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(4)あなたへプレゼント
しおりを挟むジュナチは張り切って、ルチアをリビングルームに案内した。部屋の手前には、大きなローテーブルをソファーが囲む。そこはダントンの定位置だった。部屋の奥には食事をするためのダイニングテーブルが置かれ、その向こう側には足元から天井まで伸びる一面の大きな窓がある。外には芝生が広がり、遠くには森と海が見える。少しだけ傾いた太陽の光が緩やかに部屋を明るくしていた。窓の横にはそのまま外へ出られる扉が作ってあった。
ルチアを2人掛けの革張りソファーに座らせ、ジュナチは1人掛けへ浅く腰かけた。たくさん質問したい気持ちを抑えて、まずは紅茶かコーヒーか選んでほしいと伝えた。コーヒーを選んだルチアに、ジュナチは笑顔でうなずいた。どちらかといえば自分もコーヒー派だったので、共通点が見つかっただけで嬉しくなった。
ダントンがコーヒーを淹れにキッチンへ去り、2人きりになると、ルチアは外の海に興味を示した。ジュナチはこの島の歴史を話し始める。その歴史は、一族が出版をした本『サイダルカ家の歴史』には書かれていない。ルチアはその話をジュナチが想像した何倍も熱心に聞いていた。そのせいで、ジュナチは少し照れくさくなり、ときどき言葉に詰まった。戻ってきたダントンを見て、助けを求める。彼は話の補足をしてくれた。ジュナチとダントンを代わるがわる見つめるルチアは、興味深そうに何度も相槌を打っていた。
島のことを話し終わると、ジュナチは今の自分を俯瞰で見て、微笑んだ。
「ふふ、ゴールドリップとお茶してる」
その言葉にきょとんとしたルチアへ、自分がいかに小さなころからゴールドリップという存在を思っていたか伝えた。世界最強と謳われるマホウビトについて書かれたたくさんの文献を、何度も読み返し、カーニバルには毎年参加して探し回っていたことを。
すると、キラキラしていたルチアの目に輝きがなくなり、顔を伏せてしまう。命を狙われている自分に、何を憧れることがあるのかと憂いているように見えた。
「あ、えっと…」
ジュナチは話題に失敗したと思い、その後に話そうと思っていた国王の話題はいったんやめておいた。必死にルチアが喜びそうな話題を探す。そのとき、彼は赤いコーヒーカップをダントンから受け取った。リアルな黄バラがたくさん描かれたそれは、祖母の代から長年愛用していた物だった。
「綺麗ね…」
カップと受け皿どちらもうっとり見つめている。きっと彼はジュナチが興味のないファッションやアクセサリーが好きなのだろう。ならば、と「ある物」を差し出した。
「これ、あげる」
「何かしら…?」
本名を名乗ってから、ルチアは喧々吠えていた最初の勢いは消えて、おっとりとした口調になった。本来の言葉遣いに戻ったようだ。ジュナチは、彼の手のひらにネックレスを乗せた。
「あなたのために私と祖父が一緒に作ったんだよ」
「僕のため?」
ルチアの手にあるのは、カーニバルへ持っていった物だった。一輪の花が銀で大きくあしらわれたネックレス。そしてその先につるされた小さなリップ。銀色のケースに収められているそれは、常に身につけられる作りになっていた。
「私ね、ゴールドリップの金色の唇は、ナシノビトから隠すために魔法で色を変えているって予想をしていたんだ。その魔法道具は、そんなあなたを助ける物だよ」
ジュナチは、これを作るときに祖父とたくさん話をした。ゴールドリップは金色を見飽きているだろうから、銀色のケースにしようと2人で決めたのを思い出した。夜遅くなるまで熱心にデザインを語らい、丹精込めたプレゼントが今本人に届いたのだ。自然と口角が上がり、ちゃんとしたプレゼンがしたくて声がいつもより大きくなる。
「ずっと魔法を使うのは大変なんでしょ? だからね、その必要がなくなるように「絶対に色が落ちないリップ」を作ったんだ」
ルチアは案を出しただけで、形にしてくれたのは祖父だったことを謙遜して伝えたが、ルチアはそれを聞いていなかった。彼は、滑りのよい蓋をキュポンと開け、白い中身を掲げる。舐めるように観察した。
「変身する魔法をやめたくなったら、それを使って。魔法を使わなくても半永久的に唇の色を変えられるから」
「そんなもの…」
作れるわけがないという言葉を、ルチアは飲みこんだ。目の前にいる人物は、あの有名な「魔法道具発明家」だと思い直した。だけど、たとえジュナチが言ったとおりの道具でも、使うことはないと結論付けた。
「キレイだけど、真っ白な唇なんて逆に目立つから使えな、」
「あなたが望む色を思い浮かべて」
ルチアの拒否する言葉に、ジュナチはかぶせる勢いで言う。有無を言わさない強い口調に、サイダルカとしての自信と矜持を感じさせた。
「………、」
言われたとおりにルチアはリップを見つめながら、母親の顔を思い出していた。別人として生きるルチアは、彼女ともう会うことはないだろう。母親はいつも鏡に向かってメイクをしていた。着飾って、楽しそうにしている彼女にあこがれていた。姿を思い出した瞬間、白が真っ赤に変わった。
わ!とルチアは声をあげて、それをまじまじと見つめる。
「すごいわ。さすが、サイダルカ…」
ジュナチはプレゼントした魔法道具の素晴らしさが伝わって、自信たっぷりに微笑んだ。どこかで肯定されるとわかっていながらも、言葉が欲しくて尋ねる。
「気に入ってくれた?」
「もちろんよ」
ほっとしたように「よかった」と言うジュナチをルチアは見た。目の前の少女は、悪だくみなんて微塵もしていない。心から自分のことを思って、リップを作って授けてくれたと理解した。暖かい気持ちが胸に広がっていく。ルチアは使う予定もないのに、手の中にある魔法道具の扱いを詳しく聞きたくなった。彼は少しの違和感や疑問を、すぐに解決したくなる性格だった。
「これを付けて唇が赤くなったとして、もし誰かが色を取ろうと魔法をかけたらどうなるの? やっぱり消える?」
「ううん、魔法道具には「精霊魔法」の力が込められているから消せないよ。マホウビトが使う「使役魔法」は魔法道具の効果を相殺できないんだ」
魔法道具が生まれたことにより、この世界の魔法は「精霊」と「使役」の2種類があるとわかった。
「使役魔法」は、マホウビトが精霊の力を使役して操る魔法である。マホウビトの体力や集中力があればあるほど、強い魔法を使いこなせる。とくに王族はマホウビトの中でも格段に力があり、王位継承の資格がある2人の王子はかなり強い使役魔法が使えると噂されている。どちらも1日かけて頂上に着くような大きな山の木々をなぎ倒し、はげ山にできるらしい。これは、魔法道具では到底できない強力な魔法だった。
一方のサイダルカが作った魔法道具は、精霊に乞い願って力を借りている「精霊魔法」が込められていた。魔法道具を使用する前に「力を貸してほしい」とお願いすれば、精霊による魔法が発動する。たとえば、水の石を「戻って」とお願いして精霊に乞い願えば、魔法が発動して石は水に戻るのだった。
巷では、魔法道具の作り方によっては、マホウビトを脅かせるほど威力ある道具ができるのではないかと予想されていた。今のところ、そのような道具は発表されていないが。
「精霊魔法ね。本に書かれてたわ…」
サイダルカの本の一節を思い出しながら、ルチアはうなずく。
彼の手にあるリップをじっと見る。唇の色を隠せる魅力的な道具だが、使うには勇気がいるものだった。これを使うには、魔法を解いて元の姿に戻らなければいけない。「国王の追手」に気付かれやすい姿に戻るなんて、ルチアにはできなかった。
過去のゴールドリップの中には、赤いリップを塗って身を隠していた人もいた。だけど、正体がバレて殺された。その記憶を引き継いでいるルチアの警戒心は、とても強い。だから、もらった魔法道具を使う日は来ないだろう。かといって、これを手放したいとも思わなかった。
「いらなくても貰って、プレゼントだよ」
ジュナチのその言葉を聞くと、
「ありがとう、いただくわ」
ルチアは首に巻いたリップを愛しそうに撫でた。それは明らかにお気に入りの物を身に着けた人がする手つきで、ジュナチはホッと安心した。祖父と自分の気持ちを受け入れてもらえたことを喜んだ。
さて今度こそと切り替えて、本題に入ろうと思いながら一度息を吐いた。
「それで、あの、国王についてなんだけど…」
すぐにルチアの顔つきがきつくなり、何を話しだすのか探るようにジュナチを見た。その視線の強さに焦りながら、ジュナチは聞いた。
「どうして国王に追われるの? サイダルカは魔法道具の使用許可を貰うこともあって、あの方と話す機会もある。でもね、ゴールドリップを追っているなんて話は聞いたことがないの」
発明した魔法道具を献上するため、サイダルカ家は国王への謁見ができる。だけど、ジュナチは今まで国王に見せられるような魔法道具を作ったことがないので、その経験がなかった。そのため、彼女自身は国王と直接話したことはない。謁見の時間は、遠くから彼と話す両親の姿を見ていただけだった。
国王は、ナシノビトの生活が豊かになる魔法道具の存在を喜んでいた。人が良さそうという印象を持っていたので、ゴールド狩りの犯人という事実を、ジュナチはいまだに飲み込めずにいる。両親と国王の会話を思い出しても、ゴールドリップに関する言葉は、何ひとつ存在しなかった。
「それは僕が聞きたいわよ。なぜ狙われているかなんて、わからない。だけど、歴代のゴールドリップたちの記憶では、」
ルチアは自分の頭を指さして言う。
「魔法を使うと国王の追手が必ず現れ、殺される」
殺された瞬間が頭をよぎっているのだろう、気分が悪そうに眉間にしわを寄せた。
「そっか…」
これ以上、彼を悲しい気持ちにさせたくないと思ったジュナチは話題をいったん区切って、この先どうするかを想像した。
ゴールドリップを支えるために、ナシノビトから彼を守ろうと思っていた。なのにマホウビトである国王が危険人物に挙がる。意外な展開になり、ジュナチは混乱する。
(ゴールドリップのためになるなら、敵を把握したい…)
国王がゴールドリップの命を狙う理由を想像する。世界最強と言われる強い力を恐れて消そうとしているのかもしれない。だけど、ジュナチがどんな想像をしようとも、敵の目的は藪の中だ。
(どうして命を狙うのか、探る…?)
その目的を知る必要があるのかさえ、わからない。とりあえずゴールドリップに魔法を使わせることなく、国王から隠れて日常を過ごしてもらう方法だってある。だけど、そんな風に生きるのはとても窮屈な状態だと想像ができて、ジュナチはその案を頭の中からかき消した。
「………、」
ルチアをちらりと見る。彼が身をひそめるために、わざと目立たない格好をしているのは想像がついた。輝く銀のリップケースやコーヒーカップを手に取ったとき、ルチアの中の好奇心がうずいている姿を見た。本当は、おしゃれが好きなのだろう。同時に、ルチアの綺麗な元の姿を思い出しながら、それが表に出せないことをもったいないともジュナチは思っていた。ゴールドリップを守りたい、自由にしたい、魔法が使えたらいいのに…、そんな気持ちが強くなる。
(私は、ルチアを最優先したい)
そのために彼を捕らえ、今こうして話している。
(だったら、どうするべき?)
この先の行動を模索した。国王がゴールドリップを追う原因を少しだけ探ってみると、対策が見つかるかもしれない。もしかしたら、何か条件がそろえば、国王はルチアの命を狙わないかもしれない。どれもこれも推測でしかないが、何も見えない手探りの状態より、ほんの少しでも相手が何を思っているか理解しているほうが動きやすくなる。そう結論を出し、ジュナチはまず国王周りの人から情報収集することに決めた。
「そろそろ城に魔法道具を納品しないといけないし、そのときに城内で働く人にゴールドリップについて探る。…ってどう思う?」
「いいんじゃねぇの、好きにしろ」
ジュナチは思いついたことをダントンに確認する。ダントンはあっさりとその案を了承した。ジュナチがぐるぐると頭の中で考え事をしている間、ずっとその様子を見守っていた。
ジュナチの案は少しの危険性をはらんでいた。城内で不穏な動きを見せれば、ジュナチとゴールドリップとの関係を勘づかれるかもしれない。そして、その身に危険が及ぶかもしれない。だけど、そんな理由を伝えて反対したって、結局ジュナチが自分の思うままに行動することは長い付き合いでわかっていた。
「俺はお前についていくだけだ」
ダントンはそう言って、ルチアを見た。彼は何を言うのだろうと、探るように眺めた。
「…下手に話題を出して大丈夫?」
ルチアは心配そうに聞く。慎重な意見に、唇に手を寄せたジュナチはもう一度考える。むやみやたらに聞かないで、少人数へ質問しようと考えた。
「それじゃあ1人だけに聞く、とか…」
「シャンさんだな。お人よしだし、城の歴史に詳しいだろ」
ダントンは、ジュナチに好意的で害がなさそうな人物を挙げた。納品室でおしゃべりな奥さんとともに働く彼は、いつも歴史の本を読み、思慮深い。国王やゴールドリップの話をなにか知っているかもしれない。
「いいね、決定!」
ダントンが候補に挙げた人の穏やかな笑顔を思い出し、ジュナチは嬉しそうにうなずく。その様子に、ダントンはつられて片方の口角をあげた。
「それじゃあ早速、魔法道具を作ろう。ルチアも手伝ってくれない? けっこう面白いよ」
「———、ええ、喜んでお手伝いするわ」
ジュナチの「わからないなら確かめよう」という簡単な思考と、あっという間に次の行動を決めてしまった。それに呆気にとられたルチアは、一瞬黙った。そして、魔法道具を作るという言葉に惹かれてすぐにうなずく。
「じゃあ納品物を確認してから、材料を採りに行こうね」
そう言って、ジュナチは引き出しから年季が入ったノートを取り出す。タイトルには「帳簿(城へ)」と書かれていた。魔法道具の名前がずらりと書かれたリストをルチアに見せながら、何が足りなくなっている時期かダントンと確認し合う。2人は「緑の包帯」「安らぎ強化飲料」「女王様への愛」を作ろうと話をまとめた。ルチアは、ある道具の名前に引っかかった。
(緑の包帯は傷を早く治すものよね、大戦中に発表されていたわ。安らぎ飲料は精神を安定させる物だけど、強化って付くのは知らない。…「女王様への愛」なんて聞いたこともないわね)
最後に挙げた道具の横には「王」と書かれたマークが書かれていた。その理由をジュナチに尋ねれば、国王にのみ納品する魔法道具だという。つまりは一般人の手には渡らない。
「王族だけ使ってる魔法道具の存在は、外に漏らすなよ」
ダントンが釘を刺すように強く言った。その言葉にルチアは頷く。今から秘密を知ることになる。そう思うと、この後にどんなことをするのかとワクワクした。魔法道具を作る経験が訪れるなんて、今まで一ミリも想像したことはなかった。
(この子は僕の知らない世界に連れていってくれる…)
ルチアは様々な魂の記憶があるので、たくさんの知識を持っている。それなのに、リスト上には聞いたことがない道具名が列挙されていた。楽しい予感がして、体が熱くなる。
ジュナチはその場で束になった薄茶色の紙を取り出し、手紙を書いた。同じ色の封筒に入れる。それを持って、テラスに向かった。ジュナチについていくために、ルチアは自然と立ち上がった。その振動でカシャンと鳴った胸元のリップに触れる。外に広がる芝生の上を歩く少女の背中を見た瞬間、自分よりも小さいのに、なぜか彼女がたくましく見えた。
(この子に、ついていこう)
人知れず、ルチアはそう誓った。
「国王秘書のトレッタさんによろしく」
お願いしながら、一面広がる芝生の上にぱさりと手紙を落とすと、それはずるずると土に溶けて消えていった。
「今のって魔法道具よね? すごく値段が高いやつで…」
「うん、「土の手紙」って名前だよ。魔法道具を近々納品するって連絡したんだよ」
くるりと振り返ったジュナチは、瞳を輝かせるルチアへ説明をした。彼は魔法道具を見ると、持ち前の好奇心がとまらなくなるようだ。ジュナチの言葉を一つ残さず聞き取ろうという、気合いが伝わってくる。そんな彼にジュナチは、土の手紙のくわしい情報を伝えた。サイダルカ一族は身元を隠しているため、家族以外の人と魔法道具について話す機会がほとんどない。ジュナチにとって、ルチアはその話題を堂々とできる貴重な人だった。
「値段が高い理由は、原料が希少だし、製造方法も複雑だから大量生産に向かないからなんだ。もっと楽に作れるようなレシピが、私に思い浮かべばよかったんだけどね…無理だったな」
とジュナチが自虐するように軽く言うと、ルチアはさらりと答えた。
「原料の問題なら、高いのも皆納得するでしょ。ジュナチのせいじゃないから、落ち込む必要はないわよ」
「そ、そうかな? あのね、あれを作るためには5種類の土が必要で…」
励まされて嬉しくなったジュナチは、どれほど貴重な土でできた道具か説明しだした。熱い視線で見つめ合うジュナチとルチアへ向けて、
「おい、日が暮れんだろ。さっさと材料探しに行くぞ」
ダントンが冷たく言う。その声に飛び上がって、ジュナチは森を見た。そして、材料集め以外にもうひとつ重要な事を思い出した。
(森に行くなら、オバー様に挨拶してもらいたいな…)
ルチアへ「オバー様」について詳しい説明をしようと思ったが、いや待てよ、と考え直す。オバー様は、審美眼に自信がないジュナチでさえ美しいと感じさせる存在だった。オバー様を見たときに、ルチアが喜ぶ姿が簡単に想像できる。だから、今はその正体を伏せようとたくらんだ。「これからどうするの?」と聞いてきたルチアを見て、島の端の森を指さしながら優しく言った。
「材料探しのついでに、あそこにいる「この島の主」に会ってほしいの。人間じゃないんだけど、サイダルカの一員で、家族で…とっても優しいから安心して」
そう伝えると、ルチアはきょとんとした。
「―――、」
ジュナチがそれ以上何も言わずにいたら、警戒心が強いルチアの顔が少しだけ曇った気がした。やはりすべて説明したほうがいいと思い直し、言葉を続けようとしたとき、
「ジュナチがそう言うなら、会いたいわ!」
ルチアはとびっきりの笑顔になった。オバー様に会うのが待ち遠しいという気持ちを言葉にしなくても、ジュナチに伝わる。
そのやりとりを見ていたダントンは、ルチアのジュナチへの懐きっぷりに驚いた。さっきまで、拉致だなんだと騒いでいた人物と一緒とは思えなかった。
目を輝かせるルチアはジュナチの腕を引っ張って、一歩一歩大きく足を前に出す。
「行きましょ!」
腕を引かれる力が想像よりも強かったので、ジュナチは内心慌てる。
(意外と、力持ちかも?)
ルチアの見た目は細いため、非力だと決めつけていた。そして、彼の体温が腕に伝わることが少し気恥ずかしくて、自分の頬がさっと赤くなったのにジュナチは気付かなかった。
「……」
くっつく2人をダントンは鋭い目で見つめた。ルチアは明らかにジュナチに懐いている。武器を持っていないので、自分へもジュナチへも危害も加えないと理解していた。それなのに、彼を敵視する自分を情けなく思いながら、小さくため息をついた。
「…ベタベタしやがって」
ふてくされるようにつぶやく。空を見て、少しの間2人を視界に入れることを拒否した。
つづく…
閲覧ありがとうございます。
次回は4月1日(来月の第1金曜日)に更新します。
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