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第三話 束の間の平穏
第三話 一二
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朝食づくりも洗濯も二人でやれば楽しく、すぐに終わる。午前中に掃除を済ませたところで休憩を入れることにした。紫苑と共にお茶の用意をして縁側に腰かける。
あれほど色がないと思っていた庭だったが、今の美桜には正しく色彩豊かな花の咲き誇る庭に見える。
ここに来たばかりでまだ自分が『夜桜』という名前だと思い込んでいた頃、この庭は春を告げる花々で埋め尽くされていた。それが今では夏を予感させる花々へと移ろっている。
蔓を伸ばし葉を茂らせた朝顔、小ぶりな品種だが花弁のように見える萼の青紫が存在感を放つ紫陽花、鮮やかな赤の花が目を引く一鳳仙花、橙色が眩しい勲章菊、赤に橙、黄など色とりどりの百日草、優しい桃色をした昼咲き月見草、赤紅色の花をこんもりとつける美女桜、清らかな白が目立つ衝羽根朝顔。
春の花には優しく淡い色合いの花が多かったが、夏の花にははっきりとした鮮やかな色合いの花が多い。同じ庭のはずなのにまるで違った印象を受けるのだから不思議なものだ。
「あ、薫衣草」
庭の端に植えられたそれは町で市が開かれていたときに買ったものだ。あの後風雅に襲われ、美桜には余裕がなかったので花を気に留めることがなかったが、紫苑がちゃんと世話をしてくれていたようだ。
穂状につく柔らかな色合いをした紫色の小花は購入時よりも数を増やしており、風通しが悪くならないように適度に刈り込まれている。
生活に関することをはじめ、紫苑は物事にあまり頓着しないのに、こういうところだけはまめだ。そんな紫苑の性格が顕れた庭を美桜は愛しく思った。
美桜が庭の花に夢中になっていると、ふと隣から視線を感じた。そちらを見ると紫苑と目が合う。
「どうしたの?」
「うん? 好きだなと思って」
「ああ、花のこと? 私も好きよ」
「花もそうだけど」
紫苑は僅かに開いていた美桜との距離を詰めると、ぐっと美桜の顔をのぞき込み、囁いた。
「美桜が」
「わ、私?」
「花を愛でて優しい顔をする美桜が、好き」
熱を孕む漆黒の瞳にじっと見つめられて、美桜は恥じらうようにまぶたを僅かに伏せるとぽつりと呟いた。
「……それは、きっと紫苑のおかげだわ」
美桜が花を見ると優しい気持ちになれるのは花自体が好きだからというのももちろんある。しかしそれ以上の理由は、花にはいつも何かしらの紫苑との思い出があるからだ。紫苑との優しい日常は常に花とともにあり、それ故に思い出もまた優しいものだった。
美桜が真っ赤になりながらたどたどしくそう伝えると、紫苑は甘やかに微笑んだ。
「本当に、美桜は可愛い。そんなこと言われたらますます好きになる」
「……!」
紫苑は手を伸ばすと美桜の熱い頬に触れた。美桜は肩をぴくりと震わせたが抵抗はしない。そのまま紫苑は伏し目がちだった美桜の顔を僅かに上向かせた。潤んだ亜麻色の瞳には紫苑だけが映っている。
『ますます好きになる』のは何も紫苑だけではない。いつでも美桜を一番に想い、惜しみなく愛を告げてくれる彼へと美桜の想いは募るばかりだ。
互いに溢れる愛しさのまま、二人の距離が零に近づいて……。
あれほど色がないと思っていた庭だったが、今の美桜には正しく色彩豊かな花の咲き誇る庭に見える。
ここに来たばかりでまだ自分が『夜桜』という名前だと思い込んでいた頃、この庭は春を告げる花々で埋め尽くされていた。それが今では夏を予感させる花々へと移ろっている。
蔓を伸ばし葉を茂らせた朝顔、小ぶりな品種だが花弁のように見える萼の青紫が存在感を放つ紫陽花、鮮やかな赤の花が目を引く一鳳仙花、橙色が眩しい勲章菊、赤に橙、黄など色とりどりの百日草、優しい桃色をした昼咲き月見草、赤紅色の花をこんもりとつける美女桜、清らかな白が目立つ衝羽根朝顔。
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穂状につく柔らかな色合いをした紫色の小花は購入時よりも数を増やしており、風通しが悪くならないように適度に刈り込まれている。
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美桜が庭の花に夢中になっていると、ふと隣から視線を感じた。そちらを見ると紫苑と目が合う。
「どうしたの?」
「うん? 好きだなと思って」
「ああ、花のこと? 私も好きよ」
「花もそうだけど」
紫苑は僅かに開いていた美桜との距離を詰めると、ぐっと美桜の顔をのぞき込み、囁いた。
「美桜が」
「わ、私?」
「花を愛でて優しい顔をする美桜が、好き」
熱を孕む漆黒の瞳にじっと見つめられて、美桜は恥じらうようにまぶたを僅かに伏せるとぽつりと呟いた。
「……それは、きっと紫苑のおかげだわ」
美桜が花を見ると優しい気持ちになれるのは花自体が好きだからというのももちろんある。しかしそれ以上の理由は、花にはいつも何かしらの紫苑との思い出があるからだ。紫苑との優しい日常は常に花とともにあり、それ故に思い出もまた優しいものだった。
美桜が真っ赤になりながらたどたどしくそう伝えると、紫苑は甘やかに微笑んだ。
「本当に、美桜は可愛い。そんなこと言われたらますます好きになる」
「……!」
紫苑は手を伸ばすと美桜の熱い頬に触れた。美桜は肩をぴくりと震わせたが抵抗はしない。そのまま紫苑は伏し目がちだった美桜の顔を僅かに上向かせた。潤んだ亜麻色の瞳には紫苑だけが映っている。
『ますます好きになる』のは何も紫苑だけではない。いつでも美桜を一番に想い、惜しみなく愛を告げてくれる彼へと美桜の想いは募るばかりだ。
互いに溢れる愛しさのまま、二人の距離が零に近づいて……。
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