【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第八話 喪失の哀しみに

第八話 一四

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 運ばれてきたお茶をすすりながら、あかりは縁側に座り、中庭の梅の木を見上げた。そして、ふとあることを思い出した。
「ねえ、結月」
「うん?」
「梅の枝を二本、もらえない? 秋と昴にも見せてあげたいの」
「いいね、そうしよう」
 結月は梅の木に歩み寄ると、袂から霊符を取り出した。そしてそれを梅の枝目がけて放つ。
「風神去来、急々如律令」
 すると風が巻き起こり、鋭い刃のように形を変え、二本の枝を切断した。落下しかけた枝を上手く受け止めて、結月はあかりの側に戻って来た。
「いい香り」
「お茶を飲み終わったら、さっそく、届けよう」
「うん」
 二人はゆったりと他愛ないことを話した。熱かったお茶が冷め始めたころ、ようやく腰を上げる。
「まずは、秋のところ、行こう」
 あかりと結月は青柳大路から白古大路へと進んだ。
 梅の枝を持った、袴姿のあかりと結月は人通りの多い町の通りでもよく目立つ。その上、町民とも距離が近いので、行く先々で声を掛けられた。
「ゆづくんとこの梅はもう咲いたか」
「お昼ご飯はまだかい? まだだったらうちに寄っていきなよ!」
「あかりちゃん、出来立ての饅頭なんてどうだい?」
「ごめんなさい、また後で! 今は秋のところに行かなくちゃ!」
 あかりが笑顔で言うと、町民はすんなりと引き下がり、見送ってくれた。
 まもなく白古家の屋敷に到着した。あかりと結月の姿を認めた白古家の家臣がすぐに秋之介を呼びに向かってくれる。いくらも経たないうちに秋之介はやって来た。
「さっきの今で何の用だよ?」
 やや呆れた口調だったが、そこに苛立ちや不機嫌さは感じられない。秋之介の中では、すでに先ほどの一悶着については決着がついたようだった。
 これなら普段の調子で大丈夫だろうと、あかりは持っていた梅の枝を秋之介に差し出した。
「今年はみんなで梅を見られなかったでしょ? だからおすそ分けにきたの!」
 あかりの無邪気な笑みに、秋之介もつられたように笑った。
「そっか。ありがとな。ゆづも、ありがとう」
「ううん」
「茶でも飲んでけよ。俺もちょうど一息つくとこだったし」
 秋之介の言葉に甘えて、あかりと結月は邸内にあがらせてもらうことにした。客間に通されて、お茶が出てくるのを待った。その間にあかりは先ほど結月と決めたことを秋之介にも話した。
「邪気を完全に払って、魂を元の持ち主に還したいの。絶対に消滅なんてさせないように、私たちは強くなるんだって、一緒に頑張るんだって決めたんだ」
 秋之介は目を点にしてあかりの話を聞いていた。
「そりゃまた壮大な話だな……」
「すぐにはできないかもしれない。だけど、やってみないことには始まらないでしょ?」
 あかりが強い意志をもって言うと、秋之介は大きな息を吐いた。
「はああ。おまえ、やっぱり馬鹿だろ」
「ええ⁉」
 あかりが心外だと言わんばかりに声を上げると、秋之介はぱっと顔を上げた。その顔は意外にも笑っていた。
「ま、俺はそういうの嫌いじゃないけどな。いいぜ、俺も乗った!」
「秋……!」
「秋なら、そういうと思ってた」
 秋之介は大きく頷いた。
「妖を救えるってんならこの話、乗るしかねえだろ。そんでもって昴も仲間に引き入れなきゃな」
 秋之介の言葉にあかりは「うん!」と答えた。
 そして歓談もそこそこに、三人は玄舞家の屋敷へと向かうのだった。
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