112 / 390
第九話 訪れる転機
第九話 二
しおりを挟む
「政務の件はこれでいいとして、邪気払いについてなんだけどね」
あかりが切り出すと、昴は顔を引き締めた。
「本格的な邪気払いはやっぱり私にしかできないと思うの」
それぞれの力の傾向から、小さな邪気くらいだったら結月や昴にも払えるが、規模が大きくなれば彼らでは対応しきれなくなると予想できた。
昴にもわかっていたようで、彼は嘆息をついた。
「本当はあかりちゃんだけ矢面に立たせるなんて気が進まないんだけど……」
そう言うと思ったと、あかりは苦笑をもらした。
「私にしかできないんだよ。だから頑張らせてね」
「僕だってできることは協力するつもりだよ」
「うん、ありがとう。それでね、どうしたら邪気払いの効力を高められるかなって」
そこで、聞きなじみのある声があかりの言葉を遮った。
「おう、楽しそうな話してんな。俺たちもまぜろよ!」
「お邪魔してます、ふたりとも」
声のした方を振り返ると秋之介と結月が立っていた。昴は特に驚いた素振りは見せず、座布団を並べて彼らに座るようすすめた。
腰を落ち着けたところで、秋之介が再び口を開いた。
「で、面白そうな話をしてたじゃねえか」
「邪気払いの効力を高める方法、だっけ……?」
「そう。ふたりも何か案はない?」
三人は一様に考え込んだが、最初に声を発したのは昴だった。
「僕ができる邪気払いは水に頼ると効力があがりやすいんだ。あかりちゃんなら火に頼るってことになるけど」
昴は水を司る玄舞の血を引いている。あかりに当てはめるなら、火を司る朱咲の血を上手く活用できればいいということだろう。
「ってことは狐火の火力を上げるとか?」
あかりが首を傾げると、今度は結月が意見を出した。
「力の大きさも大事だと思うけど、制御も、必要なんじゃないかな……? おれの場合、力を強めすぎると護符が攻撃用の霊符に転じることが、ある」
「それってどうやって抑えてんだ?」
「唱える言葉に想いをこめる。命令、する。あかりでいうところの言霊みたいな、もの……」
「言霊……」
あかりが考える脇で、秋之介が昴と結月の案をまとめた。
「つまり、狐火と言霊を器用に扱う必要があるってことか?」
「理論上ではそうなるね」
秋之介の言葉に昴が軽く頷いた。一方で結月は案じるようにあかりに視線を送った。
「参考に、なる……?」
「うーん、やってみないとわからないけど。でも、感覚はつかめたかも?」
結局は父母の教えに戻ってくる。霊剣は守るために。最後まで諦めずに。
式神に降されてしまった妖を救いたいという願いと、強い力にのまれないような精神力があれば、今は不可能なこともいつかは成しえるような気がした。
その日を信じてやれることをやるしかない。
あかりは己を鼓舞して、すっくと立ちあがった。
「うん、ちょっと試してみるよ! 昴、稽古場借りるね!」
「待って待って、僕も行くから!」
昴は手早く茶器を片付けると結月と秋之介とともにあかりの後を追った。
束の間の穏やかさの中にある、弥生下旬の午後のことだった。
あかりが切り出すと、昴は顔を引き締めた。
「本格的な邪気払いはやっぱり私にしかできないと思うの」
それぞれの力の傾向から、小さな邪気くらいだったら結月や昴にも払えるが、規模が大きくなれば彼らでは対応しきれなくなると予想できた。
昴にもわかっていたようで、彼は嘆息をついた。
「本当はあかりちゃんだけ矢面に立たせるなんて気が進まないんだけど……」
そう言うと思ったと、あかりは苦笑をもらした。
「私にしかできないんだよ。だから頑張らせてね」
「僕だってできることは協力するつもりだよ」
「うん、ありがとう。それでね、どうしたら邪気払いの効力を高められるかなって」
そこで、聞きなじみのある声があかりの言葉を遮った。
「おう、楽しそうな話してんな。俺たちもまぜろよ!」
「お邪魔してます、ふたりとも」
声のした方を振り返ると秋之介と結月が立っていた。昴は特に驚いた素振りは見せず、座布団を並べて彼らに座るようすすめた。
腰を落ち着けたところで、秋之介が再び口を開いた。
「で、面白そうな話をしてたじゃねえか」
「邪気払いの効力を高める方法、だっけ……?」
「そう。ふたりも何か案はない?」
三人は一様に考え込んだが、最初に声を発したのは昴だった。
「僕ができる邪気払いは水に頼ると効力があがりやすいんだ。あかりちゃんなら火に頼るってことになるけど」
昴は水を司る玄舞の血を引いている。あかりに当てはめるなら、火を司る朱咲の血を上手く活用できればいいということだろう。
「ってことは狐火の火力を上げるとか?」
あかりが首を傾げると、今度は結月が意見を出した。
「力の大きさも大事だと思うけど、制御も、必要なんじゃないかな……? おれの場合、力を強めすぎると護符が攻撃用の霊符に転じることが、ある」
「それってどうやって抑えてんだ?」
「唱える言葉に想いをこめる。命令、する。あかりでいうところの言霊みたいな、もの……」
「言霊……」
あかりが考える脇で、秋之介が昴と結月の案をまとめた。
「つまり、狐火と言霊を器用に扱う必要があるってことか?」
「理論上ではそうなるね」
秋之介の言葉に昴が軽く頷いた。一方で結月は案じるようにあかりに視線を送った。
「参考に、なる……?」
「うーん、やってみないとわからないけど。でも、感覚はつかめたかも?」
結局は父母の教えに戻ってくる。霊剣は守るために。最後まで諦めずに。
式神に降されてしまった妖を救いたいという願いと、強い力にのまれないような精神力があれば、今は不可能なこともいつかは成しえるような気がした。
その日を信じてやれることをやるしかない。
あかりは己を鼓舞して、すっくと立ちあがった。
「うん、ちょっと試してみるよ! 昴、稽古場借りるね!」
「待って待って、僕も行くから!」
昴は手早く茶器を片付けると結月と秋之介とともにあかりの後を追った。
束の間の穏やかさの中にある、弥生下旬の午後のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる