【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第九話 訪れる転機

第九話 一

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「えっ。お花見できるの?」
「うん。梅は見逃しちゃったし、せめて桜くらいはみんなで愛でたいでしょ?」
「うん! お花見しよう!」
 はじめの頃より慣れてきたとはいえ、あかりは未だに政務を苦手としていた。しかし休憩時間に昴からもたらされた朗報に、そんな疲れは吹き飛んでしまった。
 開けた障子から柔らかな風が入り込む。季節は春に差し掛かっていた。
「卯月の上旬が見頃だろうってゆづくんが知らせてくれたから、そのつもりでね」
「うんうん。楽しみにしてるね!」
 あかりが満面の笑みを浮かべると、昴も嬉しそうに微笑みを返した。
「それはそれとして。あかりちゃん、政務は進んでる?」
 お茶を注ぎ足しながら、昴が尋ねる。あかりは「うーん、一応は……」と言葉を濁した。
「これで南の地の復興も進むと思うんだけど……」
 手にした書類に目を落とす。そこには南の地の復興を目的とした草案が記してある。昴もあかりの手元を覗き込んだ。
「うん。大体はいいんじゃないかな」
「……そう、なのかな」
 あかりが自信なく呟くと、昴は目をまるくした。
「なんだか珍しい反応だね。何か納得いかないことでもあるの?」
 あかりは書類に目をやったまま、ぽつりぽつりと呟きをもらした。
「納得いかないっていうかわからないの。だって今は住人がいないんだよ。一体誰のためにやってるのか、本当にこれで他の地から人や妖が来てくれるのか、……わからないよ」
 今は支えとなるものが何もない。あかりの政務はこれで成功といえるのか、本人ですらわからずにいた。
 不安に顔をくもらせるあかりに、昴も口をつぐむ。安易な言葉がけなど意味をなさないことはわかりきっていたのだろう。
 すると、鈴音が胸の内からこだました。
『妾は良いと思うぞ?』
「朱咲様……?」
 あかりが名を呼ぶと、朱咲はころころと笑った。昴もあかりの方を見た。
『そなたの計画からは、南の地やそこに住まうであろう者への思いやりに溢れているように思う。妾には難しいことはわからぬが、そなたが思い描く地がこのようなものならば妾は喜んで協力しようぞ。愛するそなたと民のためにな』
「ありがとうございます、朱咲様……!」
『うむ。ではまたな、あかり』
 朱咲は言いたいことだけあかりに伝え終わると気配を消してしまったが、あかりの胸はあたたかいままだった。
「朱咲様はなんて言ってたの?」
「ほめてくださったよ。それに、朱咲様も私たちのために協力してくれるって」
「朱咲様のお墨付きってわけか。だったら自信を持ちなよ、あかりちゃん」
「うん。……やってみないと、わからないよね」
 行動を起こす前からくよくよするなんて自分らしくないとあかりは自身に喝を入れた。それで思い出した。
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