【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
上 下
60 / 388
第五話 朱咲の再来

第五話 二四

しおりを挟む
「そういえば、これ、返してなかったな」
 翌日は任務がなく、玄舞家の裏庭に集まって稽古をしていた。縁側で休憩しているときに秋之介があかりに差し出した『これ』とは、あかりの両親があかりのためにこしらえたお守りだった。
 染みや色褪せがあるが、赤地に金銀の刺繍を施したそれは間違いなくあかりのものだ。もう手に戻らないと思っていたので、喜びと同時に大きな驚きもある。
「なんで秋が持ってるの⁉」
「そりゃ、俺が拾ったからだな」
「そ、そうなの……?」
 秋之介はお守りを拾った経緯をかいつまんで説明した。そしてお守りをあかりに手渡した。
「良かった……」
 あかりはお守りを胸に抱きしめた。珍しく秋之介がふっと柔らかな笑みを見せる。
「もうなくすなよ」
「うん。ありがとね、秋」
 あかりも笑顔を返せば、秋之介は今度はにっと快活に笑った。
 すると、二人のやり取りを黙って見つめていた昴が声を上げた。
「それを使って、あかりちゃんのお母様を呼び出せないかな」
「秋の降霊術で?」
 昴の隣で結月が首を傾げる。昴はそれへ頷きを返した。
「そう。あかりちゃんのお母様、まつり様には、できれば聞きたいことがたくさんあるんだ」
「つっても、俺の降霊術は金物がないとできないぜ?」
 秋之介含む白古家の専門は降霊術だが、持ち主の金物を媒介にして降霊を行う。そのため昴の提案を通すなら、あかりのお守りに金属製の何かが使われている必要がある。
「お守りの中身って知ってるか?」
 秋之介に問われたあかりは首を縦に振った。
「うん。祝詞の書かれた紙だって聞いたよ」
「じゃあ無理じゃん」
「……糸」
 結月の呟きに、三人の視線が集まる。結月はちらりと目線を上げてから続けた。
「刺繍の糸は確か、本物の金と銀、だったよね?」
「あ!」
 あかりと秋之介は同時に声を上げた。それを見て昴は満足そうに「そういうこと」と頷いた。
「そういう素材の一部でも降霊術はできるのかなって」
「おう、できるぜ」
 秋之介がすぐさま答えると、とんとん拍子に話は進む。準備もあることから明日の早朝から行うことになり、秋之介は休憩後に早速自宅へ戻った。
 あかりは手の中の赤いお守りを見つめて「お母様……」と呟いた。そこには複雑な心中が垣間見えた。
しおりを挟む

処理中です...