177 / 200
お試し期間
177:後輩
しおりを挟む
婚約をした後も、フォラクスは普段通りの時間で自身の仕事場へ向かう。
本音を言えば、婚約した日も婚約者になったラファエラと帰宅するのも吝かではない、と思っていた。
だが、その日も仕事の用事が入ってしまったので、共に帰れなかったのは仕方がない。
「(……此の場合、何かで埋め合わせをするのだったか)」
彼女の好きなものを把握しきれていないというのに、何で埋め合わせをするのだろうかと少し考えてしまう。
×
宮廷魔術師は、宮廷で魔術の研究を行っているが、基本的には1人ではなく似た目的や研究を持つ数名で小さな集団、つまりは研究室を作り、その中の者と協力し合いながら研究を行う。
「(……前回の作業が残った儘だったか。片付けねば)」
思いながら、フォラクスは魔術の影響を受けない書物などを、魔術で操作して片付けを行う。1人で。
フォラクスは、共同で研究を行う者が居ない。大抵が『出来損ないと仕事ができるか』などと言い、彼が来る前から拒んだからだ。
おまけに、弟子や部下のような存在も居ない。同様の理由で、後の者もフォラクスの下に就くことを拒んだからだ。
どの集団にも所属できなかったため、上の者が仕方なく仕事部屋を一つ与えた。4、5人で使うような部屋を出来損ないのために。
元々は物置に使われていた埃まみれの部屋で、『一日で誰の手も借りずに綺麗にできたら好きに使えばいい』と条件付きで言われたので言葉通りに半日で綺麗にしてやって得た。
周囲の者は1人であることを蔑んだり当て擦ったりするが、むしろ、広々と使える上に好き勝手できるので気にしていない。
1人の部屋で普段通りに魔術の研究をしていると、扉を叩く音がする。
「……どうぞ」
こんな出来損ないの元を訪れる者は、本当の上司か誰かの使いの下男下女ぐらいだ。
この時間は誰の用事も無いはずだと疑問に思いながらも返事をすると、扉が開き
「失礼します」
女性の声がした。
振り返り、フォラクスは席を立つ。他人には礼儀正しくしなければ面倒だからだ。
「……貴女は」
目の前に現れたのは、美しく輝く金髪の巻き毛の女性の宮廷魔術師だ。確か、一発で宮廷魔術師の試験を合格したらしいと聞いた。
「今年から宮廷魔術師として採用された若輩者です」
目の前まで歩み寄り、やや背の高い女性は綺麗な所作で挨拶をする。
「……えぇ。噂には、聞いておりましたが」
その様子を見ながらフォラクスは顔をやや引き攣らせた。この時期の新人の宮廷魔術師は、既に誰かの下に就いているはずだからだ。こんな出来損ないの所にまでわざわざ来るということは、何かの面倒事だろうか。
気の強そうな顔で、きっとフォラクスを見ると
「貴方の下に就いてもよろしいですか」
そう、問いかけた。
「……はい?」
聞き間違いか、と思わず聞き返す。と、『チッ、また言わないといけないのか』と言わんばかりの表情をされた。
「貴女、誰かに唆されております? 其れとも、質の悪い冗談ですか」
その態度で聞き間違いでないと確信したため、次に思ったことを問いかける。普通の貴族ならば選択肢にすら入らない考えだ。そのはずだろう。
「色々と吟味した上で、貴方が一番ましだと思ったので就きたいと思っているのですが」
「……然様ですか」
真っ直ぐにこちらを見据える目は、怯えも虚偽も悪意もない。
深く溜息を吐き、
「もう一度聞きますが、正気ですか」
確認する。
「ええ、正気です。そもそも、宮廷魔術師になっている時点で相当頭がイカれてるとは思いますが」
どうやら、宮廷魔術師を『イカれた仕事』だと言えるくらいには正気らしい。
「私の様な出来損ないの下に就くのは本気ですか」
「はい。逆に、貴方ほど術の行使が滑らかで発音が正しく、魔力が練られていて動作が規定通り静かで、わざわざ足音を立てずに歩く宮廷魔術師が居れば、是非とも紹介してください」
「……一応、正気な様ですね」
足音を立てないよう歩いていたことに、こうもあっさりと気付かれるとは。
詳細は省くが、宮廷魔術師は存在感を出してはいけないことになっているので、静かな動作が望まれる。
直接会い見えたのは今が初めてなので、恐らく道中ですれ違った際に気付かれていたのだろう。あるいは、アカデミーに視察へ向かった際に気付かれたか。
「何のつもりですか」
「『何のつもり』とは?」
「……ザラ・ユスアウィス殿」
「……なんでしょう」
柳眉がピクリと動く。
「通鳥の本家筋の貴女が何故、此処にいらっしゃる?」
「家名は今、関係ないですよね?」
威圧するように見下ろせば、きっ、と睨み上げられた。
目の前に立つ女性は通鳥当主の、たった1人の愛娘のはずだ。
しかし、最近、代替わりの噂を聞いた記憶があったので、目の前の若い女性は通鳥の女主人、ということになる。
「関係あるでしょう、特に貴女は」
「そうしたら、あなたは呪猫当主の弟君ではないのですか?」
血筋について指摘すれば、痛いところを刺される。
「ぐっ……私は縁を切られているので良いのです」
「なら、私も父から許可降りてるんで良いんじゃないですか? 領地運営にも問題はありません」
前当主公認なのか、と頭を抱えたくなった。分家が宮廷に入ることはあれど、本家の当主が宮廷に入るなど、聞いたことがない。
「斯様なイカれた……いえ、気の狂った場所でまさか、『修行』とやらでもするおつもりですか通鳥の跡取りという者は」
口元に手を遣りつつ告げると、
「結婚相手を探しに来たんです」
そう、澄ました顔で返された。
「『結婚相手を探しに』……ですか」
『イカれた場所』と言った場所で結婚相手を探すとは一体どういうことだろうか。
「はい。この場所が丁度良いと思ったので」
「まあ、私は興味は無いのでお好きにすれば宜しい」
奇妙に思いはしたが、自分には関係無さそうだと切り捨てる。
前当主公認かつ当人も譲る気がないならばこちらが折れるしかない。
「……ところで」
ザラは口を開く。
「貴方、身のこなしが常人じゃないですよね。まるで毒蛇の」
そこまで言いかけて、言葉を止める。
「…………世の中には、知らない方が良い事もあるのですよ」
にこ、とフォラクスは薄く微笑んだ。
「……はい、すみま「と、言いたい所ですが。ただ単に、毒蛇の者を観察し、其の真似事をした結果で御座いますよ」……言うんですか」
謝ろうとした側から明かされた理由に、ザラは何とも言えない顔をする。おまけにその理由は、きっと間違いではないが真実でもないだろう言葉だ。
「ええ。別に毒蛇で暗殺家業の教育を受けた訳では有りませんので」
言いながら、
「此れを。所属の届出用の書類です」
フォラクスは書類をザラに差し出した。
「(……『真似事』であそこまで似せられるとか、怖いな)」
と思いつつ、フォラクスに差し出された書類を受け取る。初対面の相手に踏み込むほど不躾なつもりは無いからだ。
「ありがとうございます」
ザラが書き込みを終えた紙を受け取り、
「其れでは、好きな場所を好きな様に使いなさい。私の邪魔さえしなければ、何を研究していても構いませんので」
そう指示をした。
「はい」
×
「あの」
それから少しして、定時退勤の間際になった。
だがそんな時間になっても仕事の手を止めないフォラクスに、帰宅準備を終えたザラは声をかける。
「帰らないのですか」
ザラが問いかけると
「帰りたいのは山々なのですが」
フォラクスは振り返り、微笑を浮かべて答えた。
「他から仕事が回っております故、少し残るのです。貴女は気にせず定時で退勤して下さい」
「……」
その様子を見て、ザラは口を閉じる。
「上司が残っているのに部下が帰れると思ってるんですか?」
そして、しかめっ面で言い返した。
「……貴女が気にする事は無い筈ですが」
目を細めてフォラクスが言葉を溢すと
「常識としてわたしは気にするんですよ。それに」
と、その左腕に視線を向ける。
「この間見かけた時には、その腕輪は着けていませんでしたが、今付けているって事は婚約したんでしょう『薬術の魔女』と」
傍から見れば装飾も少なくシンプルな味気ない物だが、ザラは目利きであり、双方の見た目を知っているので、解る。
彼の着けているそれは『不変の金属』に、婚約者の目に似た色……いや。恐らく目の色そのものの石の、婚約腕輪。
随分と入れ込んでる様子だと、すぐに察せられた。
「そうですね。其れが何か」
「あの子、貴方が婚約した日に一緒に帰ってくれなかった事を大分、根に持っているかもしれませんよ」
澄ました顔でザラは告げる。
「わたしは『薬術の魔女』とはあまり関わりのない同級生でしたが、恨みの根深さの噂だけならば結構聞きましたし」
「……つまり?」
「言葉は乱暴ですが『早よ帰れ』って事ですよ。折角お気に入りの子と婚約したのにその機会を拗らせる気ですか」
「……そうなるのですかね」
「聞かれてもわたしは知りませんよ。腕輪見てそう判断しただけで」
怪訝な表情のフォラクスに、ザラは顔をしかめる。
「成らば、其処の扉を抑えていて下さいまし。直ぐに仕事を終わらせますので」
言うなり、彼は再び仕事に向かった。
「はい。よく分かりませんが」
×
「終わりました。では私は帰りますので、貴女も帰りましょうか」
「…………そうですね」
終わったらしい書類の束を見ながら、ザラは溜息を吐く。
「何だったんです、あれ」
扉を必死に抑えていた時の事を思い出し、問いかける。
「妨害ですよ」
「妨害」
簡潔な言葉を、おうむ返しした。わざわざ出来損ないと呼ばれる人物を妨害するのかと。
「えぇ。新たに私に書類を押し付けたり、『ここが分からないから教えろ』だのと言い私の帰宅を遅らせる色々で御座います」
「はぁ」
時計を見ると定時からほんのすこしだけ過ぎていた。
本音を言えば、婚約した日も婚約者になったラファエラと帰宅するのも吝かではない、と思っていた。
だが、その日も仕事の用事が入ってしまったので、共に帰れなかったのは仕方がない。
「(……此の場合、何かで埋め合わせをするのだったか)」
彼女の好きなものを把握しきれていないというのに、何で埋め合わせをするのだろうかと少し考えてしまう。
×
宮廷魔術師は、宮廷で魔術の研究を行っているが、基本的には1人ではなく似た目的や研究を持つ数名で小さな集団、つまりは研究室を作り、その中の者と協力し合いながら研究を行う。
「(……前回の作業が残った儘だったか。片付けねば)」
思いながら、フォラクスは魔術の影響を受けない書物などを、魔術で操作して片付けを行う。1人で。
フォラクスは、共同で研究を行う者が居ない。大抵が『出来損ないと仕事ができるか』などと言い、彼が来る前から拒んだからだ。
おまけに、弟子や部下のような存在も居ない。同様の理由で、後の者もフォラクスの下に就くことを拒んだからだ。
どの集団にも所属できなかったため、上の者が仕方なく仕事部屋を一つ与えた。4、5人で使うような部屋を出来損ないのために。
元々は物置に使われていた埃まみれの部屋で、『一日で誰の手も借りずに綺麗にできたら好きに使えばいい』と条件付きで言われたので言葉通りに半日で綺麗にしてやって得た。
周囲の者は1人であることを蔑んだり当て擦ったりするが、むしろ、広々と使える上に好き勝手できるので気にしていない。
1人の部屋で普段通りに魔術の研究をしていると、扉を叩く音がする。
「……どうぞ」
こんな出来損ないの元を訪れる者は、本当の上司か誰かの使いの下男下女ぐらいだ。
この時間は誰の用事も無いはずだと疑問に思いながらも返事をすると、扉が開き
「失礼します」
女性の声がした。
振り返り、フォラクスは席を立つ。他人には礼儀正しくしなければ面倒だからだ。
「……貴女は」
目の前に現れたのは、美しく輝く金髪の巻き毛の女性の宮廷魔術師だ。確か、一発で宮廷魔術師の試験を合格したらしいと聞いた。
「今年から宮廷魔術師として採用された若輩者です」
目の前まで歩み寄り、やや背の高い女性は綺麗な所作で挨拶をする。
「……えぇ。噂には、聞いておりましたが」
その様子を見ながらフォラクスは顔をやや引き攣らせた。この時期の新人の宮廷魔術師は、既に誰かの下に就いているはずだからだ。こんな出来損ないの所にまでわざわざ来るということは、何かの面倒事だろうか。
気の強そうな顔で、きっとフォラクスを見ると
「貴方の下に就いてもよろしいですか」
そう、問いかけた。
「……はい?」
聞き間違いか、と思わず聞き返す。と、『チッ、また言わないといけないのか』と言わんばかりの表情をされた。
「貴女、誰かに唆されております? 其れとも、質の悪い冗談ですか」
その態度で聞き間違いでないと確信したため、次に思ったことを問いかける。普通の貴族ならば選択肢にすら入らない考えだ。そのはずだろう。
「色々と吟味した上で、貴方が一番ましだと思ったので就きたいと思っているのですが」
「……然様ですか」
真っ直ぐにこちらを見据える目は、怯えも虚偽も悪意もない。
深く溜息を吐き、
「もう一度聞きますが、正気ですか」
確認する。
「ええ、正気です。そもそも、宮廷魔術師になっている時点で相当頭がイカれてるとは思いますが」
どうやら、宮廷魔術師を『イカれた仕事』だと言えるくらいには正気らしい。
「私の様な出来損ないの下に就くのは本気ですか」
「はい。逆に、貴方ほど術の行使が滑らかで発音が正しく、魔力が練られていて動作が規定通り静かで、わざわざ足音を立てずに歩く宮廷魔術師が居れば、是非とも紹介してください」
「……一応、正気な様ですね」
足音を立てないよう歩いていたことに、こうもあっさりと気付かれるとは。
詳細は省くが、宮廷魔術師は存在感を出してはいけないことになっているので、静かな動作が望まれる。
直接会い見えたのは今が初めてなので、恐らく道中ですれ違った際に気付かれていたのだろう。あるいは、アカデミーに視察へ向かった際に気付かれたか。
「何のつもりですか」
「『何のつもり』とは?」
「……ザラ・ユスアウィス殿」
「……なんでしょう」
柳眉がピクリと動く。
「通鳥の本家筋の貴女が何故、此処にいらっしゃる?」
「家名は今、関係ないですよね?」
威圧するように見下ろせば、きっ、と睨み上げられた。
目の前に立つ女性は通鳥当主の、たった1人の愛娘のはずだ。
しかし、最近、代替わりの噂を聞いた記憶があったので、目の前の若い女性は通鳥の女主人、ということになる。
「関係あるでしょう、特に貴女は」
「そうしたら、あなたは呪猫当主の弟君ではないのですか?」
血筋について指摘すれば、痛いところを刺される。
「ぐっ……私は縁を切られているので良いのです」
「なら、私も父から許可降りてるんで良いんじゃないですか? 領地運営にも問題はありません」
前当主公認なのか、と頭を抱えたくなった。分家が宮廷に入ることはあれど、本家の当主が宮廷に入るなど、聞いたことがない。
「斯様なイカれた……いえ、気の狂った場所でまさか、『修行』とやらでもするおつもりですか通鳥の跡取りという者は」
口元に手を遣りつつ告げると、
「結婚相手を探しに来たんです」
そう、澄ました顔で返された。
「『結婚相手を探しに』……ですか」
『イカれた場所』と言った場所で結婚相手を探すとは一体どういうことだろうか。
「はい。この場所が丁度良いと思ったので」
「まあ、私は興味は無いのでお好きにすれば宜しい」
奇妙に思いはしたが、自分には関係無さそうだと切り捨てる。
前当主公認かつ当人も譲る気がないならばこちらが折れるしかない。
「……ところで」
ザラは口を開く。
「貴方、身のこなしが常人じゃないですよね。まるで毒蛇の」
そこまで言いかけて、言葉を止める。
「…………世の中には、知らない方が良い事もあるのですよ」
にこ、とフォラクスは薄く微笑んだ。
「……はい、すみま「と、言いたい所ですが。ただ単に、毒蛇の者を観察し、其の真似事をした結果で御座いますよ」……言うんですか」
謝ろうとした側から明かされた理由に、ザラは何とも言えない顔をする。おまけにその理由は、きっと間違いではないが真実でもないだろう言葉だ。
「ええ。別に毒蛇で暗殺家業の教育を受けた訳では有りませんので」
言いながら、
「此れを。所属の届出用の書類です」
フォラクスは書類をザラに差し出した。
「(……『真似事』であそこまで似せられるとか、怖いな)」
と思いつつ、フォラクスに差し出された書類を受け取る。初対面の相手に踏み込むほど不躾なつもりは無いからだ。
「ありがとうございます」
ザラが書き込みを終えた紙を受け取り、
「其れでは、好きな場所を好きな様に使いなさい。私の邪魔さえしなければ、何を研究していても構いませんので」
そう指示をした。
「はい」
×
「あの」
それから少しして、定時退勤の間際になった。
だがそんな時間になっても仕事の手を止めないフォラクスに、帰宅準備を終えたザラは声をかける。
「帰らないのですか」
ザラが問いかけると
「帰りたいのは山々なのですが」
フォラクスは振り返り、微笑を浮かべて答えた。
「他から仕事が回っております故、少し残るのです。貴女は気にせず定時で退勤して下さい」
「……」
その様子を見て、ザラは口を閉じる。
「上司が残っているのに部下が帰れると思ってるんですか?」
そして、しかめっ面で言い返した。
「……貴女が気にする事は無い筈ですが」
目を細めてフォラクスが言葉を溢すと
「常識としてわたしは気にするんですよ。それに」
と、その左腕に視線を向ける。
「この間見かけた時には、その腕輪は着けていませんでしたが、今付けているって事は婚約したんでしょう『薬術の魔女』と」
傍から見れば装飾も少なくシンプルな味気ない物だが、ザラは目利きであり、双方の見た目を知っているので、解る。
彼の着けているそれは『不変の金属』に、婚約者の目に似た色……いや。恐らく目の色そのものの石の、婚約腕輪。
随分と入れ込んでる様子だと、すぐに察せられた。
「そうですね。其れが何か」
「あの子、貴方が婚約した日に一緒に帰ってくれなかった事を大分、根に持っているかもしれませんよ」
澄ました顔でザラは告げる。
「わたしは『薬術の魔女』とはあまり関わりのない同級生でしたが、恨みの根深さの噂だけならば結構聞きましたし」
「……つまり?」
「言葉は乱暴ですが『早よ帰れ』って事ですよ。折角お気に入りの子と婚約したのにその機会を拗らせる気ですか」
「……そうなるのですかね」
「聞かれてもわたしは知りませんよ。腕輪見てそう判断しただけで」
怪訝な表情のフォラクスに、ザラは顔をしかめる。
「成らば、其処の扉を抑えていて下さいまし。直ぐに仕事を終わらせますので」
言うなり、彼は再び仕事に向かった。
「はい。よく分かりませんが」
×
「終わりました。では私は帰りますので、貴女も帰りましょうか」
「…………そうですね」
終わったらしい書類の束を見ながら、ザラは溜息を吐く。
「何だったんです、あれ」
扉を必死に抑えていた時の事を思い出し、問いかける。
「妨害ですよ」
「妨害」
簡潔な言葉を、おうむ返しした。わざわざ出来損ないと呼ばれる人物を妨害するのかと。
「えぇ。新たに私に書類を押し付けたり、『ここが分からないから教えろ』だのと言い私の帰宅を遅らせる色々で御座います」
「はぁ」
時計を見ると定時からほんのすこしだけ過ぎていた。
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる