380 / 390
小話
白のぬくもり
しおりを挟む
今にも雪がちらつきそうな重たい雲が空を覆う。空気はキンと身を切るように冷たい。
みかんの入った籠を持つあかりの手は氷のようだった。
「さ、寒い……」
あかりは隣の結月にぴったり身を寄せながら朱咲家の屋敷の外廊下をひたひたと歩いていた。歩きにくいだろうに結月は迷惑そうな表情を一切見せず、あかりに歩調を合わせる。
「部屋まであと少し。頑張って」
「うん……」
そこまで距離はなかったはずなのにやけに時間がかかった気がする。ようやく部屋に入ると温まった空気があかりと結月を出迎えた。
「おかえり。あかりちゃん、ゆづくん」
「おっ、みかんとお茶。ありがとな」
昴と秋之介は火鉢を囲みながら座っていた。あかりはそちらに近づき、みかんを傍らに置くと火鉢に手をかざした。
「い、生き返る……」
結月は持ってきた急須から湯飲みにお茶を注ぐと皆に手渡した。あかりにも湯飲みが渡される。
「はい、あかり」
「ありがとう。……あったまるー」
さっそくお茶に口をつけたあかりはほっと息を吐いた。結月は最後に自分の分のお茶を注ぐと、火鉢を囲む空いた場所に腰を下ろす。
「外はどうだった?」
みかんの皮をむきながら、昴が隣のあかりに問いかける。あかりはもう一口お茶を飲んでから答えた。
「寒かったよ。雪が降りそうだった」
「おまえ、寒いといつも雪が降るっていうよな。当てになんねぇよ」
秋之介が呆れたため息を吐くと、あかりは頬を膨らませた。
「そのくらい寒かったのー」
「はいはい」
あかりと秋之介の気安いやりとりに頬を緩ませながら、昴はみかんを一房口に放り込んだ。
「うん、甘いね」
「昴! 私にもちょうだい」
「ふふ、いいよ」
昴は筋まできれいにとったみかんを数房あかりに分け与えた。あかりは「ありがとう!」と笑顔で受け取ると、美味しそうに食べた。
みかんとお茶で一息つき、温かな空気に包まれていると、やがてあかりはうとうとし始めた。
「あかり、ここで寝たら風邪ひくよ」
「んー」
結月の忠告もろくに聞いていないようで、生返事だけが返ってくる。結月が困ったように微苦笑を浮かべると、秋之介が「しょうがねえなぁ」と呟いた。白い光が溢れた一瞬後には秋之介は人間の姿から白虎の姿へと変化していた。そしてのそりと起き上がると、あかりを囲むように座り直す。
「多少は暖がとれんだろ」
「ふかふかー。あったかーい」
あかりはふわふわと笑うと、虎姿の秋之介に包まれ、結月と昴の優しい視線に見守られながら眠りに落ちた。
まどろむあかりの意識を、柔らかな夢が受け止めた。
みかんの入った籠を持つあかりの手は氷のようだった。
「さ、寒い……」
あかりは隣の結月にぴったり身を寄せながら朱咲家の屋敷の外廊下をひたひたと歩いていた。歩きにくいだろうに結月は迷惑そうな表情を一切見せず、あかりに歩調を合わせる。
「部屋まであと少し。頑張って」
「うん……」
そこまで距離はなかったはずなのにやけに時間がかかった気がする。ようやく部屋に入ると温まった空気があかりと結月を出迎えた。
「おかえり。あかりちゃん、ゆづくん」
「おっ、みかんとお茶。ありがとな」
昴と秋之介は火鉢を囲みながら座っていた。あかりはそちらに近づき、みかんを傍らに置くと火鉢に手をかざした。
「い、生き返る……」
結月は持ってきた急須から湯飲みにお茶を注ぐと皆に手渡した。あかりにも湯飲みが渡される。
「はい、あかり」
「ありがとう。……あったまるー」
さっそくお茶に口をつけたあかりはほっと息を吐いた。結月は最後に自分の分のお茶を注ぐと、火鉢を囲む空いた場所に腰を下ろす。
「外はどうだった?」
みかんの皮をむきながら、昴が隣のあかりに問いかける。あかりはもう一口お茶を飲んでから答えた。
「寒かったよ。雪が降りそうだった」
「おまえ、寒いといつも雪が降るっていうよな。当てになんねぇよ」
秋之介が呆れたため息を吐くと、あかりは頬を膨らませた。
「そのくらい寒かったのー」
「はいはい」
あかりと秋之介の気安いやりとりに頬を緩ませながら、昴はみかんを一房口に放り込んだ。
「うん、甘いね」
「昴! 私にもちょうだい」
「ふふ、いいよ」
昴は筋まできれいにとったみかんを数房あかりに分け与えた。あかりは「ありがとう!」と笑顔で受け取ると、美味しそうに食べた。
みかんとお茶で一息つき、温かな空気に包まれていると、やがてあかりはうとうとし始めた。
「あかり、ここで寝たら風邪ひくよ」
「んー」
結月の忠告もろくに聞いていないようで、生返事だけが返ってくる。結月が困ったように微苦笑を浮かべると、秋之介が「しょうがねえなぁ」と呟いた。白い光が溢れた一瞬後には秋之介は人間の姿から白虎の姿へと変化していた。そしてのそりと起き上がると、あかりを囲むように座り直す。
「多少は暖がとれんだろ」
「ふかふかー。あったかーい」
あかりはふわふわと笑うと、虎姿の秋之介に包まれ、結月と昴の優しい視線に見守られながら眠りに落ちた。
まどろむあかりの意識を、柔らかな夢が受け止めた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる