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第2話 勇者パーティ「若葉」
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「すまない……待たせたな……」
人だかりを辛うじて抜け、「若葉」のギルドハウスに到着する頃にはアオバは既に疲弊しており、声にも覇気があるとは言い難い。
そんなアオバの背中を、サブリーダーを務めるルークがバンバンと叩く。アオバよりやや高めの身長と引き締まった肉体を持つ美丈夫は、歯を見せて笑った。
「おう、遅かったじゃんか、アオバ。つってもいつものことだけどな。勇者さんも大変なこった」
そんな彼の職能は魔剣士である──それを主張するように背中には大剣が吊るされている。それ越しに、気怠げな女の声が聞こえてくる。その声にはほのかに避難の色も滲んでいた。
「だから隠密のスキルを身につけなさいって言っているのよぉ。黒蝙蝠を200匹討伐するのは手間がかかるでしょうけれど、あんたなら一日でやってやれないこともないでしょうにぃ」
ソファに緩慢に横たえられているのは、露出の大きい衣装に包まれた均整の取れたプロポーション──「若葉」の回復職を務める、ミサキだ。気怠げで舌っ足らずなセリフに合わせて自慢にしているピンクの長髪が揺れる。
「いや、まぁ忙しいし……ほら、こうしていろんな土産を貰えるから悪い事ばかりでもないというか……」
「やれやれぇ、面倒臭いだけでしょう?んで結局毎度毎度の遅刻なんだからぁ……って、どうせ言うことなんて聞きやしないんだろうけどさぁ」
ミサキの手痛い指摘に、アオバは苦笑いを以て返す。そして、まるで詫びを差し出すように、先ほど貰ったばかりのプリンを人数分取り出して、机に置いた。
すると──
「おい!アオバあああああああ!これってもしかしてプリンか!?プリンだよな!食べていいんだよな!な!!!」
いち早く、かつ大きすぎる反応を示したのはタンクを務めるワタリ。彼は人間族の中ではかなり大きく──端的に言えばゴツいのだが、スイーツというスイーツを愛する甘党である。
部屋の最奥にある椅子にどかっと腰掛けていた状態から、スキル[瞬歩]を使ってアオバの元に駆け寄ってくるほどには、甘味狂いなのだ。
「めちゃくちゃ美味しそうー!え、やっと再現に成功したって感じなのかな?なのかね?」
次いでてくてくとプリンの元に歩いてきたのは、ワタリの胸ほどしか身長のない少女。しかし侮ることなかれ、彼女はこの世界唯一の職能・奇術師を持つ実力者なのだ。
奇術師とは、あまねく魔法と妖術に精通した者のこと。攻撃魔法から呪術までを使いこなす小さき実力者──ミラは、「若葉」の戦力の中核を担っている。
「あぁ、そうなんだよ。プリンはそもそも材料となる怪鳥・ヴァルバラの卵が貴重なこともあって中々再現に時間がかかっていたけれど、ちゃんと元の世界の味になっていたよ」
遅刻によって悪化した空気をなんとか繕えたと安心するアオバ──だったが、それは些か早計だったと言える。
「「「「なに先食ってんだよ!!!!」」」」
パーティメンバーが異口同音に文句を叫ぶ光景に圧倒されながら、アオバは後頭部を掻きながら所在なく立つ他なかった。
---
勇者パーティ「若葉」は、転生者からのみ成るパーティである。
それゆえに全員が全員スキル持ちなのだ。
《万能》のアオバ。
《炎剣》のルーク。
《超薬》のミサキ。
《不動》のワタリ。
《魔導》のミラ。
その誰もが一騎当千であり、必殺の兵器だ。
しかし、それは初めからそうだったわけではない。
最強のパーティであれど、無敗のパーティではないのだから。
むしろ、挫折ばかりのパーティだった──痛みとともに成長してきたパーティだと表現した方が適当であろう。
成長痛と呼ぶにはあまりに凄惨なそれを各々が胸に刻みながら、今日まで戦い続けてきた。
パーティ名である「若葉」にしたって、そのような痛みを──初心を忘れないようにという意味合いが強い。
だから、クエスト前の会議にしたって石橋を叩いて渡るような慎重なものになる。
「さて、もう質問はないか?」
およそ1時間ほどをかけた会議の結びとして、アオバはそう口にする。
そのセリフに、神妙な面持ちですべてのメンバーが頷いた。
これでも1時間前はプリンに舌鼓を打ちながら顔をだらしなく緩めていたというのだから、その切り替えの速さには舌を巻く。
否、その切り替えの速さは冒険者に必須だということだろう。
自然の変化は早く、獲物は待ってはくれないのだから。
空気がしんと張り詰めた。そんな沈黙を割くようにアオバは、腹から威厳を乗せた声を響かせる。
「進みゆく我らの胸に、英雄の覚悟を──」
「「「「歩んだ轍を、覇道としよう」」」」
パーティは呼応するように静かに立ち上がった。
勇者としての1日が、本当の意味で始まった。
人だかりを辛うじて抜け、「若葉」のギルドハウスに到着する頃にはアオバは既に疲弊しており、声にも覇気があるとは言い難い。
そんなアオバの背中を、サブリーダーを務めるルークがバンバンと叩く。アオバよりやや高めの身長と引き締まった肉体を持つ美丈夫は、歯を見せて笑った。
「おう、遅かったじゃんか、アオバ。つってもいつものことだけどな。勇者さんも大変なこった」
そんな彼の職能は魔剣士である──それを主張するように背中には大剣が吊るされている。それ越しに、気怠げな女の声が聞こえてくる。その声にはほのかに避難の色も滲んでいた。
「だから隠密のスキルを身につけなさいって言っているのよぉ。黒蝙蝠を200匹討伐するのは手間がかかるでしょうけれど、あんたなら一日でやってやれないこともないでしょうにぃ」
ソファに緩慢に横たえられているのは、露出の大きい衣装に包まれた均整の取れたプロポーション──「若葉」の回復職を務める、ミサキだ。気怠げで舌っ足らずなセリフに合わせて自慢にしているピンクの長髪が揺れる。
「いや、まぁ忙しいし……ほら、こうしていろんな土産を貰えるから悪い事ばかりでもないというか……」
「やれやれぇ、面倒臭いだけでしょう?んで結局毎度毎度の遅刻なんだからぁ……って、どうせ言うことなんて聞きやしないんだろうけどさぁ」
ミサキの手痛い指摘に、アオバは苦笑いを以て返す。そして、まるで詫びを差し出すように、先ほど貰ったばかりのプリンを人数分取り出して、机に置いた。
すると──
「おい!アオバあああああああ!これってもしかしてプリンか!?プリンだよな!食べていいんだよな!な!!!」
いち早く、かつ大きすぎる反応を示したのはタンクを務めるワタリ。彼は人間族の中ではかなり大きく──端的に言えばゴツいのだが、スイーツというスイーツを愛する甘党である。
部屋の最奥にある椅子にどかっと腰掛けていた状態から、スキル[瞬歩]を使ってアオバの元に駆け寄ってくるほどには、甘味狂いなのだ。
「めちゃくちゃ美味しそうー!え、やっと再現に成功したって感じなのかな?なのかね?」
次いでてくてくとプリンの元に歩いてきたのは、ワタリの胸ほどしか身長のない少女。しかし侮ることなかれ、彼女はこの世界唯一の職能・奇術師を持つ実力者なのだ。
奇術師とは、あまねく魔法と妖術に精通した者のこと。攻撃魔法から呪術までを使いこなす小さき実力者──ミラは、「若葉」の戦力の中核を担っている。
「あぁ、そうなんだよ。プリンはそもそも材料となる怪鳥・ヴァルバラの卵が貴重なこともあって中々再現に時間がかかっていたけれど、ちゃんと元の世界の味になっていたよ」
遅刻によって悪化した空気をなんとか繕えたと安心するアオバ──だったが、それは些か早計だったと言える。
「「「「なに先食ってんだよ!!!!」」」」
パーティメンバーが異口同音に文句を叫ぶ光景に圧倒されながら、アオバは後頭部を掻きながら所在なく立つ他なかった。
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勇者パーティ「若葉」は、転生者からのみ成るパーティである。
それゆえに全員が全員スキル持ちなのだ。
《万能》のアオバ。
《炎剣》のルーク。
《超薬》のミサキ。
《不動》のワタリ。
《魔導》のミラ。
その誰もが一騎当千であり、必殺の兵器だ。
しかし、それは初めからそうだったわけではない。
最強のパーティであれど、無敗のパーティではないのだから。
むしろ、挫折ばかりのパーティだった──痛みとともに成長してきたパーティだと表現した方が適当であろう。
成長痛と呼ぶにはあまりに凄惨なそれを各々が胸に刻みながら、今日まで戦い続けてきた。
パーティ名である「若葉」にしたって、そのような痛みを──初心を忘れないようにという意味合いが強い。
だから、クエスト前の会議にしたって石橋を叩いて渡るような慎重なものになる。
「さて、もう質問はないか?」
およそ1時間ほどをかけた会議の結びとして、アオバはそう口にする。
そのセリフに、神妙な面持ちですべてのメンバーが頷いた。
これでも1時間前はプリンに舌鼓を打ちながら顔をだらしなく緩めていたというのだから、その切り替えの速さには舌を巻く。
否、その切り替えの速さは冒険者に必須だということだろう。
自然の変化は早く、獲物は待ってはくれないのだから。
空気がしんと張り詰めた。そんな沈黙を割くようにアオバは、腹から威厳を乗せた声を響かせる。
「進みゆく我らの胸に、英雄の覚悟を──」
「「「「歩んだ轍を、覇道としよう」」」」
パーティは呼応するように静かに立ち上がった。
勇者としての1日が、本当の意味で始まった。
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