【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第九話 訪れる転機

第九話 二

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「政務の件はこれでいいとして、邪気払いについてなんだけどね」
 あかりが切り出すと、昴は顔を引き締めた。
「本格的な邪気払いはやっぱり私にしかできないと思うの」
 それぞれの力の傾向から、小さな邪気くらいだったら結月や昴にも払えるが、規模が大きくなれば彼らでは対応しきれなくなると予想できた。
 昴にもわかっていたようで、彼は嘆息をついた。
「本当はあかりちゃんだけ矢面に立たせるなんて気が進まないんだけど……」
 そう言うと思ったと、あかりは苦笑をもらした。
「私にしかできないんだよ。だから頑張らせてね」
「僕だってできることは協力するつもりだよ」
「うん、ありがとう。それでね、どうしたら邪気払いの効力を高められるかなって」
 そこで、聞きなじみのある声があかりの言葉を遮った。
「おう、楽しそうな話してんな。俺たちもまぜろよ!」
「お邪魔してます、ふたりとも」
 声のした方を振り返ると秋之介と結月が立っていた。昴は特に驚いた素振りは見せず、座布団を並べて彼らに座るようすすめた。
 腰を落ち着けたところで、秋之介が再び口を開いた。
「で、面白そうな話をしてたじゃねえか」
「邪気払いの効力を高める方法、だっけ……?」
「そう。ふたりも何か案はない?」
 三人は一様に考え込んだが、最初に声を発したのは昴だった。
「僕ができる邪気払いは水に頼ると効力があがりやすいんだ。あかりちゃんなら火に頼るってことになるけど」
 昴は水を司る玄舞の血を引いている。あかりに当てはめるなら、火を司る朱咲の血を上手く活用できればいいということだろう。
「ってことは狐火の火力を上げるとか?」
 あかりが首を傾げると、今度は結月が意見を出した。
「力の大きさも大事だと思うけど、制御も、必要なんじゃないかな……? おれの場合、力を強めすぎると護符が攻撃用の霊符に転じることが、ある」
「それってどうやって抑えてんだ?」
「唱える言葉に想いをこめる。命令、する。あかりでいうところの言霊みたいな、もの……」
「言霊……」
 あかりが考える脇で、秋之介が昴と結月の案をまとめた。
「つまり、狐火と言霊を器用に扱う必要があるってことか?」
「理論上ではそうなるね」
 秋之介の言葉に昴が軽く頷いた。一方で結月は案じるようにあかりに視線を送った。
「参考に、なる……?」
「うーん、やってみないとわからないけど。でも、感覚はつかめたかも?」
 結局は父母の教えに戻ってくる。霊剣は守るために。最後まで諦めずに。
式神に降されてしまった妖を救いたいという願いと、強い力にのまれないような精神力があれば、今は不可能なこともいつかは成しえるような気がした。
 その日を信じてやれることをやるしかない。
 あかりは己を鼓舞して、すっくと立ちあがった。
「うん、ちょっと試してみるよ! 昴、稽古場借りるね!」
「待って待って、僕も行くから!」
 昴は手早く茶器を片付けると結月と秋之介とともにあかりの後を追った。
 束の間の穏やかさの中にある、弥生下旬の午後のことだった。
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