転生者・西野森青葉は、史上最強の勇者だった。

wt

文字の大きさ
2 / 11

第1話 日常

しおりを挟む
 「アオバさん、お疲れ様です!」

 「アオバさん、今日も討伐?」

 街を歩いているだけで、かの勇者には好意的な声がシャワーのように降り注ぐ。
 それらに笑顔で応対しながらも英傑の足は、しっかりとギルドへと向かっていた。(自らを原因とした)人混みのせいで、時間はかかっているけれど。

 今日も今日とてギルドのクエストをこなさなければならない。
 別段生活を賄うための日銭を稼ぐ意味では、せかせかと働かなくとも構わないのだが──いかんせん、彼は勇者である。
 国の平和や利益のために魔物を討伐するのは、責務だと言えた。

 「お疲れさまー。今日はなんか丁度いい依頼とか、ある?」

 ギルドに入っても周囲の反応は大差ない。むしろ「勇者」という称号は冒険者の到達点なので、羨望の視線と色めき立った声に混ざる熱量は増している。

 それを意図的に無視して、アオバはギルドの受付嬢に話しかける。

 「あ、アオバさん!今日も来てくれたんですね!感心感心」

 「感心感心って。しょうがないだろ、上がうるさいんだから。『国のために働くのは勇者パーティの責務である』ってさ。自分たちは椅子の上でふんぞり返っているだけのくせして」

 「為政者は常に臆病なものですよ。だから守れるものもある……って思わないとやってられないです。とはいえ、その最前線で戦わされる勇者様は大変でしょうけれど」

 受付嬢は、名をシユウと言う。彼女はアオバがパーティを組んだ時から──もっと言えば冒険者になった時からギルドで働いている。
 ギルドメンバーを除いてアオバを対等に見てくれる数少ない人間、である。

 「まぁ戦うくらいしかできないし、困っている人を放っておくこともまたできないから、結局働くんだけれどさ。で、何かある?」

 「はい、丁度いいのがありますよ。大魔王リグニスの討伐とか、どうですか?」

 「おいおい、冗談はよしてくれよ。大魔王リグニスは数百年前に討伐された大災厄だろ。今は魔王なんていない──だから俺だってこうやってのんびり構えていられるんだから」

 「ハハハ、冗談です。勇者ジョーク!」

 「勇者が言うジョークが勇者ジョークだろうに……。だから正しくは受付嬢ークってところじゃないか?」

 「え、アオバさん細かっ……っていうか下らない……」

 「おい!本気で引いた顔すんじゃねぇ!」

 「まぁ、そんなどうでもいい話は置いておいて」

 一言物申したいアオバだったが、そこで食い下がっても却って幼いと思われかねない。言葉を飲み込む。

 「今日はまぁまぁの依頼が揃っていますよ。魔獣・ダークドラゴン10体の討伐、太陽神・アポロンとの会談、S級素材・月蒼花の採取あたりがアオバさん達にとっては丁度いい難易度の依頼ですかねー」

 「じゃあ受けるよ、全部」

 「全部?」

 「ああ、全部だ」

 シユウは破顔した。

 「そう言うと思ってました!」

 これが、クエストを受ける際のお決まりのやりとりだった。

 ---

 この世界に現在、魔王はいない。

 大魔王リグニス──かつて「絶望の大災厄」の名を冠した最悪の魔王にしたって既に討伐されているのだから。

 いや、実際は「討伐された」だなんて簡素な言葉では表せないほどの歴史が、その間にはあった。

 この世界が生まれたとされる5000年前。その時から魔王と人間の戦いは連綿と受け継がれながら、形を変え、あらゆる被害を生みながら続いてきたのである。

 それがやっと終結したのが約300年前。
 稀代の大英雄であるところの【絶無】を二つ名とするシイナによって、有史続いていた人間と魔王の戦いは幕引きを迎えたのだ。人間側の勝利という理想的な結末で。

 だが、それはすべての戦いが終わったことを意味しない。魔王が消滅したところで彼が生み出した副産物たる魔物・魔獣が消滅するわけではない。それらは突発的に現れては人類に仇を為すのだ。

 被害が報告されるたびに冒険者はその地に駆り出され、対応をする。それでもしばらく経つと今度は別の場所で被害が出る──完全なるイタチごっこの様相を呈していた。

 今日のクエストである「魔獣・ダークドラゴン10体の討伐」も、そのイタチごっこの一貫だ。それ以外は、ことのついでである。

 アポロンの住むダンジョン「陽光の鏡」の最奥まで行くのは、通常の盲検者であれば命を賭さねばならないほどの一大事。しかしアオバたちにとっては屁でもない手間であり、会談が始まってしまえば後は型式ばった会話をするだけだ。また、月蒼花に関してはその道中で手に入る。

 討伐を終えてから、疲れた状態でアポロンを尋ねるのは無礼なような気もするので、“ついで”を先に済ませてからダークドラゴンを狩りに行くことになりそうだ──と。

 今日のプランをぼんやりと固めてから、青葉は呟く。

 「さて、とりあえずギルドハウスに戻るとするか。きっともう支度は済んでいる頃だろうし」

 ギルドマスターであるアオバがギルドに依頼を受けに行き、その間にサブマスターであるルークの指示でめいめいに支度を整えているのだ。

 だからアオバとしてはいち早くギルドハウスに戻らなければならないのだけれど。

 「アオバさん!これ食べてってよ!新商品なんだ!」

 「あ、勇者さま!子どもと握手してあげてください!!!」

 アオバが歩けば、そこはたちまち人混みになる。どうやらギルドハウスに到着するのは少し後になりそうだ。だが、辟易とした表情などするはずもない。彼は、勇者なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...