【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第九話 訪れる転機

第九話 三

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あっという間に時は流れ、卯月に入った。間もなくして桜が満開だとの報せを結月から受けたあかりたちはそろって青柳家へと集まった。
「わあ、すごい……!」
 薄雲がたなびく薄青の空の下、淡い紅色の花びらがはらりはらりと舞い散っている。
 桜の木が植えられた裏庭には、すでに茣蓙が敷かれ、その上に彩り豊かな重箱が広げられていた。料理は毎年恒例で結月の母、香澄のお手製である。
「香澄おば様はやっぱり料理上手だね」
「そう言ってくれると、母様も、きっと喜ぶ」
 そういう結月も嬉しそうに微笑んだ。
秋之介がにやにやしながら「あかりも教えてもらった方がいいぜー? 未だに料理下手だろ」とからかうので肩をはたいてやった。
「いってーな!」
「今のは秋くんが悪いね」
 昴が苦笑いを浮かべる後ろで、くすくすと上品な笑い声がした。
「あらあら、あかりちゃんの花嫁修業になら喜んで付き合うわよ」
 茶器を持った香澄が邸の奥から現れる。彼女に続くように結月の父、春朝と、秋之介の両親、菊助と梓もやってきた。
「花嫁修業? あかりもそんな年か」
 菊助がどっかりと縁側に腰を下ろす。隣に座った梓が快活に笑った。
「花嫁修業するならあたしも付き合うよ」
「つか、このじゃじゃ馬娘をもらってくれるとこなんてあるのか?」
「むっ。なんか言った、秋?」
 あかりが鋭く睨むと、秋之介は口を閉ざして首をぶんぶん左右に振った。
「大体、今は嫁入りなんて考えてる場合じゃないから」
 この花見だって束の間の夢のようなものだとわかっている。
 あかりたちの言いあう声を聴きながら、結月は香澄が差し出した茶器を受け取った。
「花嫁修業と言わず、いっそ花嫁として来てくれてもいいのにね?」
 いたずらっぽい笑みを浮かべて香澄が小声でささやく。結月は危うく茶器を盆から落としそうになった。
「結月、大丈夫⁉」
 ガチャンという音を聞きつけたあかりが振り向く。結月はいつもの無表情で「……平気」と答えた。結月は平静を装いながら茣蓙の上で四杯分の緑茶を注ぐと、残りを香澄に返した。
香澄は縁側で残った茶器に四杯分の茶を注ぐと、そこに座る春朝たちに配っていった。
皆に茶が行き渡り、席に落ち着いたことを確認してから春朝が「乾杯」と茶器を掲げた。皆もそれに倣って「乾杯!」と言うと、思い思いに重箱に箸を伸ばした。
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