【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二話 囚われの二年間

第二話 二

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 次の日はあいにくの雨だった。
 雨の日に林に入るものではないとすばるに諭されて、その日は昴の屋敷で別のことをしようという話になった。
「で、なにすんだ?」
 こういうとき真っ先に口火を切るあかりは今は落ち込んでいる。結月ゆづきに頭を撫でられ、慰められている彼女をちらりと見遣って、昴は結界を出現させた。
「この中を見ればわかるよ」
 結界を畳の上に置いた昴が「青柳せいりゅう白古びゃっこ朱咲すざく玄舞げんぶ空陳くうちん南寿なんじゅ北斗ほくと三体さんたい玉女ぎょくじょ」と四縦五横に九字を切ると、ぱっと黒い光の粒子とともに結界が霧散した。結界から現れたのは色とりどりの端切れと糸だ。
「……いや、わかんねえわ」
 秋之介あきのすけが眉をひそめる。昴は特に気にした様子もなく、あかりを手招いた。
「おいでよ、あかりちゃん」
「うん……」
 拒否する理由もないので、とりあえず呼ばれるままに昴のもとへ行き、座る。結月もついてきて、あかりの隣に正座した。自然と車座になったその中央に、布や糸が置かれる格好となる。
「ということで、僕たちでお守りをつくろう」
 目を丸くしたのはあかりだけではなかった。昴は言葉を続ける。
「雨が止んで、あかりちゃんのお守りが見つかるまでの気安めになるでしょ?」
「それはまあ、そうかもしれねえけど……。刺繍とか小難しいことはできないぜ?」
「うん。だから簡単にできるものがないか、ばあやに聞いておいたよ」
 布と糸の小山の下から紙を引っ張り出すと、昴はそれを皆に見せる。あかりは紙上を見て、声を上げた。
「組紐?」
「……おれは、賛成。いいと思う」
 結月に続いてあかりと秋之介も賛意を示す。さっそくお守り作りが始まった。
 のみこみが早い結月と手先が器用な昴が主導して、あかりと秋之介も四苦八苦しながら紐を編んでいく。話し合わずとも、紐の色は赤、青、白、黒の四色を選んでいた。組紐が出来上がって、秋之介がぽつりと一言もらした。
「せっかくなら小細工したくねえ?」
「秋の考えること、ろくでもない……」
 呆れた目をして結月が嘆息する。秋之介は「最後まで聞けって」ととりなした。
「神の加護とまではいかなくても、俺らの力をこめたらさ、ご利益ありそうじゃね?」
「秋の言いたいことはわかったけど、例えば何するの?」
 すっかり機嫌をなおしたあかりが身を乗り出して尋ねると、秋之介は「よくぞ聞いてくれました」と胸を反った。
「俺の案としては、あかりには禹歩うほと九字で清めてもらって、ゆづには護符を使ってもらいたい。で、俺が気を込めて布に紛れてた鈴をつけて、最後に昴に結界を施してもらうって感じでどうよ」
 昴は結月を見遣ってから、秋之介に意見した。
「大体はいいと思うよ。だけど、ゆづくんが護符を持ってるか……」
「ゆづのことだし、攻撃用の霊符はないだろうけど、護符は持ってるだろ」
 結月は微かに頷いた。
「じゃあ、最初は言い出した俺がやるか」
 秋之介は四つの小鈴を左掌にのせて、右手で作った刀印で九字を切った。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
 たちまち白い光を帯びた小鈴を、秋之介は組紐の先端に結び付けていく。
 それを手渡された結月は、取り出した護符を組紐にかざした。
心身護神しんしんごしん急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう
 護符は青く光ると、組紐にとけるようにすっと消えた。組紐は淡く青に発光している。
 あかりは立ち上がり、周囲に物がないのを確認すると霊剣を呼び出した。広い部屋で天井も高いが、一応注意は払っておくにこしたことはない。
 禹歩を踏み、霊剣を四縦五横に宙に向かって切りながら「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」と唱える。組紐のまとう光が青から赤に塗り替わった。
 最後に昴が「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」と九字を切り、結界を施す。四つの組紐を囲い入れるように黒い立方体が浮かび上がったが、しばらくすると光は消え、一見しただけではそこらの組紐と大差ないように思えた。
 しかし、あかりは大満足だった。自分の編んだものを手に取って軽く振ると、鈴が高らかに澄んだ音色を奏でた。そっと掌に包み込んで目を閉じると、四人分の気が瞼の裏に色となって感じられる。
「すごいね、これ。ちゃんとお守りになってるよ」
 パチッと目を開いたあかりが三人に向かって言う。彼らにもお守りにこめられた気がわかったようで各々頷いた。
「お父様とお母様からもらったお守りも絶対見つけて、今日つくったお守りもなくさないように大事に大事にするね!」
 そこに一刻前までの暗さはない。あかりは明るく笑った。
 結月はほっとしたように淡く微笑み、秋之介は「ま、なんとかなるって」とからっとした笑顔を浮かべ、昴は妹にするようにあかりの頭を撫でた。

(そうだ、お守り。探しに行かないと……。林の中に、違う、水の、中に……)
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