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第二話 囚われの二年間
第二話 八
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そしてもう一度春が来た。
結局『お仲間が増える』ことにはならず、お守りからはしっかりと気が感じられる。あかりはほっと安堵の息を吐いて、今日もまた三人の無事を祈った。
一方で、毎朝祈祷する朱咲とは一度も交感できていない。交感の咒言も手ごたえがないことはないのだが、絶対の自信はない。
牢番による見張り時間も戻って、相変わらず食餌は粗末なまま、日頃の鬱憤を晴らすようにあかりに罵詈雑言を浴びせ、暴力まがいのことをされるのはそう珍しくなく、隙をついては式神に下そうとしつこい。しかし、あかりに幻覚を見せた符を見ることはあれきりなかった。
通風孔に切り取られた小さな四角い夜空に煌々とした満月が浮かんでいるのが見えた。
(綺麗な月……。今日は十五夜かな。月といえば結月だよね。……今、何してるのかな)
ぼんやり月を眺めていると、背後から荒々しい足音が響いた。あかりを捕えて式神に下せないまま二年が経とうとすることにいよいよしびれを切らしたらしい。今までとは異なる自棄にも似た雰囲気だった。
式神使い三人が現れたかと思うと、無言で牢の中に符を投げ入れた。「急々如律令」と同時に呟かれた次の瞬間、符が小さな龍、虎、蛇に形を変えた。
あまりに突然のことに、あかりの対応が遅れた。虎が弾丸のように迫りくる。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空ち……うっ!」
虎の爪があかりの左腕を切り裂いた。
「最低!」
左腕を右手でおさえながら、あかりは悪態をついた。幼なじみを模した式神を仕掛けてくるなんて悪趣味だ。頭では式神だとわかっていても、どうしても攻撃を躊躇ってしまう。
消耗した状態なのでむやみに霊剣を顕現するのは避けてきた。しかしそうは言っていられない状況にとっさに霊剣を呼び出す。だが、防戦一方だ。その上、狭い空間なので剣を振り切れない。
連日の暴力の怪我すらまだ癒えきっていないのに、その傷の上に蛇が大口を開けて噛みつこうとする。すんでのところでかわすも、背後で龍が尾をしならせ、容赦なくあかりを打ち叩いた。見た目の小ささからは想像できないような威力で、背を強打されたあかりの息が一瞬詰まる。
「か、はっ……!」
そしてあかりが倒れこむのを待たずに、虎と蛇が同時に襲い掛かった。もはや躊躇ってなどいられなかった。身を起こしながら、霊剣を振りぬく。
「う、ああっ!」
その一撃が急所を突いたようで、蛇はふっと消滅した。だが虎のほうは刃がかすめただけで、後退して距離をとられた。
(あと二体だけ。大丈夫、強いけどなんとかできる)
あかりは狭い牢の中をくるりくるりと動き回り、九字を唱えながら剣を振る。袈裟懸け一閃で蛇だった符が二つに切られる。その符が地につく前に、振り返って真一文字に龍を斬りつけた。
落ち過ぎた体力ではこれくらいの立ち回りですら辛い。でも、この後の方がもっと恐ろしいことを、あかりはこの二年に満たない期間で身をもって知ってしまっている。頽れそうになる膝を叱咤する。
身構えると案の定、符が放たれた。
「心上護神、急々如律令!」
符を霊剣で払い落とす。符には『朱咲あかり』『天狐』などが書いてあった。それは一年前の春に目にしたきりだった符だ。いつものようにただ力を奪って式神に下そうというのではない、あかりの心を壊してでも式神に下そうという強硬姿勢は、相手にとって賭けにも近い行動だ。これであかりを下せなかったら諦めるつもりだろう。そのときあかりに待っている結末は死だ。
以前の体験と身に迫る死への恐怖を打ち砕くようにあかりは地に落ちた符に霊剣を突き立てると、式神使いを睨んだ。
「式神には下らないって言ってるでしょ。いい加減諦めてよ!」
しかし式神使いはあかりには取り合わずに、新たな符を投げ入れる。一枚はかわし、もう一枚は二つに切り裂いたが、不覚にも残る一枚が右手首に張り付いた。
しまったと思う前に、目の前が真っ白に焼け付く。握っていた霊剣はたちまち掻き消え、締め付けるような痛みが頭の中を支配する。意識が朦朧としていく代わりに幻覚がはっきりと見えた。
茶色い海、人の島、打ち付ける雨。中央の赤がむくりと身を起こす。
「もういいわ。あなたはよく頑張った」
母が綺麗に微笑んだ。
また、母なのか。あかりが顔を歪めると、背後で予想だにしない声がした。
「君が式神になったって、誰も責めやしないよ」
振り返ると、昴が立っていた。彼は何の憂いもなさそうにただにこにこ笑っている。
「力を役立てることの何が悪い? 今より強くなれんだぜ」
昴の隣にぼうっと浮かび上がったのは秋之介だ。あかりはいやいやと幼子のように首を振った。
「違う……みんなはそんなこと言わない。私は式神に下らない」
「二年も会ってないのに、そんなことわからない」
顔を上げると、二年前のままの結月の姿があった。
「二年も戻ってこないなら諦める。二年も経てば変わるんだよ」
あかりを見つめる青い瞳は氷のように冷たい。
「ねえ、あかり。……式神になろう? 楽に、なろう」
一歩詰め寄られるごとに、あかりも一歩下がる。
「やめてよ……。結月まで、そんなこと言わないで」
幻覚なのだといういうことも、もう頭にはなかった。結月は利き手である左手を伸ばし、そっと壊れ物を扱うようにあかりの頬に触れた。その仕草すら疑う余地もないほど、そっくり結月のものである。
「ずっと、ここにいよう? そうしたら、もう悲しくも苦しくもない。おれも、ずっと側にいてあげられる」
他の誰でもない結月によって口にされた言葉が、あかりの弱い部分を甘く柔く撫でていく。
どんなに彼らの無事を祈っても、あかりは会いたいという望みを抑えて抑えて抑え込んでいた。心のずっと奥深くでは今も願ってやまない幼なじみとの再会。しかし願ってしまったら、涙に暮れる日々の中、自力で立ち上がることを忘れてしまうような気がした。甘えと弱さ、涙を捨て、意地だけで己を奮い立たせた。そうしてどんな悪口雑言や理不尽な暴力にも耐えてきた。いつか必ず自力で牢の外へ出て、初めて彼らのもとに帰れるのだと。それだけを信じて、修行に明け暮れた二年間だった。
(でも、そんな風に、結月に言われたら……)
三人の幼なじみの中で最もあかりに年が近いため、側にいる時間も昴や秋之介より長かった結月。あかりの心の機微を感じ取り、真っ先に手を伸ばしてくれるのはいつだって彼だった。
この瞬間もまた、あかりの本心を読んで、手を伸べてくれる。
あかりはゆっくりと右手を持ちあげながら、ゆるゆると結月の顔を仰ぎ見た。そして目に飛び込んだのは、青い瞳。
ひんやり冷たいガラス玉のような、無機質な青。
「違うっ‼」
我にかえったあかりは、伸ばしかけた右手に目一杯力をこめ、結月の胸を突き飛ばした。そしてばっと身を翻し、あてもなく真っ直ぐに走った。じゃぶじゃぶと茶色の水を蹴り立てる。もとより雨を吸った袴はますます濡れていき、一面の色を濃く変える。それでも構わず駆け続けた。
「あいたい……! 会いたいよ……っ!」
突かれた心が脆く崩れていく。混乱と動揺で、強がる自分を保つことはもはや不可能だった。透明な滴が軌跡を描くように散っていく。
ぼやけた視界のまま足を動かしていたら、水中の何かにつまずいて派手に転んだ。とっさに腕をついたので顔面を打つことは避けられたが、胸元も袂も茶色く染まってしまった。
惨めな気持ちになりながら上半身を起こした拍子に、袂からお守りが転がり出る。あかりは慌てて拾い上げた。立ち上がることも忘れて、手の中に目を落とす。
「ねえ、みんな……。昴だったらこの幻覚を破るいい方法を思いついたかな? 秋だったら何とかなるって笑い飛ばしてくれた? 結月だったら大丈夫だよって手を握ってくれたよね?」
あとからあとからこぼれ落ちる涙が、お守りに降り注ぐ。
「ひとりは心細かった。毎日痛くて辛くて苦しかった。だけど私なりに頑張ってきたつもりだったんだよ? 毎朝みんなに無事を祈る声は届いてた? 諦めないで修行してた、そのときの言霊は感じた? ……ねえ、私はあと何をすればいいの? どうしたらみんなのところに帰れるの?」
お守りを両手で握りしめ、額につけた。心のうちからあふれるのは隠してきた切なる願い。あかりの弱音で本心でもあるそれらを、嗚咽に声を震わせながらこぼしていく。
「もう大丈夫だよって、頑張ったねって言って。帰れるよって、絶対会えるって約束して。……たすけて」
二年間、一度として口にしなかった言葉だった。強がって誤魔化し続けてきたけれど、本当はとっくに心は限界だったのかもしれない。堪える理由を失った言葉が、強い願いに昇華した。
「助、けて。……昴、秋、……結月っ‼」
まるで言霊を聞き届けたかのようにお守りが熱をもち、赤い光がぼんやり広がった。直後、赤に加えて青、白、黒のまばゆい光をお守りが放ったかと思うと、あっという間にあかりの視界を覆いつくした。閉じたまぶたの裏に見えたのは、青い青い光。
……遠く、ずっと聞きたかった懐かしい人の声が聴こえた気がした。
結局『お仲間が増える』ことにはならず、お守りからはしっかりと気が感じられる。あかりはほっと安堵の息を吐いて、今日もまた三人の無事を祈った。
一方で、毎朝祈祷する朱咲とは一度も交感できていない。交感の咒言も手ごたえがないことはないのだが、絶対の自信はない。
牢番による見張り時間も戻って、相変わらず食餌は粗末なまま、日頃の鬱憤を晴らすようにあかりに罵詈雑言を浴びせ、暴力まがいのことをされるのはそう珍しくなく、隙をついては式神に下そうとしつこい。しかし、あかりに幻覚を見せた符を見ることはあれきりなかった。
通風孔に切り取られた小さな四角い夜空に煌々とした満月が浮かんでいるのが見えた。
(綺麗な月……。今日は十五夜かな。月といえば結月だよね。……今、何してるのかな)
ぼんやり月を眺めていると、背後から荒々しい足音が響いた。あかりを捕えて式神に下せないまま二年が経とうとすることにいよいよしびれを切らしたらしい。今までとは異なる自棄にも似た雰囲気だった。
式神使い三人が現れたかと思うと、無言で牢の中に符を投げ入れた。「急々如律令」と同時に呟かれた次の瞬間、符が小さな龍、虎、蛇に形を変えた。
あまりに突然のことに、あかりの対応が遅れた。虎が弾丸のように迫りくる。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空ち……うっ!」
虎の爪があかりの左腕を切り裂いた。
「最低!」
左腕を右手でおさえながら、あかりは悪態をついた。幼なじみを模した式神を仕掛けてくるなんて悪趣味だ。頭では式神だとわかっていても、どうしても攻撃を躊躇ってしまう。
消耗した状態なのでむやみに霊剣を顕現するのは避けてきた。しかしそうは言っていられない状況にとっさに霊剣を呼び出す。だが、防戦一方だ。その上、狭い空間なので剣を振り切れない。
連日の暴力の怪我すらまだ癒えきっていないのに、その傷の上に蛇が大口を開けて噛みつこうとする。すんでのところでかわすも、背後で龍が尾をしならせ、容赦なくあかりを打ち叩いた。見た目の小ささからは想像できないような威力で、背を強打されたあかりの息が一瞬詰まる。
「か、はっ……!」
そしてあかりが倒れこむのを待たずに、虎と蛇が同時に襲い掛かった。もはや躊躇ってなどいられなかった。身を起こしながら、霊剣を振りぬく。
「う、ああっ!」
その一撃が急所を突いたようで、蛇はふっと消滅した。だが虎のほうは刃がかすめただけで、後退して距離をとられた。
(あと二体だけ。大丈夫、強いけどなんとかできる)
あかりは狭い牢の中をくるりくるりと動き回り、九字を唱えながら剣を振る。袈裟懸け一閃で蛇だった符が二つに切られる。その符が地につく前に、振り返って真一文字に龍を斬りつけた。
落ち過ぎた体力ではこれくらいの立ち回りですら辛い。でも、この後の方がもっと恐ろしいことを、あかりはこの二年に満たない期間で身をもって知ってしまっている。頽れそうになる膝を叱咤する。
身構えると案の定、符が放たれた。
「心上護神、急々如律令!」
符を霊剣で払い落とす。符には『朱咲あかり』『天狐』などが書いてあった。それは一年前の春に目にしたきりだった符だ。いつものようにただ力を奪って式神に下そうというのではない、あかりの心を壊してでも式神に下そうという強硬姿勢は、相手にとって賭けにも近い行動だ。これであかりを下せなかったら諦めるつもりだろう。そのときあかりに待っている結末は死だ。
以前の体験と身に迫る死への恐怖を打ち砕くようにあかりは地に落ちた符に霊剣を突き立てると、式神使いを睨んだ。
「式神には下らないって言ってるでしょ。いい加減諦めてよ!」
しかし式神使いはあかりには取り合わずに、新たな符を投げ入れる。一枚はかわし、もう一枚は二つに切り裂いたが、不覚にも残る一枚が右手首に張り付いた。
しまったと思う前に、目の前が真っ白に焼け付く。握っていた霊剣はたちまち掻き消え、締め付けるような痛みが頭の中を支配する。意識が朦朧としていく代わりに幻覚がはっきりと見えた。
茶色い海、人の島、打ち付ける雨。中央の赤がむくりと身を起こす。
「もういいわ。あなたはよく頑張った」
母が綺麗に微笑んだ。
また、母なのか。あかりが顔を歪めると、背後で予想だにしない声がした。
「君が式神になったって、誰も責めやしないよ」
振り返ると、昴が立っていた。彼は何の憂いもなさそうにただにこにこ笑っている。
「力を役立てることの何が悪い? 今より強くなれんだぜ」
昴の隣にぼうっと浮かび上がったのは秋之介だ。あかりはいやいやと幼子のように首を振った。
「違う……みんなはそんなこと言わない。私は式神に下らない」
「二年も会ってないのに、そんなことわからない」
顔を上げると、二年前のままの結月の姿があった。
「二年も戻ってこないなら諦める。二年も経てば変わるんだよ」
あかりを見つめる青い瞳は氷のように冷たい。
「ねえ、あかり。……式神になろう? 楽に、なろう」
一歩詰め寄られるごとに、あかりも一歩下がる。
「やめてよ……。結月まで、そんなこと言わないで」
幻覚なのだといういうことも、もう頭にはなかった。結月は利き手である左手を伸ばし、そっと壊れ物を扱うようにあかりの頬に触れた。その仕草すら疑う余地もないほど、そっくり結月のものである。
「ずっと、ここにいよう? そうしたら、もう悲しくも苦しくもない。おれも、ずっと側にいてあげられる」
他の誰でもない結月によって口にされた言葉が、あかりの弱い部分を甘く柔く撫でていく。
どんなに彼らの無事を祈っても、あかりは会いたいという望みを抑えて抑えて抑え込んでいた。心のずっと奥深くでは今も願ってやまない幼なじみとの再会。しかし願ってしまったら、涙に暮れる日々の中、自力で立ち上がることを忘れてしまうような気がした。甘えと弱さ、涙を捨て、意地だけで己を奮い立たせた。そうしてどんな悪口雑言や理不尽な暴力にも耐えてきた。いつか必ず自力で牢の外へ出て、初めて彼らのもとに帰れるのだと。それだけを信じて、修行に明け暮れた二年間だった。
(でも、そんな風に、結月に言われたら……)
三人の幼なじみの中で最もあかりに年が近いため、側にいる時間も昴や秋之介より長かった結月。あかりの心の機微を感じ取り、真っ先に手を伸ばしてくれるのはいつだって彼だった。
この瞬間もまた、あかりの本心を読んで、手を伸べてくれる。
あかりはゆっくりと右手を持ちあげながら、ゆるゆると結月の顔を仰ぎ見た。そして目に飛び込んだのは、青い瞳。
ひんやり冷たいガラス玉のような、無機質な青。
「違うっ‼」
我にかえったあかりは、伸ばしかけた右手に目一杯力をこめ、結月の胸を突き飛ばした。そしてばっと身を翻し、あてもなく真っ直ぐに走った。じゃぶじゃぶと茶色の水を蹴り立てる。もとより雨を吸った袴はますます濡れていき、一面の色を濃く変える。それでも構わず駆け続けた。
「あいたい……! 会いたいよ……っ!」
突かれた心が脆く崩れていく。混乱と動揺で、強がる自分を保つことはもはや不可能だった。透明な滴が軌跡を描くように散っていく。
ぼやけた視界のまま足を動かしていたら、水中の何かにつまずいて派手に転んだ。とっさに腕をついたので顔面を打つことは避けられたが、胸元も袂も茶色く染まってしまった。
惨めな気持ちになりながら上半身を起こした拍子に、袂からお守りが転がり出る。あかりは慌てて拾い上げた。立ち上がることも忘れて、手の中に目を落とす。
「ねえ、みんな……。昴だったらこの幻覚を破るいい方法を思いついたかな? 秋だったら何とかなるって笑い飛ばしてくれた? 結月だったら大丈夫だよって手を握ってくれたよね?」
あとからあとからこぼれ落ちる涙が、お守りに降り注ぐ。
「ひとりは心細かった。毎日痛くて辛くて苦しかった。だけど私なりに頑張ってきたつもりだったんだよ? 毎朝みんなに無事を祈る声は届いてた? 諦めないで修行してた、そのときの言霊は感じた? ……ねえ、私はあと何をすればいいの? どうしたらみんなのところに帰れるの?」
お守りを両手で握りしめ、額につけた。心のうちからあふれるのは隠してきた切なる願い。あかりの弱音で本心でもあるそれらを、嗚咽に声を震わせながらこぼしていく。
「もう大丈夫だよって、頑張ったねって言って。帰れるよって、絶対会えるって約束して。……たすけて」
二年間、一度として口にしなかった言葉だった。強がって誤魔化し続けてきたけれど、本当はとっくに心は限界だったのかもしれない。堪える理由を失った言葉が、強い願いに昇華した。
「助、けて。……昴、秋、……結月っ‼」
まるで言霊を聞き届けたかのようにお守りが熱をもち、赤い光がぼんやり広がった。直後、赤に加えて青、白、黒のまばゆい光をお守りが放ったかと思うと、あっという間にあかりの視界を覆いつくした。閉じたまぶたの裏に見えたのは、青い青い光。
……遠く、ずっと聞きたかった懐かしい人の声が聴こえた気がした。
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