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第九話 訪れる転機
第九話 四
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あかりは味がよくしみた煮物を口にした。自然の味を活かした優しい味付けは食べなれたもので、どこかほっとする。
「香澄おば様! 美味しいよ!」
あかりが笑顔を向けると、香澄も嬉しそうに微笑み返してくれた。その笑みは結月とそっくりだ。
「あかりちゃんは花より団子かな」
「だって本当に美味しいんだもん」
やはり笑顔で昴を振り返ろうとすると、ふいに結月と目が合った。青い瞳がよく見える。
(なんだろう……?)
あかりにしては珍しく、瞳から結月の感情が読み取れなかった。わからないのではなく、知らない色をしていたからだ。
(不安そう? うーん、ちょっと違う? 拗ねてる? でも、なんで?)
理由を聞こうとして「結月」と名を呼びかけようとしたとき、ゆっくりと結月の腕があかりに伸ばされた。思わず言葉を飲み込んでしまう。結月の左手はあかりの頭の上で止まった。そして、数秒して結月は腕を引いた。その手には桜の花びらがひとひらつままれていた。
「……桜、ついてた」
「そ、そっか。ありがとう、結月」
「ううん」
心臓がばくばくとうるさい。結月の顔を直視できなくなって、あかりはさっと顔をそむけた。
(こんなこと、今までだってあったじゃない……!)
落ち着けと自分に言い聞かせるが逆効果だった。そして、考えるほどに結月の瞳が垣間見せた視線が頭から離れなかった。それは、あかりをとらえて離さない熱っぽい視線だった。
もう一度、ちらりと結月を見たが、結月は何食わぬ顔をして玉子焼きを口に運んでいた。
(私の気のせい……?)
自分だけで考えても詮無いことなので、思い切って結月に尋ねることにした。
「ねえ、結月」
「なに?」
「さっき、何考えてたの?」
結月は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに視線を落ち着かせるとあかりを真っ直ぐに見つめた。
「……きれいだなって、思ってた」
「桜の花? うん、きれいだよね」
単に自分の考えすぎだったのか。あかりは冷静さを取り戻すと同時に、落胆もしていた。
(なんでがっかりしてるんだろ、私……)
あかりが僅かに顔を俯けていると、結月の声が降ってきた。
「桜も、そうだけど。おれは……」
結月はそれ以上を口にしなかったが、顔を上げたあかりが目を合わせると言葉以上の感情が流れ込んでくるような気がした。
春風に舞い踊る桜の花びらの美しさにも劣らない、きれいな微笑がそこにはあった。一等優しい微笑みはただ一人、あかりにだけ向けられている。
この感情の名を、あかりはまだ知らない。
ただ、結月のこの微笑みが自分にだけ向けられているという事実がたまらなく嬉しく感じられた。
「香澄おば様! 美味しいよ!」
あかりが笑顔を向けると、香澄も嬉しそうに微笑み返してくれた。その笑みは結月とそっくりだ。
「あかりちゃんは花より団子かな」
「だって本当に美味しいんだもん」
やはり笑顔で昴を振り返ろうとすると、ふいに結月と目が合った。青い瞳がよく見える。
(なんだろう……?)
あかりにしては珍しく、瞳から結月の感情が読み取れなかった。わからないのではなく、知らない色をしていたからだ。
(不安そう? うーん、ちょっと違う? 拗ねてる? でも、なんで?)
理由を聞こうとして「結月」と名を呼びかけようとしたとき、ゆっくりと結月の腕があかりに伸ばされた。思わず言葉を飲み込んでしまう。結月の左手はあかりの頭の上で止まった。そして、数秒して結月は腕を引いた。その手には桜の花びらがひとひらつままれていた。
「……桜、ついてた」
「そ、そっか。ありがとう、結月」
「ううん」
心臓がばくばくとうるさい。結月の顔を直視できなくなって、あかりはさっと顔をそむけた。
(こんなこと、今までだってあったじゃない……!)
落ち着けと自分に言い聞かせるが逆効果だった。そして、考えるほどに結月の瞳が垣間見せた視線が頭から離れなかった。それは、あかりをとらえて離さない熱っぽい視線だった。
もう一度、ちらりと結月を見たが、結月は何食わぬ顔をして玉子焼きを口に運んでいた。
(私の気のせい……?)
自分だけで考えても詮無いことなので、思い切って結月に尋ねることにした。
「ねえ、結月」
「なに?」
「さっき、何考えてたの?」
結月は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに視線を落ち着かせるとあかりを真っ直ぐに見つめた。
「……きれいだなって、思ってた」
「桜の花? うん、きれいだよね」
単に自分の考えすぎだったのか。あかりは冷静さを取り戻すと同時に、落胆もしていた。
(なんでがっかりしてるんだろ、私……)
あかりが僅かに顔を俯けていると、結月の声が降ってきた。
「桜も、そうだけど。おれは……」
結月はそれ以上を口にしなかったが、顔を上げたあかりが目を合わせると言葉以上の感情が流れ込んでくるような気がした。
春風に舞い踊る桜の花びらの美しさにも劣らない、きれいな微笑がそこにはあった。一等優しい微笑みはただ一人、あかりにだけ向けられている。
この感情の名を、あかりはまだ知らない。
ただ、結月のこの微笑みが自分にだけ向けられているという事実がたまらなく嬉しく感じられた。
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