物珍しさが無くなったからか、先週と比べて来客の人数が減っていたのだ。
 それは手伝いが一切無い状態でもで、やはり手伝いが欲しいと思えるぐらいには忙しい。
 お店には会計をする役と商品を来客者に紹介する役、商品を補充する役と、少なくとも三人分は必要だからだ。
 特に、ラファエラの店は彼女の作ったオリジナルの薬品が多く陳列する。なので説明の役はほぼ必ずと言っていい程に必要になるのだ。

「あと、やっぱりお店のお留守番とかできると便利だもんね」

 ということで、一層のこと、ゴーレムを使う決心が固まった。

×

 次の休日。

「じゃあ。さっそく動かしてみよー」

 屋敷の庭で、ラファエラは「おー」と、ひとりで号令をかける。

「……きみも、少しくらいノリ合わせてみない?」

ちら、と横目で側に立つフォラクスを見上げるも、

「お断り致します。わたくしですので」

と、彼は首を振った。そもそも、そういったものに乗り合わせるノリを持ち合わせていない。

「ちぇー」
「早う用事を済ませて下さいまし」

 つまらなそうに口を尖らせたラファエラに対し、溜息混じりにフォラクスは目の前に置かれた粘土を指し示す。
 今日は、たっぷりと時間をかけて乾燥させたゴーレムを屋敷の庭で試運転するのだ。そして『暴れたら大変だから』と、フォラクスが休みを合わせてきた。

「……暴れないと思うよ?」

 心底不思議そうな様子でラファエラは告げるが、

「初めて使役を行うの成らば、加減も分からぬでしょう」

と答える。ラファエラは一緒にいられるからいいかな、と思っている具合だ。

「然し。暴れる暴れないの話は置いて、泥人形ゴーレムの姿は……」

彼女の顔を見下ろし、フォラクスは口元に手を遣る。

「その、流石に如何どうかと」

そして。困ったような、戸惑ったような様子で乾いた粘土の塊に目線を向けた。

「むー……なに。人の形してるでしょ?」

 ラファエラは不満そうに口を尖らせるが、2人の目の前にあるそれは

「貴女は、が人に見えるのですか」

「なにさー、むずかしいんだから仕方ないでしょー!」

フォラクスの告げた通り、パーツ全てが円柱でできた、辛うじて人型に見える粘土の塊だった。腕や胴、脚ならまだしも、顔も円柱だ。造形途中かと思っていた粘土の塊は、完成形だったらしい。
 彼はラファエラが以前『手作りした』と言っていた植物図鑑の絵を見ていただけに、もう少し芸術方面の技量は高いだろうと思っていた。だから、このゴーレムのどうしようもない造形に、随分と戸惑っていたのだ。

「……まぁ、貴女が其れで良いと仰るならば、そうなのでしょうね」

 造形の一悶着はあったものの、いよいよゴーレムを動かす準備が整った。
 最後に、ラファエラは『してはいけないこと』の命令の式を大まかに紙に書き込んで、ゴーレムに貼り付ける。これはあくまでも試運転お試しなのだから、と雑な構成には目を瞑ることにした。

「じゃ、いくよー」

 ぴ、と腰元に携えていた小型の杖を抜き

「とりあえず。動けー、えい!」

と粘土に魔力をつける。無造作にぶつけられた珊瑚珠色の魔力は、きら、と小さく光を散らして粘土の中に消えていった。それから、魔力が染み入ってゆく気配がする。

「な、」

 驚くフォラクスをよそに、ゴーレムはゆっくりと動き出した。

「……そんなまさか」

「ほら、大丈夫だったでしょ?」

ラファエラはにっと笑う。

「…………其の様な、雑な言葉で」

 彼女を見、次に動き始めたゴーレムに視線を移し、呆れのような感心のような息を零した。きっと、フォラクスは複雑な言葉で魔術式を操る魔術師だからこそ、ラファエラの雑過ぎる言葉と高濃度の魔力の塊だけで術の行使をしたそれに衝撃を受けたのだろう。

 起動したゴーレムはラファエラの腰より少し高いくらいの大きさだ。
 造形は辛うじて人の形に見える程度、材質は薬草や魔力水の混ざった特殊な配合の泥。本来のゴーレムとしてもかなり特殊な構成になっている。

「よし。きみの名前は『ごーちゃん』! 」
「……」

 付けられたゴーレムの名前に、フォラクスはすっかり黙り込んでしまった。
 とんでもなくシンプルな名前を付けたそれに呆れてしまったのだ。言葉に魔力が宿るこの世界では、名前という『存在を確定させる要素』にはかなり慎重になるというのに。
 だが彼女は何も気にした様子もないし、『ごーちゃん』と名付けられたゴーレム自身の動作にも今のところ大きな問題が見られていない。

 雑過ぎる円柱の塊の造形に、貼り付けられたゴーレムの術式に、かけ声の文言と術式でない魔力の塊での起動。そして頭を抱えたくなる名前。フォラクスは『魔術とは』と考えたくなるような体験をした。

 ともかく。
 生み出されて動き始めたゴーレムは、作り主であるラファエラの『お願い』を聞いてくれるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...