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第八話 喪失の哀しみに
第八話 一五
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玄舞家の邸に着くと、三人はすぐに昴に会いに行った。
昴は自室で政務に追われていたが、あかりたちの姿を認めると手を止めた。
「三人揃ってどうしたの?」
「あのね、さっき結月たちと話してたんだけど……」
代表してあかりが事の経緯を語ると、昴は眉をひそめた。
「言いたいことはわかったよ。だけど、妖の魂を救いきれなくて消滅してしまうことなんて、昨日今日の話じゃないよね。一体どういう風の吹きまわし?」
さらに昴は追い打ちをかけるように続けた。
「それに僕は口酸っぱく言ってるよね? 救える命には限りがあって、優先順位があるんだって。そんなことしてあかりちゃんたちに何かあったらどうするの?」
昴の厳しい口調に、あかりは思わず口をつぐんでしまう。諸手をあげて賛成されるとは思っていなかったが、ここまで詰問されるとも思っていなかった。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。仲間として、昴にはあかりたちの意志を認めてもらいたかった。あかりは息を吸い込んだ。
「今さらかもしれない。私だって仕方ないって思ってた部分はあって、諦めかけてたんだと思う。だけど……」
妖を想う結月や秋之介の心を、優しさを目の当たりにしてしまったから。悲しさや悔しさを知ってしまったから。
「やっぱりこのままなんて嫌だよ……! 簡単に実現しないことはわかってるけど、やる前から諦めたくないの。頑張りたいの!」
昴は冷たい視線をあかりに向けた。それを真正面から受け止めていると、横から結月と秋之介も声をあげた。
「妖を救える可能性が、ないわけじゃない。なら、試す価値は、ある」
「昴が俺たちの心配をするのはわかる。だけど、それでもあかりの示す可能性に賭けてみたいんだ!」
対照的な熱い視線を一身に受けても、昴はしばらく表情を変えなかった。それでもなお、あかりたちが昴を見つめていると、やがて根負けした昴が大きなため息をついた。
「本当に、君たちは言っても聞かないんだから……」
「昴……!」
「あかりちゃんたちの気持ちはわかったし、僕もできることは協力するよ。だけど一つだけ忘れないで」
昴は真剣みを帯びた声で言った。
「僕にとって優先する命は常にあかりちゃんとゆづくんと秋くんだってこと。それが守られないなら僕は協力できないよ」
「うん、忘れないよ」
あかりたちが各々頷くと、昴はやっと表情を和らげた。
「それで、あかりちゃんたちはそれも持ってきてくれたんだね」
それ、と言って昴が指さしたのはあかりが持っている梅の枝だった。
「春の訪れを感じるよね」
「今年はみんなで梅の観賞ができなかったから、私と結月からのおすそ分けだよ」
あかりが枝を差し出すと、昴はにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、ふたりとも」
「どういたしまして!」
笑顔を返すあかりの隣で、結月は小さく首を振った。
「次の春にはみんなで梅が見られるといいね」
あかりの声音は弾んでいる。それに水を差さないように昴は「そうだね」と努めて穏やかな声を返した。
昴は机上の書類の山をちらりと見遣った。
そこでは、残酷な現実が噓偽りなく詳細に報告されている。取りこぼす命は増える一方で、あかりたちがどうあがこうと被害は拡大するばかりだった。あかりたちにはこの報告書は届いていないにしろ、体験的に実感していることだろう。
来年どころか明日さえも不安になる毎日の中で、それでもあかりは前を向くことを忘れない。だから結月も秋之介も、他ならない昴だって来る明日を信じられるのだ。
喪失の哀しみはこれからも続くことだろう。けれどもあかりがいる限り、例え小さくはあっても希望を信じてみようと思えるのだった。
昴は自室で政務に追われていたが、あかりたちの姿を認めると手を止めた。
「三人揃ってどうしたの?」
「あのね、さっき結月たちと話してたんだけど……」
代表してあかりが事の経緯を語ると、昴は眉をひそめた。
「言いたいことはわかったよ。だけど、妖の魂を救いきれなくて消滅してしまうことなんて、昨日今日の話じゃないよね。一体どういう風の吹きまわし?」
さらに昴は追い打ちをかけるように続けた。
「それに僕は口酸っぱく言ってるよね? 救える命には限りがあって、優先順位があるんだって。そんなことしてあかりちゃんたちに何かあったらどうするの?」
昴の厳しい口調に、あかりは思わず口をつぐんでしまう。諸手をあげて賛成されるとは思っていなかったが、ここまで詰問されるとも思っていなかった。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。仲間として、昴にはあかりたちの意志を認めてもらいたかった。あかりは息を吸い込んだ。
「今さらかもしれない。私だって仕方ないって思ってた部分はあって、諦めかけてたんだと思う。だけど……」
妖を想う結月や秋之介の心を、優しさを目の当たりにしてしまったから。悲しさや悔しさを知ってしまったから。
「やっぱりこのままなんて嫌だよ……! 簡単に実現しないことはわかってるけど、やる前から諦めたくないの。頑張りたいの!」
昴は冷たい視線をあかりに向けた。それを真正面から受け止めていると、横から結月と秋之介も声をあげた。
「妖を救える可能性が、ないわけじゃない。なら、試す価値は、ある」
「昴が俺たちの心配をするのはわかる。だけど、それでもあかりの示す可能性に賭けてみたいんだ!」
対照的な熱い視線を一身に受けても、昴はしばらく表情を変えなかった。それでもなお、あかりたちが昴を見つめていると、やがて根負けした昴が大きなため息をついた。
「本当に、君たちは言っても聞かないんだから……」
「昴……!」
「あかりちゃんたちの気持ちはわかったし、僕もできることは協力するよ。だけど一つだけ忘れないで」
昴は真剣みを帯びた声で言った。
「僕にとって優先する命は常にあかりちゃんとゆづくんと秋くんだってこと。それが守られないなら僕は協力できないよ」
「うん、忘れないよ」
あかりたちが各々頷くと、昴はやっと表情を和らげた。
「それで、あかりちゃんたちはそれも持ってきてくれたんだね」
それ、と言って昴が指さしたのはあかりが持っている梅の枝だった。
「春の訪れを感じるよね」
「今年はみんなで梅の観賞ができなかったから、私と結月からのおすそ分けだよ」
あかりが枝を差し出すと、昴はにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、ふたりとも」
「どういたしまして!」
笑顔を返すあかりの隣で、結月は小さく首を振った。
「次の春にはみんなで梅が見られるといいね」
あかりの声音は弾んでいる。それに水を差さないように昴は「そうだね」と努めて穏やかな声を返した。
昴は机上の書類の山をちらりと見遣った。
そこでは、残酷な現実が噓偽りなく詳細に報告されている。取りこぼす命は増える一方で、あかりたちがどうあがこうと被害は拡大するばかりだった。あかりたちにはこの報告書は届いていないにしろ、体験的に実感していることだろう。
来年どころか明日さえも不安になる毎日の中で、それでもあかりは前を向くことを忘れない。だから結月も秋之介も、他ならない昴だって来る明日を信じられるのだ。
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