【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
19 / 390
第三話 欠落の二年間

第三話 二

しおりを挟む
「ん? なんか聞こえねえ?」
 秋之介の言葉に、夜空を見上げていた結月は視線を下ろしてそちらを見遣った。
「なんかって?」
「僕は特に何も聞こえないけど」
「よーっく耳澄ましてみろ。声、みたいな?」
 秋之介に促されて、耳をそばだてる。晩秋の風が木々の葉を擦る音と虫の鳴き声、その奥に声らしきものが聞き取れる。ほとんど息遣いに近いので何を言っているかまではわからない。ほどなくして声は聞こえなくなった。
「って、ゆづくんどうしたの⁉」
「え……」
 昴がぎょっとした顔で、結月を振り向く。言われて初めて、頬が濡れていることに気づいた。
「まさか、今の呪詛かなんかだったんじゃねえよな」
 険しい顔をする秋之介へ、結月は自分でも何故かはわからないが強く首を振って否定した。
「違う……っ!」
 普段声を張り上げることなど滅多にない結月の大きな声に、秋之介と昴は肩を揺らした。
「違う……。優しいのに、悲しい声色だった……」
 余韻は物悲しく、それは今のあかりを想うものにとてもよく似ていた。
 身を寄せた昴が幼い弟にするように結月の頭を撫でる。
「そっか。ゆづくんがそういうってことはあかりちゃんの声だったのかもね」
「言われてみれば、あかりは言霊使いでもあるんだし、可能性としちゃあるな」
「うん……」
 結月が落ち着いたのを見計らって、夕飯の弁当を広げた。
「俺たちも頑張らねえとな。まずは飯食おうぜ。この分じゃ子の刻まで結界巡回あるし」
「式神とか妖が出ないといいけどね」
 おにぎりに手を伸ばしながら昴が苦笑する。
 結界巡回は幼いころからやってきた任務のひとつだ。しかし、現在はあかりがいないため効率が悪い。式神や妖が出ないなら、昴が結界を点検・補強して終わるのだが、発見したら最後、戦いになる。実際、今日の午前中に式神に囲まれたとき、その数の多さに手間取ったために、こんな時間まで巡回時間が延びてしまったのだった。
 秋之介がおにぎりをひとかじりしてぼやく。
「四月前にあかりが邪気を一掃したってのに、懲りないよなぁ」
 結月はちらりと秋之介を見てから、ほとんど独り言のように呟いた。
「それどころか前より強くなってる。陰の国はまだ諦めてないのかも」
「……本当、ゆづくんの言う通りだよ」
 昴はたつみの方角を睨み据えると、おもむろに立ち上がった。すでに弁当は片づけてある。
「巽の結界に式神が十数体いるみたい。行くよ、二人とも」
「うん」
「はあ。飯もまともに食わせてくんないのかよ」
 文句を垂れつつも、秋之介はさっと立ち上がる。そして三人は目的の方向へ駆けだした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...