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第1話 日常
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「アオバさん、お疲れ様です!」
「アオバさん、今日も討伐?」
街を歩いているだけで、かの勇者には好意的な声がシャワーのように降り注ぐ。
それらに笑顔で応対しながらも英傑の足は、しっかりとギルドへと向かっていた。(自らを原因とした)人混みのせいで、時間はかかっているけれど。
今日も今日とてギルドのクエストをこなさなければならない。
別段生活を賄うための日銭を稼ぐ意味では、せかせかと働かなくとも構わないのだが──いかんせん、彼は勇者である。
国の平和や利益のために魔物を討伐するのは、責務だと言えた。
「お疲れさまー。今日はなんか丁度いい依頼とか、ある?」
ギルドに入っても周囲の反応は大差ない。むしろ「勇者」という称号は冒険者の到達点なので、羨望の視線と色めき立った声に混ざる熱量は増している。
それを意図的に無視して、アオバはギルドの受付嬢に話しかける。
「あ、アオバさん!今日も来てくれたんですね!感心感心」
「感心感心って。しょうがないだろ、上がうるさいんだから。『国のために働くのは勇者パーティの責務である』ってさ。自分たちは椅子の上でふんぞり返っているだけのくせして」
「為政者は常に臆病なものですよ。だから守れるものもある……って思わないとやってられないです。とはいえ、その最前線で戦わされる勇者様は大変でしょうけれど」
受付嬢は、名をシユウと言う。彼女はアオバがパーティを組んだ時から──もっと言えば冒険者になった時からギルドで働いている。
ギルドメンバーを除いてアオバを対等に見てくれる数少ない人間、である。
「まぁ戦うくらいしかできないし、困っている人を放っておくこともまたできないから、結局働くんだけれどさ。で、何かある?」
「はい、丁度いいのがありますよ。大魔王リグニスの討伐とか、どうですか?」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。大魔王リグニスは数百年前に討伐された大災厄だろ。今は魔王なんていない──だから俺だってこうやってのんびり構えていられるんだから」
「ハハハ、冗談です。勇者ジョーク!」
「勇者が言うジョークが勇者ジョークだろうに……。だから正しくは受付嬢ークってところじゃないか?」
「え、アオバさん細かっ……っていうか下らない……」
「おい!本気で引いた顔すんじゃねぇ!」
「まぁ、そんなどうでもいい話は置いておいて」
一言物申したいアオバだったが、そこで食い下がっても却って幼いと思われかねない。言葉を飲み込む。
「今日はまぁまぁの依頼が揃っていますよ。魔獣・ダークドラゴン10体の討伐、太陽神・アポロンとの会談、S級素材・月蒼花の採取あたりがアオバさん達にとっては丁度いい難易度の依頼ですかねー」
「じゃあ受けるよ、全部」
「全部?」
「ああ、全部だ」
シユウは破顔した。
「そう言うと思ってました!」
これが、クエストを受ける際のお決まりのやりとりだった。
---
この世界に現在、魔王はいない。
大魔王リグニス──かつて「絶望の大災厄」の名を冠した最悪の魔王にしたって既に討伐されているのだから。
いや、実際は「討伐された」だなんて簡素な言葉では表せないほどの歴史が、その間にはあった。
この世界が生まれたとされる5000年前。その時から魔王と人間の戦いは連綿と受け継がれながら、形を変え、あらゆる被害を生みながら続いてきたのである。
それがやっと終結したのが約300年前。
稀代の大英雄であるところの【絶無】を二つ名とするシイナによって、有史続いていた人間と魔王の戦いは幕引きを迎えたのだ。人間側の勝利という理想的な結末で。
だが、それはすべての戦いが終わったことを意味しない。魔王が消滅したところで彼が生み出した副産物たる魔物・魔獣が消滅するわけではない。それらは突発的に現れては人類に仇を為すのだ。
被害が報告されるたびに冒険者はその地に駆り出され、対応をする。それでもしばらく経つと今度は別の場所で被害が出る──完全なるイタチごっこの様相を呈していた。
今日のクエストである「魔獣・ダークドラゴン10体の討伐」も、そのイタチごっこの一貫だ。それ以外は、ことのついでである。
アポロンの住むダンジョン「陽光の鏡」の最奥まで行くのは、通常の盲検者であれば命を賭さねばならないほどの一大事。しかしアオバたちにとっては屁でもない手間であり、会談が始まってしまえば後は型式ばった会話をするだけだ。また、月蒼花に関してはその道中で手に入る。
討伐を終えてから、疲れた状態でアポロンを尋ねるのは無礼なような気もするので、“ついで”を先に済ませてからダークドラゴンを狩りに行くことになりそうだ──と。
今日のプランをぼんやりと固めてから、青葉は呟く。
「さて、とりあえずギルドハウスに戻るとするか。きっともう支度は済んでいる頃だろうし」
ギルドマスターであるアオバがギルドに依頼を受けに行き、その間にサブマスターであるルークの指示でめいめいに支度を整えているのだ。
だからアオバとしてはいち早くギルドハウスに戻らなければならないのだけれど。
「アオバさん!これ食べてってよ!新商品なんだ!」
「あ、勇者さま!子どもと握手してあげてください!!!」
アオバが歩けば、そこはたちまち人混みになる。どうやらギルドハウスに到着するのは少し後になりそうだ。だが、辟易とした表情などするはずもない。彼は、勇者なのだから。
「アオバさん、今日も討伐?」
街を歩いているだけで、かの勇者には好意的な声がシャワーのように降り注ぐ。
それらに笑顔で応対しながらも英傑の足は、しっかりとギルドへと向かっていた。(自らを原因とした)人混みのせいで、時間はかかっているけれど。
今日も今日とてギルドのクエストをこなさなければならない。
別段生活を賄うための日銭を稼ぐ意味では、せかせかと働かなくとも構わないのだが──いかんせん、彼は勇者である。
国の平和や利益のために魔物を討伐するのは、責務だと言えた。
「お疲れさまー。今日はなんか丁度いい依頼とか、ある?」
ギルドに入っても周囲の反応は大差ない。むしろ「勇者」という称号は冒険者の到達点なので、羨望の視線と色めき立った声に混ざる熱量は増している。
それを意図的に無視して、アオバはギルドの受付嬢に話しかける。
「あ、アオバさん!今日も来てくれたんですね!感心感心」
「感心感心って。しょうがないだろ、上がうるさいんだから。『国のために働くのは勇者パーティの責務である』ってさ。自分たちは椅子の上でふんぞり返っているだけのくせして」
「為政者は常に臆病なものですよ。だから守れるものもある……って思わないとやってられないです。とはいえ、その最前線で戦わされる勇者様は大変でしょうけれど」
受付嬢は、名をシユウと言う。彼女はアオバがパーティを組んだ時から──もっと言えば冒険者になった時からギルドで働いている。
ギルドメンバーを除いてアオバを対等に見てくれる数少ない人間、である。
「まぁ戦うくらいしかできないし、困っている人を放っておくこともまたできないから、結局働くんだけれどさ。で、何かある?」
「はい、丁度いいのがありますよ。大魔王リグニスの討伐とか、どうですか?」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。大魔王リグニスは数百年前に討伐された大災厄だろ。今は魔王なんていない──だから俺だってこうやってのんびり構えていられるんだから」
「ハハハ、冗談です。勇者ジョーク!」
「勇者が言うジョークが勇者ジョークだろうに……。だから正しくは受付嬢ークってところじゃないか?」
「え、アオバさん細かっ……っていうか下らない……」
「おい!本気で引いた顔すんじゃねぇ!」
「まぁ、そんなどうでもいい話は置いておいて」
一言物申したいアオバだったが、そこで食い下がっても却って幼いと思われかねない。言葉を飲み込む。
「今日はまぁまぁの依頼が揃っていますよ。魔獣・ダークドラゴン10体の討伐、太陽神・アポロンとの会談、S級素材・月蒼花の採取あたりがアオバさん達にとっては丁度いい難易度の依頼ですかねー」
「じゃあ受けるよ、全部」
「全部?」
「ああ、全部だ」
シユウは破顔した。
「そう言うと思ってました!」
これが、クエストを受ける際のお決まりのやりとりだった。
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この世界に現在、魔王はいない。
大魔王リグニス──かつて「絶望の大災厄」の名を冠した最悪の魔王にしたって既に討伐されているのだから。
いや、実際は「討伐された」だなんて簡素な言葉では表せないほどの歴史が、その間にはあった。
この世界が生まれたとされる5000年前。その時から魔王と人間の戦いは連綿と受け継がれながら、形を変え、あらゆる被害を生みながら続いてきたのである。
それがやっと終結したのが約300年前。
稀代の大英雄であるところの【絶無】を二つ名とするシイナによって、有史続いていた人間と魔王の戦いは幕引きを迎えたのだ。人間側の勝利という理想的な結末で。
だが、それはすべての戦いが終わったことを意味しない。魔王が消滅したところで彼が生み出した副産物たる魔物・魔獣が消滅するわけではない。それらは突発的に現れては人類に仇を為すのだ。
被害が報告されるたびに冒険者はその地に駆り出され、対応をする。それでもしばらく経つと今度は別の場所で被害が出る──完全なるイタチごっこの様相を呈していた。
今日のクエストである「魔獣・ダークドラゴン10体の討伐」も、そのイタチごっこの一貫だ。それ以外は、ことのついでである。
アポロンの住むダンジョン「陽光の鏡」の最奥まで行くのは、通常の盲検者であれば命を賭さねばならないほどの一大事。しかしアオバたちにとっては屁でもない手間であり、会談が始まってしまえば後は型式ばった会話をするだけだ。また、月蒼花に関してはその道中で手に入る。
討伐を終えてから、疲れた状態でアポロンを尋ねるのは無礼なような気もするので、“ついで”を先に済ませてからダークドラゴンを狩りに行くことになりそうだ──と。
今日のプランをぼんやりと固めてから、青葉は呟く。
「さて、とりあえずギルドハウスに戻るとするか。きっともう支度は済んでいる頃だろうし」
ギルドマスターであるアオバがギルドに依頼を受けに行き、その間にサブマスターであるルークの指示でめいめいに支度を整えているのだ。
だからアオバとしてはいち早くギルドハウスに戻らなければならないのだけれど。
「アオバさん!これ食べてってよ!新商品なんだ!」
「あ、勇者さま!子どもと握手してあげてください!!!」
アオバが歩けば、そこはたちまち人混みになる。どうやらギルドハウスに到着するのは少し後になりそうだ。だが、辟易とした表情などするはずもない。彼は、勇者なのだから。
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