薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

月乃宮 夜見

文字の大きさ
195 / 200
お試し期間

195:触れ合う心

しおりを挟む
「決めた! わたし、きみがわたしを幼名で呼ぶかぎり、きみのこと『ねこちゃん』って呼ぶから!」

 とある日。
 ラファエラはそう告げた。

「……はあ。お好きになさっては」
「あれ!? そんなに恥ずかしくないの?」

なんと、フォラクスは心底どうでもよさそうに溜息を吐いただけだ。
 予想外な反応に、ラファエラの方が赤面する。

「はい。貴女から呼ばれるの成らば。罵倒以外は如何様にも」

「ふ、ふーん?」

 名前や言霊について重要視されているこの魔術社会で『あだ名をつけること』、『あだ名を容認すること』は、よほど親密でないと行われない。なぜなら呼ばれた名前に影響されることがあるからだ。
 つまり、フォラクスはラファエラによって呼ばれた名にと、言っている。

「ね、ねこちゃーん」

 呼ばれたらさすがに照れるだろうと思い、ラファエラは呼んでみた。

「はい。何用でしょうか?」

「馴染むの早い!」

だが、彼は嬉しそうに目を細め微笑むだけだ。

×

 二人でゆっくりと触れ合うようになってから、日が過ぎる。

 夕食と風呂を終えたら少しだけ時間を空けて、まずは手袋越しで互いの手に触れ合い、お互いの話をする。話の内容は、その日の楽しかったことや気付いたこと、その他色々だ。
 大抵はラファエラが一方的に話すばかりで、フォラクスが自ら話をすることはあまり無かったがそれでも良かった。
 それに彼女と違い、彼の方は宮廷魔術師という職業柄、話せないことが多いだろう。
 ラファエラが楽しそうに、嬉しそうに、新たに発見した薬草や生成した薬のこと、やってみたいことや行ってみたい場所の話をすれば、フォラクスも目を細めて相槌を打ってくれる。
 たまに皮肉めいたことや毒の様に棘のある言葉も吐くが、それは彼なりに気を許してくれている証拠なのだと彼女は思うのだ。
 会話をし互いに触れる時はラファエラはフォラクスの腿の上に座った。その方が、より引っ付いていられるから。

 そんなゆっくりした時間を過ごして、以前よりずっと、お互いの距離は近くなった。
 ラファエラは彼に触れられても、捕獲されているかのような、嫌な緊張を覚えることはもう無い。
 フォラクスの方も彼女に、無理に縁を繋げようとはしなくなった。
 互いにある程度で束縛と自由の許容範囲の話し合いを行い、一応の折り合いを付けたのだ。
 価値観の擦り合わせにはあまり問題は生じなかったが、この話には長い話し合いと説得、弁明、その他諸々があった。
 まだ一緒には寝ておらず双方共に個人の部屋で過ごしているけれども、結婚の契約を結んだら世間一般の夫婦と同様に夫婦寝室で寝るという話も済ませておいた。

 そして、結婚の契約をいつ結ぶかはもう決めた。
 その話題が出た際に

「嫌でも『絶対に忘れない日』だから」

そう、彼女が提案したのだ。
 彼は少し驚き、

「一周回って、寧ろ目出度い日になりそうですね」

と、さも面白そうに提案を受け入れた。

 その日に向けて婚姻の準備や手続きを始めた。実際のところ、相性結婚に関連する制度のおかげで特に用意することも用意する物もそれほど無かったのだが。
 ラファエラもフォラクスも人を招くような大きな挙式を挙げる気は無かったので、その旨をラファエラは友人達に話した。だが、友人達にものすごく驚かれてしまった。
 フォラクスの方は、誰にもその話はしていないらしい。身内や同僚の者、上司などを呼ぶ気が更々に無かったからだ。
 とりあえず挙式の話は婚姻届を出した後の宣誓と必要な儀式だけ、という結論にしておき、現状ではラファエラとフォラクスの二人は、結婚後に行わなければならない書類関係の用意や将来設計などの話し合いをしている。

 2人は近い距離にいると安心でき、互いの意見をぶつけ合える仲になった。
 今までに色々と大変なことはあったけれど

「(これなら、もう大丈夫)」

そう、心の底から思えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...