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触れたぬくもりは冷たくて
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運命の時がきてしまった
いずれ伝えるべきなのだから、遅かれ早かれ
けど、俺の中では罪悪感が胸を締めつける
きっと彼女なら許してくれるだろうと
陽菜の優しさに付け込んでいるのは承知だ
それでも俺は陽菜の願いを叶える為に
真実を知ってもなお、彼女が太陽の下で笑って生きていけるように
他の感情はいらない
彼女が幸せになれるなら、俺は
リアムは全ての感情を捨てるように、彼女の元へと飛び立った
もう、戻れない時まで迫っていた
心も、時間も
リアムの雰囲気がいつもと違った
表情がぎこちなかったから
何かを決意したようにも見受けられた
『陽菜、君の願いを叶える時が来た』
そう言い、リアムは翼を広げた
私の体を包むように
私とリアムはお互いに触れることができない
悪魔と人間だから
けれど、契約の間とはいえ少しの間だけでも
私は分かり合えることができたと思った
今この時、私はリアムとの思い出の感傷に浸るように目を瞑った
彼がくれる言葉や、あたたかさを思い出しながら、この瞬間願いが叶うんだと、嬉しさが胸を満たした
リアムが深呼吸するように、息をする音が聞こえ、それと同時に目を開ける
リアムと見つめ合う姿勢になり、まるで初めて契約した時のようだ
リアムの瞳は赤くて、まだ生きてると思わせるな神秘的な色
けれど、その瞳の奥には悲しみも含まれている気がした
その瞳を見つめていると、瞳の奥が揺れるように視界が変わる
あたり一面が真っ暗になり、光が差し込むことはないような
まるであの悪夢のような光景だった
『今、この空間は俺と陽菜だけしか干渉
できない 言わば結界のようなもの
無理に入ろうとすれば、自然消滅するか
体の一部が欠損する』
そしてリアムは、陽菜へ一歩近づいて
頬に手を添える
その感触に驚きを隠せなかった
触れることができたから
『俺が今、作り出した空間の中なら
契約者同士は触れることができる
契約した時もそうだったけどな
覚えていないか?』
振り返ってみると、彼は確かに私のおでこに口付けを落とした
一瞬のことだったし、あの時は気持ちも昂っていてそれどころではなかった
彼の手がゆっくりと私の頬をなぞる
その手は人間とは異なるものように
青白い手に爪も悪魔らしく伸び切っていて、獲物を狩るのに必要不可欠な武器とも思えた
恐る恐るその手を重ねると、ひんやりと冷たいその感触が心地よく触れることができて嬉しくて微笑んだ
『…はじめてリアムに触れることができた
嬉しい』
感動し、少し涙が出そうになったが
なんとか堪えた
『…そうだな、これが人の温かさか
ずいぶん忘れてしまっていたな』
その言葉に、私は彼が元人間ということを思い出した
人間から悪魔になったリアム
どういう経緯で悪魔になったのだろうと疑問はあった
けど、私と彼はあくまで契約上の関係
彼にとって触れて欲しくない部分もあるだろう
『陽菜は顔に出やすいな
聞かなくてもわかるぐらいに』
『えっと…どんな顔してたの?』
『聞きたくて仕方なくて、気を使ってる顔』
昔から変わらない、と小さな声で呟いた
陽菜に聞こえないように
彼女には聞こえなかったらしく、よくわからないと呟いていた
そんな微笑ましい彼女を、今から俺が絶望へと導き、壊していくかも知れない
そう思うと、先程決意したのにまた揺らぎそうになる
感情とは忙しいものだ、煩わしく思えるほどに
『今から俺が陽菜の願いを、叶える
覚悟はいいか?』
陽菜はゆっくりと頷く
そして俺も決意する
逃げてはいけないと、陽菜が俺を望んでいる
樹の、真実を知る権利が陽菜にはある
『リアム、教えて
私に、樹君のすべてを
どんなことでも私は知りたいの
そして彼に思いを伝えたい』
その揺るぎない眼に俺は彼女の手を取り
恐る恐る口にする
俺の、本当の名を
『お前が探している樹は、俺だ』
いずれ伝えるべきなのだから、遅かれ早かれ
けど、俺の中では罪悪感が胸を締めつける
きっと彼女なら許してくれるだろうと
陽菜の優しさに付け込んでいるのは承知だ
それでも俺は陽菜の願いを叶える為に
真実を知ってもなお、彼女が太陽の下で笑って生きていけるように
他の感情はいらない
彼女が幸せになれるなら、俺は
リアムは全ての感情を捨てるように、彼女の元へと飛び立った
もう、戻れない時まで迫っていた
心も、時間も
リアムの雰囲気がいつもと違った
表情がぎこちなかったから
何かを決意したようにも見受けられた
『陽菜、君の願いを叶える時が来た』
そう言い、リアムは翼を広げた
私の体を包むように
私とリアムはお互いに触れることができない
悪魔と人間だから
けれど、契約の間とはいえ少しの間だけでも
私は分かり合えることができたと思った
今この時、私はリアムとの思い出の感傷に浸るように目を瞑った
彼がくれる言葉や、あたたかさを思い出しながら、この瞬間願いが叶うんだと、嬉しさが胸を満たした
リアムが深呼吸するように、息をする音が聞こえ、それと同時に目を開ける
リアムと見つめ合う姿勢になり、まるで初めて契約した時のようだ
リアムの瞳は赤くて、まだ生きてると思わせるな神秘的な色
けれど、その瞳の奥には悲しみも含まれている気がした
その瞳を見つめていると、瞳の奥が揺れるように視界が変わる
あたり一面が真っ暗になり、光が差し込むことはないような
まるであの悪夢のような光景だった
『今、この空間は俺と陽菜だけしか干渉
できない 言わば結界のようなもの
無理に入ろうとすれば、自然消滅するか
体の一部が欠損する』
そしてリアムは、陽菜へ一歩近づいて
頬に手を添える
その感触に驚きを隠せなかった
触れることができたから
『俺が今、作り出した空間の中なら
契約者同士は触れることができる
契約した時もそうだったけどな
覚えていないか?』
振り返ってみると、彼は確かに私のおでこに口付けを落とした
一瞬のことだったし、あの時は気持ちも昂っていてそれどころではなかった
彼の手がゆっくりと私の頬をなぞる
その手は人間とは異なるものように
青白い手に爪も悪魔らしく伸び切っていて、獲物を狩るのに必要不可欠な武器とも思えた
恐る恐るその手を重ねると、ひんやりと冷たいその感触が心地よく触れることができて嬉しくて微笑んだ
『…はじめてリアムに触れることができた
嬉しい』
感動し、少し涙が出そうになったが
なんとか堪えた
『…そうだな、これが人の温かさか
ずいぶん忘れてしまっていたな』
その言葉に、私は彼が元人間ということを思い出した
人間から悪魔になったリアム
どういう経緯で悪魔になったのだろうと疑問はあった
けど、私と彼はあくまで契約上の関係
彼にとって触れて欲しくない部分もあるだろう
『陽菜は顔に出やすいな
聞かなくてもわかるぐらいに』
『えっと…どんな顔してたの?』
『聞きたくて仕方なくて、気を使ってる顔』
昔から変わらない、と小さな声で呟いた
陽菜に聞こえないように
彼女には聞こえなかったらしく、よくわからないと呟いていた
そんな微笑ましい彼女を、今から俺が絶望へと導き、壊していくかも知れない
そう思うと、先程決意したのにまた揺らぎそうになる
感情とは忙しいものだ、煩わしく思えるほどに
『今から俺が陽菜の願いを、叶える
覚悟はいいか?』
陽菜はゆっくりと頷く
そして俺も決意する
逃げてはいけないと、陽菜が俺を望んでいる
樹の、真実を知る権利が陽菜にはある
『リアム、教えて
私に、樹君のすべてを
どんなことでも私は知りたいの
そして彼に思いを伝えたい』
その揺るぎない眼に俺は彼女の手を取り
恐る恐る口にする
俺の、本当の名を
『お前が探している樹は、俺だ』
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