薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

月乃宮 夜見

文字の大きさ
173 / 200
同棲生活

173:あっさりと流される。

しおりを挟む
 2体のゴーレム付きでの、店の営業は存外上手く行っていた。
 商品が店頭から無くなっても、ラファエラがお願いすればゴーレム達が店の奥から商品を持ってきてくれ、彼女自身は店内や客に対応を集中するだけで済んだからだ。
 店の休業の日に関して言えば、休ませないといけない安息日には店の奥で眠ってもらい、その日以外の店の休日では、片方を店の外に連れ出し、一緒に薬草抜きをした。

「んー、いっぱい手があると楽だねー」

 薬草の採集に訪れた山の中で、ラファエラは、のびのびと楽しそうに零す。
 ゴーレムお手伝いさんを連れているお陰で、今までよりも圧倒的に短い時間でなおかつたくさんの薬草が採取できるようになったのだ。
 それに、荷物が重ければ運んでもらえるし、薬品作りでも道具の用意や薬草を刻む作業、ただ混ぜるだけの作業も手伝わせることが出来る。

「2ごーちゃん、ありがとう」

 今日はごーちゃんに店の番をしてもらい、2ごーちゃんと薬草を抜いていた。フォラクスから受け取ったお守りもちゃんと持っているし、魔獣や精霊に襲われることも無い。

「よし、じゃあ今日はこれくらいにしよう」

 抜いた草を袋に詰め、ラファエラは言う。

「えっと、薬草は調合するからお家に持って帰らなきゃ」

 連れてきたゴーレムは明日も店の手伝いをしてもらうためにも、店に置いていかねばならない。なので、帰宅前に一旦、店に寄る必要があった。
 しかし。ゴーレムを店に置いて行くならば、この今まで抜いていた薬草達を、たった一人で屋敷まで持ち帰らねばならない。

「……ちょっとめんどくさいなぁ」

楽を知ってしまえば、辛かった時期に戻るのはしんどくなってしまう。

「ん、お店で調合できたら、もっといいかも?」

 そうすれば、薬草を持ち帰って作った薬品を店に持っていく、などと言う手間が無くなるだろうと考えた。
 それに、作った薬達を荷台に乗せて店まで運ぶのは、仮にゴーレム2体に手伝ってもらうとしても結構な重労働だ。
 だが、店で調合するとなると、薬品を生成する際のにおいや火の扱い、調合するための設備の用意など、気になる部分があった。

「あ、木のお札を使うのはどうだろ」

 思い至り、少し考えてみる。踏めば身体丸ごと運んでくれる木の札ならば、屋敷で薬品の調合をしても問題はないし、色々の運搬がもっと楽になるはずだ。
 学生時代にフォラクスから貰った木の札は、まだラファエラが持っており、今朝も、ちらっと棚に置いてあるのを見た。

「……そうだ。あの人に聞いてみよう」

×

「ね、木の札とお店繋いでもいい?」

 今日は丁度、フォラクスも休日だったので、遠慮なく連絡を繋いだ。圧倒的に言葉の足りない問いかけだったが、

『……良いですよ。薬品の調合場所も変えずに済みますし、運搬も楽になるでしょうから』

彼は快い返事をした。フォラクスには意味が通じたらしい。

何時いつ、貴女がわたくしにそう仰るかお待ちしておりましたが』

 むしろ、待ちの状態だったようだ。

「道中で買い物とかしてたからすっかり忘れてた」

『……』

てへ、とラファエラが答えると、彼は押し黙る。

「それでさ、ごーちゃんたちも運べる?」

 気にせず、彼女は運搬出来るものについて質問した。

『当然でしょう。『生き物のみ』と言った制限を掛けていた成らば服や持ち物付きでの移動等、出来ておりません』

「たしかにー」

ラファエラは頷く。

「だったら、おうちでまた新しく作ったお薬やゴーレムも運べるね」

『……しや、未だに泥人形ゴーレムを作っておいでですか』

「うん。ゴーレムというよりは土を調合してるだけだけど」

『幾つ作るおつもりで』

「作れたら作る。調合してる土は予備だよ」

『然様ですか』

彼の声は、心底興味が無さそうな様子だった。

『因みに』

「ん?」

『装飾品は、指と手首の何方どちらか片方だけ着用が出来るの成らば、何方が宜しいか』

 フォラクスから、唐突に質問を投げられる。

「んー。どちらか、だったら……」

少し考えて、

「薬草採りや薬品生成の作業で、軍手とかゴム手袋とか、色々な手袋を付けたり外したりするから……わたしは、手首の方がいいかな? 手袋の中に忘れて無くしちゃうかもだし」

ラファエラは答える。

『分かりました』

 フォラクスは短く返すと

『……他に連絡事項は?』

そう問いかける。今ので質問は終わったらしい。

「ん、ないよ」

『然様で』

そうして、連絡を切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...