【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第六話 幸せはいつもそばに

第六話 一六

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「あかりは、どの屋台が見たい?」
 あかりは考え込み、路の左右に並ぶ屋台にさっと目を走らせる。
 このあと夕食会に参加することを考えれば、本当は気になって仕方ない食べ物の屋台は避けたい。次々目に留まるお好み焼き、唐揚げ、綿あめなどからは目を逸らす。
 あかりの仕草を見つめていた結月はおかしそうに小さな笑い声をもらした。
「本当は、食べ物が気になるんでしょ」
「うう……。だけど今食べたらこのあとの夕食会に響くでしょ」
 結月は考える素振りを見せてから、「だったら」と言ってあかりに視線を戻した。
「あかりが今一番食べたいもの、どれ?」
 あかりは散々迷った末に「大判焼きかな」と答えた。結月がひとつ、頷いた。
「わかった。そしたら、それを半分こにしよう。餡はこしあんが好きだったよね」
「うん! 結月、ありがとう」
 あかりはぱっと明るく笑った。屋台の灯りがかすむほどのいい笑顔に、結月は嬉しそうに微笑み返した。
二人は隣り合って大判焼きの屋台を目指した。
「それにしても、本当に良かったの? 結月は甘いもの、あんまり好きじゃないでしょ」
「嫌いではないから、大丈夫。あかりが喜んでくれるなら、それでいい」
 灯りに照らされた結月の表情は穏やかなものであり、反射で煌めく青の瞳はどこか幸せそうでもある。あかりは結月が本心からそう言っていることを知って、安心した。
「それならいいの。あ、大判焼き屋さん見―つけた!」
 あかりが屋台へ駆け寄り、結月も後を追いかける。
「こしあん、ひとつください」
「毎度ありがとうね」
 手渡された大判焼きを受け取った結月はそれを半分に割ると、一方をあかりに分けた。
「はい、あかりの分」
「ありがとう。いただきます」
 あかりはにっこりと笑って大判焼きを受け取ると、さっそく口にした。ほかほかで甘さの際立つ餡が美味しい。
「美味しいね」
「うん」
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