転生者・西野森青葉は、史上最強の勇者だった。

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第8話 喪われた日常(転生日①)

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アオバ──もとい西野森青葉は、かつて日本で普通に暮らしていた一介の高校生でしかなかった。

 しかし、その“普通”の生活はある日突然、終わりを告げたのである。

---

 始まりは高校1年生のある昼休み。
 唐突に投げられた、アオバの親友である滝口輝たきぐちあきらの一言がきっかけだった。

 「なぁなぁ、異世界転生って、憧れねぇ?」

 輝は、いわゆるアニメオタクである。中学校では生徒会長を務めるほど義務や責任には忠実で、真面目な男ではあるのだが、ことアニメの話となるとその“しっかりさ”は霧散する。今日も欲しいおもちゃを前にした子どものように目を輝かせながら、彼は異世界への憧れを口にした。

 「いや、別に」

 それに対して青葉の返答はそっけない。彼は別段アニメーションなどを好んで視聴するタイプではない。流行の作品くらいは押さえているが、青葉の関心は専らサッカーである。

 ともあれ。
 そんなにべもない青葉の反応も輝は予測していたのだろう。それに、反応自体はそっけなくとも、青葉が親友から必死に頼まれたことを無碍にするような性格ではないことも、また。

 「そんなこと言うなよー!ドラゴンが空を飛び回る街!エルフのお姉さん!剣と魔法の世界!全部がドッキドキでワックワクだろうが!!断言するね、異世界には男のロマンのすべてが詰まっている!」

 「そうかいそうかい。んで、いきなりそんなことを言い出すってことは何か頼みてぇことがあるんじゃねぇの?」

 「おお、さすが我が心の友!話が早い!早速だが、これを見てくれ!」

 そう言って輝が差し出したスマフォに映し出されていたのは、簡素なつくりのウェブサイトだった。誰かのブログだろうか。そこまでを見た後に青葉はやっと、ブログのタイトルに視線を移し……嘆息した。

 「おい、お前こんなの信じちゃうの……冗談だろ?」

 「いやいや、そんな目で見ないでくれよ!確かに『異世界への行き方』ってめちゃくちゃ怪しいタイトルだってわかるけども!」

 「わかっててこれを見せてきたお前の神経って、相当太くね?」

 「いや、本当に違うんだって!俺だって半信半疑さ。さすがにこの記事を頭っから信じられるほど頭のネジは外れてねぇよ。だけど、万一にでも憧れの異世界に行けるんだとしたらやらなきゃ損だって思っちゃうのが人情ってもんだろ!それに、しっかり記事の内容を見ると……ちょっと『ぽい』んだよ」

 「いや、どこが人情なんだよ」という言葉をひとまず飲み込み、青葉はページをスクロールする。序章には、執筆者の実体験が記されていた。いきなり本題に入るのだと構えていた青葉は、一瞬肩透かしを食らったような表情を浮かべる──が、そこに記されていたのはあまりにも瑞々しい異世界の描写だった。

 「へぇ……」

 思わず漏れた呟きを、輝は逃さない。

 「な!ちょっとぽいだろ!」

 「うるせぇな。今読んでるんだよ」

 青葉はぶっきらぼうに言うが、内心驚いていた。その文章は、これは確かに体験していないと書けない──体験していなくて書いているのだとしたら不自然な文章だと、そう感じるほどの生々しさを伴っていたからだ。

 そして、少し興味を持ってしまった。

 「確かに、輝があながち酔狂ってわけじゃないのはわかった」

 「おい……俺をなんだと思ってんだよ。まぁ、いいや。ってかまだ序章しか読んでないんだろ?ちゃんとその後にタイトル通りのことが記されてんだよ。それもまたやけに手間がかかっていてさ──」

 タイトル通りのこと──異世界への行き方。
 
輝は念押しをするように再度言う。

「ぽいんだよ」

 と。

 青葉は想像した。このおもしろそうな世界に行けたなら。本当にこの文章通りのことを体験できたなら、と。

 ごくり。
 つばを飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

 それを誤魔化すために青葉は咳払いをした。

 「で、それを何で俺に話す必要があったんだよ」

 「いや、さ。着いてきて欲しいんだよ」

 「異世界に?」

 「異世界に」

 「寂しがり屋かよ」

 「未知の世界に一人きりで行くことを考えたら、足がすくむほどにはな」

 「わかった。行こうふたりで」

 「行こう、俺らの異世界《パラディソ》へ」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。
 ふたりは確信していたのだ。
 この先に、輝かしい異世界での生活が待っていることを。

 ──しかし、それは甘い勘違いだった。あまりに楽観的だった。

それを彼らは放課後に知ることになる。
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