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第3章 淫武御前トーナメントの章
34話 3回線
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34話 3回線
ナツキが控え室に戻るまでの通路に、小綺麗な女医バージョンのオネエがいた。
育ちの良さを伺わせる緩やかな細い腕が、一緒に消えた男・マーラの首に巻き付けられていたのだ。
あろうことか控えめな唇は、淫魔男の分厚い唇と形を崩し合うように重なり合っている。そして、男のために開いた股ぐらがくちゃ……くちゃ……と鳴らされていた。
「オネエ、……何してるの?」と聞いても、すぐには唇も離さないで、もう一度聞いたところで、唾液の糸を引きながら「あら、ナツキちゃん……」と返事をされた。
「じゃあねぇ、マーラ♪」
悪びれもせず、拉致したマーラに手を振るオネエ。
その後、エリナと3人で控え室に戻ったナツキは、信じられない光景を目にしただけではなく、信じられない話まで聞かされることとなった。
「オネエが、……堕ちた……? あいつと1回戦であたったチームのオーナーに……?」
信じられない。
媚びた遠い目をして、筋肉マッチョに身体を差し出している姿を見なければ、冗談にしか思わなかっただろう。
――オネエは嘘吐きだから。
見せ付けられた今でも、堕ちた……、オネエが堕ちた……、と呪詛のように繰り返さないと、現実を受け入れられそうにない。
今しがたエリナが恋敵ではないと安堵したばかり。
だというのに、安堵しようのない事実に心を押し潰された。
「へー、じゃあたしのほうが服部より強くなーい? マモンのクソガキ倒したし」
「そうねぇエリナさん。ナツキちゃんよりちっちゃくなってずいぶんと可愛らしくなってぇ♥ もうメロメロにされちゃうかもしれないわねぇ♪」
「認めるのー? あたしの方が強いって認めるのー? ねぇー服部ー」
「それは戦ってからねぇ♪」
バンッ!!!
悪ふざけまで始めた2人にイライラが募ったナツキは、反射的にオネエを壁に押しつけていた。
「オネエ……。状況を分かっているの?」
オネエが堕ちた。それは悔しいし辛い。
でも今は嫉妬に心を妬かれている暇さえない。
「このまま順当にいけば、また負ける。あいつらと三回戦でぶつかるんだよ。――分かっているよね?」
「分かっているから空元気出しているのよ……。やっていられなくてね」
「えぇえー? 何で? 何で負けるの?」
まだ寝ぼけているのか、エリナはなんにも分かっていなかった。
次の試合である3回戦。ナツキ擁するかぜチームは、マーラの属するチームとぶつかるのだ。
ナツキに媚薬を仕込んで堕とした男、ナツキが輪姦で狂うきっかけになった男もマーラと同じチームに属している。
詰まるところ、ナツキ達が戦う3回戦の相手は、奇しくもナツキ達に罰ゲームを行使したチームなのだ。
「別にいいじゃん。あたしは勝てるしー、で、服部とナツキがそのふたりとぶつからなければ良いんでしょー? ぶつかったらぶつかったで仕方ない。そんときはそんときでしょー??」
「エリナ……。聞いてなかったの? あたしは十兵衛って白スーツに堕ちてて、オネエはあの筋肉馬鹿に堕ちている。――オーダーを聞かれたら答えてしまうと思う」
「は? ……それ、裏切りじゃん」
エリナは色々なところが中途半端に幼児化していて話にならなかった。
身体が退行しているから脳みそも退行しているのだろうか。ボケたというより、そもそも記憶として存在しないかのような間抜けな返しをしてきた。
記憶まで退行している……?
裏切りではない、と上手く説明できる自信が無い。忍術に対してどこまでの記憶が残っているかも分からないエリナに、この状況を説明できる気がしない。
術で操られて喋ってしまうのとも違う。
うーん……何て言ったら良いんだろう。
オーダーを聞かれたら「可愛がってもらうために何から何まで教えると思う」と言いたいがこれだと裏切りに変わりが無い――。……うーん。説明が出来ない。
「あははっ! ナツキー、あたしがさっきみたいに勝ち抜きすれば余裕でしょー?」
「え?」
「挑発してあたし1人で勝ち抜き戦に持ち込めたら三回戦は突破出来る、って話ー。――目の前の事に集中しないとねー。あまりごちゃごちゃ余計なこと考えるとナツキはいつもダメだからさー」
エリナはボケてはいないようだ。
エリナ1人に負担を掛けてしまうが、エリナが言ったとおり勝ち抜き戦ならチャンスがある。
「そう上手くいくかしら?」
オネエが切れ長の目を流し目にして挑発的に言ってきたのだ。
まるで敵チームから派遣されてきたスパイが本性を現したかのような態度だった。
「裏……切り……」
口走ってナツキは気付いた。エリナに説明していたときのナツキ自身も、今のオネエと同じように裏切り者と間違えられるような態度を取っていたんじゃないかと。
忍術……。掛かっている自覚があっても、堕ちている自覚があっても、ここまでどうにもならないものなのか……。
改めてくノ一の恐ろしさを知ったナツキであった。
「だいたい勝ち抜き戦にしなければ確実に勝てるチーム相手よ? そんなチームと勝ち抜き戦で戦う馬鹿がどこにいるのかしら?」
オネエの言った通りだ。いるはずが無い。
そもそもとして警戒されているから、こんな大掛かりな小細工を労してきたのだろうし……。それを水の泡にするような損な取引に応じる筈が無い。
「それに、マーラや十兵衛よりも厄介な女があいつらのリーダー・魔凜よ。大昔に1度殺してはいるけど恐らく力を蓄えているはずよ」
「服部! あんたどっちの味方なわけ!?」
まるで敵チームを、味方自慢のように語り出すオネエとエリナが口論になったまま――、対抗策を練られないままに、ナツキ達一行は、3回戦を迎えることとなる。
そして、オネエと浅からぬ因縁のありそうな魔凜によって、ナツキ達は更なる窮地に追い込まれていた。
「こんのっ、性悪女!! 勝ち抜き戦拒否って挙げ句こんな卑怯な技使うとか!!」
「オーーーーーーーッホッホッホッ!! 勝てば良いのよ勝てばぁアーーッハッハッハッ!!!!!」
――第3回戦第一試合。
エリナは魔凜と戦うこととなるも、開始早々決着が付くことに。
相手チームの魔凜がコートを消し飛ばしたことによって、エリナと魔凜の試合結果はドローとなってしまったのだ。完全に狙っていたのだろう。
エリナの実力が、淫魔が戦いを拒否したくなるくらいのものと証明された瞬間ではあった。が、これにより、ナツキチームは後がなくなってしまったのだ。
「オネエ……。やっぱりオネエのほうが酷い堕ち方してたんだね」
破壊されてバラバラに砕けた石畳のコートを挟んで立ち並ぶ相手チーム。
堕とされたばかりの男・マーラに、あろうことかオネエはかぜチームの対戦順をサインで送っていた。
「ほんとに……堕ちてたんだね」
極めつけとも言える事態に気付いて、ナツキは落胆から力ない声で呟いた。
オネエが恋をしたこともショックだった。
しかしそれ以上に、オネエが快楽に負けたことがショックだった。
オネエは、負ける姿が想像出来ないくらいの強い忍びだった。
師事すると決めた忍びだった。
流派を裏切ってでも仕えたい忍びだった。
「私はエリナに小言言われるのとかイヤだから、堕ちてても戦う。堕ちているなりに戦う為の作戦も練ってある」
とは言っても、体感している以上に魅了の状態は深刻。練った作戦がどこまで役に立つかは分からない。
それでも……、それでも……。
このままでは終わりたくない。
「――オネエに掛かっている堕落させた術は、この戦いが終わった後に必ず解いてあげるから」
『第三試合2戦目ッ!! ロリ小学生、万人斬り! かぜチーーーーーーーームッ加瀬ナツキィイイイイイイイ!! 対するは増強剤不使用、ボディービルダー泣かせぇええええ魔凜チームマーラアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
クルクルッと丸めた身体で軽やかにリングに着地したナツキだったが、着地するなり、カッ、と驚きで目を見開くなり視線を振り上げた。
――どういうこと。
対戦相手は、罰ゲームで堕とされたはずの十兵衛を当てられる筈。にもかかわらず、ナツキの対戦相手はオネエを堕としたマーラが務めるというのだ。
対戦相手がずれている? アナウンスのミスかとも思った。
が、対戦相手の筋肉マッチョ男も身軽な身のこなしで、砕けた石綿の上に着地していた。スクリーンにもナツキVSマーラの電光文字が映し出されている。
……ほんとに、……どういうこと?
翔子がマーラにサインを送る姿を、ナツキはしかとこの目で見た。
オネエは術に堕ちていない!?
慌ててナツキは振り向いてオネエを見やる。
しかし当のオネエも困惑している。
が、困惑しているのはオネエだけではない。ついさっきエリナと引き分けた魔凜も驚いている。かと思えば――、
「どうなってるのよ!!!? マーラ!!!!!!」
「ワタシを失格にさせる気かな? 試合中にコートに上がってきたら、味方からの援護と見なされて失格になる可能性があるよ?」
突然リングに上ってきた魔凜がマーラに掴み掛かっていたのだ。
仲間割れ? ナツキには何が起きているのか分からなかった。
どちらにしてもチャンスだ。
魅了に堕とした白スーツ男・十兵衛よりは、遥かに分がある。
「お、覚えておきなさいよマーラ!!!!」
勝利に固執していた女だ、失格にだけはなりたくなかったのだろう。
魔凜は反則負けをほのめかされただけでコートの外へと簡単に降りた。
そして、ルールに守られたコートでは生まれる筈がないくらいに、マーラが大きな隙を見せている。
魔凜を見送るマーラ、その背後の影から現れたナツキは、ひたっ……と背中に張り付いた。
「う゛っ!?」
「影縫い。――動けないよね。……聞きたいことはたくさんあるし、言いたいこともたくさんある。でもそれより優先されるものがあるから。――逝け」
ビュルルルルルルルルルッ!!! ビュルルッ! ビュルルッ!
初めてオネエに犯された時を思い出させる見た目と臭い、そして感触。
背中を奪ったまま倒さないと情が沸いてしまいかねない。そんな男を、ナツキは背後を取ったまま2度、3度と頂点へと導く。
この男は最初から戦うつもりがなかったのだろう。
このようなオーダーを組んできたのだから。
マーラはただただ快楽を受け入れていた。
どういうつもりなのか聞きたいところだが、それも倒すことと比べたら微々たる興味だ。術に堕ちる前のオネエは、大会で勝利することをなによりも望んでいた。
である以上、成果だけを求めてそれに従うまでだ。
「こ、降参、だ……」
『観客万人斬りのナツキ選手の勝利ィイイイイイイイイイイ゛イ゛ッ!!!!」
エリナと魔凜の台無しになった第1試合、そのフラストレーションが溜まっていたのだろう。割れんばかりの声援が会場内を埋め尽くしたのであった。
ナツキが控え室に戻るまでの通路に、小綺麗な女医バージョンのオネエがいた。
育ちの良さを伺わせる緩やかな細い腕が、一緒に消えた男・マーラの首に巻き付けられていたのだ。
あろうことか控えめな唇は、淫魔男の分厚い唇と形を崩し合うように重なり合っている。そして、男のために開いた股ぐらがくちゃ……くちゃ……と鳴らされていた。
「オネエ、……何してるの?」と聞いても、すぐには唇も離さないで、もう一度聞いたところで、唾液の糸を引きながら「あら、ナツキちゃん……」と返事をされた。
「じゃあねぇ、マーラ♪」
悪びれもせず、拉致したマーラに手を振るオネエ。
その後、エリナと3人で控え室に戻ったナツキは、信じられない光景を目にしただけではなく、信じられない話まで聞かされることとなった。
「オネエが、……堕ちた……? あいつと1回戦であたったチームのオーナーに……?」
信じられない。
媚びた遠い目をして、筋肉マッチョに身体を差し出している姿を見なければ、冗談にしか思わなかっただろう。
――オネエは嘘吐きだから。
見せ付けられた今でも、堕ちた……、オネエが堕ちた……、と呪詛のように繰り返さないと、現実を受け入れられそうにない。
今しがたエリナが恋敵ではないと安堵したばかり。
だというのに、安堵しようのない事実に心を押し潰された。
「へー、じゃあたしのほうが服部より強くなーい? マモンのクソガキ倒したし」
「そうねぇエリナさん。ナツキちゃんよりちっちゃくなってずいぶんと可愛らしくなってぇ♥ もうメロメロにされちゃうかもしれないわねぇ♪」
「認めるのー? あたしの方が強いって認めるのー? ねぇー服部ー」
「それは戦ってからねぇ♪」
バンッ!!!
悪ふざけまで始めた2人にイライラが募ったナツキは、反射的にオネエを壁に押しつけていた。
「オネエ……。状況を分かっているの?」
オネエが堕ちた。それは悔しいし辛い。
でも今は嫉妬に心を妬かれている暇さえない。
「このまま順当にいけば、また負ける。あいつらと三回戦でぶつかるんだよ。――分かっているよね?」
「分かっているから空元気出しているのよ……。やっていられなくてね」
「えぇえー? 何で? 何で負けるの?」
まだ寝ぼけているのか、エリナはなんにも分かっていなかった。
次の試合である3回戦。ナツキ擁するかぜチームは、マーラの属するチームとぶつかるのだ。
ナツキに媚薬を仕込んで堕とした男、ナツキが輪姦で狂うきっかけになった男もマーラと同じチームに属している。
詰まるところ、ナツキ達が戦う3回戦の相手は、奇しくもナツキ達に罰ゲームを行使したチームなのだ。
「別にいいじゃん。あたしは勝てるしー、で、服部とナツキがそのふたりとぶつからなければ良いんでしょー? ぶつかったらぶつかったで仕方ない。そんときはそんときでしょー??」
「エリナ……。聞いてなかったの? あたしは十兵衛って白スーツに堕ちてて、オネエはあの筋肉馬鹿に堕ちている。――オーダーを聞かれたら答えてしまうと思う」
「は? ……それ、裏切りじゃん」
エリナは色々なところが中途半端に幼児化していて話にならなかった。
身体が退行しているから脳みそも退行しているのだろうか。ボケたというより、そもそも記憶として存在しないかのような間抜けな返しをしてきた。
記憶まで退行している……?
裏切りではない、と上手く説明できる自信が無い。忍術に対してどこまでの記憶が残っているかも分からないエリナに、この状況を説明できる気がしない。
術で操られて喋ってしまうのとも違う。
うーん……何て言ったら良いんだろう。
オーダーを聞かれたら「可愛がってもらうために何から何まで教えると思う」と言いたいがこれだと裏切りに変わりが無い――。……うーん。説明が出来ない。
「あははっ! ナツキー、あたしがさっきみたいに勝ち抜きすれば余裕でしょー?」
「え?」
「挑発してあたし1人で勝ち抜き戦に持ち込めたら三回戦は突破出来る、って話ー。――目の前の事に集中しないとねー。あまりごちゃごちゃ余計なこと考えるとナツキはいつもダメだからさー」
エリナはボケてはいないようだ。
エリナ1人に負担を掛けてしまうが、エリナが言ったとおり勝ち抜き戦ならチャンスがある。
「そう上手くいくかしら?」
オネエが切れ長の目を流し目にして挑発的に言ってきたのだ。
まるで敵チームから派遣されてきたスパイが本性を現したかのような態度だった。
「裏……切り……」
口走ってナツキは気付いた。エリナに説明していたときのナツキ自身も、今のオネエと同じように裏切り者と間違えられるような態度を取っていたんじゃないかと。
忍術……。掛かっている自覚があっても、堕ちている自覚があっても、ここまでどうにもならないものなのか……。
改めてくノ一の恐ろしさを知ったナツキであった。
「だいたい勝ち抜き戦にしなければ確実に勝てるチーム相手よ? そんなチームと勝ち抜き戦で戦う馬鹿がどこにいるのかしら?」
オネエの言った通りだ。いるはずが無い。
そもそもとして警戒されているから、こんな大掛かりな小細工を労してきたのだろうし……。それを水の泡にするような損な取引に応じる筈が無い。
「それに、マーラや十兵衛よりも厄介な女があいつらのリーダー・魔凜よ。大昔に1度殺してはいるけど恐らく力を蓄えているはずよ」
「服部! あんたどっちの味方なわけ!?」
まるで敵チームを、味方自慢のように語り出すオネエとエリナが口論になったまま――、対抗策を練られないままに、ナツキ達一行は、3回戦を迎えることとなる。
そして、オネエと浅からぬ因縁のありそうな魔凜によって、ナツキ達は更なる窮地に追い込まれていた。
「こんのっ、性悪女!! 勝ち抜き戦拒否って挙げ句こんな卑怯な技使うとか!!」
「オーーーーーーーッホッホッホッ!! 勝てば良いのよ勝てばぁアーーッハッハッハッ!!!!!」
――第3回戦第一試合。
エリナは魔凜と戦うこととなるも、開始早々決着が付くことに。
相手チームの魔凜がコートを消し飛ばしたことによって、エリナと魔凜の試合結果はドローとなってしまったのだ。完全に狙っていたのだろう。
エリナの実力が、淫魔が戦いを拒否したくなるくらいのものと証明された瞬間ではあった。が、これにより、ナツキチームは後がなくなってしまったのだ。
「オネエ……。やっぱりオネエのほうが酷い堕ち方してたんだね」
破壊されてバラバラに砕けた石畳のコートを挟んで立ち並ぶ相手チーム。
堕とされたばかりの男・マーラに、あろうことかオネエはかぜチームの対戦順をサインで送っていた。
「ほんとに……堕ちてたんだね」
極めつけとも言える事態に気付いて、ナツキは落胆から力ない声で呟いた。
オネエが恋をしたこともショックだった。
しかしそれ以上に、オネエが快楽に負けたことがショックだった。
オネエは、負ける姿が想像出来ないくらいの強い忍びだった。
師事すると決めた忍びだった。
流派を裏切ってでも仕えたい忍びだった。
「私はエリナに小言言われるのとかイヤだから、堕ちてても戦う。堕ちているなりに戦う為の作戦も練ってある」
とは言っても、体感している以上に魅了の状態は深刻。練った作戦がどこまで役に立つかは分からない。
それでも……、それでも……。
このままでは終わりたくない。
「――オネエに掛かっている堕落させた術は、この戦いが終わった後に必ず解いてあげるから」
『第三試合2戦目ッ!! ロリ小学生、万人斬り! かぜチーーーーーーーームッ加瀬ナツキィイイイイイイイ!! 対するは増強剤不使用、ボディービルダー泣かせぇええええ魔凜チームマーラアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
クルクルッと丸めた身体で軽やかにリングに着地したナツキだったが、着地するなり、カッ、と驚きで目を見開くなり視線を振り上げた。
――どういうこと。
対戦相手は、罰ゲームで堕とされたはずの十兵衛を当てられる筈。にもかかわらず、ナツキの対戦相手はオネエを堕としたマーラが務めるというのだ。
対戦相手がずれている? アナウンスのミスかとも思った。
が、対戦相手の筋肉マッチョ男も身軽な身のこなしで、砕けた石綿の上に着地していた。スクリーンにもナツキVSマーラの電光文字が映し出されている。
……ほんとに、……どういうこと?
翔子がマーラにサインを送る姿を、ナツキはしかとこの目で見た。
オネエは術に堕ちていない!?
慌ててナツキは振り向いてオネエを見やる。
しかし当のオネエも困惑している。
が、困惑しているのはオネエだけではない。ついさっきエリナと引き分けた魔凜も驚いている。かと思えば――、
「どうなってるのよ!!!? マーラ!!!!!!」
「ワタシを失格にさせる気かな? 試合中にコートに上がってきたら、味方からの援護と見なされて失格になる可能性があるよ?」
突然リングに上ってきた魔凜がマーラに掴み掛かっていたのだ。
仲間割れ? ナツキには何が起きているのか分からなかった。
どちらにしてもチャンスだ。
魅了に堕とした白スーツ男・十兵衛よりは、遥かに分がある。
「お、覚えておきなさいよマーラ!!!!」
勝利に固執していた女だ、失格にだけはなりたくなかったのだろう。
魔凜は反則負けをほのめかされただけでコートの外へと簡単に降りた。
そして、ルールに守られたコートでは生まれる筈がないくらいに、マーラが大きな隙を見せている。
魔凜を見送るマーラ、その背後の影から現れたナツキは、ひたっ……と背中に張り付いた。
「う゛っ!?」
「影縫い。――動けないよね。……聞きたいことはたくさんあるし、言いたいこともたくさんある。でもそれより優先されるものがあるから。――逝け」
ビュルルルルルルルルルッ!!! ビュルルッ! ビュルルッ!
初めてオネエに犯された時を思い出させる見た目と臭い、そして感触。
背中を奪ったまま倒さないと情が沸いてしまいかねない。そんな男を、ナツキは背後を取ったまま2度、3度と頂点へと導く。
この男は最初から戦うつもりがなかったのだろう。
このようなオーダーを組んできたのだから。
マーラはただただ快楽を受け入れていた。
どういうつもりなのか聞きたいところだが、それも倒すことと比べたら微々たる興味だ。術に堕ちる前のオネエは、大会で勝利することをなによりも望んでいた。
である以上、成果だけを求めてそれに従うまでだ。
「こ、降参、だ……」
『観客万人斬りのナツキ選手の勝利ィイイイイイイイイイイ゛イ゛ッ!!!!」
エリナと魔凜の台無しになった第1試合、そのフラストレーションが溜まっていたのだろう。割れんばかりの声援が会場内を埋め尽くしたのであった。
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