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第四話 希望の光と忍び寄る陰
第四話 一二
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青柳大路を西に進み、中央御殿を過ぎ、さらに白古大路を西に行く。
あかりは青柳大路に店を構える馴染みの飴屋のおじいさんからもらったりんご飴を頬張り、結月たちと和気あいあいと話し込んでいた。
西の地でも歓待の眼差しを受けながら、白古家の屋敷にたどり着く。秋之介が取り次ぐと客間に通された。程なくして、どたどたと騒がしい足音が近づいてくる。
「あかり!」
廊下側のふすまが勢いよく開け放たれる。現れた中年男性の脇を駆け抜けて、中年女性があかりに抱きつく。
「あかりちゃんっ!」
「梓おば様!」
秋之介の落ち着きのなさはまさに母親の梓譲りだろう。
あかりは梓を受け止めると強い抱擁を交わした。次いで梓の肩越しに中年男性に目をやる。
「菊助おじ様も、ただいま。また会えて嬉しい」
「おう、おかえり。ったく、帰るのが遅いんだよ」
「こんなときくらい素直になれないのかい」
梓はあかりを抱き締めたまま、顔だけ後ろを見た。菊助はそっぽを向いたが、照れ隠しなのは一目見てわかる。息子の秋之介にすら呆れたため息を吐かれていた。
「秋くんは菊助おじ様にそっくりだよね」
「なんだよ、藪から棒に」
「……やっぱり自覚、ない?」
あかりの背後でささやきが交わされる。あかりは梓の腕の中で彼らの意見に同意していた。
今の照れ隠しの仕草もそうだが、見た目は秋之介を成長させたら菊助になるのだろうと想像できるくらいにそっくりだ。二年を経て、秋之介はますます菊助に似てきたと思う。
「やっと顔が見られて安心したよ」
あかりを解放しながら、梓は微笑む。それは、間違いなく娘を想う母親の笑みだった。
「まあ、せっかくきたんだ。ゆっくり茶でも飲んでけや」
菊助がどっかりと座り込む隣に、梓も正座する。
「政務はいいの?」
「いつもこの時間は休憩してんだ。それに当主だったときに比べりゃ半分の仕事量だしな」
時刻を訊けば、ちょうど未申らしい。あかりたちはありがたく相伴に預かることにした。
運ばれてきた緑茶と茶菓子の干し芋をつまみながら、青柳家のときと同じように二年間の西の地での出来事が話題に上った。
西の地は他の三つの地と比較して大きな変化はないらしい。当主が秋之介に替わったことが最大の変化だと、菊助と梓は快活に笑った。
青柳家では心穏やかな時間を過ごせたが、ここには自然と笑顔になるような明るい雰囲気がある。それぞれの居心地の良さを感じながら、あかりは一時の平穏を楽しむのだった。
玄舞の屋敷に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。『誰彼』という名がふさわしいほどに、会話する相手の顔は暗くて見えにくい。表情こそわからないが、声の調子で感情を読み取るのは、幼なじみを相手にしては雑作もないことだった。おそらく微笑んでいるのだろう声音で昴があかりに問う。
「気分転換にはなった?」
「うん! おじ様たち、元気そうで良かった」
あかりは一度深呼吸して、夕暮れの空を仰ぎ見た。淡い橙が濃い群青に飲み込まれそうだ。顔を正面に戻すと、そこにもう笑顔はなかった。
「明日からの稽古はますます身を引き締めて臨まなきゃね」
大切な人たちや国を護るため、そして愛していた南の地の者の仇を討つため。変わらない目的はより強い思いとなって、あかりの胸を熱く焦がした。
あかりは青柳大路に店を構える馴染みの飴屋のおじいさんからもらったりんご飴を頬張り、結月たちと和気あいあいと話し込んでいた。
西の地でも歓待の眼差しを受けながら、白古家の屋敷にたどり着く。秋之介が取り次ぐと客間に通された。程なくして、どたどたと騒がしい足音が近づいてくる。
「あかり!」
廊下側のふすまが勢いよく開け放たれる。現れた中年男性の脇を駆け抜けて、中年女性があかりに抱きつく。
「あかりちゃんっ!」
「梓おば様!」
秋之介の落ち着きのなさはまさに母親の梓譲りだろう。
あかりは梓を受け止めると強い抱擁を交わした。次いで梓の肩越しに中年男性に目をやる。
「菊助おじ様も、ただいま。また会えて嬉しい」
「おう、おかえり。ったく、帰るのが遅いんだよ」
「こんなときくらい素直になれないのかい」
梓はあかりを抱き締めたまま、顔だけ後ろを見た。菊助はそっぽを向いたが、照れ隠しなのは一目見てわかる。息子の秋之介にすら呆れたため息を吐かれていた。
「秋くんは菊助おじ様にそっくりだよね」
「なんだよ、藪から棒に」
「……やっぱり自覚、ない?」
あかりの背後でささやきが交わされる。あかりは梓の腕の中で彼らの意見に同意していた。
今の照れ隠しの仕草もそうだが、見た目は秋之介を成長させたら菊助になるのだろうと想像できるくらいにそっくりだ。二年を経て、秋之介はますます菊助に似てきたと思う。
「やっと顔が見られて安心したよ」
あかりを解放しながら、梓は微笑む。それは、間違いなく娘を想う母親の笑みだった。
「まあ、せっかくきたんだ。ゆっくり茶でも飲んでけや」
菊助がどっかりと座り込む隣に、梓も正座する。
「政務はいいの?」
「いつもこの時間は休憩してんだ。それに当主だったときに比べりゃ半分の仕事量だしな」
時刻を訊けば、ちょうど未申らしい。あかりたちはありがたく相伴に預かることにした。
運ばれてきた緑茶と茶菓子の干し芋をつまみながら、青柳家のときと同じように二年間の西の地での出来事が話題に上った。
西の地は他の三つの地と比較して大きな変化はないらしい。当主が秋之介に替わったことが最大の変化だと、菊助と梓は快活に笑った。
青柳家では心穏やかな時間を過ごせたが、ここには自然と笑顔になるような明るい雰囲気がある。それぞれの居心地の良さを感じながら、あかりは一時の平穏を楽しむのだった。
玄舞の屋敷に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。『誰彼』という名がふさわしいほどに、会話する相手の顔は暗くて見えにくい。表情こそわからないが、声の調子で感情を読み取るのは、幼なじみを相手にしては雑作もないことだった。おそらく微笑んでいるのだろう声音で昴があかりに問う。
「気分転換にはなった?」
「うん! おじ様たち、元気そうで良かった」
あかりは一度深呼吸して、夕暮れの空を仰ぎ見た。淡い橙が濃い群青に飲み込まれそうだ。顔を正面に戻すと、そこにもう笑顔はなかった。
「明日からの稽古はますます身を引き締めて臨まなきゃね」
大切な人たちや国を護るため、そして愛していた南の地の者の仇を討つため。変わらない目的はより強い思いとなって、あかりの胸を熱く焦がした。
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