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第一話 崩壊の雨音
第一話 五
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「帰ろ……」
「いや、待て」
あかりの言葉を、秋之介が短く制した。秋之介の目は南の方をじっと見つめている。その方角にはあかりの屋敷や朱咲家が管轄する町がある。途端に背筋に冷たいものが走った。
「秋……?」
不安になってたまらず呼びかけるが、秋之介は返事をしない。代わりに徐々に目を見開いて、独り言のような呟きをもらした。
「……悲鳴。なんて言ってる? 南朱湖、が……溢れ? まさか!」
立たない膝を恨めしく思いながら、あかりは膝行して秋之介ににじり寄った。
「え、ねえ、うそだよね……? 湖が溢れたなんて。だって、そんなことになったら、朱咲の地の人々は、お父様とお母様は……」
最悪おぼれ死んでしまう、とは続けられなかった。
朱咲の守護を受ける者は、陰陽五行説に基づく火の加護を得られるが、相克である水には弱い。それは朱咲の守護を強く受ける者ほど顕著だ。町人より分家、分家より本家。あかりの父は婿入りした天狐の妖であり、本家の血を色濃く継ぐのはむしろ母の方だった。あかりもそうだが、本家当主の資格を持つ者あるいは持っていた者は往々にして水や雨が大嫌いで、泳げない。
「お、母様……っ」
自身が水に弱いことも忘れて、あかりは残る気力でなんとか立ち上がり、屋敷を目指して走り出した。
「今行っちゃだめ……!」
伸ばした結月の左手をすり抜けて、あかりは一心不乱に駆けた。
「あんのバカ! どこにあんな体力残ってたんだよ!」
「とにかく連れ戻さないと!」
三人があかりに追いすがろうとすると、町屋の陰からしぶとく残っていた式神使いが走り出てきた。
「こんなときに……!」
結月が柄にもなく苛立った声をあげる。そうこうしているうちに数体の式神に周囲を取り囲まれた。
「わんさわんさと、しつけえ……なっ!」
変化の時間すら惜しい秋之介は懐から小刀を取り出して、鞘から振りぬきさざま相手に斬りかかった。
ぐるりと円を描かれていて、突破口は見当たらない。あかりを追うには全ての式神と式神使いを倒すしかないようだった。
「青柳護神。雷火焼炎。恐鬼怨雷。急々如律令!」
宙に散る霊符が真っ青な光であたりを照らす。その一撃で、式神の半分は消えた。
「……邪魔しないで」
結月は残り半分の式神を冷たい瞳で睨みつけた。
「いや、待て」
あかりの言葉を、秋之介が短く制した。秋之介の目は南の方をじっと見つめている。その方角にはあかりの屋敷や朱咲家が管轄する町がある。途端に背筋に冷たいものが走った。
「秋……?」
不安になってたまらず呼びかけるが、秋之介は返事をしない。代わりに徐々に目を見開いて、独り言のような呟きをもらした。
「……悲鳴。なんて言ってる? 南朱湖、が……溢れ? まさか!」
立たない膝を恨めしく思いながら、あかりは膝行して秋之介ににじり寄った。
「え、ねえ、うそだよね……? 湖が溢れたなんて。だって、そんなことになったら、朱咲の地の人々は、お父様とお母様は……」
最悪おぼれ死んでしまう、とは続けられなかった。
朱咲の守護を受ける者は、陰陽五行説に基づく火の加護を得られるが、相克である水には弱い。それは朱咲の守護を強く受ける者ほど顕著だ。町人より分家、分家より本家。あかりの父は婿入りした天狐の妖であり、本家の血を色濃く継ぐのはむしろ母の方だった。あかりもそうだが、本家当主の資格を持つ者あるいは持っていた者は往々にして水や雨が大嫌いで、泳げない。
「お、母様……っ」
自身が水に弱いことも忘れて、あかりは残る気力でなんとか立ち上がり、屋敷を目指して走り出した。
「今行っちゃだめ……!」
伸ばした結月の左手をすり抜けて、あかりは一心不乱に駆けた。
「あんのバカ! どこにあんな体力残ってたんだよ!」
「とにかく連れ戻さないと!」
三人があかりに追いすがろうとすると、町屋の陰からしぶとく残っていた式神使いが走り出てきた。
「こんなときに……!」
結月が柄にもなく苛立った声をあげる。そうこうしているうちに数体の式神に周囲を取り囲まれた。
「わんさわんさと、しつけえ……なっ!」
変化の時間すら惜しい秋之介は懐から小刀を取り出して、鞘から振りぬきさざま相手に斬りかかった。
ぐるりと円を描かれていて、突破口は見当たらない。あかりを追うには全ての式神と式神使いを倒すしかないようだった。
「青柳護神。雷火焼炎。恐鬼怨雷。急々如律令!」
宙に散る霊符が真っ青な光であたりを照らす。その一撃で、式神の半分は消えた。
「……邪魔しないで」
結月は残り半分の式神を冷たい瞳で睨みつけた。
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